13話 知りたいこと
「まず……時の歯車≠ヘ、時を動かしている要因なんだ」
「要因……」
スウィートはアルの言葉を復唱しつつ、考える。
アルは1回頷くと、説明を続ける。
「つまり時を動かしている原因。その原因が盗られるとどうなるか、分かるか?」
「……時が止まる、よね。それが今朝話してた「キザキの森の時間が止まった」っていう……」
「ああ。でも盗ったとしても、その区域の時が停止するんだ。
時の歯車≠ヘ何個かあるらしいから、1個盗ったとしても全体の時がとまるわけじゃないんだ」
スウィートはアルの言葉が妙に引っ掛かった。
考えたあと、アルの方を向き、尋ねる。
「らしい、って事は……知らないの?」
「実際に見たことはない。時の歯車≠ヘ見つからないように森や洞窟に隠されているらしいからな」
スウィートはそれを聞いて、更なる疑問が芽生えた。それなら何故、時の歯車≠ヘ盗まれたのか、と。すると
「……時の歯車≠ェ盗まれたのはこれが初めてだ。詳しいことは分からない。
だが……前言った「時が狂い始めてる」のも、時の歯車≠フ影響だといわれている。
俺が知っているのはこのくらいだ」
とアルが言った。
前の時ー確か初依頼のときだっただろう。その時の内容も思い出す。どうやらアルでも時の歯車≠ノついては詳しく知らないようだ。
きっとアルが知らないという事はフォルテもシアオも知らないだろう。
「ありがとう、説明してくれて」
スウィートがお礼を言うと「どういたしまして」と短くアルから返事が返ってきた。スウィートはクスッと小さく笑った。
説明も終わり、静かになる。敵ポケモンが襲ってきたら倒し、先に進むのみ。それだけを繰り返していた。勿論、たまには話をしたりするが。
そんなこんなでとりあえず進むのだった。
暫くして――
「今……B7階だったよね?」
スウィートが3匹に話しかける。3匹とも首を縦に振った。
「多分、あと少しだよね! 頑張ってすすもう!」
シアオが笑顔で言う。スウィートはうん、と頷いておいた。アルは相変わらず無言で辺りを見渡しながら進んでいる。
フォルテも少し余所見をしていた。
……それが大惨事になることになるなんて、誰が思っただろうか。
少し歩いていると――
「きゃっ!?」
誰かと誰かがぶつかる音がした。見るとフォルテが倒れているので1匹はフォルテだろう。
だとしたらもう1匹は? とスウィートが目線をすーっと移動させ、止まると、固まった。
勿論、シアオもアルも例外ではなく、固まった。
「いったぁ……。ちょっと! 気をつけなさー」
……同じくフォルテも固まってしまった。
全員の目線の先にいるポケモン、それは――
「あァ!?」
なんともガラの悪そうな、ゴルダックとコダックの集団……。
ゴルダックは2匹、コダックは5匹くらいいる。スウィート達にたらり、と冷や汗がでた。
「おい、コラ! 何俺らの縄張りに入ってきてんだぁ!?」
口調も荒い。このポケモン達が子悪党ではない事を願いたいが、恐らくいいポケモンではないし、話が分かりそうなポケモンでもない。
つまり
「全員、やっちまえ!!」
こういう事になる。スウィートは来た道を戻ろうとするが、見事にふさがれていた。
「や、やるしかないみたいよ!?」
「お前が余所見なんかするからだろッ!? ――ってんな事言ってる場合じゃねぇし!」
スウィート達は身構える。
コダックとゴルダックといえば水タイプだがエスパータイプの技も使うポケモンだ。フォルテとシアオにとってはきつい相手だ。
「スウィート! ゴルダックは俺らで始末するぞ!」
「う、うん……! と、とりあえず手助けッ!!」
スウィートが技を発動させ、全員の能力値を少しだけ上げる。
シアオとフォルテは二人で2匹で固まり、コダックの相手。スウィートとアルはゴルダックの相手になる。
「食らえ! 水鉄砲!!」
「っ! 危なっ……」
スウィートは連打で撃ってくる水鉄砲をよける。
少しずつゴルダックとの距離を詰めていく。そして隙がないかを伺う。
「おら!! 避けてばっかりか!?」
(かなり……バトル慣れしてる……! 隙が少ししかない…!!)
