第2話 発見!小さなロコン
「何だあれは……? ポケモンか?」
「え?! ……だったら助けないと!」
ハルタとボルドがオレンジ色のポケモンの元へ駆け寄る。ランタンで照らしたその小さなポケモンは、かなりボロボロな大変みすぼらしい様子で地面に横たわっていた。目元までかかったボサボサのオレンジ色の毛、同じ色の6つに分かれた尻尾が特徴的であった。
「こいつぁ何なんだ? 見たことねぇぞ?」
「ロコンだよ。−っていうかこないだ授業で習ったでしょ?」
「……うるせぇな、んなもんいちいち覚えてねぇよ」
「でも、確かにここら辺じゃ見かけないポケモンだよね……」
ハルタは倒れているロコンに触れてみた。ボロボロではあるものの、まだ温かい……。そっと耳を近づけてみる。ドクドクといった音が聞こえた。ちゃんと呼吸も出来ている。
「……大丈夫! まだ生きてるよ!」
「−ったく、面倒なことになっちまったな」
ボルドは軽くため息をつきながらも、自分の持っていたカバンをハルタに渡す。ハルタはそれを受け取ると、自分のものとは反対の方の肩にかけた。そして、優しく慎重にロコンを抱き上げ、ボルドに背負わせる。そのまま6本の尻尾をまとめ、片手でそれを押さえる。そしてもう片方の手で、自分のカバンの中を探る。
「……あった、あなぬけのたま! いくよっボルドくん!」
「おぅっ!」
ハルタはカバンの中から小さな玉を取り出し、そのまま地面に向けて投げつけた。刹那、砕けた玉からまばゆい光が溢れ、ハルタ達を包み込む。そして、そのままハルタ達と共に消滅した。
所変わって、真夜中の森の入り口。
突然、先ほどの光が現れ、今度は中のハルタ達を残して消滅した。
「ふぅ……これが、あなぬけのたまの効果ってやつか」
「初めて使ってみたけど、結構楽しいね!」
「はぁ」
ハルタが目を輝かせている一方で、ボルドはわけ分からんといった表情をしている。そして、よいしょ……とロコンを背負い直し、ハルタの方に向き直った。
「とりあえず行こうぜ。アヤメさん家……の前にコイツをどうにかしねぇとな」
「そうだね、早く近くの誰かに見て貰わないと」
「で、何処へ向かえばいいんだ? 俺ぁ一刻も早くコイツを降ろしたい」
「ちょっと待ってて! えぇと……」
ハルタは、ボルドのカバンから茶色っぽい紙を取り出し、広げた。どうやらそれはパレットの地図のようだ。ハルタは地図の下の方_____真夜中の森の場所が示されてある辺りを見つめ、答える。
「……やっぱり、アヤメさん家が一番近い、のかな」
「おいおいマジかよ……」
再びロコンを背負い直し、ハルタに尻尾を持ってもらいながらボルドは歩き出した。
しばらく歩くと一軒の小屋が見えた。周辺にはやたら広い畑が広がっている。
ハルタ達がその小屋へたどり着いた時、小屋の中から黄緑と白を基調としたかんじょうポケモン、キルリアが姿を現した。細い腕で何やら大きな籠を抱えている。
「あ、アヤメさんっ! ちょうどいいところに!」
「ん? あぁハルタかー、久しぶり!」
アヤメさんと呼ばれたキルリアがハルタの元へ駆け寄る。その時、そばにいたボルドとロコンに気づいた。
「あれ? そこのポッチャマはお友達?」
「うん! ボクのパートナー!」
「初めまして……。ボルドって言います」
「そっかー、アタシはアヤメ! よろしくね……で、後ろのロコンはどーしたの?」
「実は……森のーーー入口近く?で、倒れていたんだ!」
本当は森の奥なのだが(そもそも本当の奥なのかは謎であるが)、森の中に入っていないことにするために、ハルタは嘘をついた。
「………………へぇ、そっか! ちょっと様子見たいから貸してよ」
そう言って笑顔でボルドからロコンを受け取るアヤメ。重たそうに背負っていたボルドとは違って軽々と持ち上げた。彼女はエスパータイプなので、恐らく『ねんりき』を使って支えているのだろう。一方のボルドとハルタは、嘘がバレていないみたいだと、ホッと安堵のため息をついた。
アヤメに連れられて、2匹は小屋の中に入る。そのまま階段を上り、屋根裏部屋へと案内された。アヤメは寝床らしき所にロコンを寝かせて、脈を測る。
