第16話 サウスマスター?アルファちゃん
パレットの夜は何処のエリアでも大抵静かだ。夜に活動するポケモン間で、『他のポケモンの眠りを邪魔してはならない』といった暗黙の了解が大昔から根付いていたためである。しかし、昼間に活動するポケモンの多くは、そんな当たり前のようなルールが、夜のパレットで重要視されているなんて知らないようだ。そのためか、昼間と夜間との生活音量の差がかなり激しい。
そんなパレットの夜でも騒音が響く時がたまにある。それは大抵何かしらの事件が起こった時だ。今宵もイーストエリアで若い店主カクレオンの叫び声が上がった。
「ど、泥棒だー! みんなー捕まえてくれ〜!」
「ふあぁなんだなんだぁ……?」
カクレオンの指差した先に怪しい2匹のポケモンの影が見えた。
「いたぞ、あそこだ!! おい待てぇ〜!」
叫び声を聞きつけたポケモン達が眠たそうに2つの影を追いかける。しかし逃げ足が速く、すぐさま見失ってしまった。
「くそぉ早すぎる! 何者なんだあいつら!」
「まだ近くにいるはずだ! 追えーーー!!」
店主カクレオン率いるポケモン達は、見えなくなったポケモンの影を必死に追いかけていった。
……一方、追われている2匹のポケモンは、既にカクレオン達から遠く離れた高台におり、息を整えていた。
「……チィ、まだいける?」
「ハァ、何とか……ね! しっかし盗る所を見られるなんて! 泥棒のウデ、落ちたんじゃないの〜? シャイン?」
「まさか……あの店主を少しだけ舐めてた。それだけ」
『チィ』と呼ばれたのは、ひんやり甘くて美味しそうな見た目をしているバニラアイス……ではなく、しんせつポケモンのバニプッチ。『シャイン』と呼ばれた方はキツネポケモンのテールナーだ。薄黄色の体毛を持つ二足歩行の狐のような見た目をしている。
「ほんとにぃ? この後ジジィの前でもおんなじ事言えるー?」
「……しょうがないでしょ。そのジジィがあたしたちに降格処分を下したんだからさ。元々、泥棒を指示する側のポケモンが久々に現場に行ったらこうなることくらい、いくらジジィでも分かると思うよ」
そうぼやきながら、シャインは尻尾に刺さってある枝をサッと引き抜き、枝の先端に炎を着火させる。その灯りで、今回盗んだ道具の表面を確認し始めた。チィは熱気を浴びないようにするためか、炎から若干離れた場所へと移動する。
「……盗品に傷無し。これだけでも十分じゃない? 少なくともストだったら、カマが当たってどっかやらかしてた」
「まぁ? あのストライクよりかは優秀でしょ〜! しかもアイツ捕まったし!」
「そのせいで指示出したあたし達も処分くらったんだけど?……ったくふざけやがって」
「まぁまぁ、見習いの探検家に負けるなんてフツー思わないじゃん! ねぇ?」
チィがそう言った時、既にシャインは枝を尻尾に戻し、再び走り始めていた。振り向きもせず真っ直ぐ遠ざかっていく彼女を、チィは慌てて追いかけていくのであった……。
所変わって……ついでに時間帯も変わって、翌日のシキサイ学園。
本日の授業を全て受け終えたアルファは、昨日と同様、探検家見習いとして、仕事の依頼を受けに掲示板まで向かった。少し離れた所から、チェリムがポジフォルム特有のニコニコ笑顔で手招きしているのが見える。どうやら今日も彼女が選んだ依頼のお仕事のようだ。
「まずは昨日のお仕事、大変良く出来ましたね。ボルドさんやカクレオンさんからもお褒めの言葉を頂いておりますわ」
「あ、ありがとうございます」
ミルフィーユから開口一番に褒められて、アルファは照れくさそうに頬を染める。実際、攻撃してくるポケモンすらいない、たった全3階層の不思議のダンジョンへ行き、箱に入ったリンゴをお店に届けるといった簡単な依頼ではあった。それでも、ボルドが見守ってくれていたとはいえ、ほぼ自力で仕事を成功させられたのだ。褒められて嬉しいことに難易度なんて関係ない。アルファは掲示板の前にいるボルドに対し、心の中でお礼を言った。
