16話 嫌な再会
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
「「「!?」」」
シアオの馬鹿でかい悲鳴で3匹が一斉に目を覚ます。
スウィートが起きてないという事はまだ太陽が昇っていない時間帯で、かなり早い。
そんな時間に起こされたら機嫌が悪いポケモンが1匹いる訳で――
「うるっっさーーーーい!!!!」
「へっ!? ぎゃぁぁぁぁああ!!??」
二回目のシアオの悲鳴。
やはりフォルテの機嫌は悪かった。スウィートやアル的にはフォルテの方が煩かったのだが。
シアオは尻尾でフルパワーで殴られ、天上に激突した。かなり痛かっただろう。やった本人は何もなかったようにベッドに戻って寝てしまった。
フォルテが寝たのを確認すると、スウィートは恐る恐るシアオに話しかける。
「だ、大丈夫?」
「だ、だい……大丈、夫…………じゃない、かも……」
シアオは苦しそうに返事をした。
確かに天井に体をぶつけて大丈夫といえないのは当たり前だが。というかそれでピンピンされていても逆に困る。
スウィートは苦笑いでシアオを見ていると、アルが近づいてきた。
「おい、何の夢見たんだ?」
とアルが聞くと、シアオはビクッと体を揺らした。
スウィートとアルにジーッと見つめられ、言わなければ恐ろしいことになりそうだった。スウィートは別になんともないが、アルが怖い。
シアオは内心びくびくしながら話しだした。
「そ、その…………大した夢でも、ないんだけど……」
「早く言え」
「うっ……。えっと〜僕のせいで依頼を失敗して、フォルテに殴られて、アルからは電気ショックを喰らう夢……。
うぅ、怖かった……。きっと今日は悪いことしかおきないんだ……」
まさにフォルテに殴られたが。アルはそのことを聞くと、大きなため息をついた。スウィートは苦笑する。
シアオは2匹の様子を見ると首を傾げた。スウィートは苦笑を崩さずに言葉を発する。
「あのね、シアオが大きな声だすから起きちゃったの。だからフォルテに怒られ(殴られ)たんだよ?」
「だからって殴らなくていいのに……」
「お前、本気で煩かった。フォルテが怒る(殴る)のも無理ないだろ」
アルははぁ、とため息をつく。
シアオは呑気にふぁぁ……と大きなあくびをした。スウィートはベッドに戻り座る。シアオも体をおさえながらベットに寝転んだ。
数分後、ふとスウィートが周りを見ると、シアオとフォルテは爆睡していて、アルは眠たそうな顔をしながら本を読んでいた。
アルに声をかけようと思ったのだが、窓から光が差し込んできたので、いつもどおりスウィートは窓に近寄って太陽が昇るところを見た。
「えー始めに……皆に知らせがある。近々、遠征に行くことになった♪」
「「「「「「遠征!?」」」」」」
ディラの言葉を聞いて、弟子達が目を輝かせる。すると
「遠征なんて久しぶりですね!!」
「ヘイヘイ!! 楽しみだぜ!!」
「あっしは一度も行った事がないのでいってみたいゲス!」
皆がはしゃぎ始め、静かだった空間が一気に煩くなった。
フォルテとシアオは少しうつらうつらと寝そうになっていたのだが、煩くなったことにより目がパッチリと覚めたようだ。
「静粛に! 皆、分かっているとは思うが、遠征には選ばれたメンバーしかいけないからな! メンバーに選ばれるように頑張ること! それでは仕事にかかるよー♪」
「「「「「「おぉぉぉーーーーーーーー!!!!」」」」」
今日の声は一段と大きく、気合が入っていた。
「さーてと、今日はどうする?」
朝礼が終わり、すっかり機嫌も直ったフォルテが3匹に問う。
シアオとアルが考えていると、スウィートはバッグを見出した。そして顔をあげ全員の方を向き
「……オレンの実が足りないから、買い物と選ぶのとに分かれたらどうかな?」
と提案した。アルはすぐさまその提案に賛成して、
話し合った結果フォルテとシアオが依頼を選び、スウィートとアルが買い物になった。
