19話 セカイイチと謎
――――リンゴの森――――
「もぐもぐ……此処のリンゴ美味しいね!」
「アンタそれ何個目よ」
シアオは入ってからずっとリンゴを食べている。
フォルテの質問には「えーっと…3個目?」と答えているが、もう4個は普通に食べている。
「シアオ……太るよ?」
「大丈夫だよ! 沢山動いたらいいだけだし」
スウィートがさりげなくもう食べるのをやめたほうがいい、と忠告したが、シアオは全く気にしていないようだった。
これ以上は無駄だと思い、スウィートは言うのをやめた。
リンゴの森、名前の通りリンゴが沢山ある森だ。中には小さいのや大きいの、甘いのや酸っぱいのなどさまざま。
そして何より虫・草タイプのポケモンが多い。つまり――
「火炎放射ッ!!」
フォルテが有利である。
先ほどからフォルテは絶好調で敵を倒していっている。時々森まで燃やしそうで恐ろしいが。
そして歩いていると、ふとスウィートは思い出したことを口にした。
「そういえば……親方様がどうしたんだろうね?」
スウィートがギルドでのディラの事を思い出し、3匹に聞く。
シアオ達にも分からないみたいで、進む中ロードがどうなるのか考えながら進んでいった。
――――リンゴの森 奥地――――
リンゴの森の奥地。そこには大きな木が一本聳え立っていた。
その木には――
「凄い、スゴーイ! 沢山セカイイチがあるよ!」
シアオの言うとおり、セカイイチが沢山生っていた。
スウィート達は木を見上げる。沢山あるのはいいのだが……高すぎる。
「ね……どうやって取ろう?」
スウィートが3匹に問う。
シアオとフォルテは勿論、アルまでもが考えていた。少しするとアルが顔を上げて
「なぁ、スウィートのしんくうぎりあそこまで届くか? できるだけ小範囲で」
「うん……出来ると思う。けど――」
スウィートはアルの問いに答えた後、セカイイチが生っている木の方に目を向けた。いや、睨みつけた。それに3匹は疑問符をうかべる。
そしてスウィートは思いきり息を吸い込んで
「そこにいるのは分かってるの。しんくうぎり!!」
「ぐあぁ!!」
「うっ!?」
スウィートが放ったしんくうぎりの音とともに、木の後ろから呻き声がもれた。
シアオ達は驚き、急いで木の方を見た。そこからは――『ドクローズ』がでてきた。
「な、なんでアンタ達がいんのよ!?」
フォルテが『ドクローズ』を睨みつける。
『ドクローズ』は「イテテ……」などと言いつつ木の前に出てきた。ウェズンとギロウが前に出て、ホルクスは後ろに下がっている。
「何をしにきたんですか? その様子じゃ……邪魔をしに来たようですが」
「ククッ……。よく分かってるじゃねぇか……」
ウェズンが怪しく笑う。
スウィートは戦闘態勢にはいる。アルも身構えている。ウェズンとギロウは笑みを全く崩さない。
すると2匹は一歩後ずさり、木に近づくと
「避けれるモンなら避けてみな!」
「喰らえ、俺とギロウの毒ガススペシャルコンボ!!」
「「「「!?」」」
ウェズンがそう言うと同時に、スウィート達の視界が紫色の煙に包まれた。
スウィート達は“毒ガス”と聞いて何とかしようとするが、範囲が大きすぎる。
「くっ……!!」
体が動かなくなっていき、意識も朦朧としてきた。
スウィートが回りを見ると3匹とも倒れていた。何とか踏ん張ったが毒ガスがはれる直前、スウィートは意識を手放した。
「ククッ、あんな大口叩いてたのにこの程度か!」
ウェズンは倒れている4匹を見ると鼻で笑った。
その笑いが4匹に届くはずはない。4匹とも気絶しているからである。
「アニキ〜! もう1つの方も上手くいきやしたよ!!」
「よっしゃ! 完璧ですね!」
ホルクスの言葉を聞いて、ギロウが嬉しそうに声を上げる。
ウェズンも満足いったように笑った。
「よし、例の物も持ったな?」
「ヘイ! 持ちました!」
ホルクスがバッグを見せる。中に何が入っているかは分からないが、バッグがでこぼこしていた。
「よし、ズラかるぞ。もう用はねぇ。」
「へっ! じゃあな、弱い探検隊!!」
ギロウが気絶しているスウィート達に向かってそう言うと、満足そうに『ドクローズ』は踵を返そうとした――が
「おいおい……何勝手に帰ろうとしてやがんだ……? このまま無事に帰れるなんざ思ってねぇだろうなァ?」
とてつもなく荒い口調の声に止められた。『ドクローズ』は驚き後ろを振り返った。
3匹は目を見開いてそのポケモンを見た。
「なっ……! お、お前いったい……!?」
「あァ!? 黙れ、このくそ野郎どもが! 俺様は今てめーらのせいで不機嫌なんだよ! 覚悟は出来てんだろうなァ!?」
ホルクスの震えた声にそのポケモンはイライラしているのか、適当に叫んで返した。
ウェズンはギロウに耳打ちをし、ホルクスに顎で後ろに下がるよう命令した。ホルクスはすぐに後ろに下がる。
「俺達は此処で時間くってる訳にはいかないんだよ! もう一度だ、毒ガススペシャル――」
「くたばれ!
