第1章 
第5話 ピンチ!助けておねーちゃん!
「えっ?! ここって不思議のダンジョンだったの?!」

 広い草原のど真ん中で、小さなロコン_____アルファの驚きに満ちた声が響き渡る。

「あぁ……ここは『迷いの草原』。入り口に柵があったはずだが……気づかなかったのか?」
「う、うん……」

 アルファに対し、ギザっ毛のコリンクが呆れたように答えた。彼は、先ほどアルファがタマタマに襲われていたところを助けてくれたポケモンである。あの後、目的地が2匹とも、ダンジョンの一番奥から行ける丘であったことが発覚した。そこで、共に行動することになった次第である。

「ねぇ、なんでさっきのタマタマは襲ってきたの?」
「……突然縄張りを荒らされたと勘違いした、あるいは、単に好戦的なだけか……いずれにしろ、話しかけたところで向こうには一切通じない」
「……そうなんだ」

 コリンクは前を向いたまま、淡々と答える。発せられたその声には、どこか冷たさを感じられた。
 ついて行って良かったのかな……? アルファは少し不安になってきた。
 しばらく歩いていると、少し開けた所へ辿り着いた。その瞬間、前を歩いていたコリンクが足を止める。

「……あそこだ」

 コリンクはそう言いながら、アルファの方を振り返り、右前足で正面を指した。そこには少々小高い丘があった。そのてっぺんには1本の大きな木が見える。それを確認したアルファは、さっきまで硬くなっていた表情を一気に和らげる。

「……やった! やっと着いたんだ! 道案内ありがとう!」

 アルファはにっこり笑いながらコリンクの方を向いてお礼を言った。その表情を見たコリンクは、僅かに驚きを見せた……が、すぐに元の険しい顔つきへと戻り、そっぽを向いた。

「別に。……それより君は、このまま丘のてっぺんまで行くつもりか?」
「えっ? あ、うん……?」
「……なら、しばらくの間、ここで待っていて欲しい……依頼をこなしてくる」
「え? いらい?」
「終わり次第……すぐ戻る」

 コリンクはアルファの方を一切見ずにここまで言うと、丘の方へ走っていった……。





 コリンクが去った後、アルファはしばらく暇そうに待ち続けていた。
 依頼をこなしてくるとか言っていたが、一体何の依頼だろうか……? アルファは流石に遅いと思い、少し様子を見に行こうかと丘の方を向いた……ーっと、その時!

「だれかーーーー! だれかいますかーーーー?」

 突然、丘の方から小さなポケモンが転がり込んできた。その身体は、全体的に黄緑色を基調としており、頭に葉っぱのようなものが3枚生えている。

「わわっ?!……ーっくりしたぁー……チュ、チュリネ……?」
「あ、おねーちゃんっ! あああのっあついのださないでおねがいがあるんです!」
「え、え、え???」

 アルファに反応してやってきたチュリネから、唐突によく分からない頼み事をされて、アルファは頭上にクエスチョンマークを複数浮かべる。“あついの”というのは炎の事だろうか? とりあえず一旦落ち着いて貰わないと……。

「えーっと……チュリネちゃん」
「ティアラです」
「……じゃあティアラちゃん、と、とりあえず、何があったの??」
「おにーちゃんがたいへんなんです!」

 ティアラはぴょんぴょんと跳び跳ねながら、涙目でアルファに訴える。 アルファはもう少し詳しく聞かせて貰おうと、一旦腰を下ろした。

「おにーちゃんってティアラちゃんのおにーちゃん?」
「ううんっ! そうじゃなくて、コリンクのおにーちゃん」
「コリンク……!?」

 アルファの顔つきが険しくなる。まさかさっきまで自分と一緒だった、あのコリンクなのか……?

「ね、ねぇ……そのコリンクって、頭にー……なんかこう……ギザギザしたのがあるかな?」
「えっ?! スティックおにーちゃんのこと、しってるんですか?!」
「え、すてぃ……?」

 質問を質問で返され、アルファは更に混乱してしまう。だが、ギザギザに折れ曲がった、特徴的なハネっ毛を持つコリンクなんて、さっきまで一緒だった彼以外に聞いたことも見たこともない……。スティックというのが彼の名前なのだろうか……?
 アルファはこれまでのティアラの発言を思いだし、状況を整理する。まず、スティックというコリンクが丘の方へ行き、代わりにティアラが丘から走ってきた。そして、そのティアラが言うには、スティックがどうやら大変なことになっている……?

