第2章
第14話 ようこそ!シキサイ学園へ
 アルファは干し草のベッドの上に寝そべったまま、瞼を半分ほど開いた。

「あ、さ……?」

 柔らかな光が見える……大きな翼をはためかせる音が聞こえる……ペリッパー? そういえばパレットでは、みずどりポケモンのペリッパーが郵便配達してくれているってアヤメさんから聞いた。こんな朝早くからえらいなぁ……。
 ……そんなことを考えながらも、アルファは再び瞼を閉じる。いわゆる二度寝ってやつだ。
 こうして朝食の準備が整うまで、ぼんやりといつも通りの朝を迎えようとした………………が

「アルファー! おはよー! 朝だよ!」
「ぇえ……?」

 下の階からやけに明るい声が聞こえてきたかと思ったが刹那、アヤメがいつも以上に元気な様子で現れた。普段ならもう少し後になってから来るのだが、今朝は異様に早い。

「なに寝ぼけてんのー? ほら、早く起きて!」
「ほぇ?」
「忘れたの? 今日から学校! 初日から遅刻はイヤでしょー?」
「がっ、こぅ……ーあぁーっ!!」

 かくして、アルファのシキサイ学園登校初日の朝がはじまったのだった。





 アルファはシキサイ学園の学園長であるポケモン、マルノームを模した大きな建物の前で、息を整える。……どうやらギリギリではあったものの、何とか登校時間までにシキサイ学園に辿り着くことが出来たようだ。

「え……と、ここで待っていればよかったんだよね」

 アルファは辺りを見渡す。周囲には関係者らしきポケモンは1匹も見当たらない……そう感じた時、突如頭上から自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。声のした方角を向くと、マルノームのひげを模した細長い階段の上に、水色を基調としたニンフィア_____カヌレがいた。

「アルファさん、こっちよ。階段は上れるわよね?」
「え? あ、はい……」
「じゃあ、急いで上ってきて。朝礼はもう始まっているわ」
「は、はいっ!」

 アルファは言われた通り急いで階段を駆け上った。そしてカヌレの後を追い、建物の中に入っていく。
 シキサイ学園の中は階段だらけで、上に行けば行くほど室内は明るくなっていった。しばらくの間階段を登り続け、建物の最上階へ続く階段の下で、カヌレはようやく立ち止まった。

「何とか間に合ったみたいね。いい? ここから先は上にいるミルフィーユ先生の言う通りに従うこと。分かった?」
「は、はいっ」
「クラスの子達とも仲良くなさい……それじゃ、よろしく」

 カヌレはそう言ったあと、リボンのような長い触角を翻し去っていった。
 アルファは最後の階段を駆け上がる。いくつもの声が近づいてくる。そして、声の主の1匹であろうチェリムが視界に入った。

「(あのチェリムがミルフィーユ先生かな? 昨日会った時と姿が違うけど…… )」

 ここでの彼女は昨日のようなナスっぽい蕾姿ではなく満開の桜のような見た目をしている。声の雰囲気も昨日以上に明るくなっていた。
 アルファがそのまま彼女に見とれていると、それに気付いたのか向こうもこちらに視線を送ってきた。小さく会釈を交わしたあと、ミルフィーユは視線を中央に戻し、分かりやすく息を吸って……

「……はいっそれでは!」
「 「 お待ちかねの編入生の紹介と参りますわっ 」 」

 _____話題を切り替えた時だった。彼女の話すペースと全く同じ速さ、トーン、セリフを綺麗に被せた大音量少年ボイスが、部屋中にこだました。アルファは勿論、ミルフィーユも驚愕に満ちた表情になる。
 状況が気になったアルファは様子を伺おうと、階段の上から1段下の所に立って、その上の床に前足をかけるような姿勢をとってみた。そこには、ミルフィーユの他にハルタとボルド、そして水色の身体とオレンジのエラを持つぬまうおポケモン_____ミズゴロウ、黄緑色の身体に緑色の大きな一枚の葉っぱを持つはっぱポケモン_____チコリータが見えた。