とスウィートは考えつつもよける。そしてゴルダックは撃ち続けで疲れが出たのか、少しだけ隙ができた。
スウィートはその隙を逃さなかった。
「たいあたり!!」
スウィートはたいあたりをするとすぐさま身をひく。
ゴルダックはというと――
「そんなもんかぁ!?」
「……!!」
確かにヒットした。技のあたりもかなりよかったはずだ。
だが、ゴルダックは平然と、余裕そうな顔をして立っている。
(レベルが高い……! 一筋縄じゃいかない……)
スウィートは自然に汗が出てくる。
今までウェーズ以外の強敵とはあまり戦っていないからだ。それに、ウェーズに勝てたのはあの声のおかげで……。
「呑気に考え事か!? ねんりき!!」
ゴルダックの言葉ではっとし、ギリギリでスウィートは攻撃を避ける。
(そうだ……違うことを考えてる場合じゃない……。とりあえず威力は弱くても技を一発、一発当てていけばダメージにはなる……)
スウィートは体勢を直す。そしてゴルダックの方に目を向ける。
「はっ! まだたて突こうってか!? かわらわり!」
「っ!? まずいっ!!」
ノーマルタイプのスウィートに、格闘タイプの技のかわらわりは非常にまずい。スウィートは急いでゴルダックと距離をとり、回避する。
ゴルダックはまたもや水鉄砲を連発してきた。
(格闘タイプの技を使ってくるとは思わなかった……。これじゃ迂闊には近づけない……)
スウィートは避けながら自分が使える技をいくつか思い出す。
(たいあたり、しんくうぎり、てだすけ、尻尾をふる……。……駄目。強い攻撃技がない……)
スウィートは苦い顔をする。これでは倒すのは遅く、悪ければ倒すことも出来ずにやられてしまうかもしれないのだ。
スウィートは諦めずに何通りもの作戦を考える。
(もう……たいあたりで攻めていくしか……)
スウィートは深呼吸をする。そして距離をまた詰めていく、が
「きゃぁあ!!??」
「!?」
フォルテの声に反応して振り返る。フォルテを見ると体が濡れている。
おそらく水タイプの技を食らったのだろう。
スウィートは動きを止めてしまった。それが仇になった。
「余所見してていいのかよ!? かわらわり!!」
「しまっ――きゃっ!!」
スウィートはモロにかわらわりを食らってしまう。そのまま体を岩に打ち付けられる。ズキズキと痛む体をなんとか立たせる。
効果抜群の技をくらってしまい、立っているのがやっとでふらついてしまう。
アルもシアオも2匹の悲鳴を聞いて隙ができ、技を食らってしまう。
シアオもねんりきをくらい、かなり辛そうで起き上がれていない。
「くっ……!!」
(なんとか……しなくちゃ……。アルはまだいけそう、だけど……シアオとフォルテは……)
何とか2匹を逃がす策を考える。そしてゴルダックたちをうまく撒いて逃げれる策を。
だがそれはあまりにも困難だ。逃げ道はコダックにふさがれ、逃げれる場所などない。そしてスウィートを含めて3匹は効果抜群の技を食らってしまっている。
アルも効果抜群ではないが攻撃を食らってしまっている。
自分が囮になろうか、とスウィートが考えると
《それを、他の3匹が了解するとは思えないけど。それにあんまりいい策じゃない》
(えっ? ……この声って――)
頭に声が響いた。この感じは、前のウェーズの時と同じ――
「貴……方……この、前の?」
《違う。俺がでてきたのは……初めて》
確かに前の声よりは高く、少し幼い気がする。しゃべり方も違う。
スウィートはさらに戸惑う。一体、何者なのかと。
「貴方達は一体……!?」
《……今はそれどころじゃないでしょ。それは後。まずは、こいつらを蹴散らすこと》
スウィートはそう言われ思い出す。
今はそれよりゴルダック達を倒してシアオとフォルテを回復させなければいけない、と。
(えっと……助けてくれるの……?)
