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第二章  話せし怪物はいとをかし 其の弐
周囲の景色は森に変わっていた。


何時走っただろう。
体力には自信のあった蒼も、そろそろ疲れてきた頃だ。

「も〜、お前しつけぇんだよ!」

白い光が横を通ったかと思うと、蒼の隣の地面には深い溝ができていた。
「・・・技!」

電気鼠は急に方向転換をする。
それの真正面に立つ蒼は少しすくんだ。



「・・・お前怖くねぇのかよ。」

もう一度攻撃が来る、そう、蒼が目を瞑ったとき。
電気鼠は不思議そうに蒼に聞いた。

驚いて、蒼はゆっくり目を開ける。

「いや・・・怖いって何がだ? 技は怖かったが。」
「そーじゃねぇよ、しゃべる怪物は怖くねぇのかっつってんだ。」

「・・・怪物はしゃべらないのか?」
初耳だった。
いやしかし蒼が怪物を見たのはこれがはじめてだ。当然と言えば当然だろう。

「さてはお前、俺たちがいない方面から来たな。旅人か?」

電気鼠は珍しそうに蒼の目を見ると、消えた。

―消えた?
いや、違う。

蒼は肩にずしりとした重みを感じ、驚いて振り向いた。
「遅い、遅い。」
電気鼠は愉快そうに地面へ飛び降りると、盗みに使った袋を蒼の方へ押し出した。

「しっかし見上げた根性だ。町一番のすばやさを持つ俺を追いかけるたぁな。それは返す。」

あまりにもあっさりと目的の物を取り返し、蒼は逆に呆然としてしまった。

そして――。
次に紡がれた言葉に、さらに蒼は驚いた。



「お前、おもしれぇな。どうでぇ。お前、俺に名をくれる気はねぇか。」



名前・・・。
この世に存在する物には全てそれがあるそうだ。

主を持った怪物は怪物とは違う新しいなにかになる。
世界に一つだけのそれに、主は名を授けなければならないという。

以上、電気鼠の説明なり。

「さぁ! こい! 俺の主よ!」

「え・・・えぇー。えっと・・・電気!」
「ふざけんじゃねぇ! それ人間にヒトってぇ名前つけるのと同じだから!」




話せし怪物はいとをかし。

さて、いと愉快なり。


イオン ( 2014/06/22(日) 11:29 )