輝く星に ―時の誘い―












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第8章 最後の戦い
105話 大好き
「はぁっ……はっ……」

 スウィートが荒々しい呼吸をしながらディアルガを見る。
 ディアルガは動こうとしているものの、ダメージが大きいのか起き上がらない。「グルルル……」という声をだしているが、体が動かないのだろう。

 スウィートもシアオも力を出し切って、そして相手をようやく倒したことで安堵していると、地面が大きく揺れた。

「きゃっ……!」

「っ……今までと比べものにならない……!」

 ディアルガと戦っていた最中におきた地響きとは全く違い、長く大きいもの。それはスウィートとシアオが1番大きいと思えた。
 何とか揺れる地面を踏みしめ、一歩一歩 慎重に歩いていく。

「時の歯車≠ウえ、おさめれば……!!」

 するとバリリッと赤い雲から発されている稲妻が1番大きな音をたて、更に威力を強くした。
 地響きはまだやまず、ずっと地面は揺れている。

(ま、まずい……。“時限の塔”が……崩れようとしてる……! もし、そうなら、世界は星の停止≠ノむかって、一気に加速していることになる!)

 スウィートは真空瞬移で移動しようかと考えるが、そんな体力が残っているかといわれれば否だ。さっきの戦いで使い切ってしまった。
 おそらく時の歯車≠おさめるだけで、精一杯だ。自分も、シアオも。

 すると光が強くなり、紫色の光が容赦なくスウィートたちを襲い、柱が倒れ始める。
 それを何とか回避しながら、スウィートとシアオはゆっくりと階段を昇る。そしてシアオが最後の時の歯車≠拾った。

「これさえ、はめれば……」

 シアオがサークルに残っているあと1つのくぼみにはめようとする。
 しかし、地面が揺れているせいでシアオの手もゆれ、なかなかサークルのくぼみにはまらない。

「これを……これを、はめるだけなのにっ……!!」

 手が揺れていて、はめることができない。

 そんなとき、ゆっくりとシアオの手の上にスウィートの手が添えられた。

「大丈夫。落ち着いて、ゆっくり……」

 スウィートの言葉どおり、小さく深呼吸をして、くぼみの部分に時の歯車≠近づけていく。
 そして、はまった。

「は、はまった!」

 その瞬間、全ての模様が水色に光る。

 これで、これでようやく。
 
 スウィートとシアオがそう思ったときだった。

「なっ、きゃああ!?」

「うわあぁぁぁぁ!?」

 揺れが一層 強くなり、スウィートは咄嗟にサークルがあるモノにしがみつく。しかしシアオは咄嗟にしがみつけないようで、階段から転げ落ちてしまった。
 スウィートはゆっくりと慎重に階段を下りる。しかしまた揺れが大きくなり、スウィートも階段から落ちた。

 シアオはパニックになりながら疑問を口にだす。

「ど、どうして!? 何で!? 時の歯車≠ヘあそこにおさめた! なのに、それなのにどうして地響きがおさまらないの!?」

 地響きは一向におさまらない。揺れが強くなるばかりだ。紫色の光もだんだん落ちてくる数が増えてきた。柱が壊れ、どんどん倒れていく。

 スウィートとシアオがパニックに陥る中、その場が眩い光に包まれ、2匹は気を失った。

 



「うっ……」

 スウィートがぼんやりとする頭をたたき起こし、体を起こした。
 目の前に広がる光景は何ともいえなかった。“時限の塔”の頂上は柱が倒れ、罅が入り、酷い有様になっていた。

「うぅっ……」

「……! シアオ!」

 スウィートが駆け寄り、シアオに話しかける。シアオも体を起こし、辺りを見渡す。
 しかしまだ完全に頭が覚醒していないようで「此処は……?」と尋ねた。スウィートが答えようとすると、第三者の声が入ってきた。