火焔念動!!」
ドオォォンッと激しい音がし、黒い煙が辺りを覆う。
そしてはれてきて様子が見えると、そこには……焦げた『ドクローズ』の姿。
「へっ、呆気ねェな」
鼻をフン、とポケモンが鳴らす。するとそのポケモンの脳内に声が響いた。
《……ハァ、手荒ですわね。起きたときに怪しまれるでしょう?》
高い声で、とても呆れたような感じだ。そのポケモンはその声に対して不機嫌な顔をする。
「なんか文句あっか!?」
《この方達の後始末をするのもわたくしなのですよ? もう少し考えてほしいものですわ》
「うっせェ! じゃあ最初から俺様じゃなくてテメーがやりやがれ!!」
《貴方が先に出たのでしょう!? わたくしがやりたかったですわ!》
ポケモンと声はぎゃあぎゃあと揉めだす。
すると声の方はふぅ、と息をついた。すると、『ドクローズ』の体が宙に浮き、森の奥まで運ばれていった。
《今回だけですわ。ありがたく思いなさい。わたくしは先に戻っておりますから》
すると声は脳内から消えた。ポケモンはチッ、舌打ちしてから倒れこんだ。
「ート……スウィート!!」
「うっ…………」
誰かの声がし、スウィートはうっすらと目を開く。
最初はぼやけて上手く見えなかったが、だんだんはっきりしてきてフォルテだという事が分かった。
「フォルテ……。あっ、『ドクローズ』は……」
バッと体を起こしてスウィートは辺りを見回すが、いるのはシアオとアルとフォルテだけ。他は誰もいなかった。
だが、木の近くに一部、焦げた跡があった。気絶する前にはなかった跡。
「あ……あれって……?」
「え? あ、あの焦げ跡? 分からない。僕達が起きたらもうこうなってたから……」
シアオがこげた部分を見ながら話してくれた。だが、だとしたら誰かが此処に来たのだろうか。
そうスウィートが考えているとシアオが笑顔で
「そんな深く考えなくて良いって! どうせフォルテが寝ぼけてたとかそんなんだって!」
「アンタはあたしに喧嘩売ってるわけ? 買うわよ?」
スウィートは苦笑いで2匹を見た。シアオは顔がひきつっていて、フォルテはいつも使う黒い笑みを浮かべていた。
だが重いため息によって中断させられた。そのため息は、勿論アルのもの。
「どうすんだよ……。セカイイチは全部腐ってた。おそらくあの毒ガスのせいだと思うが……これじゃ不味いんじゃないか?」
「えっ……。腐って……?」
スウィートが一本の聳え立っている木を見る。
セカイイチは紫色に変色し、べトベターフードになっているものも。とても無残な姿であった。
スウィートは顔が青くなるのを感じた。
「ディラ、さんが…………」
「絶対怒られる。何があっても」
アルは困ったような顔をしていた。それはシアオやフォルテも論外ではない。
スウィートが顔を青白くしながら
(ど、どうしよう……。これって絶体絶命的な……)
などと考えていると、不意にあのポケモンの言葉が頭の中で再生された。
〈あぁ、スウィート殿に助言を。『絶望的状況でも東の奥深くに行けばいい』と〉
「東の奥深くッ!!」
スウィートがいきなり声をあげたので、シアオ達は驚いてスウィートを見る。
スウィートは皆に見られると顔を赤くし顔をふせ謝った。
「あっ、あの……ちょっと東の方に行ってみてもいい……?」
スウィートが恐る恐る聞く。
3匹は顔を見合わせ、それぞれの意見を述べる。
「もう早めに帰ったほうがいいんじゃないかな……? どうせ怒られるだけだし……」
「きっともう見つからないわよ…」
「いや……少しだけ、行ってみるか」
シアオ、フォルテは反対の意見をのべたのだが、アルだけは賛成した。
