18話 南の名前と強運者
「で……今日は何ですか?」
朝礼が終わったあとディラに呼ばれ、アルが先ほどの言葉をディラに投げかけた。
朝礼には勿論『ドクローズ』がいるため匂いが酷い。フォルテは今日も『ドクローズ』に一言嫌味を叫んでから、今この場にいるのだった。
「今日、お前達には……食料をとってきてほしいのだ」
「「「「食料??」」」」
ディラの言葉に『シリウス』が首を傾げる。ディラは頷く。どうやら聞き間違いではないらしい。
アルは怪訝そうな顔をしながら
「食料って……カクレオン商店に買いに行けばいいんじゃないですか。イオラさんがとんで喜びますよ。きっと」
と少し呆れたように言った。
確かにカクレオン商店にいけばリンゴや木の実などは普通に売っている。トレジャータウンにあるので買ってこれば済む話だ。
だがディラは「とってきてほしい」と言った。
「いや、普通の食料ではなく……セカイイチをとってきてほしいのだ」
「セカイイチ……? 何それ」
ディラが言った言葉にフォルテが首をかしげた。
無論、他の3匹も同じような反応である。
「……食事中に親方様が頭の上にのっけてクルクルまわしている大きなリンゴのことだ。あれは親方様の大好物なんだ」
「あぁ……」
ディラに言われ、アルが食事中の事を思い出す。
確かにプクリンはいつも大きなリンゴを頭の上に乗せて、器用にクルクルと嬉しそうに回しているのだ。それにアルは「よく落とさないな」と関心したこともある。
まぁ、食事中にやることではないが。
「でも……なんでいきなり? 食料はきちんと調達しているはずじゃ……?」
スウィートが恐る恐るディラに尋ねた。
別に「とってこい」と言うのはおかしくはない。ただ急すぎて変なのだ。
「それが、食料がいきなり減っていて…セカイイチだけが全てなくなっていたのだ」
「……誰かが盗み食いしたって事ですか」
アルがそういうと、ディラは首を縦に振った。
スウィートはその話を聞いてあるポケモン達が頭に浮かんだが、考えないことにした。
「で? セカイイチっていうのは何処にあるわけ?」
「リンゴの森と言う場所にある。普通のリンゴより大きいからすぐ分かるはずだ」
先輩に対する態度ではないフォルテに、ディラはいつもどおりに教えた。アルはツッコミたかったが、グッと堪えた。
「頼んだぞ! アレがないと親方様は……」
「「親方様は?」」
シアオとフォルテが見事に言葉をハモらせて聞く。
ディラはそのまま黙っていた。スウィート達が首を傾げていると
「親方様は……………………なのだ」
「「「「え……?」」」」
何を言ったか全く分からず、4匹は声を合わせて声をあげた。
4匹が怪訝そうな顔をしていると、ディラは慌てたように翼をバサバサッとバタつかせ
「と、とにかく! アレがないと大変なんだ! 絶対に失敗するんじゃないぞ!? これは大切な仕事なんだからな!!」
といわれた。
4匹の疑問ははれなかったのだが、ディラの様子を見ると何やら大変な事になる事だけは分かった。
「じゃ、リンゴの森に行こっか!!」
そういい、ギルドの梯子を上る4匹だった。
――――交差点――――
「ん……?」
いつもどおり長い階段を下りたのだが、交差点ではいつもどおりではなかった。
ソーナノとソーナンスがいて、それに見たことのない穴があった。
「何あれ? あんな穴なかったわよね?」
フォルテが3匹に尋ねると、3匹は首を縦に振って頷いた。
すると向こうの2匹はこちらに気づいたようで――
「あ、お客さんナノ!」
「「「「へ……?」」」」
「今日から『パッチールのカフェ』がオープンしたノ! どうぞナノ!」
「へ!? ちょ、僕達まだ何も言ってないんだけど!?」
そうして半場強引にソーナンスとソーナノに押され、穴の中に入る羽目になるのだった……。