「ーって、どうして知っているんですか!? ナインさんっ」
「せんせー、オレ……実はテレパシーが使えるんだ」
「え〜!! ホント〜!?? ……じゃ、編入生が何のポケモンか当ててみてよ」
「おーハルタ、いい反応だな! よっしゃ任せろ〜確か…………ロコン!!」
「えぇっ?! ……せ、正解ですわ」

 知らないはずの情報を突然言い当てられ、ミルフィーユは手に持っていたチョークを思わず落としてしまう……と同時に、アルファも体制を崩しかける。……とりあえず、ミズゴロウの方がナインという名前らしい。

「マジかよ? すげぇ!!」
「まーオレだからな」
「もうナインったら、何がテレパシーよ。昨日たまたま先生たちと編入生が話しているのをこっそり覗いてただけじゃない」
「あっ……おいクルミ? ネタばらしすんなよ」
「なぁんだ違ったのかぁ」
「あぁ〜もうっ呼びますわっ!」

 せっかくの編入生をこれ以上待たせる訳にはいかないと思ったのか、ミルフィーユは無理やり場をまとめ、アルファを呼びに行く。
 アルファはミルフィーユの後を追い、緊張しながら黒板の前に立つ。そしてミルフィーユ先生に紹介してもらいながら、クラス全体を見渡した。

「(あれ? あそこにいるのって……)」
「……では、アルファさんの席はあちらの……スティックさん!」

 階段から覗いていた時には死角になっていたため確認出来なかったのだが、端の方にスティックがいた。……ミルフィーユに呼ばれたはずだが反応がない。

「……スティックさん?  スティ……寝てますわね」
「(ほんとだ……うつぶせになって寝てる)」

 ミルフィーユは深くため息をつくと、彼の隣の席につくようアルファに指示をした。
 朝礼後、少しの休憩を挟みそのまま授業が始まった。アヤメからある程度文字の読み書きについて習っていたものの、未だに読めない文字も多かった。幸い内容自体簡単なものが多く、分からないところも隣でスティックが教えてくれていたため、授業についていくことすら出来ないといった事態にはならなかった(……流石のスティックでも授業はちゃんと起きて受けていた)。





 そして昼過ぎになり授業が終わった。本来ならばここからは探検家として依頼をこなす時間だそうだが、編入したてのアルファは「明日からお願いしますね」とミルフィーユに言われたのであった。
 ハルタ達は今日の分の依頼をこなしに行ってしまい、アルファはこの後どうすればいいか分からなくなっていた。その時、1匹のチコリータが頭の葉っぱを揺らしながらこちらへと寄ってきた。

「アルファちゃん……よね?  初めまして、あたしは救助隊員見習いのクルミ! よろしくね!」
「こちらこそ……って、救助? ここって探検家向けの学校なんじゃ……」
「授業で習う範囲が同じなだけよ。……そういえばミルフィーユ先生も言ってたけど、アルファちゃんってこの辺りの事とか覚えていないんだったよね」
「ま、まぁ……」

 クルミ達は朝礼の時に、ミルフィーユからアルファが記憶を無くしたポケモンだということを聞かされていた。変に思われないか不安だったが意外とあっさり受け入れて貰えたようだ。

「そっか、大変だねー……ねぇ! 今から学校の中だけでも案内したげようか?」
「え、今から?」
「お! いいなそれ! オレも一緒に行きたい」

 そう言って割り込んできたのは先ほどのミズゴロウ、ナインだった。

「もーびっくりしたぁ! ナインも来るの? 別にいいけど邪魔とかしないでよね」
「わーってるわーってる」
「ちょっと待って、クルミちゃん達仕事があるんじゃ」
「あるよ! でも今日はセントラル周辺のパトロールだもん。ナインは?」
「オレもパトロール! 別に急ぎの仕事じゃないから問題ないぜ?」 
「そっ! それに、アルファちゃんの依頼のお仕事明日からあるんでしょ? ギルドの施設とか使うかもだし! 今日のうちから慣れておいた方がいいと思うんだけど……あ、もしかしてそういうの嫌い?」
「う、ううんっ! そんなことないよ」
「ホント!? よかったぁ〜! それじゃあ、さっそく出発ね!」

