輝く星に ―時の誘い―












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第8章 最後の戦い
107話 君がいなくなってから
 スウィートがいなくなってから、数日が経った。

 シアオはスウィートが最後の最後に言った願いを実行するべく、色んな場所をまわって伝えている。俺もそれに同行している。
 フォルテは部屋から出てこない。どうして、と言い続けている。ただ泣き続けている。

 結局、何がよかったのかが分からない。

 自分の目で見ても、あの未来は酷かった。あれは防がなければならない、と思った。
 きっと何年も何年もあの世界で過ごしてきたスウィートやシルドやレヴィたちは、俺より強い思いがあったに違いない。俺より、あの世界の残酷さを分かっていたはずだ。

 今、その未来はなくなった。
 けど、かわりにスウィートが消えた。おそらく、シルドも、レヴィも、サファイアの奴らも。
 俺らの平穏な未来とひきかえに、消えてしまった。

 それでよかったんだろうか。でも、スウィート達が消えなければあの未来を送ることになっていたのだ。
 やはり、何がよかったのか分からない。

 何が正しかったのだろうか。何が間違っていたのだろうか。

 何が、最善策だったんだろう。どうすれば、よかったんだろう。どうすれば皆が泣かずに済んだだろう。
 どうしたら、前のような平穏な日々に戻れただろう。

「アル? どかした?」

 シアオが俺の顔を覗き込んでくる。なんでもない、と言うとシアオはそっか、と言ってまた前をむく。今はギルドへ帰宅するところだった。

 コイツは、シアオは、スウィートが消えたとき、どれだけの悲しみを1匹で抱えることになったんだろうか。
 俺たちはシアオに聞いただけで、実際に見てない。だからこそ、こうやっていることができるのだろうか。まだスウィートは生きてるんじゃないか、なんて思えるんだろうか。

 情けない顔をして、目を真っ赤にさせて、帰ってきた。1匹で、帰ってきた。
 フィーネさんやシャオさんが消えるところを見ていたから、スウィートが帰ってこないことは知っていた。けど、どこか信じられずにいたのだ。スウィートは帰ってくるんじゃないか、って。
 けど現実は鋭く突きささった。シアオは、1匹で帰ってきた。

 冗談だろ、と言いたくなった。嘘だろ、そう言いたくなった。
 でもシアオにそれを聞くことはできなかった。あの時シアオの心がどれだけボロボロだったか、すぐに察したから。

 それでも、シアオは次の日から行動した。
 俺でも驚くくらいの立ち直り……いや、本当は立ち直っていない。けど、スウィートの願いをどうしても叶えてやりたかったのだろう。
 俺もついていった。シアオは必死に伝えた。もうこんなことをおこさないように、と。俺にできることは、何も、ない。

 なぁ、スウィート。お前はどんな気持ちで消えたんだ?
 お前のことだから、『シリウス』をこんなボロボロにしたいなんて思ってなかっただろ? これとは逆なことを願ってたんだろ?

 シアオはずっと表情が暗い。フォルテは、泣いてばっかりだ。

 俺には何もできない。どうしようもない。コイツらを元に戻すには、お前の力が、どうしても必要なんだよ。

 頼むから、お願いだから……戻ってきてくれ。





 スウィートがいなくなって、数日。

 あたしは何もできずにいる。進めずにいる。
 アルも、シアオでさえ進んでいるっていうのに、何もできないでいる。ただ、泣いているだけ。

 駄目だって分かってる。泣いたって、何もかわらないって知ってる。
 でも、どうやっても涙がとまらない。どうしても、一向に、心に開いた穴が塞がらない。
 どうやっても、駄目なの。

 フィーネとシャオが消えたのを見ても、スウィートは帰ってくるって思ってた。
 違う、思ってたんじゃない。そう思うしか、方法がなかったんだ。そうでもしないと、あたしの心が壊れそうだったから。

 でも、シアオは1匹だけで帰ってきた。
 シアオの姿を見た瞬間、頭が真っ白になった。だって、隣にいたはずの彼女がいないから。
 消えたんだ。もう、帰ってこないんだ。
 そう分かった瞬間、涙がとまらなかった。シアオだって心がボロボロなのはわかってる。けど、どうしても止められなかった。

 今でもはっきりと耳に残ってる。シアオの申し訳なさそうな声。

〈…………ごめん〉

 アンタは何で謝ってんのよ。どうしてあたしに謝るのよ。アンタはあたしに謝らなきゃいけないことをしたわけ?
 そう言ってやりたかったのに、声がでなかった。ただ首をふることしかできなかった。

 謝らなきゃいけないのは、シアオじゃない。
 今は、あたしが謝らなきゃいけないのに。何もできなくてごめんって。心配かけてごめんって。
 きっとシアオもアルも、今のあたしの状態を心配してくれている。それが申し訳なくてしかたない。でも、涙はとまってくれない。

 スウィート。貴女が消えてまで残したかったものは何ですか? 貴女が守りたかったものは何ですか?
 この時間の平穏ですか? あたしたちの平和ですか?

