名 
第一章  話せし怪物はいとをかし



蒼。

そう呼ぶにふさわしい空の下、ある旅人は歩いていた。

時折風が弱く吹き、旅人の長い黒髪を揺らす。
ゆったりとした黒い着物は旅に適していそうだ。


時は江戸。
とある城下町では旅人は珍しがられる。

若くして放浪人となった蒼もまた、町人にじろじろ見られていた。


「へっ、俺は人気者だな。」


愉快そうに笑い、自分と同じ名前の空の下で歩を進める。



 *



ちょうど蒼がかどを曲がった時だった。

「泥棒だー! 泥棒の怪物だー!」

怪物。衣嚢怪物を省略した言い方だ。
名前こそ聞いたことはあるが、蒼のまだ見ぬ生物だった。
なんでも属性で分かれる、魔法の様な"技"を使うそうな。

燃える太陽。それを横切る黄色い影が、蒼の顔にもかかった。

「ちょいと通るぜ!」

「ぶはっ?!」

顔面に張り付いてきたその生き物。
それは次の瞬間には別の人間に飛び移っていた。


――まるで電光のように。


黄色い体。
背中の縞。
ぎざぎざしっぽ。

「電気鼠・・・!」

―あれが・・・。

「おーい! 誰か捕まえてくれい!」

ぽかんとしていた蒼はその声に我にかえり、黄色い影を追いかけた。







■筆者メッセージ
衣嚢はポケットのことです。いのうと読みます。
衣嚢怪物でポケットモンスターです。
イオン ( 2014/06/21(土) 20:57 )