「ここは“時限の塔”だ」

「「!」」

 声に驚き、2匹は体をビクリと揺らす。
 そして声の主を見ると、体の色が禍々しい濃い青色ではなくなっていた。目を見ると、正気を取り戻していた。

「ディ、ディアルガ!?」

「構えなくていい。正気は取り戻した」

「えっ?」

 シアオの素っ頓狂な声は気にしていないといったように、ディアルガは酷い有様になっている“時限の塔”を見る。

「“時限の塔”もだいぶ壊れてしまったが……何とか持ちこたえた。これを見てくれ」

 そう言うと同時に、ディアルガの胸の宝石が光った。
 スウィートとシアオの頭の中に何かの映像が流れてくる。そこは森だった。

「こ、これは……」

「テレパシーで、私たちに映像を送り込んでいる……?」

 映像はどんどん流れてゆく。森では木々の葉っぱが揺れていた。
 そしてスウィートもシアオもそこに見覚えがあるのに気がづいた。

「あっ……“キザキの森”だ! 時が、動いてる……」

 すると映像がかわる。次に移ったのは2匹にとって馴染みの深い場所だった。
 トレジャータウン。そこには顔見知りや、ギルドの先輩たちもいた。

「みんな、元気そうだ……」

 次にうつったのは、プクリンのギルド。しかしギルドの中ではなく、ギルドの出入り口がうつされた。
 そこには6匹のポケモンが座っていたり凭れかかったりしていた。

「フォルテ、アル……。怪我、してる。けど、大丈夫そう……。よかった……」

「凛音やメフィもフィーネさんやシャオさんも帰りを待ってくれてるのかな」

 するとまた映像がかわった。次は遠目から見ている“時限の塔”が見えた。
 ほとんど崩れていてボロボロだが、何とかたっている。

「よかった……。しっかりと残ってる!」

 すると映像が途切れ、スウィートとシアオは目を開けた。
 スウィートがシアオを見ると、「よかった」と安堵して涙目になっているシアオがいる。スウィートもそれを見て泣きそうになった。

 よかった、と。きちんと役目を果たせた、と。

 ディアルガはそんな2匹を見て声を発した。

「“時限の塔”は残り、時が戻ったことにより、さっきの映像の通り、止まっていた各地の時間がまた動き始めた。“時限の塔”の破壊が止められたことで、星の停止≠免れたのだ」

「ほ、ホントに!?」

 シアオが嬉しそうにディアルガを見る。ディアルガはあぁ、と短く返事をした。
 そんなディアルガを気にせず、シアオはスウィートの手を握る。

「や、やった!やったよ、スウィート!僕たちついにやったんだ!」

「うん……うんっ……!」

「礼を言わせてくれ。よくぞ“幻の大地”まで到達し、暴走する私を恐れず“時限の塔”の破壊を食い止めてくれた。ありがとう。すべてはお前達のおかげだ」

 ディアルガの言葉に、スウィートは首を左右にふる。お礼をいうことはない、と。
 フッとディアルガは笑い、そしてまた“時限の塔”を見た。

「しかしまだ全てが収まったわけではない。私もこれから直ぐに“時限の塔”を修復しなくては。“幻の大地”もだいぶ荒れてしまったが……それでも虹の石舟はまだ動くだろう。ラウルもお前達を待っているはずだ。
 早く帰るといい。仲間が待つ場所へ。心配しているはずだ」

「うん! ありがと、ディアルガ!
 スウィート! 帰ろう! トレジャータウンに! 皆のところに!」

 シアオの元気さに、スウィートは苦笑しながらも返事をした。

 返事を聞いて先に走っていってしまったシアオに苦笑いし、ついていこうすると、ディアルガに呼び止められた。
 スウィートは首を傾げてディアルガを見る。すると静かにディアルガはスウィートにきいた。

「お前は……未来の者だろう。何故、この道を選んだ」

「………………。」

「知っていたのだろう。自分が消えると。お前は、それでいいのか?」

「……いいんです。仕方ありませんし。
 それに……あんな暗い未来を皆に送ってもらうくらいなら、私は消えたって構いません。皆が今までどおり、笑ってくれるのなら、それでいい」