「ティアラちゃん! 私をそのスティック君の所へ案内して!」
「たすけてくれるんですか!? ありがとうございますっ!」

 ティアラは目を輝かせ、「こっちですっ!」とぴょんぴょん跳び跳ねながら丘のてっぺん目指して、アルファを誘導し始めた。





「あれですっ!」
「あれって……ーっえ……?」

 2匹が辿り着いた先に見えたのは、先ほどのギザっ毛コリンクと、1匹のかまきりポケモン_____ストライクだった。2匹は向かい合って対峙していた。

「待って……ねぇ、これどういう状況?」
「ティアラたち、あのおっきなポケモンにおうちをとられたんです」
「えっ……?」

 ティアラの証言によると、ここ『陽だまりの丘』はティアラを含むポケモン達の住み家だった。しかし、突然ストライクの襲撃に会い、助けて貰おうと探検隊連盟の方に依頼を出したとの事だった。

「……それで、あのスティック君が助けに来てくれたんだね?」
「そうなんです……でも、あがってきていきなり、「ほかの、たよりになれそうなポケモンを、よんできてほしい」ーっていわれたんです」
「ーっということは……私がその、頼りになれそうなポケモン……ーってこと……?」
「はい!」

 苦笑いで問うたアルファに対し、ティアラは満面の笑みで肯定した。
 アルファは硬直してしまう。目覚めて1ヶ月半、野生のポケモンと戦った事など1度も無い。ましてや技の出し方すら分からない。更にはタマタマを『スパーク』の一撃で倒したスティックが苦戦しているストライクと、どう相手すれば良いのだろう……?

「くらえっ『きりさく』っ!」
「……え?」

 気がつけば例のストライクが目の前にいた。鋭いカマをアルファ目掛けて振り下ろしてくる……!

「ひゃっっっ!??」

 アルファは思わずカマを避けた。だが、完全には避けきれず、額の長い毛を一部刈られてしまった。幸いケガを負うことは無かったが、そのまま怯んでしまった。

「おやおや……動けねぇのか? コリンクを助けに来たのかと思えば……情けねぇやつだなぁおい」

 ストライクが鋭い目をアルファに向け、ドスの利いた低い声で嘲笑う。アルファはその場でうずくまってしまった。

「さて、と……予定を変更して、まずはお前から消えて貰おうかな……」

 ストライクはそう呟くと、怯えるアルファの首元にカマを添え、ゆっくりと手前に引いた……その時!

「させるかっ……!」

 ストライクの背後から眩しい電気の光を纏ったコリンクが突進してきた。ストライクは咄嗟に避けようとするも間に合わず、『スパーク』を受けてしまった。そのままストライクは横に投げ出され、麻痺状態となり動けなくなった。

「ぐあああああっ……!」
「くっ……! ようやく当たったか……」

 攻撃を終えたスティックがアルファの近くへと着地した。その身体から察するに、彼はどうやら猛毒に侵されているようだった。

「どうしたの?! その毒……!」
「……出会い頭に『どくどく』を食らった」
「か、回復しないと!」
「無理だ……君と出会う前、奴にトレジャーバッグを盗まれた……今の僕には回復手段が無い……」
「そんなぁ……」

 こうしている間にも猛毒はスティックを襲う。早くしないとそのまま自滅してしまうだろう。

「(なんとかしないと……! でも、どうすれば……)」

 アルファは思わずうついてしまった。ーっとその時、アルファは、ここに来るまでに持ってきていたカバンに気づいた。

「(確かこれって……アヤメさんが散歩の時毎回持っていくようにって言われているカバンだけど、中に何が入っているんだろ……?)」

 おそるおそるカバンを開く。中には説明書らしき小さな紙、そしていくつかの木の実やタネが入っていた。アルファは説明書を開いてみた。そこにはカバンの中身の道具について、使い方やその効果等が記されてあった。

「ね、ねぇ! これを使って! あ、あとこれも!」

 アルファはスティックにピンク色の木の実と青色の木の実を手渡した。スティックは一瞬目を見開き、前足で力無く受け取った。

「モモンとオレン……か……、助かる」

 スティックはモモンの実で猛毒状態を治し、瀕死寸前まで減っていた体力をオレンの実で回復した。そして、麻痺で動けないストライクの元へ走って行き、そのまま『スパーク』で止めを刺したのだった……。

Itocoo_ ( 2019/09/04(水) 08:57 )