《力を貸すだけ。前と同じように》
頭に響く声がそういうと、スウィートはまたあの懐かしい感覚に覆われた。
違和感はあるが、自然と力が湧いてくるのは事実だ。
《技名はわかる? 多分、前と同じようにだせると思うけど》
(う、うん。……やってみる)
スウィートは深呼吸する。
そして、技名を思い浮かべ、口に出す。
「力を貸して……! 魔光電磁!!」
そう言った瞬間スウィートの体から電気の細い線がいくつも出てくる。電気の線はまるでシアオ達3匹を守るかのように散らばり、ゴルダック達にあたる。
「ぐあぁぁッ!?何だ、これ!?」
ゴルダック達は避けようとしているが、無数の線からは逃れられていない。線がゴルダック達に引き寄せられているみたいだ。
そして細い線がすべて散らばり終わると、ゴルダック達は全員倒れて気絶していた。
《どうやら、全員無事みたいだね。よかった》
声に返事する気力がなく、スウィートはヘタッと地面に座り込む。
息を整えてから、頭の声に話しかけた。
(……力を貸してくれてありがとう。……貴方は、誰なの?)
1番聞きたかった事。前の声は『時間がない』と答えてもらえなかった。
聞いたことはただ1つ、『すぐ傍にいる』という事だけ。あれの意味さえ分かっていない。
《本当に……忘れてるみたいだね。スウィートは……》
「えっ……」
頭の声はどこか悲しそうだった。一生懸命隠そうとしているみたいだった。
だがスウィートはそっちより、言葉の意味を聞きたかった。
(貴方は……私の、私が記憶をなくす前の事を知ってるの……!?)
スウィートには記憶がない。
目が覚めてから分かるのは名前と元人間だったことだけ。知りたくても手がかりがなくては分からない。
だが、スウィートは記憶をなくす前の事を1番知りたかった。
《……とりあえず、俺はレンス・ヴァー……オン》
(えっ……? ごめんなさい。最後らへんが上手く聞こえない……)
だんだん最後の方がかすれてきて、上手く聞こえなくなっていた。
だが名前だけは聞こえた。レンス、と。
《技使って……ザマか。やっぱ…………がえいきょ…………して……な》
(……聞こえなくなってきてる! まさか前みたいに……)
《みたいだ……。もっと、話した……けど…………む……たいだ……》
スウィートはどうしても聞きたかった。
自分は一体何者なのか。そして、前の声とレンスは何なのか。
(レンスさん……! あと少しでいいから待って……!!)
《さん、付け……勘弁…………。ごめん……だけど、無理……かな》
すると前のように懐かしい感覚が消え去った。
スウィートはレンスの声は聞こえないんだろう、と予想する。
(もっと……聞きたかったのに……)
スウィートは顔を俯かせ、気を落とした。すると、前から声をかけられた。
「スウィート……大丈夫? はい、オレンの実」
シアオだった。スウィートは顔をあげ、お礼を言ってから、シアオからオレンを受け取る。
シアオはもう食べたらしく、平気そうだった。
「フォルテは……大丈夫?」
「うん。オレンの実食べたら元気になったよ」
スウィートはそう聞いてホッと息をつく。
そして受け取ったオレンの実を食べる。食べ終わるとスウィートは立って、シアオとともにフォルテとアルの方に近づく。
「スウィート、大丈夫か?」
「うん。アルとフォルテも大丈夫?」
アルに聞かれてスウィートは笑顔で答えた。アルやフォルテも目立った外傷はなく、大丈夫そうだ。本人達も大丈夫、と言った。
全員もう動けそうだったのでスウィートはとりあえずここから離れよう、と提案した。
3匹とも頷いてくれたので、一旦場所を移動するため歩きだした。
進んでいると、不意にフォルテがスウィートの顔を覗き込んできた。
スウィートは驚いて目を見開いてしまった。
「ど、どうしたの?」
「いや……。その……スウィートの目の色、元に戻ってるなぁって思って」
「え?」
フォルテの発言にスウィートは驚く。
一体目の色とはどういうことだろうか。と思う。そんなスウィートの気持ちを読み取ったのか、フォルテは説明してくれた。
「あのね、スウィートの目、黄色になってたのよ。あの変な電気技を使う前ぐらいだったかしら?」
どういう事だ、とスウィートはパニックになる。
電気技と使う前――おそらくレンスが出てきたくらいのことだろう。なぜ目の色が関係してくるのか。
「でも……もう元に戻ってるの。……見間違いだったかもね。さっきのは忘れて」
フォルテは笑いながらそう言った。
スウィートも見間違いだった、と結論付けて忘れることにした。