スウィートとアルは梯子を上り、ギルドを出る。
そしてトレジャータウンに向かう途中の交差点、見たことのある人物(ポケモン)が見えた。スウィートは少し小走りに近づき、そのポケモンに声をかける。
「……セフィンさん?」
「ん? あぁ、スウィート。アルも。やっほ」
セフィンが笑顔で挨拶してくる。
スウィートはこの時、フォルテを連れてこなくてよかった!! などと思っていた。勿論アルも同じ事を考えていた。
「何してんだ?」
「いや、出かけようかと思ってただけ」
「……お出かけがすきなんですか?」
「全然。今日は友達に会いに行くだけや。普段はたいがい家ん中」
「あ、そうだったんですか。引き止めてごめんなさい」
「ホンマ律義やなぁ。まぁええわ。また依頼、頼むからそん気でおりや!」
そういうとセフィンは行ってしまった。
アルは最後の言葉にため息混じりで「本気で勘弁してくれ……」と呟いたが、本人にはまったくもって聞こえていなかった。
その頃のシアオとフォルテというと――
「だからアンタはいつまでたってもヘタレなのよ!」
「それならフォルテも同じじゃんか!」
……と口喧嘩をしていた。喧嘩の内容は簡単だ。
お尋ね者にしよう、とフォルテが提案するとシアオが即却下。そんな単純な事でフォルテが怒鳴ったのだ。
因みにシアオの発言は、フォルテもゴーストタイプの苦手を克服していない、という事らしい。
結局、数分の言い合いの末に折れたのはフォルテだった。やはり自分のゴーストタイプ恐怖症の事を出されると弱いらしい。
シアオとフォルテが左の掲示板に向かうと、見たことのあるポケモン2匹がいた。
「あ、あれって……」
シアオが声をあげると、あちらも気がついたようでシアオ達の方を向く。
その2匹、ズバットとドガースはシアオ達を見ると少し驚いたような顔をしたが、すぐに顔を戻す。シアオ達は2匹をまじまじと見ていた。
そして
「フン、何だよ」
「お前ら、こんな所で何やってんだ?」
と声をかけてきた。
シアオとフォルテは顔を見合わせてから、ズバット達に向かって
「「えっと………………
会ったことあったっけ……?」」
ズバットとドガースはドカッと音をたてて壁にぶつかった。
シアオとフォルテは決してふざけているわけではない。何故かというと、顔が真顔。本気で頭に疑問符を浮かべているのだ。
立ち直った(?)ズバットとドガースは大きな声をあげ
「会ったじゃねぇか! 忘れてんじゃねぇよ!!」
「海岸のどうく」
「あぁぁぁぁーーーーーー!! 思い出したわ!
馬鹿でかい態度な割に大して強くもないのにシアオの宝物を盗んで、結局あたし達にボコボコにやられて最後はお決まりの台詞で逃げていった雑魚共じゃない! 記憶に全然なくて忘れるところだったわ!!」
「「なんでそこまで言われなくちゃならねぇんだよ!!」」
フォルテの言葉に2匹がツッコム。が、フォルテはまったく訂正する気もないらしい。
そうと分かるとフォルテは2匹をただただ睨みつける。シアオもようやく思い出したようで、あぁ!! と声を上げた
「なんでこんな所にいるの!?」
シアオが声を荒げて聞く。あちらの2匹は平然としながら
「ケッ、俺達は『ドクローズ』っていう立派な探検隊だぜ? 少々やり方はあくどいけどな」
「え、ぇぇぇぇぇぇええ!!??」
「うわ、ありえないんだけど! コイツらと同じなんて! うっわー、死にたいくらいだわ」
「死ぬほど!? いや、それは言いすぎじゃね!? さすがに俺でも傷つくぞ、オイ!」
ズバットがそう言った瞬間、驚いたような顔をし、声をあげた。そしてフォルテが悪いものを見たような目をしなが言うと、ドガースがすかさず反論する。ちょっと涙目な気もするが、スルーだ。
するとズバットは薄ら笑いを浮かべながら
「探検隊が掲示板の前にいて何が悪い?」
「あんた達みたいな探検隊がいると見晴らしが悪いわ。というか邪魔。依頼選んでさっさと何処かに行ってくれないかしら?
