102話 どうしているかな
「あ、止まった」
虹の石舟≠ェ止まり、シアオがそーっとおり、地面に足をつける。スウィートも足元に注意しながらおりた。
前を見ると道が続いている。スウィートとシアオは顔を見合わせて互いに頷き、そして進んでく。
「……結構、あるね」
「うん。不思議なところだね。岩が浮いてるし……これは何でなんだろう。“時限の塔”の影響なのかな?」
スウィートとシアオが歩いている道は、おそらく“時限の塔”に続いている。その道のまわりにはシアオが言ったとおり浮いたままの岩が多数あり、未来の光景を思い出させた。
その光景を振り払うように首を小さく横にふり、スウィートは進んでいく。
「スウィート、あとちょっとだ。“時限の塔”が近づいてきてる。頑張ろう」
「うん」
そのまま一本道をスウィートとシアオを歩いていく。
するとシアオが不意に止まり、スウィートもつられるように止まった。
「あっ、あれ……。あそこ……」
シアオが指さした先には、“時限の塔”。その天辺は真っ赤な何かが渦巻いている。遠くで見ているより、ずっと禍々しいものだ。
それを見た瞬間、2匹は“時限の塔”の方へ走っていった。
“時限の塔”の入口まで来ると、スウィートとシアオは止まった。
入口の縁は水色で、まわりには赤い線が入っている。“時限の塔”のほとんどはディアルガと同じ、濃い青色だった。
「ここが、“時限の塔”……」
スウィートは、静かに息をのむ。
(ようやく、ここまできた。皆は、私に託した。私は使命を果たさなければならない。何があっても)
静かに息をはいて、スウィートはシアオの方を向いた。シアオはふぅーっと息をはき、そしてスウィートを見た。
そしてスウィートに笑いかけた。
「頑張ろうね、スウィート。あと一歩だから」
「う、きゃ!?」
「うわ!?」
シアオの言葉にスウィートが頷こうとした瞬間、地面が大きく揺れる。いきなりのことで2匹は目を白黒させながら地響きがおさまるのを待った。
地響きがおさまるとシアオが“時限の塔”を見上げながら首を傾げる。
「な、何だったんだろ。今の地響き……」
「そういえば……シルドが“時限の塔”が壊れ始めてるって言ってたよね。もしかしたら“時限の塔”がどんどん壊れているのを示す地響きかもしれない……。シアオ、急ごう」
「うん!」
スウィートとシアオは躊躇いもなく“時限の塔”に入っていった。
1つの目的を達成するために。それぞれの思いのために。
(これが、最後の冒険……)
スウィートはそんな思いを、抱えながら。
―――ギルド―――
「………………。」
「………………。」
「センパーイ。体に障りますよー?」
ヒョコッと目の前に顔をだしてきたメフィの顔をフォルテははいはい、と言って押しのける。
むすっとした表情でメフィは2匹を見てから、自分の相棒の方に目線をむけた。
「凛音、先輩の反応がない。ていうか冷たい!!」
「……はぁ。フォルテ先輩、アルナイル先輩、心配なのは分かりますけど、貴方方の傷は癒えていないのですから、せめてギルド内で安静にしていてもらえませんか。迷惑です」
はっきりと先輩にむかって「迷惑」と言った凛音。しかしアルとフォルテは聞いていないのか無反応だ。
するとメフィがそぉっと凛音の様子を伺った。すぐに頭を叩かれた。
今の場所はギルドの出入り口。2匹はギルドに体を少し預けて座っていた。
クヴィたちと戦った後に残っている傷は、まだ痛むはずだ。しかし2匹は頑としてそこから動こうとしなかった。
凛音はもう一度大きな溜息をつく。
「あのですね。スウィート先輩とシアオ先輩が心も体も疲れきって帰ってくるのに、貴方方はさらにお二方の心の負担を増やすつもりですか」
凛音がそう言うとアルが苦い顔をする。正論で何も言えないといったところだろう。
するとフォルテが空を見上げながら声をあげた。
「スウィートとシオアは、今どうしてんのかしらねー……」
はーっ、と息をつく。それには誰も言葉を返さない。
そう思われたが、意外なところから言葉が返ってきた。
「まだ未来は変えれていないでしょうね」
ビクッと凛音以外が驚いて体を揺らす。アルだけが傷に響いたみたいで小さく悲鳴をあげた。
フォルテに言葉を返した張本人は、ギルドの出入り口から出てきた。
「……あ、フィーネさん。シャオさん。傷は?」
「こちらのお二方よりは癒えてるよ。そんなに酷くなかったしね」
シャオが苦笑しながらメフィの質問に答える。
アルは恨めしげに2匹を見た。傷がよほど痛かったのか顔を顰めている。
「急に出てこないで下さい……」
「あら、でも凛音ちゃんは気付いていたみたいよ?」
しれっとしているフィーネにアルは何も言えない。凛音もしれっとしているが。言う気はさらさらなかったのだろう。
するとフォルテが首を傾げた。
「何でそんなことわかんの?」
「……何となく、かしら。まぁ未来が変わったら何かしら合図があると思うわよ? 変えられなかったら時が止まるっていうとても分かりやすい合図があるけど」
「このまま時間がたっても時が止まらなかったら、スウィートちゃん達が成功したってことだろうね」
「ふーん……。それまで、こうやってモヤモヤしながら待たなきゃいけないわけかー……」
はぁ、というフォルテに似合わない溜息は、静かに消えた。
―――時限の塔―――
「今頃フォルテとかアルとか何やってるかなー」
ダンジョンに入りポリゴンを倒した後、シアオがいきなりそう言った。
スウィートはダンジョンに落ちていた道具を拾い、それからシアオとともにダンジョンを進む。
「……多分、ギルドで私たちの帰りを待ってくれてると思う」
それを、私は無駄にしてしまうのだけれど。スウィートは心の中で呟く。
スウィートがちらっとシアオを見ると、露骨に顔を顰めていた。
「それって絶対に僕が帰ったらフォルテに殴られるパターンだよね。絶対そうだよね。「よくも待たせやがって」みたいな感じで殴られるよね!?」
「か、考えすぎじゃないかな……」
流石にそれはない。……と思いたい。スウィートは断言できなかった。
おそらく疲れきった姿を見ようが、ボロボロな姿を見ようが、やるときはやる。自分の気分次第で。
だからこそスウィートは何ともいえない。
「……帰りたくなくなってきた」
「そ、そんなこといっちゃ駄目だよ。ほ、ほら。フォルテだって場の空気は読むよ。それに疲れきってる相手にそんなことはしないって」
「……どうかなぁ」
「そ、それに……ア、アルが止めてくれるよ!」
きっと、と最後にスウィートは小さな声でいったが、シアオにも聞こえたらしい。「きっとかぁ……」なんて遠い目をしているシアオになんと声をかければよいものか。
スウィートはでも、と言った。
「2匹とも、喜んで、笑ってくれると思うな。星の停止≠止めて、それで帰ったら、みんな喜んでくれるよ」
「……それも、そうだね」
それでもフォルテは怖いや。
そんなシアオの言葉に、スウィートは笑った。