10話 恐怖の依頼
朝礼が終わり依頼を選ぶ為、掲示板の前にいるスウィートとシアオ。
いない2匹、フォルテとアルはトレジャータウンに買い物中だ。
「ねぇ、シアオ……。お尋ね者は?」
なかなか決まらないので、スウィートがシアオに提案した。するとシアオは頭をブンブンと横に振った。
シアオはそれからスウィートの方を向き
「と、とりあえず簡単なのからやっていこうよ!」
とかなり焦ったように言った。スウィートはそんなシアオを見て苦笑する。
シアオは掲示板をもう一度見た。すると、1つの依頼が目に入ってきた。
「あ…。スウィート、見てよ。これ…報酬が凄いよ」
「え……? どれ?」
シアオは掲示板に貼ってある紙を指差す。スウィートは指された依頼の報酬に目をむけた。
流石にスウィートも報酬を見て驚いた。
「8000ポケ……。これなら一割だとしても800ポケもらえるね。確かに凄いかも」
するとその隣にも何かが書いてある。報酬はポケだけではないようだ。
読もうとすると後ろから声がかかった。
「決まったか?」
振り返ってみるとアルとフォルテがいた。どうやら買い物が終わったようだ。
スウィートは依頼を手に取り、アルに見せる。
「これはどうかなって話をしてたの」
「ん? ……報酬が高いな。8000ポケだから800ポケと……勇気の石、か」
とアルが報酬を見ながら呟く。8000ポケの隣に書いてあったのは勇気の石のようだ。
アルはフォルテと話しているシアオを見ながら。
「……あいつにピッタリだな」
と言った。スウィートは苦笑しながら「そうだね」と答えた。
これを持っていてシアオに勇気が出てくれるというのなら嬉しいのだが。それだけで勇気がでてシアオが強くなるという訳ではない。
するとシアオとフォルテが、2匹の様子に気がつき近づいてきた。
「何? 決まったの?」
「ああ。報酬は800ポケと勇気の石。で……内容は……」
フォルテの問いかけに紙を見ながらアルは答える。
そして、内容のところで言葉を止めた。3匹とも首を傾げる。
「どうしたの?」
スウィートがアルに声をかけると「なんでもない」と苦笑いしながら答えられた。
そして依頼書に再び目線を落とす。
「内容は紫グミを取ってくること。じゃ、いくぞ」
そう言うとアルは梯子を上っていった。
スウィート達は慌てて追いかける。場所は、とスウィートは聞きたかったのだが、行ったら分かるか、と思いながらスウィートは梯子を上った。
「き、きゃあぁぁぁぁぁあ!!」
この声は……フォルテのものだ。
絶叫をあげながら火の粉を吹いたり、火炎放射を放ったりして、とても危険な状況だ。
スウィートは一生懸命フォルテを宥めようとしているが、危なっかしくて近づけないのが現状。
此処は“魂の墓場”というダンジョン。世間ではお化けなどがでてくるといわれているダンジョンなのだ(因みにゴーストタイプばかり)。
何故フォルテが絶叫をあげているか。簡単だ。
フォルテはとてつもなくお化けやホラー(ゴーストタイプ)というものが苦手だから。
アルはその事を知っていて、わざわざ場所を言わなかったらしい。本人曰く
「知ってたら逃げるだろ? だから引き返せないところまで連れてきたんだ。報酬も高いし、勿体無いだろ」
という事らしい。アルは平然と歩き、シアオは楽しみながら進んでいる。
シアオはこういうものには強い、というか好きらしい。スウィートも別に平気なので、怖がっているのはフォルテだけ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!来ないで、近づかないで、視界に映んないでぇぇぇぇぇえ!!」
もはや怖がっているというより、壊れているといったほうがいいのか。
フォルテはいつもとは全然違う。ゴーストタイプを見ては泣き叫んでいる。発言的にはかなり酷い。
「アル……。此処に来たのは失敗じゃないかな……」
スウィートが先程から平然と進んでいるアルに話しかける。
アルは少し呆れ顔になり、フォルテを見ながら
「さすがにシアオに偉そうな事言ってるフォルテがあれじゃ駄目だろ」