「そこで、今回アルファさんに受けて頂く依頼は、昨日のよりも少しだけ難易度が高いものを選ばせて頂きました。……ただ、単独で受けて頂くにはまだ心配なので、今回も2匹で行ってきて下さいね」
そう言いながら渡された依頼書には次のようなことが書かれてあった。
『今回は、ノースエリアからお引越しを希望されているポケモン2匹にサウスエリアの街案内をお願いしますわ。場所が良ければ、そのまま新しいお引越し先として選んで頂けるそうなので、なるべくぴったりな場所を案内して下さいね。依頼主の方が仰るには、住居としての条件は「ダンジョン化しにくい空気のきれいな場所」だそうですわ。今回は下見が出来れば良いとのこと。なので、必ず見つけだす必要はありません。ですから、あまり遅くなり過ぎようにお願いしますわ。最後に必ず、夕方までには報告書を提出して下さいね。 ミルフィーユより』
「___ふぅーん、つまり新居探しのお手伝いってことね! 楽しそう!」
「楽しそう、じゃないよ……私達は探検家と救助隊員であって、不動産屋さんじゃないんだよ?」
アルファに代わって依頼書を読み上げたクルミは、大きな目をキラキラ輝かせわくわくしている。反対に、アルファは耳も尻尾もだらんと垂らし、心底がっかりした。今日は昨日よりも難易度が高いと聞いて、未知のダンジョンの探索とまではいかなくとも、どこかしらダンジョンへ潜る依頼を期待してしまっていたからだ。確かに依頼の内容そのものの難易度は高くなってはいるが、アルファとしてはとても喜んで受けられない。昨日ボルドが言っていたような、学園長の肩たたきよりかはマシではあるのだが。
「もうアルファちゃんったら、せっかちなんだからー。こーゆー依頼がくるのってよくあることよ!」
「えぇ? そうかなぁ」
「ちゃんとやっていけば探検家らしい依頼だって来るようになるし、大丈夫よ! ほら、依頼主のポケモン待ってるし行こう?」
「う、うん……?」
クルミが考えているほどせっかちだとは、アルファ自身は思っていない。
身近なポケモン達に聞いてなお、分からないことが増えた上に、自分が元人間であることについては、今後隠して探らなくてはならなくなった。セントラルエリアで人間について悪く思うポケモンがいるのなら、ここから更に離れた場所に、記憶を失う前の自分の仲間がいるのかもしれない。そこには、次はいつ来てくれるかも分からない『さぁさん』だっているのかもしれない。そのために一刻も早く、ダンジョン慣れして遠くへ行けるようにしておけなければいけない……!
「もしもーし、アルファちゃん??」
「あっごめん……」
「んもぉ大丈夫? ホラ、依頼主さんよ! 挨拶しよ!」
クルミに呼ばれて我に返った。そう、今はがっかりしている場合じゃない。
アルファは、クルミが前足で指した先にいる見慣れない2匹のポケモンに視線を向ける。ミルフィーユ曰く、アルファの住むサウスエリアから遠く離れたノースエリアから来たポケモンだそうだ。そのためか、雰囲気が周辺のポケモンとはずいぶん違って見えた。
「えと……初めまして! ロコンのアルファといいます!」
「チコリータのクルミです! 本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくにゃ。俺ぴっぴはニャオニクスのバル、こっちは妹のドラムだ」
紺色の体毛を持つオスのニャオニクスが自己紹介をし、黄緑色のマフラーをした白いメスのニャオニクスが静かにペコリとお辞儀をした。……そう、今回の依頼主はバルとドラムなのだ。
4匹はシキサイ学園を出ると、運び屋や荷車を探した。パレットでは、体力の少ないポケモンや歩くのが遅いポケモンが長距離を移動する際、移動に特化した大きなポケモンに運んで貰ったり荷車に乗せて貰ったりすることが多い。重量制限があったり時間帯が不規則だったりと欠点はあるものの、便利でお金がかからないため、金欠にとっては特に有難いシステムだ。