――――パッチールのカフェ――――
「……何だ、此処」
アルが入って、1番始めに口に出した言葉。
穴に入るとカウンターが二つあり、テーブルが並べてあった。結構広く、いろんなポケモンがくつろいでいた。
「うわぁ……。何か凄いね」
シアオが率直な意見を述べる。
するとポケモン達がいきなり真ん中に集まった。シアオとフォルテは興味が湧いてきたのか、その集まりの中に入っていき、アルはため息をつきながら入っていった。
残念ながらそんなポケモン達の集まりの入りたいとは思わなかったスウィートは、遠くで見守ることにしておいた。
すると不意に――
「そなたは行かないでござるか?」
「ふぇっ!?」
声をかけられた。
スウィートは全員、集まりに行ったと思っていてのでかなり驚き、すぐさま声をかけたであろうポケモンを見た。そのポケモンはテッカニン。
「そんなに驚かれるとは……すまないでござる。拙者は月影(つきかげ) 刃(じん)でござる。あ、月影は苗字で名前は刃でござるぞ? おそらくそちらとは反対だと思うのだが……」
「えっと、ジンさん……でいいんでしょうか……? わ、私はスウィート・レクリダです……」
(やっぱ人見知りは直せないよ……)
声が小さくなり、少々机に隠れ気味で話す。
刃は一応それを察したようだ。無理に尋ねようともしてこなかった。
「その……なんで名前……?」
「あぁ。拙者は此処から離れた南のほうから来ているから名前が違うのでござるよ。
南部は昔ニンゲンがつかっていた“漢字”といもので名前をつけているのでござる。最近はニンゲンも使わなくなってきているみたいでござるが」
「あ、そうなんですか……」
漢字より“ニンゲン”という言葉にスウィートは反応していた。
少し考えているといきなり刃が動いた。スウィートは小さく体を揺らす。
「さて、拙者はこれで失礼する。あぁ、スウィート殿に助言を。『絶望的状況でも東の奥深くに行けばいい』と……。それでは失礼」
「へっ? え、えっと……それでは」
それだけ言うと刃は去っていった。先ほどの言葉は全く意味が分からなかったが、スウィートは一応、胸に刻み込んでいた。
それと同時に集まっていたポケモンが散らばりだした。
「あっ、いたいたスウィート! こっち、こっち!!」
見ると3匹集まっていて、フォルテが呼びかけていた。
スウィートはフォルテ達の方に駆け寄った。
「どうだった?」
そう聞くとシアオがカウンターの方を指差した。そして
「えっとね……左のカウンターがパッチールのドリンクスタンド。食料を渡せばドリンクを作ってくれるんだって。
で、右が探検リサイクルとビッグトレジャー。リサイクルは商品に対応した道具を必要な数だけ渡すとその商品が手に入るんだって。
あとビッグトレジャーはクジびきけんと引き換えにくじ引きゲームができるらしいよ」
「あ、ありがとう……」
シアオの説明は思ったよりも早く、聞くのが大変だった。スウィートはニッコリとはいかずとも笑顔でお礼を言った。
「さて……何かやる?」
「はいっ! 僕、くじ引きやりたい!」
フォルテが尋ねるとシアオが元気よく挙手をし答えた。
目をキラキラ輝かせて、まるで小さな子供である。
フォルテがスウィートとアルの方に目を向けると、スウィートは苦笑いを浮かべていて、アルはいつもどおりの呆れ顔でため息をついていた。
「じゃ、もうくじ引きで異論なし?」
「なし!! ね、いいよね!?」
「もうなんでもいい」
「私は別に構わないよ……?」
そういわれるとシアオは「やったー!!」ととびはねるように喜んだ。
スウィートは本当に無邪気だなぁ、と考えつつもカウンターのほうによって行った。
「くじ引きするにはどうすればいい訳?」
単刀直入にフォルテがカウンターにいるソーナノに尋ねた。
