97話 虹の石舟
「だいぶ奥まで来たか……」
シルドがぽつりと呟く。
一度ダンジョンを抜け、そしてまたダンジョンに入った。スウィートたちは今いる場所を奥地だと考えながら進んでいる。
そしてその奥地もだいぶ進み、辺りを見渡しながら歩いていた。
「そうだね……。あ、しんくうぎり」
「はどうだん!」
遠くにいたライボルトを2匹で仕留める。そんな2匹を横目でみながらシルドは歩く。
“幻の大地”の奥へと進むほどシルドが感じている違和感。それがどうしても気になって、あまり気が抜けない。
「このまま無事に、時限の塔≠ノ行ければいいんだがな」
「でも……フィーネさんとシャオさんが言ってた。ゼクトは恐らく先回りしてるって。それは考えていたほうがいいと思う」
「え、スウィートいつそんなこと聞いてたの?」
「えっと……」
「そんなことはどうでもいいだろ。とりあえず気は抜くな。いつゼクトが出てくるのか分からん」
うん、と頷く2匹を見てからシルドは目線を前に向ける。
もう、残されてる時間はあと僅か。
―――古代の遺跡―――
ダンジョンを抜けて少し歩く。すると、何かが書かれた岩が見え、シアオはすぐに駆け寄っていった。
「わぁ……。何か、ポケモンが描かれてる……」
1つ目はピンク色のポケモン、そして少し進むと次はグラードンと青いポケモンが向き合う形で描かれている。
スウィートもシルドもそれを見ながらゆっくりと進んでいく。
「凄い……。」
次はディアルガともう1匹のポケモンが反対を向いて描かれていた。
スウィートは岩壁の壁画を見ながら意味を考える。しかし一向に分からない。シルドは壁画を見ながら関心したように呟く。
「ラウルの言ってた通り、此処は古代の遺跡なんだな……。この先に、虹の石舟があるのか」
「うん そうだよ! はやく奥に行こう!」
シアオは駆け足で進んでいく。
警戒しろと言っているのに、といいながら追いかけるシルドを見て、スウィートは笑みをこぼした。
少し進むと遺跡の中から外に出た。
真っ直ぐいった所には階段があり、その先は見上げても見えない。スウィートは少し辺りを見渡してから首を傾げた。
「遺跡の神殿か何か、かな……?」
「俺もわからん。とりあえず階段を上るぞ。もしかしたら手がかりがあるかもしれない」
うん、と頷いて3匹は階段を上る。それほど段数はなかったようで、頂上にはすぐ着いた。
床には模様がかかれてあり、そして真ん中に小さなくぼみがある。3匹はそのくぼみに近づき、そしてそれをまじまじと見た。
「何だろ、このくぼみ……」
「さぁな。ただ、何かに関係しているのは確かだろう」
頭をひねりながら2匹は考えるが、どうしようもないらしい。
そんな中、スウィートは辺りを見渡し、そして何かを発見してからソレに近づいてく。そしてソレをまじまじと見た。
それに気付いたシルドがスウィートに近づき、シアオも後から気付いて追いかける。
「スウィート、どうかしたか?」
「これ……。何かの文字みたい。もしかしたらこれがヒントかもって」
スウィートが指差したのは他のところとは色の違う石盤。そこにはスウィートのいうとおり文字のようなものが書いてあった。しかしそれはポケモンの文字でなければ、人間の文字でもなかった。
なんだろう、とスウィートとシアオが見ていると、シルドが口を開いた。
「これは……アンノーン文字。古代の文字だ。悪い、ちょっといいか」
シルドが真ん中に来れるよう、スウィートは場所を譲る。
その様子を不思議そうにシアオは見て、首を傾げた。そして何か閃いた、といったような顔をしてからシルドに問いかけた。
「まさか、シルドこれ読めるの?」
「あぁ。このために色々 調べてきたからな。ちょっと待ってろ」
まるで小さな好奇心旺盛な弟と、冷静で面倒見のいい兄の図だな、なんてスウィートは思ってしまった。その思考は全く間違っていない。
しばらく無言が続いた後、シルドが「分かった」といった瞬間に輝いたシアオの顔をスウィートは忘れないだろう。
「どうやら……ここ自体が虹の石舟になっているらしい」
「え……ここ自体!?」
「それってどういう……」
