2話 4匹の距離
シアオの宝物を盗んだズバットとドガースを追うため、洞窟に入った4匹。
洞窟の中は暗く、そして水がポタポタと上から落ちてくる。そんな中、4匹は進んでいた。
「うぅっ……取り返せるのかなぁ……」
先程からオロオロし、弱音を吐くシアオ。
これで何回目の弱音か分からないくらい、洞窟に入った直後から言っている。
「もう引き返せないからな」
そんなシアオに呆れ顔で、アルがため息をつきながら言う。
「本当に情けないわね。力ずくでも取り返すのよ!」
フォルテはやる気満々で、シアオが弱音を吐くたび「情けない」だの「意気地無し」だの「ヘタレ」だのと言っていた。
それにシアオは、反応したりしなかったりだが。ただ「ヘタレ」には敏感に反応した。
「それに……盗られたままで、お前はいいのかよ」
「そりゃいい訳ないけど……」
「それが本音なんだろ? なら弱音吐くのを止めろ。本気で「ヘタレ」って呼ぶぞ」
「もう言いません!!」
アルに真顔で言われ、慌てて言うシアオ。本当にやりかねないからだ。
そんなシアオを見てアルとフォルテが笑う。フォルテの笑みはあまり純粋なものではないが。どちらかというと黒い。
しかし、1匹足りない。その1匹にフォルテが声をかける。
「あのさ……」
「は、はいっ……!?」
声をかけるとその1匹、スウィートがビクリと体を揺らし反応する。それに怖がっているような感じだ。
だが、フォルテが言いたいのは何より
「そんなに距離とって物陰に隠れなくても……」
そう。スウィートは3匹から二メートルくらい離れた場所で、更に物陰に隠れながら来ているのだ。洞窟に入り、フォルテが手を離した瞬間、すぐのことだった。
どうやら彼女はとてつもない人見知りのようだ。
「ご、ごめんなさい……」
そう謝っても、声が小さく聞き取りづらい。さらにビクビクとしているスウィート。最後の方は全く聞こえなかった。
どうしたもんかと頭を悩ませていると、シアオがスタスタと近づいていった。
スウィートはまたもやビクリとするが、逃げはしなかった。シアオを観察するかの様に見ている。
「名前言ってなかったよね。僕はシアオ・フェデス。敬語は使わなくていいよ。よろしく!」
「えっ……。………………その…………よろ、しく…………?」
明るく自己紹介してくれたシアオに、おずおずと言うスウィート。
いきなり自己紹介され、スウィートは戸惑っていた。何を言えばよいのだろうか、と。
すると他の2匹も近づいてきて
「俺はアルナイル・ムーリフ。ほとんどの奴からはアルって呼ばれてるから、そう呼んでくれ」
「あたしはフォルテ・アウストラ。フツーにフォルテって呼んで」
と簡単に自己紹介してくれた。
スウィートはまだ怯えているような表情だ。そしておずおずと
「あ……はい…………。えっと、シアオさん、」
「あ! 呼び捨てにしなきゃ駄目よ!!」
名前に「さん」付けして呼ぼうとすると、フォルテがズイッとスウィートに詰め寄って強く言った。
スウィートは少しビクリとしてから、表情に戸惑いを見せた。
「え……でも……」
「いーのっ! あたし達も呼び捨てにするから!」
反論しようとしたが、すぐにフォルテに遮られてしまった。
それから少し言い合ったが(ほとんどはフォルテ)、最終的にスウィートが折れた。どうやら押しには弱いようだ。
そして呼び捨てにするようになったスウィートに、フォルテは満足そうに笑ってから、スウィートの首の部分に目をむけた。
「そういえばスウィートの首にかけてるペンダント……それ、なんの宝石?」
「えっと……これの事……だよね?」
スウィートは3匹に見えるよう、ペンダントの宝石を前足で持つ。
宝石は透き通った濃い青色の宝石。キラキラと光っていて、とても綺麗だった。
「多分、サファイヤじゃない、かな……」
スウィートは宝石、サファイアを見ながら答える。
サファイアかどうか分からないが、そう思ったらしい。どうやら一般知識は残っているようだ。
(大切なもの、って思うのは……前の記憶なくす前の自分が、そう思ってたからなのかな……)
「確かにな……。本で見たのと同じだ」
アルがサファイアと思われる宝石を、まじまじと見ながら呟く。
本で見たというのなら、おそらくサファイヤで間違いないだろう。
そして少し4匹で談笑していると、シェルダーとカブトがてできた。
するといきなりタックルで攻撃してくる。それにスウィートは咄嗟に反応した。
「きゃ……!?」
ギリギリ、スウィートも攻撃を避ける。
だが避ける以外に、彼女はどうすればいいのか全く分からなかった。というか襲ってきた理由が分からなかった。
「ど、どうしたら……」
「スウィート! 攻撃して!」
シアオがスウィートに向かって叫ぶ。
スウィートは危なっかしいが攻撃を全て避けていきながら、シアオの言葉の意味を考えた。
(こ、攻撃って……!? 何をすればいいの!?)
「電気ショック!!」
横を見ると、アルがシェルダーに電気ショックを喰らわせ倒していた。
それを見て、スウィートは攻撃の意味が分かった。
(そっか……! 技! えっと〜……)
イーブイができる技、そして自分もすぐにできそうな技を思い出してみる。
1つ思い浮かぶと、スウィートはカブトのタックルを避け、すぐに体当たりをした。
すると一撃でカブトは倒れた。
「あぅ……ビックリしたぁ……」
ホッと安堵の息をついていると、体の力が抜けていく。いきなりの戦いで体が強張っていたので、どうやら結構な体力を使ったようだ。
スウィートは3匹に説明を求めた。というか説明してもらわなければ困るのだが。
「ねぇ、さっきの……」
「えっとね、此処は不思議のダンジョンって場所なんだ」
「不思議の……ダンジョン?」
はじめて聞いた言葉にスウィートは首を傾げる。一体それはなんなのだ、と。
シアオは頷いて話を進める。
「入るとさっきみたいに、ダンジョンに住んでるポケモンが襲ってくるんだ。
もしもダンジョン内で倒れると外に出されて、ポケは全部なくなり道具は減ってたり……とか」
(ポケ? ……お金の事かな)
「それともう一度おなじダンジョンに入ても、ダンジョン全体の形が変わってるんだ。理由は分からないけど。
だから不思議のダンジョンって呼ばれているんだ。分かった?」
「うん。大体は。ありがとう」
今度から技が出せるようにしないと、と思うスウィート。
元人間のため、技のだし方など知らない。今更だがようやく四足歩行に慣れてきたのだ。
「まぁバトルセンスはあると思うわ。攻撃は全部避けて、更に一撃で相手を倒したんだから」
フォルテは思ったままの感想を述べる。
確かに危なっかしかったが攻撃は全て避け、体当たり一撃で敵を倒したのだ。バトルセンスはあるほうだろう。
それから敵を倒しながら、もう少し詳しくダンジョンの事を話ながら、どんどん進んで行く。
そしてしばらく進んでいると、フォルテが思い出したように発言した。
「にしてもあいつら、どこいったのかしら……。絶対ボコッてやるんだから……」
後半らへんがかなり黒くなってきている。というか黒いオーラがでてきている。
スウィートは怖がってアルの後ろに隠れ、アルはため息をつき、シアオは顔がひきつらせた。アルは慣れているようだ。
そしてスウィートが前を見てみると、なにやら紫色の物体が見えた。
「あ、あれ……!」
スウィートが指した方向には追っていた、紫色の体をした2匹のポケモンが話していた。