第二話「基地と天然とエトセトラ」
おれはだれなんだ?
わからない
おれはいったいなにものなんだ?
わからない
なにかだいじなことをわすれているきがする
それでもわからない
でもこれだけはわかる
どこかへにげなければならない
ということ
ただそれだけだった
*
気を失っているエーフィを背中に乗せたラッシュは、目の前に高くそびえる崖の前に立って辺りを見回していた。
「誰も…いないな…。」
彼は誰もいない事を確認すると、一旦エーフィを背中から降ろし、とある崖の岩に手を添えた。
そして彼は手にぐっと力を込め、一気に岩を押すと、岩に隠れていた洞窟が顔を出した。
洞窟はかなりの深さがあるらしく、真っ暗な闇が広がっていた。
「つーかこんな所に基地を作って、よくヤツらにバレてないよな…。」
ラッシュはポツリと独り言を言うと、エーフィを再び背負い、洞窟の中へと足を踏み出した。
*
「ただいま。」
ラッシュが洞窟の通路を進むと、少し開けた広場のような所に出てきた。
そこは明かりが灯っていて、どこからか外の空気が入ってきているらしく、爽やかな森の香りがする。
広場にはまた二本の通路があり、どこかへ繋がっているようだった。
「おかえり!」
一匹のポケモンが彼を待ちかまえていた。
そのポケモンは、白くふわふわした毛並みの持ち主で、大きな耳と、長く先が二つに分かれた尾が特徴のチラーミィというポケモンだった。
その声は、ラッシュが通信機で会話していた声と一緒で、同一人物だという事が分かった。
「あれ?ラッシュ、食べ物は?」
「…食べ物は採ってきてねぇよ。」
えぇーっと大げさな叫び声を上げるチラーミィ。
それを見てラッシュはため息をついた。
「マルテ、食べ物の事より大変だっつー事が見て分かんねぇの?」
「ん?」
マルテは、首を傾げつつ、その大きな目でじーっとラッシュを見つめた。
それから三秒くらい経過したものの、首を傾げたままで何も分かっていないようだった。
「ったく、背中を見ろ。」
ラッシュは自分の背中を指差した。
マルテの視線がラッシュの目から背中へと移動する。
「うわっ人を拾ってきたの!?しかもケガしてるじゃない!!」
「やっと気が付いたか…つーか『拾う』なんて言うなよ、事実だけど。」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!!早く部屋に連れて行って手当しないと!!ラッシュ!部屋借りるよ!!」
「お…おう。」
二人はそう言い、二本の通路の内、左の通路へと走っていった。
*
「とりあえず…ベッドの上に寝かせようか…。」
二人がやってきたのは、枯れ草を敷いて作ったベッドらしきものが一つと、小さな二段の棚が一つ置いてある質素な部屋だった。
棚の一段目には、写真立てが一つ、二段目には、子どもの手の長さくらいで持ち手の付いた棒…俗にトンファーと呼ばれている物が置かれていた。
ラッシュは草のベッドの上にエーフィを寝かせた。
その後、ラッシュは耳の通信機を取り、写真立ての横に置いた。
「じゃあ私、マスターに報告して、救急箱を取ってくるね!!」
「おう。」
マルテはそう言い、エーフィをベッドに寝かせるのを見届けてから、部屋を出ていった。
部屋に残ったラッシュは、ぼうっとしながらエーフィを見ていた。
「…この布…取った方がいいのかな?」
そう独り言を言ったラッシュは、エーフィの足に巻かれた布に手をかけた。
布はキツく縛られていて、ちょっとやそっとでは取れなさそうだった。
「…やっぱりやめとこう、マルテに怒鳴られそうだしな…。」
ラッシュがそう言い、布から手を放した瞬間、ドアが力強く開け放たれた。
バッと後ろを振り向いたラッシュが見た物は、救急箱を持っているマルテと、マルテの後ろに立つ蒼い狼のようなポケモン…ルカリオの姿だった。
ルカリオは逞しい体つきをしていて、首には少し古そうな黒のマフラーを巻いている。
「そのエーフィが問題のエーフィだな。」
「ええ、マスター。」
マスターと呼ばれたルカリオは、そうかといった風に頷いた。
「マルテ、治療を頼む。」
「はい!」
マルテは元気よく返事して、ずんずんと部屋に入ってくると、救急箱から包帯や薬などを出し始めた。
そして、手に薬を少し付けて、エーフィの体に薄くのばしながら薬を塗った。
「あれ?擦り傷の量が少し減ってるような…。」
途中でエーフィの体に薬を塗るのをやめ、マルテは首を傾げた。
「気のせいだろ。」
ラッシュは一つ大きな欠伸をして言った。
「気のせい…なのかな…。」
ラッシュの言葉を聞いて、マルテはまた作業を再開する。
だがまだ納得はしていない様子で、何度も首を傾げていた。
「ラッシュ、後で俺の部屋に来てくれ。」
ルカリオはそう言うと、部屋から去っていった。
ラッシュは「後はよろしくな!」と急いで言うと、ルカリオに続いて部屋を出て行った。
去り際に、マルテの「人任せにしないでよ!」という声が聞こえてきたが、気にもとめずにラッシュはルカリオの後を付いていった。
To Be Continued…