と言った。フォルテは全く気がついてないようで、ダンジョン内ではフォルテの悲鳴が響いている。
ダンジョン内のポケモンは
(……そんなに怖がらなくても)
みたいな感じで涙目だ。だがフォルテ的にはそんな事これっぽっちも気にしていない。
「なかなか進めないね……」
シアオが苦笑いでポツリと呟く。
そう、今の場所はB1階。つまり、一度も階段に辿りつけていないのだ。
理由は勿論フォルテが動かないから。ただそれだけである。スウィートも頭を悩ませる。
「うーん……。なんとか進んでもらわないと……」
「俺らが動けばついてくるんじゃないか? 1匹になろうとはしないだろ」
「……それはそれで不安」
スウィートは苦笑しながらアルに言った。
すると、アルは敵ポケモンに電気ショックを放った。
「じゃあ、フォルテの前のゴーストタイプを潰していくか。なるべくフォルテに見せないようにしながら」
元々そうすればフォルテが泣き叫ぶ事もなかったのでは? とスウィートは思ったが、それを言うとアルに何か言われる気がしたのであえていわない事にした。
「じゃあ……フォルテ、後ろに隠れててね」
シアオが強引にフォルテを3匹の後ろに押す。
フォルテが何か言っているが、パニック状態で何を言っているのやら分からない。シアオは無視しておいた。
おそらく依頼が終わり、フォルテが復活したあと、火の粉の刑か火炎放射の刑になるに違いない。
「でもスウィートは一応フォルテの隣にいてくれ。何がおこるか分からないからな……」
アルはそういいつつシアオをチラリと見た。
シアオもその一瞬の目線に気がつき、アルを少々睨みながら
「トラブルなんておこさないから!」
「それが本当な事を俺は願っている」
シアオが睨んでいるのにもかかわらず、アルは平然と答えた。
スウィートはフォルテの隣につきながら、さすがアルだなぁ、などと呑気な事を考えながら2匹を見ていた。そして4匹はゆっくりと歩き出した。
「ス、スウィートはなんで、平気、な訳……?」
恐怖感で顔がこわばっているフォルテがスウィートに聞いた。
フォルテは目は涙目で真っ赤になっている。スウィートは若干苦笑いしながら
「私は、その……お化けとかそういうの信じていないし……。ゴーストタイプは普通のポケモンだし……ね。
あれ、でも、ゴーストタイプが苦手っていうなら銀行の――」
「あたしは、あの店、に近寄ったことは、一度も、ないわよ」
スウィートはそういわれ、記憶をたどった。
……そういえばフォルテはトレジャータウンにいったとき、銀行とは離れた場所を歩いていた。
シアオが隣だったのでシアオを上手く盾にしながら進んでいたのに、今になって気付くスウィートであった。
アルとシアオを見ると技を放ちながら敵を蹴散らしている。まぁ蹴散らせているのは大抵アルだが。
(それにしても……アルに苦手なものって……あるのかなぁ)
お尋ね者も、お化けも、ほとんど何にも怖がらない。いつも平然としていて苦手、というものがあるようには見えない。
フォルテやアルは自分より前から一緒にいるからわかるかな、と思いながらスウィートはフォルテに聞くことにした。
「ね、フォルテ。アルに苦手なものってあるの?」
「……アルの苦手なもの? うーん……いや、聞いたことないわ……」
フォルテもゴーストタイプを見てないので普段のフォルテに戻ってきているようだ。
スウィートは密かにアルの苦手なもの発見してみたいなぁ、などと考えつつもフォルテにマメに話しかけていた。
そしてようやく目的地のB8階。フォルテは随分と落ちついていて、このまま行けば普通に帰れる。そう思いながら紫グミを探す。
だが探しているものというのは、なかなかみつからない事がよくある事で――
「ないね……」
「ないな」
シアオの溜息交じりの声に、アルが短く返す。
一生懸命探しているが全く見つからない。アルも少々げんなりしている。フォルテはとっとと帰りたい、という気持ちでキョロキョロとしている。
スウィートも同じくキョロキョロと周りを見渡していた。
すると、何か紫色のものが見えた。
「あっ……! あれ……そうじゃないかな?」
スウィートが指をさした。3匹ともその方向を見る。そして駆け寄った。