アンタら見てるとね……吐き気がするってのを、いい加減わかりなさい?」
フォルテは嫌味たっぷりにドガースとズバットに言った。笑顔だが目が笑っていないし、何より笑顔がとても黒いように見える。
シアオは短い悲鳴をあげて一歩後ず去った。ドガース達も固まっている。
「そ、それよりお前らこそなんでいるんだ? まさか探検隊とか言うんじゃないん」
「そ、そうだよ! 僕らは探検隊になったんだ!」
ズバットが空気を変えようと、話題を変えた。
そしてズバットの言葉を強引に遮ってシアオが言うと――
「「な、何ぃぃぃぃぃぃぃいい!!??」」
ズバットとドガースが思いっきり後ず去った。
シアオは困惑したような顔をし、フォルテは心の中で「あーウザイ」などと考えていた。
ズバット達はシアオも方を向き
「お前、探検隊になるのは諦めな」
「えぇぇぇ!? なんで!? さらに僕限定って新手の嫌がらせ!?」
「お前弱虫だろ? そこの腹黒いロコンと違って――どわっ!」
「あはは☆あそこに火炎放射の練習台が見えるわ♪」
いきなりフォルテがドガースに向かって少し弱めの火炎放射を吹いた。笑顔だが目は笑ってない。
ドガースは顔をすぐさま青ざめさせた。効果は抜群らしい。
するとさっきから言われっぱなしのシアオが口を開いた。
「……僕は確かに弱虫かもしれないけど……けど! 探検隊の修行も頑張ってるし、今ではギルドの遠征の候補に選ばれるようにまでなったんだ!」
「何? 遠征があるのか」
シアオがそう言うと、ズバットは遠征、という言葉に反応を示した。
何かを企んだような黒い笑みを浮かべた。はっきり言って不気味である。その笑みはフォルテの機嫌をさらに損ねるのに抜群らしい。
フォルテは今までで1番の笑顔を浮かべた。勿論、黒い笑顔だ。
「とりあえずあたし達より弱くて雑魚くて存在価値がごみ以下の探検隊さん。どいてくれるかしら?邪魔なんだけど」
とはっきり言ってのけた。さらに今度は黒いオーラを後ろにまとって。
コイツは遠慮というものを知らないのだろうか? と他の3匹が思っていたのは本人達しか知らない。
シアオは少しフォルテが遠のき、ズバットとドガースも後ず去った。♂3匹が顔を一気に青ざめさせた瞬間だった。
何とか踏ん張ったドガースは、とりあえず声だけはりあげた。
「ううううるせぇ!! あ、あの時はアニキがいなかったからだ!!」
「「アニキ…………?」」
ズバットの言葉に眉を顰めるシアオとフォルテ。
嫌な予感しかしない、と2匹が考えていると、さらにズバットが付け加える。
「お前らなんかアニキがいれば一捻りなんだよ!」
「あたしはアンタ達2匹の事を言ってんのよ! 誰がアニキとやらの強さの事言ったのよ!?
あぁもう、学習能力のない奴らね! ほんっとごみ以下の存在価値だわ!」
フォルテがついに半ギレになった。怒りで顔には青筋が浮かんでいる。
シアオは表情には出さないが、内心ビクビクしていた。ズバット達は少しフォルテの迫力に言葉を詰まらせたが、負けまいと言い返してきた。
「お前が「弱い探検隊」とか言うからだろ! 俺達は3匹揃って『ドクローズ』なんだよ! さらに存在価値がごみ以下って酷すぎだろ! 誰がごみ以下だ!」
「アンタらのことに決まってんでしょーが! もういっそのこと死ね! 死んで生まれ変わらず地獄に落ちろ!」
「んだと!?」
もう思いっきり話がだ脱線している。気付いているのだろうか。
だが3匹は気にしていないようで言い合いを続けている。シアオはついていけずに見ていることしかできなかった。
言い合いをしているとズバットが鼻でにおいをかいで、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「この匂いは……アニキだ!」
「「匂い……? ――ぐっ……!?」」
ズバットがそう言った瞬間、
とても強烈な匂いがした。鼻がおかしくなりそうなぐらい臭い匂いで、シアオ達は鼻をおさえる。
匂いはどんどん広がっていき、やがて全体に広がっていった。
「きゃー!! オナラ臭いですわーー!!」
「あ、あっしがやった訳じゃないゲスよー!!」
「んな事聞いてねぇよ! ヘイヘイ!!」
弟子達の苦痛の声が聞こえてくる。
だがフォルテ達もそんな事気にしている場合ではなかった。
「くっ……臭い……!!」
フォルテがそう言いながら鼻をおさえていると