「うーーーーーーん、傷だらけだけど何とかなるかもねー……なに? 散歩してて見つけたの?」
「あ、いや、散歩じゃなくて……あ!」
ハルタは頭のトゲをピンと立てる。そして何かを思い出したかのようにカバンをあさり、1枚の紙を取り出した。
「何それ? 依頼?」
「うん。先生から、アヤメさんの所へ、次回出荷出来るオレンの実の個数を聞いてきてって」
そう言いながら、ハルタはアヤメに依頼の紙を差し出した。アヤメは書かれてある内容に目を通し、「あーいつものアレね」と呟きながら立ち上がる。そしてそのまま下の階に降りていき、少しして細長い封筒を持って戻ってきた。
「ハイ、これを先生に渡してねー」
「あ、うん……なあに? これ」
「次回の出荷についての手紙。アンタらノーマルランクのちびっ子が、そーやって聞きに来たときにいつも渡しているやつだから、先生すぐ分かってくれるハズだよ」
「へぇーありがとう!」
ハルタとボルドはぺこりとお辞儀をし、預かった封筒を大事そうにカバンへしまう。そして、3匹はちらりとロコンの方へ目をやる。もしかしたら意識を取り戻しているかと思ったが、そのような気配は全く感じられなかった。
「……アンタ達はもう戻りなよ。この子はアタシが預かっておくからさ」
「い、いいの?」
「依頼はそれだけでしょ? あんまり遅くなりすぎると寄り道してたことがバレるよ」
「「ええ!? (ギクッ)」」
「セントラルからウチまでの間に森なんて無いでしょ?」
「「あー……」」
「ま、先生に会っても内緒にしててあげるよ」
図星を突かれてドギマギしたまま、ハルタとボルドはアヤメと別れた。
帰り道、やや急ぎ足でセントラルエリアへと戻る2匹。空はもう茜色に染まりつつあった。
依頼のこと、こっそり行った探検のこと、ロコンのこと、隠したのに結局あっさりバレたことなどなど……色々ありすぎて、2匹とも、もう疲れたといった顔をしていた。
「なぁハルタ、おめぇアヤメさんとは知り合いか? 妙に馴れ馴れしかったけどよ」
「うん。小さい頃すごくお世話になったんだ。」
「ふぅん。小等部ん時からか?」
「もっと前だよ。それこそボクが産まれた頃から面倒見てくれてたみたいなんだよね。ボクのお姉ちゃんみたいな感じ」
「ふぅーん。初めて聞いたな……まぁ相手がそんなアヤメさんで良かったな」
「そうだね……まさかあんな大変なことになるなんて思っていなかったよ」
「おめぇに巻き込まれるのはいつもの事だしな……それにしちゃあ、今回はいつもと比べて大分計画的だったぞ?」
「え? あー……探検についてなんだけど、あれ実は、スティックくんに相談したんだよね……」
「はぁ? スティック?!」
“スティック”という名を聞いた途端、ボルドは思わず足を止め、大変驚いた声で聞き返した。ハルタはそんなボルドに不思議がる様子も無く、むしろこうなる事は分かっていたような様子で、振り返る。
「サウスエリア内の、なるべくアヤメさん家に近いダンジョンで丁度良さそうなのが何処か聞いたんだ」
「で、真夜中の森って答えたのか? あいつが?」
「うん……攻略法とかも教えてくれたし、実際に行ってみてすっごく役に立ったよ?」
「ホントかよ……? おめぇ、そこまでしてあいつの肩を持つこたぁねぇだろ」
ボルドは疑わしい様子でハルタをまっすぐ見つめる。その目は、先ほどとはうってかわって、嫌悪を感じさせられた。ハルタは少しの間を置いて口を開く。
「……スティックくんは優しいよ? ミルフィーユ先生顔負けの、キャンバスの知識を、今回ボク達の探検のために提供してくれたし! 幽霊の噂まで丁寧に教えてくれたんだよ? ……確かに、普段他のポケモン達と仲良くしたがらないところあるけど…………」
「……フンッ、それが優しいんか? ただの知識自慢だろ」
ボルドはぶっきらぼうに言い放ち、ハルタを無視して再び歩き始めた。
「(ここにスティックくんが加わったら、究極に良いチームが出来ると思うんだけどな……)」
ハルタは切なげにボルドの後についていった_____。