「あれだ。紫グミで間違いない」
アルが遠くからなのに分かるみたいだ。とても目がいいみたいだ。
紫グミだと分かるとフォルテはすぐに3匹を抜き去り、走って紫グミを手にとった。
「とった! さ、早く帰るわよ! 一秒たりともいたくないわ!」
フォルテはいつもの調子を取り戻したようで、大きな声でそういった。
スウィート達はまだ数メートルの場所にいた。
フォルテがスウィート達のもとに行こうとすると――
「バッッッッ!!!」
フォルテの前にいきなり黒い物体が現れた。それでフォルテが平然としているわけもなく――
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
フォルテは絶叫をあげて倒れた。
その大声といったら朝の目覚ましのラドンに負けないくらいの声だった。スウィートは思わず耳を塞ぐ。アルもシアオもだ。
その大声がやんでからスウィート達はフォルテに駆け寄った。
「フォ、フォルテ大丈夫!?」
フォルテを見ると泡吹きながら倒れていた。
スウィートがどうしよう、とそんなフォルテに困っていると
「あははっ! そんなに驚いてくれるなんて! あははは!!」
と笑っている声が聞こえた。その声のするほうを見ると、1匹のムウマがいた。
アルが笑っているムウマに少々引きながら問いかける。
「あのな…あんた、誰だ?」
「あはっ、あはは……。え? あぁ、うちはセフィン・エレナイト! この依頼を頼んだ依頼人♪」
と自己紹介してくれた。スウィート達は目を見開いた。
そして
「「「い、依頼人!?」」」
と揃って声をあげた。
何故依頼人がこんな所にいるのか。スウィート達は疑問に思った。スウィートはそれと同時にシアオの後ろに隠れる。
セフィンは全く気にしていないようで、そのまま話を進める。
「この紫グミ置いたんはうちなんや。ただ誰かを驚かせたくてな、だから依頼として探検隊に此処まできてもらったんよ♪
で、結果的にこんなに驚いてもらえるなんて、あはははっ!!」
またまたセフィンは笑いだした。
どうやらセフィンはただ驚かせたかったようだ。暫く笑ってくれたからセフィンはスウィート達をみて
「あぁ、悪かったな。こんなんで依頼に来てもろうて。ほな行こうか? ギルドに。報酬渡さなあかんしな」
スウィート達は呆然としたが、慌ててバッチをかざし、ギルドに帰った。
――――ギルド――――
「ほいっ。報酬! また頼むな〜」
「もう二度とこんな依頼だすな……」
アルは疲れたようで、げんなりとした表情で言った。
セフィンは「んな冷たいこと言うなや♪」とまた頼みそうな感じだ。アルは顔を大いにひきつらせた。
すると先程まで気を失っていたフォルテが目を覚ました。
「はっ!? ここは……」
「おっ、目覚ましたみたいやな。大丈夫か〜?」
フォルテの前にセフィンがいく。
するとフォルテは悲鳴をあげスウィートの後ろに隠れた。スウィートは既にセフィンと打ち解けているので大丈夫らしい。
「なんか避けられてるみたいやなぁ……。悪かったな、驚かせ――」
「あ、え、なんっ……!?」
ペコリとセフィンがお辞儀する。
フォルテにとってはそんな事どうでもよかった。ただ何故こんな所にゴーストタイプがいるんだ、と聞きたいのだが、声がでない。
「セフィン。フォルテはゴーストタイプが苦手なんだ……。ごめんね?」
「ゴーストタイプが苦手……? へえ」
セフィンはニヤリと笑った。
アルとスウィートは嫌な予感以外、何もしなかった。
「な、あんたんとこのチーム名なんや?」
「チーム名? 『シリウス』だ――」
シアオが言おうとして、アルが慌ててシアオの口を塞いだ。だが時既に遅し。
セフィンは笑顔のまま。
「じゃあ、また頼むな。『シリウス』の皆さん♪」
それだけ言うとセフィンは笑顔で去っていった。
フォルテは体を震わせながら、そして顔をあげ、口を開いたかと思うと――
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
今日一日で、誰よりも、何よりも大きな声をだして叫んだ。
ギルド内で、全員が耳を塞いだとか……。