輝く星に ―時の誘い―












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第8章 最後の戦い
109話 おかえり
「ふっ……うあぁぁぁっ……!!」

 シアオは拳を強く握りながら、声をあげて泣く。アルは声はあげないものの、静かに涙を流していた。
 きっと、ギルドではまだフォルテが泣いているのだろう。

 彼女が消えて、どれだけの者が涙を流しただろう。どれだけの者が、悲しんだだろう。
 喜んだ者なんて、いない。未来がかわって、彼女のことを聞いて、喜んだ者など誰もいない。誰も、喜びはしなかった。

 彼女はあまりに多く者に悲しみを与えてしまった。

 きっとそんなことを望んでいない。彼女は笑って欲しいと願ったはずだ。そんなことは誰もが分かっている。
 けれど、どうやって笑えというのだ。未来が変わったといえ、命の恩人ともいえる人物が消えて、どうやって笑って過ごせというのだ。

 アルはそんなことを考えながら、ただシアオの背中を一定のリズムで叩き、自身も泣いていた。
 シアオの、フォルテの、アルの涙をとめるには、どうしても彼女が必要不可欠だった。

 そしてアルが嗚咽をあげそうになった瞬間、視界の端に白い光が映った。

 アルがシアオの背中を叩くことをやめ、それを凝視する。白い光は1つの場所に集まり、どんどん形になっていく。
 その場所に、アルは見覚えがあった。

 彼女が、初めて会ったときに、倒れていた場所。

 まさか、と思ってアルはそれを見続ける。
 すると光が原型をとどめ、どんどん消えていく。


 そこで、茶色の毛が見えた。2つの耳が見えた。
 首に、サファイアのペンダントをしている、アルにとって懐かしい、見慣れた姿があった。



「スウィート……?」



 アルが呆然と呟くと、シアオが反応する。そして、アルが見ていた者もゆっくりと目を開き、シアオとアルの方向を見た。
 シアオは、姿を見るや否や、目を瞠った。その者は、2匹を確認すると、口を開いた。


「シアオ……? アル……?」


 聞き覚えのある、高く幼い声。もう二度と聞くことの出来ないと思っていた声。

 シアオとアルは固まって、すぐに理解できなかった。

 しかしその者――スウィートは、すぐに2匹のもとに駆け寄り、2匹の手を握って自分の額にあて、安心したように声をあげた。

「よかった……! わたっ……わたしっ、戻って、これたっ……!!」

 その声でハッとし、アルは再びスウィートを見る。

 スウィートだ。二度と会うことのないと思った、戻ってきてくれと願った彼女。

 それをシアオもアルも確認した。シアオはぎゅうっとスウィートの手を握った。スウィートは、涙を流しながらシアオを見る。

「よかっ……よかっ、った……! もう、会え、な……って……!!」

 シアオも涙を流しながら、そう言った。それを聞いてスウィートはまたも涙を流す。
 そんな2匹を見てアルは涙を流しながら笑い、やんわりとスウィートの手をはずし、2匹の背中をぽんぽんと叩いた。

 少し落ち着いてから、アルは2匹に話しかける。泣いたせいで、全員 少し顔が酷いことになっているが。

「歩けるか? 帰ろう、ギルドに。スウィート、みんなが、待ってる」

「う、んっ……」

 涙を拭いながら、スウィートが返事をする。
 シアオも涙を拭いながら、スウィートに手をさしのべた。スウィートはありがとう、と言ってその手をとる。

 ギルドに向かい、出入り口に立つ。
 アルがふっと笑って、「乗ってやれ」とスウィートにいった。スウィートは恐る恐るといった風に、鉄格子に乗る。
 するとスウィートにとってとても懐かしい声が聞こえてきた。元気よく、見張り番をしている。

「足、型……は……」

 足型を認定している途中にも関わらず、いきなりギルドの出入り口が開いた。

 そこに立っていたのは、フォルテで、スウィートの姿を確認するや否やスウィートに抱きついた。
 いきなりでスウィートは受け止めきれず、フォルテとともにゴロゴロと転がり、シアオにたいあたりをして止まった。

「ひぐっ……スウィートの、馬鹿ぁぁぁぁ!! あたしがっ……あたしが、どれだけ、心配したと、おもてっ……!!」

 泣きながらフォルテは必死にスウィートに言う。ぽろぽろと地面にシミを作る。
 すると引っ込んでいたスウィートの涙が、またあふれ出してきた。

「ごめっ……ごめっなさいっ……! ごめんっ……!!」

 フォルテを抱きしめながら、謝った。心配をかけてごめんなさい、と。

 シアオとアルはそんな2匹を優しい笑顔で見ていた。
 すると地面がぼこっとなって、ハダルがでてくる。するとそれを合図にしたように、ギルドの弟子達がぞろぞろと出てきた。
 最後には、ロードがでてきて、2匹を見てふふ、と笑った。

「あ、そういえば」

 シアオが思い出したように声をあげる。
 そしてスウィートとフォルテに近づき、スウィートにむかって、一言、いった。



「おかえり、スウィート」



 スウィートの目が見開かれ、ぽろりと涙がおちる。
 するとフォルテは泣きながらも、アルは優しげな笑顔で

「おか、えりっ……」

「おかえり」

 同じ言葉をかけた。スウィートがふにゃりと情けない顔になり、涙があふれ出る。
 するとギルドの弟子達も口々に「おかえり」と言い出した。「よく帰ってきた」「お疲れさん」と声をそれぞれかけた。

 スウィートはそれを聞いて、涙を拭って、涙の跡をくっきりとつけながら、



「ただいま!!」



 元気な声で、とても綺麗な、眩しい笑顔で、そう言った。

アクア ( 2013/08/02(金) 13:12 )