前編
−Prince Princess−
昔、昔、森の中に黒い大きなお城がありました。
お城には『魔女』が住んでいて、他のポケモンから恐れられてました。
そのせいか、誰もそのお城に近寄る事はありませんでした。
『魔女』…と呼ばれているムウマージと、その家来達がそのお城に住んでいました。
ムウマージの名前はメリナといいました。
メリナは自分の美貌に自信を持っていて、いつも自慢に思っていました。
しかし、そんな彼女にも一つ悩みがありました。
それは、『結婚相手がいない』事でした。
*
「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しい私に似合う男を教えてちょうだい。」
ある日、メリナは自分で作った魔法の鏡に向かって問いかけました。
「メリナ様…またその相談事ですか…。」
魔法の鏡はため息をつきました。
「いいから早く出してちょうだい!!」
魔法の鏡はもう一度ため息をつくと、鏡に一匹のハンサムなヨノワールの姿を映し出しました。
「こんな男はいかがでしょうか?」
メリナは鏡に映ったヨノワールをじっと見つめました。
「…気に入らないわ!」
そう言うとメリナはそっぽを向きました。
「ハァ…ではこんな方はいかがですか?」
魔法の鏡はそう言ってヨノワールの姿を鏡から消し、今度は違うポケモンの姿を映し出しました。
新たに映し出されたポケモンは、かっこいいスカーフをしたジュペッタでした。
「…。」
メリナは、そのジュペッタの姿をまじまじと見つめましたが、またついとそっぽを向きました。
「こんなスカした男はタイプじゃないわ!」
メリナはそう言うと、鏡を揺さぶりました。
「っていうか何で全員不定形なのよ!!私は不定形が嫌いなのに!!」
「そ…それは…メリナ様のタマゴグループが…。」
魔法の鏡は、揺さぶられながらも必死に弁解しました。
ひとしきり鏡を揺さぶったメリナは、揺さぶるのを止め、もう一度鏡に問いかけました。
「世界一美しい私に似合う男は誰?」
魔法の鏡は、自分の体にあるグレイシアの姿を映し出しました。
「こんな男はいかがでしょうか?」
メリナは無言で、鏡に映ったグレイシアを見ました。
「こ…こんな男タイプじゃないわよ!!」
メリナはそう言い、踵を返しました。
魔法の鏡はメリナの報復を恐れ、わなわなと震えましたが、そんな様子は見受けられませんでした。
「…でも…私のお婿さんにしてあげないこともないんだから!!」
そう言ったメリナの顔は、ほんのりと赤くなっていました。
メリナは、自分の家来である二匹のヤミラミを呼びました。
「あんた達!このグレイシアを捕まえてきなさい!!そこに私が作った魔法のリンゴがあるから、それも持って行きなさい!!!」
メリナはそう二匹のヤミラミに命令しました。
「…メリナ様、タイプじゃない人なんじゃあ…」
ヤミラミが不思議そうに尋ねました。
すると、メリナは顔を真っ赤にして怒鳴りつけました。
「べっ…別に気になったんじゃないんだからね!!成り行きなんだから!!!」
メリナはそう言うと、自分の部屋へと行ってしまいました。
「…あれは惚れとんな…。」
「ああ…なにしろメリナ様はツンデレだからな…。」
ヤミラミ達は頷くと、鏡に映ったグレイシアを探しに、黒いお城から出て行きました。
*
場所は代わり、お城から少し離れた所に大きな森がありました。
森には、二人のお姫様と一人の王子様が住んでいました。
お姫様の名前は、『シロ姫』と『クロ姫』と言いました。
シロ姫は『エーフィ』クロ姫は『ブラッキー』でした。
そして、王子様の名前は『グレイ王子』という『グレイシア』でした。
シロ姫とクロ姫は、グレイ王子の事が大好きでした。
二人はいつもグレイ王子を取り合っていました。
「ちょっとアンタ!王子を離しなさいよ!」
「いーえ!あなたが離すべきです!!」
今日も、グレイ王子の取り合いが始まっているようで、騒がしい声が森に響いていました。