 貴女が守ろうとしたものは今、守られていますか……?





 あの日から、スウィートが消えた日から、数日がたった。

 フォルテの罵声がとんでこない。アルの溜息がない。スウィートがいない。
 前のような日々が、ない。

 僕は「こんなことが起きないように、他のポケモン達に伝えて欲しい」というスィートの願いを叶えるべく、他の場所に行って今までのことを伝えている。
 きちんと伝わっているのかどうかは分からない。でも、伝えなきゃ。

 アルは僕の行く場所行く場所についてきてくれている。フォルテはあの日から部屋に閉じ篭って泣いてばかりだ。
 フォルテにかけられる言葉は1つもない。だって、そんなものをかけたって、フォルテの心の傷が癒えるわけではないのだから。
 アルも何も言わずにいる。いつもは「しっかりしろ」とか「うじうじするな」とか言うのに、何も言わない。きっとアルは、僕よりもっと色んなことを考えている。だからだと思う。

 あの最後の……スウィートの悲しそうな、辛そうな、愛しそうな笑顔が忘れられない。涙が、確かに流れていた。

 スウィートだって、消えるなんて本心じゃなかったはずだ。
 けど僕らの未来をかえるために。未来を明るいものにするために。僕らのために、あの道を選んでくれたのだ。
 シルドも、レヴィも、サファイアの皆も、フィーネさんも、シャオさんも。僕らのために、自分の命を犠牲にした。

 僕らはこんなところで挫けるわけにいかないんだ。
 スウィート達が、僕らのためにしてくれたことを、無駄にしてはいけない。

「おい、シアオ。どっち行ってんだ」

「あー……ちょっと海岸に行こうと思って。先に帰っててもいいよ?」

「……いや、行く」

 あぁ悪いなぁ。そんなことを思いながら海岸に行く。
 海岸にいくと久々の光景を見た。

「……クラブの泡吹きだ」

「久々だな……」

 最近は全く来ていなかった海岸。何となくで来たが、とてもまさか泡吹きをやっているなんて思わなかった。
 泡吹きはやはり綺麗だ。キラキラと輝いて、ホントに綺麗だ。

 最後に見に来たのはいつだっけ? ……あぁ、そうだ。スウィートと初めて出会ったときだった。


〈大丈夫? あなた、此処に倒れていたのよ?〉

〈なんで……どうしてポケモンが喋っているの……!?〉

〈何を言ってるのさ。 ポケモンが喋られるなんて当たり前だよ? 君だってイーブイじゃないか〉

〈え……? 嘘っ……!? え……!? ど、どういうこと……!? なんでっ……〉

〈あのさ……名前は?〉

〈……スウィート。スウィート・レクリダ…………〉


 ポケモンになったことでパニックをしていて、まともに会話した気がしない。
 その後も酷かった。スウィートは極度の人見知りだったから、岩に隠れていたっけ。
 慣れてきたら沢山話しかけてくれて。それでもって凄く強くて。

 ギルドになかなか入れなかったときは怒られたなぁ。フォルテやアルはあんな叱り方しないから、よく覚えている。
 スウィートなりの、叱り方だった。更に最後は謝ってきた。あのときのスウィートは消極的だった。それも一緒にいるうちに薄れてきたけど。

 初めてのお尋ね者の依頼では時空の叫び≠ェ初めて発動したっけ。あとサファイアの力をスウィートが始めて知ったときだったと思う。僕らが知ったのはもっと後だけど。

 初探検では滝に突っ込んだなぁ。そして宝石はフォルテのせいで砕けて何ももって帰れなくて……でも、楽しかったな。
 未知の場所にいって探検するっていうのが、凄く楽しかった。

 遠征では"時の歯車"を初めて見たっけ……。あのときの光景は鮮明に覚えている。凄く、綺麗だつた。

 あとは色々とあって、それからシルドを捕まえて、ゼクトが未来に帰るって言って、そして無理やり未来に連れてかれたなぁ。
 そこで本当のことを知って、僕がパニックになって。それでもスウィートはずっと支えてくれた。どんなに僕が情けなくても、ずっとずっと支えてくれた。

 何度も、何度も辛くてくじけそうになった。
 それでも支えてくれた。彼女はずっと僕らの近くで笑ってくれていた。

「……! シアオ……」

 最後まで彼女は僕らのために動いた。最後まで、自分のことじゃなくて、他の者たちを考えていた。

 彼女は、幸せだっただろうか。

「ふっ……うぅ……」

 僕は、彼女に何かしてあげられただろうか。

「うぅっ……ひっ……うあぁぁぁぁぁぁ!!」

 声をあげて泣いた。アルがぽんぽんと背中を叩いてくれるのが、ただ1つの救いだった。



 ねぇ、お願い、神様。彼女にお礼がしたいんだ。

 僕はどうなってもいいから、彼女に、明るい未来をあげて。

 彼女を、返して。

アクア ( 2013/08/01(木) 20:00 )