プロローグ
「うっ!?」
ピシャンッと鋭い音がし、黒い光が放たれる。
その音とともに男と思われる者が、痛みに耐えるような声をあげた。
「おい! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……!」
先ほどの男が声を張り上げ、もう1人の安否を気遣った。
そのもう1人、まだ幼い少女のような声の主は、弱弱しくだが返事をした。余裕はあまりないようだ。
2人とも手を握っているが、今にも離れそうで危なかった。
「あと……あと少し……!」
少女がそう呟いたところで、ほんの僅かな光が見えてきた。
余裕がなく、何とか黒い光の攻撃に耐えている2人にとって、それは希望の光にさえ見えた。
そして2人は、その光を見た瞬時に悟った。
目的地までもうそこだ、と。
希望、それが見えてきて安心していた。もう何事もなく大丈夫だと。
2人の気が少し、ほんの僅か緩んだすぐだった。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
ピシャンッという鋭い音とともに、あの黒い光が再び2人を襲う。
咄嗟に少女は男の方を見た。先程の光を喰らったようで、苦痛で表情を歪めている。
その顔を見た瞬間、無意識に少女は握っていないほうの手を胸の前で握り、そして必死に願った。
(早く……!)
少女は少しでもいいから早く、と懸命に願った。必死に、ギュッと繋いでいる手を握って。
そして顔を男の方に向け、声をかけようとした。そして目をむけた瞬間、少女の頭は真っ白になった。
少女の目に入った光景は、先ほどから自分を苦しめている黒い光が、男の後ろにある光景。黒い光は間違いなく男を狙っている。少女はそれをすぐに悟った。
「危ないっ!! 避けて!!」
無意識に、少女は男と繋いでいた手を離し、勢いよく男を突き飛ばした。そして、またしても鋭い音がし、少女は男に迫っていた黒い光を喰らった。
体に走る激痛に耐えながらも、何とか意識を保とうとする。
「――――!!」
男が少女に向かって何かを叫んでいる。だが激痛のせいで何を言っているかが分からない。
男の顔を見ようと、目を開いてみようとするが――意識が保てず、少女の意識は途切れた。
その時、一瞬だけ少女の首もとの何かが眩く光った。
そして、光が二人を包む。
ザーン、と静かな波の音。周りにも何もないので波の音しか聞こえない。誰もいないのでとても静かな海だ。
その海の海岸に、1匹のポケモンが倒れていた。
「う……」
(ここは……何処……?)
そのポケモンは場所を確かめるために目を開こうとする。
だが自分の意思とは反対に、瞼は重かった。なかなか持ち上がってはくれない。
(意識が…)
必死に朦朧としている意識を何とかはっきりさせようとする。しかし体は重く、頭は全く働かない。
そして、そのポケモンは意識を手放した。