 シキサイ学園はアルファにとっては未知の場所。案内してもらえるのは非常に有難い。アヤメから早く帰ってくるよう言われていた訳でもなかったというのもあり、アルファはそのままクルミ達についていき、とりあえず上の階から順に案内してもらうことになった。2匹は主に見習いがよく使う施設等を中心に教えてくれた。
 こうして一番下の階まで案内してくれたクルミだが、せっかくだからとサウスエリアの入り口までついてきてくれることになった。

「今日はありがとう。パトロールもあるのに、なんかごめんね」
「全然大丈夫大丈夫! っていうか、こっちこそ案内させてくれてありがとう! あたし、こういうのやってみたかったんだ〜!」
「ハハハ! そういやスティックのやつは断ってたもんな」
「そーそー! もしかしたらアルファちゃんも断っちゃうのかなーって思ってた」
「え、スティックくん?」

 想定外の展開にアルファは驚いた。

「あっそっか! スティックくん、アルファちゃんの隣の席のコリンクの事なんだけど」
「アイツもオマエと同じで少し前に編入してきたんだぜ」
「スティックくんも? その、最初からいたとかじゃなくて?」

 アルファとしては、てっきりハルタ達と同じ時期にシキサイ学園に入学したものだと思っていたが、どうも違うらしい。

「うん、確か……2ヶ月くらい前じゃなかった?」
「あー多分そのくらいだよなーアイツが入ってきたの。ーってかオマエ、あのスティックと知り合いなのか?」
「え? アルファちゃん、スティックくんのこと知ってるの?!」
「え、えーと、知り合いっていうか……なんていうか……」

 アルファとしては正直説明の難しい案件だった。たまたま住んでいる場所が近くて、たまたま話す機会が多くて……

「あれ? もしかして答えにくい関係? 元カレとか?」
「ハッ……もしかしてエッチな!?」
「ち、違うよっ! そんなんじゃないって!! なんていうかその、たまたま一緒に行動する機会が結構あったーってだけで……どんなポケモンかは正直分からないっていうか」

 ……思えば自身の過去やサーについて聞いて貰う機会は、ハルタほどではないにせよ割と多かった。しかし、反対にスティック自身のことについて聞く機会はほとんどなかった。

「そうよね〜あたしたちもスティックくんのことについてほとんど知らないし、気になっていたんだよね」
「確かにオレも気にはなるんだよな〜いっそ、明日にでも質問タイムやってみるか?」
「それよ! 向こうが来ないならこちらから聞けばいいのよ!」
「よっしゃ! じゃ、そういうことだからフォローよろしくな!」
「あ、うん……分かった」

 アルファは苦笑いで2匹と別れたのであった。





 _____一方、肝心のスティックは未だ学園の敷地内に残っていた。どうやら、建物の影で誰かと話しているようだ。

「_____……2匹には悪いが、僕はノースへ戻るつもりはない」
「……にゃ、そうだよにゃ。分かった」
「バル……?」
「ドラム、行くぞ。……じゃあにゃ、スティック。おまぴっぴが元気そうで何よりだにゃ。また会えるのを楽しみにしてるぜ」
「……さよなら」

 建物の影からニャオニクスのオスとメスが1匹ずつ現れた。彼らは一切振り返ることなく、まっすぐサウスの方角へと向かっていったのであった……。

Itocoo_ ( 2021/07/09(金) 22:17 )