ちょうどサウスエリアへ向かう荷車を見つけた4匹は順に飛び乗り、しばらくは荷車の上で雑談しながら暇を潰すことにした。
「へぇ〜2匹でパレット中の旅を! ダンジョンとか、潜ったりするんですか……?」
「もうアルファちゃんったらぁ、脱出することが出来ない時、ダンジョンの中まではそもそも立ち入り禁止なのよ。相手は一般ポケモンで、『あなぬけのたま』みたいな脱出アイテムを持ってるわけでもないでしょ? そーですよね?」
「えぇ……と、その『あなぬけのたま』にゃら常に用意してあるんだ」
「えぇ〜?! あれカクレオン商店には中々置いてないし、あっても高いのに?」
「ハハハ! 確かにそうだにゃ。前に救助隊の連中が捨てていったのを頂いたんだ。で、試しに入ったダンジョンでも拾ったりしているうちに溜まってーって、ここら辺はおまぴっぴらも同じじゃにゃいか?」
「確かにそうかも! ……でも、ダンジョンに挑めるってことは、すっごく強いんですよね??」
「まあにゃ〜……でも、流石に俺ぴっぴ1匹だけで行けるダンジョンには限りがあるにゃ」
「え? 1匹だけ?? いつもは2匹一緒じゃないんですか?」
アルファとクルミはこれまで話していたバルから、もう一匹の白きニャオニクス、ドラムの方へと視線を移す。彼女は出会ってからここまで、一度も声を発すること無くずっとバルの側にいるのだが。
「実はドラム……妹は病気がちで、特に肺が弱くてにゃ、ダンジョンはとても危険で空気が悪いし、一緒でも行かせたくにゃいんだよ」
「 (そっか。それで空気のいい所が条件に……!) 」
「えぇーかわいそう! キツくなったら、いつでも言ってください!」
憐れんだクルミがドラムの側に寄る。心配して欲しくないからか、ドラムは首を横に振り、優しく笑って見せた。
そんな2匹の様子を見ているうち、アルファはあることに気付いた。
「……もしかしてそのマフラー、マスクの代わりだったりしませんか?」
「あぁ、その通り! これもダンジョンで、たまたまいた行商ポケモンから買い取ったものでにゃ。マフラーに触れた部分の空気から毒素を吸収、分解して、綺麗にすることが出来る優れものにゃんだぜ!」
「ふぅん……? ええっと、ただのマフラーじゃなかったんですね!」
「…………え?! 待ってそれって、シ……すっごいレア物じゃ……?」
バルにドヤ顔で紹介された時の反応が、あまりよく分かってない様子のクルミと何か言いかけたアルファできれいに分かれた。バルはアルファの方を見て「ほう」と目を光らせる。
「ロコンの方の言う通り。どういう素材で作られているのかすら分かってにゃい幻の品にゃんだってさ! そういや、世界に一つだけしかにゃいって言われたにゃあ」
「えぇ〜!? じゃあほんとにお宝じゃない! すごいよアルファちゃん! 正真正銘のお金もちよ!!」
「う、うん……」
予測が当たって嬉しい、だがどこか引っかかる。そんなアルファの心境は直後のクルミの発言で上書きされた。
「あ! それなら気をつけて下さい! 昨日の夜、あたしの家の近くで泥棒が出たみたいなんですよ!」
「泥棒?!」
「えっと、クルミちゃん家って確かイーストエリアだったよね?」
「そうよ! 現場はイーストのカクレオン商店! サウスからは結構離れているから大丈夫だとは思うんですけど、念のため注意してて下さい!」
「ありがとにゃ。まぁでもそこは、依頼書に書いた通りの場所であれば問題にゃいと思うぜ」
クルミによる、まるで探偵モノの作品に影響を受けたかのようなノリノリの注意喚起に、バルはあっさりとした返事をする。
期待した反応とは若干違ったのか、クルミは一瞬寂しそうな表情を見せたが、すぐに依頼書を開いて該当箇所をバルとアルファに見せた。
