小波紋
第三章 怪物の噂話


店の主に盗品をかえし、おおいに喜ばれた後―。

蒼は悩んでいた。
たぶん、今までの人生の中で一番悩んでいた。

肩の電気鼠はいらだったように蒼の頭に肘をつく。

「まだかよ。お前ぇ思ったより頭かてぇな。」
「勝手に主にしたのはお前だろうが・・・。」
「俺がヒトの下に立ってやってんだぞ!?だいたい、お前ぇこっから先なにがあるかわかってんのか!」

間髪入れずにかえってきたこたえに、蒼は首をかしげた。
―この先に、なにか危ないことなどあっただろうか?あるとしたら少しばかり険しいが、大きな岩山だけ。

「それより、心配して俺の怪物になるって決めたのか?」
「ば、ばっかじゃねぇ!?そそそそんなことねーしぃ?」

すこしだけがっかりした蒼には、頭の上の電気鼠の表情など見えるはずがなかった。

そして電気鼠は説明をはじめる。



昔々、あるところに、とても賢い小波紋がいたという。
学問はもちろんのこと、体術、ワザにも優れていたため、若くして波動犬族の族長となったらしい。

だがそれがいけなかった。

小波紋の後についていきたい者は少なかった。
まだ若いリオルに命を預けるのが心配という理由がある者。早々と自分をおいこしていった小波紋へ、ねたみや怒りを抱く仲間も多かった。

そんなある日。
初夏のさわやかな風が吹く正午ごろのこと。
腹を空かせた肉食の怪物が波動犬族をおそったのだ。

一瞬のまに仲間を失った小波紋は、怒りにまかせてその怪物を倒した。
強い、強い、とても強い怒りにあてられた小波紋は、その後正気を失い、山に来る者をおそうようになったという・・・。



「へぇ。」
「へぇ・・・って。おい、この電気鼠様が説明してやったんだぞ。礼の一つくらいいわんかい。」
「はい、ありがとう。・・・んじゃ、俺のお守りよろしくな、電気鼠よ。」
「は!?」

蒼は手を伸ばして電気鼠のほほをなでると、のんびりと歩き出した。

「だって、俺を心配して俺の怪物になると決めたろう?」
「決めつけんじゃねーよ!」

あいかわらず危機感のない蒼に、電気鼠は叫んだ。

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■筆者メッセージ
すいません、ただ蒼と電気鼠がしゃべってるだけの章ですw

あ、ちなみに電気鼠はホモではありませんよ(この1行で雰囲気ぶっこわしてすみません)。
イオン ( 2014/06/25(水) 17:24 )