シアオとフォルテは目を見開いてアルを見た。するとアルが顔を思いきり顰めながらシアオとフォルテを見る。
「なんだ、その目は……」
「だって……アルだったら『時間の無駄だ』とか言うと思ってたのに……」
「しょうがないだろ。ディラさんのあの様子を見ると呑気に帰ってられるか。少しの可能性にかけてみるしかないだろう」
アルのその一言を聞いて、スウィートの顔が明るくなる。
シアオとフォルテはまたまた顔を見合わせてから、頷いた。そしてシアオがリーダーっぽく一歩進めた。
「じゃあとっとと行っちゃおう!」
「そっちは西方向で反対だけどな」
が、やはりお馬鹿なシアオだった。
シアオがピタッと動きを止めたのを見ると、アルは大きなため息をつきながらシアオが行こうとしていた方向とは真反対、東の方に進んでいった。
――――リンゴの森 奥地の東――――
「す、ごい……」
スウィートは目の前の光景に絶句した。それはシアオ達も同じだった。
目を見開いて見ている。その訳は――
「こんなに沢山、セカイイチがあるなんて……」
そう、フォルテが呟いた通り目の前には――セカイイチの木が五本ほど聳え立っていたのだ。中には下に何個か落ちている。
「コレで……足りるよね! 何個かとって早く帰ろう!」
シアオがせっせと落ちているセカイイチを拾い始める。するとフォルテも拾い始めた。
だがスウィートは動けずただ考えていた。
(刃さんって一体……。どうして分かったの?)
「スウィート? 大丈夫か?」
声をかけられスウィートは我に返る。声をかけたアルは怪訝そうな顔をしていた。
「な、なんでもない。大丈夫。それよりセカイイチは……」
「沢山とったわよ! スウィートの言うとおりだったわね! さ、帰りましょ!」
フォルテの手にはリンゴが1つ。
シアオはバックに何個入っているのか……とりあえずバッグの形が違うものになってボコボコしていた。
スウィートはバッチをかざし、ギルドに戻った
――――ギルド――――
「ディーラさーんッ!!」
シアオが大きな声でディラを呼ぶ。ディラは顔を不安そうに歪ませながらやってきた。理由はセカイイチの事だろう。
「どうだった? 取ってこれたのか……?」
少し声を震わせながらディラが聞く。
シアオのバッグを見たら一目瞭然なのだが、ディラはそれほど恐れているようだ。
シアオはバッグを開く。するとゴロゴロとセカイイチが出てきた。
「これでいいですか? 一応取れるだけ取ってきたのですが――」
「よくやった、お前達! これでアレを喰らわなくて済む! ご苦労だったな♪」
スウィートの言葉を遮りそういうと、ディラはセカイイチを全て持ってどこかに行ってしまった。
スウィート達はあまりの速さに呆然とディラの後ろ姿を見ていた。
するといち早く我に返ったフォルテが「んーっ」と体を伸ばし、全員が我にかえった。
「さーてと! 部屋行くわよ! 夕飯までまだまだあるんだから!」
「そうだな。疲れたし」
フォルテがさっさと部屋に向かい、アルは重い足取りで部屋に行った。
スウィートとシアオは急いでついて行く。そして部屋に入ると――
「さて、セカイイチ食べるわよ! 1個隠してたんだから!」
「「「え?」」」
フォルテの手にはセカイイチが1つ。
フォルテは3匹をほっといてとっととセカイイチを4つにキレイに割った。
「いっただっきまーす!!」
「じゃあ僕も! いただきまーす!!」
フォルテとシアオは手を合わせると、セカイイチにかぶりついた。
スウィートとアルは顔を見合わせて苦笑してから、セカイイチを食べた。
因みに『ドクローズ』は夕飯前に、少し焦げた体でギルドに戻ってきたとか…。それを見てフォルテが馬鹿にしていたのは、言うまでもない。