 ふわりとした笑顔でスウィートは笑った。
 自分が消えるのに怯えもしない。恐怖もしない。もう完全に事実を受け止めていた。自分が消えるという事実を。

 ディアルガは静かに目を伏せた。そしてまたスウィートに言葉をかけた。

「そうか。私が不甲斐無いばかりに、すまない」

「……誰も、悪くありませんよ。これは、仕方ないんです。誰のせいでも、ありません」

「…………。」

 スウィートはそう言った。しっかりと、言った。
 すると遠くからシアオがスウィートを呼ぶ声が聞こえた。「今いく」と言ってから、ディアルガに声をかけた。

「それじゃあ、」

「待て。もう1つ」

「?」

「名を、教えてくれないか」

 スウィートは首を傾げたが、きちんと答えた。

「スウィート。スウィート・レクリダです」

「スウィート・レクリダ……。覚えておこう。本当に、ありがとう。行くといい。お前の大切なものの元へ。引き止めて悪かったな」

「いえ。それでは、失礼します」

 スウィートはぺこりとお辞儀をするとシアオを追いかけていった。
 ディアルガはスウィートの姿が見えなくなると、背をむけ、“時限の塔”の有様を見ながらも修復活動にうつった。




「スウィート! 早く早く!」

「うん」

 スウィートはシアオの後ろを歩く。シアオは軽い足取りで少し先を進んでいた。
 すると地面が揺れる。それと同時に2匹も止まった。

「やっぱり……だいぶ壊れちゃったから地響きはとうぶん続くのかもね……」

「そう、だね」

 スウィートは曖昧に笑う。シアオは気にした様子はなく、地響きがおさまるとまた早足で歩いていく。
 何とかついていこうとするスウィートだが、動きはゆっくりで、追いつけない。

(消滅のときが、近づいているのかな……。体に、何個ものおもりがついてるみたい……すごく、重い……)

 重い体をひきずってスウィートは進もうとするが、なかなか進まない。
 するとスウィートの視界に真っ白な一粒の光が見えた。

「…………!」

 咄嗟に止まり、体を見ると、体のいたるところから小さくぽつりぽつりと光がでている。止まる気配はなく、逆に光が増えていっている。

 あぁ、もう消えるのか。結局、皆に伝えたいことを伝えられずじまいだ。

 スウィートは光をだす自身の手を見る。光が止まる気配は、ない。
 するとシアオが「スウィート?」といって戻ってきた。そしてスウィートの姿を見た瞬間、立ち止まる。

「スウィ、ト? え、どしたの……? その光」

 呆然としているシアオに、スウィートは笑いかける。
 「やだなぁ」だとか「もっと一緒にいたかったなぁ」という気持ちがスウィートの胸の中を占める。けれど、仕方ないのだ。
 自分が選んだ道だ。自分が選んだ結末だ。悔いは、ない。

「シアオ……ごめんね。ここで、お別れだ」

「……え?」

 シアオが目を瞠る。言っている意味がわからない、といったような表情をする。
 そんな彼を見ながら、スウィートは震える口で言葉を紡いだ。

「消える、んだ、私。……未来をかえたらね、私、は……私たち、未来のポケモンは、人間は……消えちゃうの」





「あ……!」

「どうやら、スウィートちゃん達は成功したようだね」

 フィーネとシャオの体から光が漏れ出す。
 フォルテ達はシャオがいきなり言葉を発したことに驚き、2匹のほうを見てもっと驚いた表情をした。

「え……ちょっと、その光、なに?」

 フォルテがぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
 そんな様子のフォルテにフィーネは苦笑し、フォルテやアル、凛音、メフィに言葉をかけた。

「……黙っていてごめんなさいね。スウィートちゃんとの約束だったの。もう、いいかしら」

「いいんじゃないかな。もう」

 シャオは寂しそうにフィーネを見て笑った。とても、悲しそうに。
 変な胸騒ぎがする。嫌だ、嫌な予感しかしない。4匹はそう感じていたが、フィーネは喋りだした。

「タイムパラドックスの影響よ……。知っているかしら?」

「あ……。そん、な……う、嘘、だろ……!?」

 アルは知っているようで、「タイムパラドックス」という言葉を聞いて瞬時に理解したようだ。
 しかし他の3匹は首を傾げている。アルは顔を真っ青にしながらも、言葉を発した。