するとシルドがまたくぼみに向かって歩いていくので、2匹は慌ててついていく。やはりくぼみは何かに関係しているらしい。
シルドはくぼみを指さし、そしてシアオを見た。
「ここだ。シアオ、此処に遺跡の欠片をはめ込んでくれ」
「遺跡の欠片を?」
「そうだ。そうすれば虹の石舟が起動する。そしてそれに乗って“時限の塔”にいける……そう石盤に書かれていた」
ぱぁ、とスウィートとシアオは表情を明るくする。これでやっと目的地につけるのだと。
今にもハイタッチしそうな2匹だったが、今はそんなことをしている場合ではないと気付いた後の行動は早かった。シアオはくぼみに近づく。
その、次の瞬間だった。
「そこまでだ!!」
「「「!?」」」
いきなり第三者の声が聞こえ、驚いた3匹の動きが止まる。
すると右から、左から、後ろから、全ての階段から2匹ずつのヤミラミが上がってきた。
「「「「「「ウイィィィーーーーーッ!!」」」」」」
「ヤ、ヤミラミ……! ってことは……」
「……やられた」
スウィートは苦々しい顔をする。ヤミラミ、そしてさっきの聞き覚えのある声。それで全てを察したのだ。シルドも、そしてシアオも苦い顔をしている。
完全にヤミラミに囲まれた3匹は互いに背中をあわせてヤミラミ達を見る。
すると右の階段からゼクトがあがってきた。
「フフッ、残念だったな。正直 お前らが此処まで来るとは……フィネスト達は負けたか」
スウィートはキッとゼクトを睨みつける。あれほど傷つけていおいて、なんて考えながらゼクトを睨みつけるのはやめない。
シアオは若干だが戸惑いながらゼクトに問うた。
「……どうやって此処に」
「簡単なことだ。お前らは絶対に此処に来る。探すのは手間がかかるのでな。ディアルガ様に此処へ直接とばしてもらったのだ」
チッ、と忌々しげにシルドは舌打ちした。やはり先回りしていたのか、と。頭はとてもキれる奴だとはシルドも承知の上だが、今それはとても厄介なだけだった。
「フフフ……悪いがまた未来まで来てもらうぞ」
ゼクトは不敵な笑みを浮かべ、そしてスウィート達を囲んでいる6体のヤミラミ達を見た。
「ヤミラミたちよ、コイツらを時空ホール≠ワで連れていけ!!」
「「「「「「ウイィィィィィーーーーッ!!」」」」」」
囲まれては成す術もなく、スウィートたちは連行される。
来た道とは逆の階段を下りると、そこには真っ黒な時空ホール≠ェあった。全てはゼクトの計画通りか、とスウィートは目を細めた。
「ヤミラミたちよ、コイツらを時空ホール≠ヨ放り込むのだ!」
「「「「「「ウイィィィィーーーーッ!!」」」」」」
ゼクトの言葉を合図にヤミラミ達が近づいてきた瞬間、スウィート達3匹は互いに目配せをし、そして
「はっ!」
「ていっ!!」
「おらっ!!」
「「「「ウイィィィッ!?」」」」」
ヤミラミ達に攻撃した。驚いたヤミラミ達は諸に喰らい、後ろに下がる。スウィート達は互いに背中をあわせながら、周りを見る。
その様子を見て、ゼクトはおかしそうに、愉快そうに笑った。
「この期に及んでまだ抵抗するとはな」
「当たり前だ。ようやくここまで来たんだ。諦めてたまるか」
シルドはゼクトを睨みながら、戦闘態勢に入る。シアオも一度 深呼吸をしてから、戦闘態勢に入った。
ゼクトはそれを見て、時空ホール≠フ前まで行き、シルド達と真っ直ぐ向き合う位置にたった。
「ならば仕方ない。この場でお前達を倒してから未来に運んでも同じこと。この圧倒的に不利な状況の中、お前らがどのくらい抵抗できるのか……見せてもらおう」
「《……あたしは、アンタを許さない。今回はフル参戦》」
いきなりの声に驚き、全員の目線がその声の主に注がれる。
その声の主は瞳の色が水色になり、真っ直ぐ、睨みつけるようにゼクトを見ていた。
「《アンタはあたしからたくさん奪った。レンス兄からも。……お姉ちゃんからも。スウィートからも》」
スウィートじゃない。今 喋っているのは、シクルだった。
目を伏せて喋っていたシクルが目を開く。その目は氷のように冷たく、ゼクトを捉えていた。
「《だから、あたしはアンタを許さない。ヴァーミリオンの名にかけて、全員で、アンタを倒す!》」
その言葉を合図に、戦闘は開始された。