「――邪魔だ! どけ!」
「きゃっ……!?」
突然声がして、フォルテは吹っ飛ばされた。そして壁に思いっきり体を打ち付ける。
シアオはフォルテの方を見てから、フォルテを飛ばした原因を見る。そこには、なんとも悪そうな面をしたスカタンクがいた。
スカタンクはシアオを睨みつけ
「どけ! お前もあいつのように張り倒されたいか!?」
「うっ……。うぅ……」
シアオはスカタンクの迫力に負けて、道をあけてしまう。
するとスカタンクはズバット達の方に近づいていった。そして感嘆の声をあげる。
「さすがアニキだ!!」
「やっぱり強い!!」
「そんな事はどうでもいい。お前ら、金になりそうな依頼はあったか?」
「いえ……。ですがいい情報を手に入れました。このギルドで遠征があるそうです」
ドガースからそう聞くと、スカタンクは怪しい笑みを浮かべた。
「ほう。それはいい情報だな……。よしお前ら! 帰って悪巧みするぞ!!」
「「へい!!」」
そういって梯子の方に向かう。
ズバットはシアオの方を向いてから
「じゃあな! 弱虫君よ!!」
そういって進もうとすると――丁度スウィートとアルが帰ってきた。
スウィートはスカタンクが初対面であるにも関わらず、きちんと前に立っている。スウィートはシアオをチラリと見ると『ドクローズ』と向き合った。
そしてしっかりと3匹を見据えながら
「……さっきの言葉を、訂正してください」
とはっきり言った。この時のスウィートは、怒っているのだ。アルはフォルテに気づくとフォルテの方に向かった。
そちらには気にせず、ドガースは馬鹿にしたような顔でスウィートを見た。
「なんで訂正なんかしなきゃ」
「分かってたような口を聞かないでくれませんか。シアオの努力を見ていない人(ポケモン)にそんな事をいう資格はありません。訂正してください」
ドガースの問いにもしっかりと答えた。
ドガースはスウィートの雰囲気と迫力に負けて黙ってしまう。勿論ズバットもだ。
だがスカタンクは眉を顰めてスウィートを睨みつけながら
「フン、お前に用はない。退け」
「言ったでしょう。訂正してください、と。退く気はありません」
スカタンクの睨みにも動じず、スウィートは静かに返した。
これ以上無駄だと思ったのだろう。スカタンクが動いた。フォルテのように張り倒そうとしたのだ。
だが――
「なっ……!?」
スウィートは既にその場にはおらず、スカタンクの攻撃は空振りに終わった。
するとスカタンクの後ろから
「結局、口先だけ。無理だと思ったら実力行使。最低ですね」
「ぐっ!!」
スウィートはスカタンクと後ろに回りこみ、覚えたばかりのアイアンテールを食らわした。スカタンクは壁に体を思い切りぶつけた。
そして傍にいたズバットとドガースは焦げていた。おそらくフォルテにやられたのだろう
「もう一度いっておきます。……貴方たちにシアオのことを弱虫する資格なんて、これっぽっちもない。
これに懲りたら反省をすることですね」
スウィートが言い終わると同時に、スカタンクは悔しそうな顔をしてからズバットとドガースを連れて出て行った。
スウィートはふぅ、と息をつくとシアオに近づいた。
「……シアオ、大丈夫?」
「う、うん……。ありがとう」
スウィートは二コリを笑った。シアオもつられて笑顔になる。
さっきの雰囲気は嘘のように、スウィートは笑顔を崩さずに言葉を発した。
「シアオ。前にも言ったけど、変わればいいんだから。あのポケモン達の言葉なんか気にしなくていいからね」
「うん……。そうだよね」
シアオがいつもどおりの笑顔に戻ると、スウィートはホッと息をついた。
するとアルとフォルテが近づいてきた。
「フォルテ、大丈夫だった?」
「ええ。最後にアイツら丸焦げにしたらスッキリしたわ」
(私は体の事を言ったんだけどなぁ……)
スウィートが苦笑いしながらそう考えていると、アルに小さくため息をつかれた。
フォルテは気づいていないようだが。アルは掲示板を指差して
「とりあえず依頼選ぶぞ」
と言った。そして4匹は掲示板の前に立ち、依頼を選び始めた。
シアオが今回「お尋ね者」の依頼をしよう、と言ったので3匹は驚いたが、シアオのやる気も出てきたようなので「お尋ね者」の依頼を2件こなした
スカタンクの匂いは夜になってもまだ少しだけ匂っていたので、ギルドの弟子達全員で、頑張って匂いを消したとか……。