「未来をかえたら、元々あった未来がなくなったことになり、その未来の生物が消える……。まさか、その光って、」

「そう。消滅の光よ。私たち未来のポケモンは……スウィートちゃんとシアオ君とシルド君が未来を変えたことにより、消える」

 それを聞いて、4匹が息をのんだ。
 フィーネとシャオの光は止まらない。むしろ光は増える一方だ。

「……じゃ、じゃあ……スウィート、は……スウィートは、どうなるの…………?」

 フォルテが震えることで、聞いた。
 フィーネは静かに目を伏せ、シャオは首を左右にふった。意味するものは、たった1つ。

「う、嘘よ……! そ、んな…………フィ、フィーネだって、シャオだって、助かるんでしょう!? みんな、みんな助かるんでしょ!?」

「…………。」

「消えない、でしょ!? そんなこと、あるわけ、ないでしょ……!?」

「…………。」

「ねぇ!!」

「やめろフォルテ!!」

 フィーネとシャオに詰め寄るフォルテを、アルが止めた。しかしフォルテは止まろうとしない。
 凛音やメフィは呆然と2匹の光を見ているだけだった。

「お願いっ……お願いだから、言ってよ……!! 消えないん、でしょっ……!?」

 フォルテの目からぽろぽろと涙がこぼれる。アルは悲しそうに、悔しそうに顔を歪ませる。
 そんな2匹を静かに見て、シャオはもう一度首を左右にふった。フォルテはそれを見ようともしていない。

「お願いだから……嘘って……嘘って、言ってよぉっ……!!」

 フォルテの目からこぼれる涙は止まらない。
 それでも、嘘とは言わなかった。フィーネとシャオは、フォルテの言葉に首をふるばかりだった。

 消えると、しっかりと示していた。

 現実は残酷で、フィーネとシャオからでる光は強まる一方で、止まることをしない。
 それでもフォルテは声を張り上げた。

「やだっ……嫌だっ……! 嘘だ!! 絶対に、そんなの、嘘に決まって、」

「フォルテちゃん」

 静かにフィーネがフォルテの名を呼んだ。そしてフィーネはアルの方にも目線をむけた。

「アル君も。……スウィートちゃんは、このことを知っていたわ。私が、言ったから。
 けど、彼女はこの道を選んだ。知っていて、この結末を選んだ。それは全て、貴方達の為なの。貴方達の、未来のため。だから」

 彼女の意思を無視しないであげて。他でもない、これを選んだのは彼女なのだから。

 フォルテがそれを聞いた瞬間、崩れ落ちた。
 地面に座り込んで声をあげて泣き出した。メフィが近づいてフォルテを支える。メフィの目からも、ぽたぽたと涙が落ちた。
 
 すると更にフィーネとシャオの体を包む光が強くなった。
 アルと凛音は呆然と見ている。するとアルが、ぽつりと質問をこぼした。

「ホント、に……消えるん、ですか……?」

 残酷すぎて受け止めたくない現実。否定してほしい事実。
 しかし、それは出来ない。受け止めなければいけない事実だって、ある。

「そうだね……。もう、体も重くなってきたし……そろそろ、なの、かな」

 シャオが上を見上げて、空を見た。自信からでる光が上に上にとのぼっていっている。
 それを見てからシャオはフィーネの方に目をむけた。

「フィーネ、今までありがとう。君に出会えて幸せだったよ。本当に、ありがとう」

「やだ。らしくない。……こちらこそ、ありがとう。たくさん迷惑かけて、ごめんね。また、会えるといいわね」

 2匹がそう言って笑うと、光がもっと強くなり、もう体がほとんど見えなくなった。
 そして光が完全にフィーネとシャオを包む前に、フィーネが呟いた。


「……もっと、一緒に……生きたかった、なぁ…………」







 スウィートからでる光がどんどん増えてくる。
 シアオはそれを見ながら、呆然と言葉を発した。全く状況を理解していないようだった。

「嘘、だよね……? ス、スウィート、世界が平和になったからって、そんな冗談よして、」

「嘘じゃないの。
 ……未来を変えてしまうと、私たちがいた未来はないことになる。だから、私たちは、私は消える」

 シアオの言葉をしっかりと否定し、スウィートは事実をはっきりと述べた。
 それを聞いて、シアオは震える口で、何かを言おうとしている。それより先に、スウィートが言葉を発した。