「えっと、ここの『ダンジョン化しにくい』って部分ですよね?」
「あ、あのー内容聞いた時から気になっていたんですが……ダンジョン化って、なんですか…………?」
「え? アルファちゃん知らない?? ダンジョン化ってね、その名の通り、一部の地域が不思議のダンジョンに変化することで、大抵おっっっきな事件が起こった場所とか、悪いポケモン達が多く住んでる地域に発生しやすいんだって」
「へぇー、初めて聞いた……かも」
「こにゃいだセントラルに初めて来た時、ノースと比べられにゃいくらい、空気が綺麗だったんだ。それで、セントラルよりも更に向こう側の、サウスエリアを引越し先に決めたんだ。」
「そうだったんですか……。なるほど。兎に角、なるべく空気が綺麗で治安の良い場所を探せばいいってことですね……」
ようやくどういった場所を選べば良いか分かってきた所でサウスエリアに到着した。
4匹は荷台から飛び降り、辺りを見渡す。穏やかな風の心地よい、いつもの平和なサウスエリアだ。正直どこでもいい気がする。
「 (でも、最近陽だまりの丘では事件が起こったばかりだし……ちゃんと真剣に選ばないと)」
アルファはストライクに襲われた時の事を思い返す。あの事件の後、サーと再会(?)したりシキサイ学園に編入したりと色々ありすぎて、随分前のことのように感じられる。しかし、実際は事件から半月程度しか経っていないのだ。
一見平和だからと言って適当に案内するわけにはいかない。そんなこんなで物件探しが始まった。
「悪いにゃ。実は事前情報も無しに飛び出しちまったから、どこが良いのか全然わかんにゃくてにゃ」
「いえいえそんな! ここにサウス出身のポケモンだっていますし、きっと見つかりますって! ……だよね、アルファちゃん?」
「えぇっ丸投げ??」
「ごめん! あたしもサウスは正直わかんなくて……。ねぇ、どっか良いとこない? アルファちゃんが思いつかないんなら〜……地道に探すしかないんだけど」
「うーん。陽だまりの丘付近以外の、なるべく空気が綺麗で安心安全な場所…………あっ! あそこなら……」
「え? ほんと?!」
「うん。環境的には大丈夫だと思う。ただ、森の中を少し歩くんですけど……」
「ダンジョン化してにゃいにゃら妹も行けるぜ。大丈夫だよにゃ、ドラム?」
ドラムははっきりと頷いた。それを合図に4匹はアルファを先頭に再出発した。
地図を見たところ、場所は『陽だまりの丘』より西側にある『朝露の森』の中にある集落とのこと。
森の中をしばらく進むと、開けた空間の真ん中に丸い小さな池、その周辺に白い花畑が広がっているのが見えた。
「着きました! この辺りはどうですか……?」
「わぁ〜すっごく綺麗! あたしが住みた〜い!!」
「クルミちゃんじゃなくて、バルさん達だってば……。ここは『幸福の里』といって、サウスの中で最も空気が綺麗な森で有名な集落なんだそうです。治安に関しては、正直私には分からないのですが……少なくとも、ここ一ヶ月の間、事件とかは特に聞いては無いんですよね……」
「にゃるほど。よし、ちょいと回ってみるか」
バルは明るくそう言うと、ドラムと共にさっそく周辺を見渡しながら歩き回り始めた。住民らしきポケモンと何やら会話をし、しばらくすると戻って来た。
「聞いてみた感じだと、特に怪しい発言は無かったにゃ。つーわけで俺ぴっぴ的には合格! ドラムはどう思う?」
「……多分、大丈夫」
「やったぁー!!」
「んじゃ、しばらくはここらで様子見か。助かったぜ! ありがとにゃ!」
こうして、ようやく彼らの新しい住居の候補がひとつ、決まった。
2匹はアルファとクルミに感謝と励ましの言葉を伝えると、早速準備に取り掛かりたいと、少し早いがその場で別れることになった。
「アルファちゃんすごいじゃない! ダンジョン化とか知らなかったのによく見つけられたね?」