するとソーナノは顔をかえずにニコニコしながら教えてくれた。
「くじびき券だと何でもいいから4個道具が必要ナノ!」
「はい、技マシンの残骸4個」
すぐさまバッグから残骸をだした。
ソーナノは技マシンの残骸を受け取ると「くじ引き券」とかいてある紙を渡してきた。
スウィートは受け取った紙をジーッと見ていると
「じゃ、スウィートくじ引いてね」
「…………え?」
スウィートは固まった。
なぜ自分がやらなくてはならない? ここはよりたそうに目を輝かせていた張本人、シアオにやらせるべきではないだろうか? などと考えていると、すでにフォルテによってくじ引き券はソーナノの手に。
「さぁ、どうぞナノ!」
「え、あの――」
「ど・う・ぞ・ナ・ノ!!」
「………………」
これ以上言っても無駄みたいなのでスウィートは恐る恐るくじをひく。
隣にはくじをガン見しているフォルテ。その隣には目をキラキラさせながら見ているシアオ。後ろにはスウィートに同情の目を向けているアル。
そのメンツに少々怯えながらくじをソーナノに渡した。
「くじは赤ナノ!」
「赤ナンスッ!」
そう言うとソーナンスは後ろを向く。そして首を縦に1回だけ振った。
その様子を見たソーナノが疑問符を浮かべながらソーナンスに声をかける。
「どうナノ? はずれナノ……?」
するとソーナンスは首を縦に振った。
「あたりナノ?」
するとまたまた首を縦に振るソーナンス。スウィート達は何がなんだか分からずにそのやり取りを見ていた。
ソーナノは思いついたように
「えっ……それって……大当たりナノ……?」
ソーナノが聞いたにもかかわらず、なかなか反応を見せないソーナンス。
ソーナンスをしばらく観察しているといきなり振り返り――
「ソオオオォォォーーーーナンスッ!!」
ソーナンスの声の後、バゴンッという音とともに店の壁が打ち破られた。
音に驚き、スウィート達は見ると、店の壁の穴からルンパッパとキレイハナ4匹がでてきた。
勿論客の注目はそっちにある。スウィート達も論外ではない。
「オーイエー!!」
ルンパッパがそう言うと、キレイハナがルンパッパを囲むように並ぶ。
そして――踊り始めた。
((((何!?))))
スウィート達4匹が軽くパニックに陥っているのにも関わらず、ルンパッパ達は踊り続ける。
キレイハナが回ったり、ルンパッパは真ん中で踊っている。いつのまにか曲が流れ、ルンパッパとキレイハナ達がリズムよく踊っている。見ると、パッチールもふらふら〜と踊っていた。
ルンパッパとキレイハナが回って決めポーズをとった瞬間――白い光が辺りを包んだ。
「きゃっ!?」
「え、何!?」
「何なのよ、一体!?」
「この光なんだ……!?」
スウィート、シアオ、フォルテ、アルが順に声を上げる。
店の客も声をあげ、手で目を隠していた。
そして光が収まり、目を開けるとソーナノとソーナンスが嬉しそうな顔をしていた。スウィート達はすぐに反応出来なかった。
「おめでとうナノ! これ、大当たりの景品ナノ!!」
そういってソーナノが渡してきたのは、金色のリボンだった。
スウィートはマジマジと見て、シアオ達に見せる。
「これ、何なの?」
「それは……金のリボンじゃんっ!! それすっごく高く売れるんだよ!」
シアオが嬉しそうに目を輝かせる。
スウィートはもう一度リボンに目を向けると、バッグにいれた。なくしたら怒られるだろうな……などと思いながら。
「さて……もういいか? あんまり待たせると怒られるぞ」
「あっ、そういえばそうだったね! 急がなきゃ!!」
アルが言うとシアオが思い出したように言った。
スウィートはシアオの発言に、忘れていたのか…? と疑問に思ったがあえて聞かずにスルーし、リンゴの森へと向かうのだった。