100話 相棒
「このくぼみに遺跡の欠片を入れれば虹の石舟≠ヘ起動するっていってたけど……」
シアオは遺跡の欠片を取り出す。確かにくぼみには丁度入るくらいの大きさでだった。
そしてうん、と言ってからシアオがくぼみに遺跡の欠片を入れる。
すると虹の石舟≠ノ描かれている模様が何かに共鳴するように光りだした。シアオは驚きの声をあげた。
「わっ!? 動いた、動いたよ!?」
ちょっと情けなかったりもした。
いきなり神殿の頂上が光り始め、スウィートもシルドもそちらに目線がいく。ゼクトも目線だけはそちらに寄越した。
スウィートが首を傾げていると、少し興奮したようにシルドがスウィートの隣に来た。
「やったな、シアオ! これは……虹の石舟≠ェ動き始めた音に違いない!」
「動き出したってことは……これで、“時限の塔”に……!?」
「あぁ、ようやくいける!! あと少しだ!」
シルドの嬉嬉した様子に、スウィートは顔を綻ばせた。これで、ようやく。
そんな様子の2匹は気付かなかったのだ。ゼクトが体に力をいれ、起き上がろうとしていることを。
「ぐおぉぉぉぉぉぉッ!!」
「きゃっ!?」
「ぐっ!?」
いきなり仕掛けられた攻撃に成す術もなく、スウィートが吹き飛ばされ倒れる。ゼクトが起き上がりスウィートを攻撃したのだ。そのときにシルドも同時に少し吹き飛ばされた。
ゼクトはなにやらブツブツ言い、スウィートの方へ近づいてくる。スウィートは何とか起き上がろうとするも、ダメージが響いているのかなかなか起き上がれない。
「っく……!」
「歴史は……歴史は変えさせん!!」
もう一度、とどめの攻撃をスウィートにさそうとしたときだった。
「うぐっ!!」
スウィートは痛みに耐えようと目を閉じたが、痛みがしないことを疑問に思い目を開くと、目を見開いた。
さっきまで隣にいた人物が、目の前で倒れていたのだ。
「ぐっ……!」
「シ、ルド……!!」
シルドだった。先ほどの攻撃を庇ったのだ。ボロボロな体をシルドは何とか起き上がらせようとする。
それを見て、ゼクトは愉快そうに笑った。
「フッ、フハハハ! スウィートを庇ったか、シルド! しかし今の攻撃でだいぶダメージを負ったはずだ! 丁度いい、1番 厄介なお前から始末してやろう!」
その言葉の途中、シルドはギュッと拳を握った。
「う……うおぉぉぉぉぉおぉッ!!」
「うぐ!? な、何をする!?」
ゼクトの言葉が終わると同時に、シルドは起き上がりゼクトを押さえつけた。そして時空ホール≠フ少し前まで引きずっていく。
スウィートは未だ呆然としていて、何がおこったのか理解できていない。
だが、次の言葉で意識を戻させることになった。
「ぐっ……ゼクト! お前はこのまま……俺と未来に帰るんだよ!!」
「なっ、」
「シルド!?」
どうして、何で、やっとここまできたのに。そんな思いがスウィートの心の中で渦巻く。
しかしそんなスウィートの気持ちを知らんといったように、シルドはスウィートの名を呼んだ。
「スウィート! 後は頼んだぞ!」
「っ! あ……あ、れは……」
シルドが頼んだと言ったとともに落としたのは、5つの時の歯車≠セった。
そして丁度、シアオが戻ってきた。
「シルド、スウィート! 虹の石舟≠ェ……って、ど、どうしたの!? どうなってるの、これ!?」
半ばパニック状態でシアオが問いかける。スウィートもパニックになっていて質問に答えられる状態ではない。
シルドはシアオに目線を移し、シアオに聞こえるくらいの音量で叫んだ。
「シアオ!! ここでお別れだ! 俺はゼクトを道連れに……未来へ帰る!」
「え……え!? 何、で……どうして……!?」
「もう此処には二度と戻ってこれないだろう。スウィートのことを……頼んだぞ!」