「グレイ様は、私とお花畑に行くんです!!」
「ちげーよ!私とスイパラに行くんだよ!!」
そう言って二人は王子を取り合っていましたが、グレイ王子は二人の手を振りほどきました。
「ーっあー!!君達!もう止めてくれないか!?僕は静かに暮らしたいんだぁー!!…帰る!!」
そう言った王子は、呆然と佇む二人を後に、森の奥へと走っていきました。
*
「あー…あの二人も困ったものだなぁ…。」
グレイ王子は二人の毒手(?)から逃れ、森の中をうろついていました。
「あ、グレイ王子。」
王子は、声の聞こえた方を見ると、ロコンとチョロネコの女の子がいるのに気が付きました。
「やあ、こんにちはお嬢さん方。よかったら僕と踊りませんか?」
王子は笑顔で、ロコン達を踊りに誘いました。
「ええ、いいですよ。」
ロコンとチョロネコは王子の誘いを笑顔で了承しました。
「全く…メリナ様はわがままで困ったものだ…すぐに見つかるわけでもないのに…。」
「しかもこんなん役に立つんかなぁ?」
グレイ王子がロコン達に話しかけていると、森の奥からメリナの子分のヤミラミ達がやってきました。
一人のヤミラミは、某猫型ロボットのBGMが流れそうな雰囲気で、メリナの魔法が詰まったリンゴを出しました。
グレイ王子はヤミラミ達に気づいて、声をかけました。
「こんにちは!よかったらあなた達も踊りませんか?」
「えっ?」
二匹のヤミラミは戸惑っていましたが、グレイ王子は無理矢理ヤミラミ達をロコン達がいる場所へ引っ張っていきました。
「さあ、Let's dancing!!」
王子が指を鳴らすと、どこからともなく音楽が流れてきました。
最初は戸惑っていたヤミラミ達も、時を忘れて踊りを踊りました。
*
「ありがとう、お嬢様方達!ありがとう、見知らぬ人達!!」
踊りに満足したグレイ王子は手を降って去っていきました。
「おい、あいつって鏡に映ってたグレイシアじゃないん!?」
「本当だ!!危うく見逃してしまう所だった…!!」
手を降っていたヤミラミ達でしたが、自分達の仕事を思いだし、我に返りました。
「おい!そこのグレイシア!」
ヤミラミ達は去ろうとしていたグレイ王子を呼び止めました。
「僕の名前はグレイだ!!」
「そないな事はどうでもええねん!おとなしく俺達に着いてきてもらうで!!」
ヤミラミ達はそう言うと、グレイ王子に飛びかかっていきました。
「悪者め!僕が退治してやる!!」
グレイシアは自分で出した冷気で氷の剣を作り、ヤミラミに立ち向かいました。
「食らえ!『氷の礫』!!」
氷の剣で、ヤミラミの爪を受け止めた王子は、口から出た冷気で氷の固まりを生み出し、ヤミラミ達に飛ばしました。
「うわっ!!」
氷の礫はヤミラミに見事命中し、その衝撃でヤミラミ達は木にぶつかってしまいました。
「こいつ…強い!!」
「とどめだぁ!!」
グレイ王子が氷の剣を振りかぶった瞬間ー
「ぐはっ!?」
木にぶつかっていたヤミラミは、必ず先制する事ができる『不意打ち』という技をグレイ王子に繰り出していました。
グレイ王子はその場に倒れてしまいました。
「危なかったで…。」
「相棒、ナイスだ!」
「そんな事言ってる暇あったらそいつにリンゴ食わせろや!!」
そう言ったヤミラミは、グレイ王子の口にリンゴを押し込みました。
すると、まだ意識があったらしい王子の体がピクリと動きましたが、だんだん力が抜けていっているのが見て取れました。
「よし…連れて行くか…。」
ヤミラミ達はグレイ王子を担ぐと、森の奥へと消えていきました。
「…大変だ!!」
ヤミラミ達が去っていった後、物陰から雌のイーブイがひょこっと顔を出しました。
このイーブイは、シロ姫の家臣で、シロ姫を探すうちにグレイ王子を見つけ、じっと王子を観察していたのでした。
「王子がさらわれちゃった!!姫様に知らせないと!!」
そう言ったイーブイは、一目散にシロ姫を探しに森の中へと入っていきました。
*