「……私さ、凄く楽しかったよ。シアオやフォルテやアルに会えて。ギルドの皆に会えて。とっても優しくて、暖かくて、家族みたいで、毎日が、楽しかった」

 ふふ、と笑ってスウィートは懐かしむように話す。
 その笑顔は辛そうで、悲しそうで、でも嬉しそうで、楽しそうで。シアオは何ともいえなかった。

「すごく、楽しくて……毎日、幸せで。色んなことがあったけど、とっても楽しかった」

「何、いって……」

「朝から賑やかで、お昼からは探検して、夜はご飯で皆で騒いで……。
 私、消えてしまっても、絶対に、絶対に忘れないから。楽しかったギルドの生活を」

 スウィートは優しげな笑顔で笑う。

「アルのことも、フォルテのことも、シアオのことも……みんなみんな、忘れないから」

「ちょ、ちょっと待ってよ……。なん、で……なんで、なんでそんなこと言うのさ……!? ここまでこれたのも、スウィートのおかげなんだよ!? スウィートが僕らを引っ張っていってくれたから……ここまで、皆が頑張ってこれたんだよ!?」

 シアオは目に涙をためながら言葉を紡ぐ。スウィートはシアオの言葉を聞きながら目を伏せる。

「スウィートがいなくなったら……誰が、誰が引っ張っていってくれるの……? 僕は、何て、フォルテやアルに、言えばいいの……?」

「大丈夫だよ」

 目を伏せていたスウィートが目を開いた。やはり笑顔だ。
 しかしシアオはそれが辛かった。もう消えると完璧にいっていってるようなスウィートの姿が。

「私がいなくたって、みんな強いもの。大丈夫、3匹で支えあっていける」

 シアオの目からぽるぽろと涙がこぼれた。そして俯いて首を左右にふった。
 そんなこと言わないでで、と。消えないでくれ、と。

「シアオ……。私の最後のお願い、聞いて、くれる、かな」

 シアオから肯定の言葉はない。しかしスウィートは勝手に自分の願いを言っていった。
 最後だから。これで、最後だから。どうか。
 そんな思いで、シアオに自信の願いを告げる。

「ここであったことを、皆に話して……。こんなことはもう、おこしちゃいけない。そのためにも、今回あったことをすべて話して」

「っ……やだよっ……! 一緒に帰ろうよ!! それで一緒に皆に話せばいいじゃないか!!」

「シアオ、貴方にしかできない。お願いね」

 するとスウィートを包む光がどんどん強くなっていく。
 それを見ながらスウィートは何とか伝えたいことをシアオに伝える。

「私ね……私、シアオとフォルテとアルと、一緒にギルドで修行できてよかった。一緒に、冒険できてよかった……。出会えて、ホントに、よかった……!!」

 シアオがはっとして顔をあげる。
 スウィートは笑顔だが、目から涙を流していた。スウィートは震えそうになる声を何とか震えないようにおさえながら話しかける。

「ありがとうっ……。本当にっ……ほんとに、ありがとうっ……!」

 スウィートは涙を流しながら必死にお礼を言う。

 伝えたいのに。もっと沢山 伝えたいのに。もっともっと、いっぱい。

 けれど無情にも光は強さを増してスウィートの体を包んでいく。
 もう、時間がないと、はっきりと告げていた。

 涙で濡れた顔で、スウィートは、とても綺麗な笑顔で、笑った。


「わたし、『シリウス』の皆のことが



                          大好き」





 フィーネとシャオの腕輪が、カシャンと音をたてて、落ちた。


 スウィートのピンク色のスカーフが、ばさっと音をたてて、空を舞った。



「スウィー、ト……?」


 残された者が縋るように伸ばした手は、何も掴めず、空をきった。

アクア ( 2013/07/31(水) 22:23 )