「えへへ……私、クルミちゃん達と出会う前は、趣味でこの辺りを散歩していたんだ。まさかこんなことで役に立つとは思ってなかったよ」
帰り道、仕事を大成功で終えられたアルファとクルミは、お互いニッコニコの上機嫌であった。特にアルファは依頼を受け取った時の反応とは、まるで別のポケモンであるかのようだった。
「へぇ〜お散歩が趣味なのね! じゃあサウスエリアは任せてって感じ?」
「そこまで凄くないよ。まだダンジョンの中にはほとんど入ったことないし……」
「でもそれって住居領域ならいけるってことでしょ?? ……じゃなきゃこんなあっさり、新居候補なんて見つけられないわよ」
「そうかなぁ」
「そうよぉ」
褒められて照れくさそうに顔を赤らめるアルファに対し、クルミは更に追い打ちをかけるかのように頬擦りをした。
余計に恥ずかしくなったアルファがふと見上げると、青かったはずの空がもう茜色になっている。
「……いけない! 報告書、渡しに行かなきゃ!!」
「そっか、報告書があった! すっかり忘れてた〜」
「……確か夕方までにって、先生言ってた……よね?」
「うん……急ごう! ……あ、そうだ。待って、アルファちゃん!」
ミルフィーユ先生の待つセントラルエリアに向かって走り始めて間もなく、クルミがアルファを呼び止めた。アルファは慌てて前足にブレーキをかける。
「ど、どうしたの? 時間ないよ?」
「そうだけど、アルファちゃんお家この辺でしょ? わざわざ往復させるのも悪いし、書類はあたしが一匹で行って渡しとくね! 授業も終わったし、今日はもうこのまま帰っていいわよ?」
「ええ!? いいよそんな申し訳ないよ」
「いいのいいの! 今回はアルファちゃんのおかげで大成功だったんだから!」
「うーん、でもほんとに良いの?」
「大丈夫大丈夫!」
「わ、分かった。じゃあ……お願いします」
「任せといて! アルファちゃんのファインプレーはバッチリ伝えておくから! じゃあまた明日! 学校でね〜!」
「うん……ありがとう!!」
こうして、クルミとアルファも解散した。
クルミは走ってセントラル行きの荷車を見つけ、飛び乗る。そのまま空いている所に座り込み、「ふぅ」と安堵のため息を吐いた。
「よし。ギリギリだけど、何とか間に合いそう! ……あ、書類確認しなきゃ。」
バッグからバルとドラムのサイン付き報告書を取り出した。空欄や誤字脱字のチェックをする。特に問題は無さそうだ。……にもかかわらず、クルミはどこか不満気な表情を浮かべる。
「 (……どう足掻いても、ほとんどアルファちゃんのお手柄よね。……あたしなんかいなくても何とかなったんじゃないの?) 」
下を向いたまま、報告書をバッグへと仕舞う。クルミはそのままシキサイ学園へと戻って行った。
「 (ダメよ。このままじゃ…………永遠に追いつけない)」
……一方その頃アルファはというと、未だに『朝露の森』の入口付近にいた。
「 (クルミちゃん大丈夫かな……荷車には乗れたみたいだし、間に合うよね。私も帰らなきゃ。) 」
森から東側、『陽だまりの丘』のある方向へと身体を向ける。家は丘よりも更に向こう側にあるのだ。
「 (今日はどの道を通って帰ろうかな? 折角だし、久しぶりに丘経由で帰ってみようかな。ティアラちゃん元気かな。そういえばスティ……) ……ーっあ!」
思わず大きな声を漏らしてしまう。
アルファ自身のことや人間そのものについて、探検家になった理由、ハルタやボルドについてなど……いつの間にか溜め込んでいたことを不意に、それも一気に思い出したのだ。
「そうだった……言わなきゃ、あとついでに聞かなきゃ……! えっと学園……いや、もう時間的に帰ってるよね? ……だったら!!」
彼の住む『陽だまりの丘』へ行かなければ。
アルファはそう決心し、真っ直ぐ『陽だまりの丘』へと駆け出していった……!