その頃…シロ姫は、色んなポケモン達が集まる広場へとやってきていました。
「広場の皆さん、グレイ様を見ませんでしたか?」
シロ姫は広場のポケモンに話しかけました。
「さあ…見なかったですよ?」
シロ姫の近くにいたレディバが答えました。
「そう…ですか…。」
シロ姫が残念そうに俯き、広場を出ようと後ろを振り返り歩き出そうとすると…
「シロ姫様〜!!」
さっきのイーブイが広場に入ってきました。
「あら?イーブイ、どうしたのですか?」
イーブイは、肩で息をしながらシロ姫に駆けよりました。
「ハァハァ…シロ姫様…グレイ様が…さらわれちゃいましt…」
「それはどういう事ですか!!」
シロ姫はまだ息切れしているイーブイの肩をがっと掴み、揺さぶりました。
「うぁ…シロ姫様…やめてください…。」
「あら…ごめんなさい…。…でそれはどういう事なのですか?」
シロ姫は、イーブイを離して質問をしました。
「それは…」
イーブイはこれまでの経過についてシロ姫に説明しました。
「…っていう事があったんです…。」
イーブイがシロ姫に説明し終えた時、またシロ姫はイーブイの肩を掴んで、イーブイを揺さぶりました。
「それは大変じゃないですか!!すぐにグレイ様を助けに行きますよ!!」
シロ姫はそう言うとイーブイの肩から手を離し、空に向かって指を指しました。
「でも、どうやって助けるんですか?」
「それは…。」
シロ姫は言葉を詰まらせました。
王子を助けるには、リンゴにかかっている魔法を解かなければなりませんでした。
すると、広場にいた雄のマイナンと、雌のプラスルがシロ姫に話しかけました。
「あの〜僕、その魔法の解き方を知ってるかも…。」
その話を聞いたシロ姫はマイナンに飛びつきました。
「本当ですか!?」
「え…ええ、前に間違えてあのお城に入った時に、魔女が特別な薬草で目が覚める魔法…だとかなんとか言ってたのを覚えてます…。」
飛びついてきたシロ姫に驚きながらも、マイナンは話しました。
「特別な薬草…?」
「はい、二つに分かれている薬草で、白色の薬草と、黒色の薬草らしいです…。」
マイナンの隣にいたプラスルが言いました。
「へぇー…よし!皆で探しに行きますよ!!」
シロ姫は、イーブイとプラスルとマイナンとレディバに言いました。
「はーい!!」
イーブイは快く返事をしましたが、他の三人は返事をしませんでした。
「僕達もですか…?」
「大人数のほうが早く見つかりますし…。」
シロ姫は三人を見つめて言いました。
三人はため息をつき、シロ姫と一緒に探しに行く事になりました。
「さあ!出発しましょう!!」
五人は、薬草を探しに森へと入っていきました。
*
「うしし!いい事聞いちゃった!!」
五人が広場を出た後、木の陰から一匹のポチエナがそろりと出てきました。
このポチエナは、クロ姫の従える家臣の一人でした。
「早速クロ姫様に報告だ!!」
ポチエナはクロ姫の所へ颯爽と走っていきました。
*
クロ姫は、家臣を呼び集め、グレイ王子を探していました。
「王子〜。どこにいるんですか〜?」
クロ姫は森に向かって叫びました。
クロ姫の周りには、家臣であるキノココやヒメグマ、オニスズメがクロ姫と同じく、グレイ王子を探していました。
すると…
「クロ姫様!!」
さっきのポチエナが走っていきました。
「ポチエナ!アンタどこに行ってたの!?」
クロ姫は走ってきたポチエナを睨みました。
「そんな事より、いい話を聞いてきましたよ!!」
ポチエナは嬉しそうにそう言うと、クロ姫に耳を貸すようにジェスチャーしました。
「何よ?」
「実は…」
ポチエナはクロ姫に今までの事を耳打ちしました。
「…じゃあアタシ達もその薬草とやらを探すわよ!!」
「えー…。」
家臣の四人は、やる気のなさそうな返事をしました。」
「返事はハイよ!」
「ハイハイ…。」
「ハイは一回!!」
「ハーイ…」
こんな事を繰り返しながらも、クロ姫の一行は薬草を探し出すために森の奥へと入っていきました。
−後編に続く…