シアオの質問には答えない。もう時間がないのだ。虹の石舟≠ェ動くまで、シルドがゼクトを押さえつけておくまで。
思いきり動揺し、でもシアオは言葉は理解しているらしく、シルドの言葉に首を横にふった。
「そ、そんな……。それに、む、無理だよ! 僕はシルドの代わりなんて……僕にはできない!!」
「やるんだ。お前ならできる。お前らは、最高のコンビだ。そして、最高のチームだ」
シアオが目に涙をためる。嫌だ、と小さく首を横にふる。
一方、スウィートは何かを言おうと口を開いては口を閉じる行動を繰り返していた。
「ぐっ! 放せ!放すんだ!」
「もう少しだ。静かにしてろ!」
未だ抵抗を続けるゼクトをおさえつけるシルドの顔は決して楽なものではない。
そしてシルドは再び、スウィートに目を向けた。
「じゃあな、スウィート。俺はお前に会えて幸せだった。別れは辛いが……後は頼んだぞ」
「…………!!」
スウィートが今にも泣きそうな顔をする。そしてシルドはゼクトに視線をもどした。
「待たせたな! ゼクト!!」
そう言ってどんどん時空ホール≠ニの距離を詰めていく。どんどん、別れが近づいていく。
ゼクトの体が少し時空ホール≠ノ入ったところで
「スウィート」
静かに、シルドが相棒の名を呼んだ。
そのとき振り返った顔はスウィートと同じような表情をして
「悪いな。ありがとう」
フッ、と優しげな顔で笑った。
「シ、ルド!!」
やっとスウィートが言葉を発し、手を伸ばしたところで、シルドも、ゼクトも、時空ホール≠熄チえ去った。
それを見て、スウィートはぺたりと座り込む。
「シルド……?」
呆然と、スウィートが相棒の名前を呼ぶ。しかし、返事はもう返ってこない。
スウィートが呆然とする中、シアオは動き出した。そして座り込んでいるスウィートに話しかける。
「…………スウィート……。……ここで挫けちゃ、駄目だ。僕らは、シルドに、託されたんだ。だから……だから時の歯車≠集めよう」
「…………。」
「シルドの、意思を継ぐんだ。こんなところで、立ち止まっちゃ駄目だ」
〈スウィート! 後は頼んだぞ!〉
〈じゃあな、スウィート。俺はお前に会えて幸せだった〉
〈悪いな。ありがとう〉
ぽろりと、スウィートの目から涙が落ちた。
シアオはそれを見てから、時の歯車≠拾い出す。
(違う……。シルドが、望んでることは、泣くこと、じゃない。しっかり、しなきゃ……しっかり、私が、シルドの分まで)
スウィートが溢れてくる涙を必死に拭う。
そんなスウィートを横目でシアオは見て、また時の歯車≠拾い出した。
「未来で待っててね、シルド。必ず星の停止≠食い止めて見せる。それで、未来を明るい未来にかえるから。シルドが幸せに暮らせる世界に!」
ぴくりとスウィートが反応したのにシアオは気付かない。スウィートは涙を拭いながら、俯く。
(でも、それは実現できない……。シルドは、消えて、しまうから……私、も)
「……シルドがさ、スウィートに……別れるのが辛いって言ってた……。僕、その気持ちが痛いほどわかる……。だって、シルドはずっとスウィートとコンビを組んでたんだ。……シルドがスウィートと別れるのは、凄く、辛かったんだと思う」
(……それも、あるかもしれない。けど、あれは……)
スウィートは少し顔をあげ、最後の1個を拾い上げようとしているシアオを見る。その顔は、少し悲しそうに歪んでいた。
(あの言葉は……私と、シアオ。そして、フォルテとアル……。私たちのことを案じて、言ったんだ)
シアオが最後の1個を拾った。そしてスウィートの方に駆け寄り、片手をさし伸べた。
それをぼんやりとスウィートは見て、シアオの顔を見た。
「スウィート。シルドのためにも、いこう。“時限の塔”へ」
少しの間のあと、スウィートはこくりと頷き、シアオの手をとった。