13.挑戦、バトルの行方
予想外の出来事を前に、サユリは一瞬だけ何が起きたのか理解が遅れた。
確かに、あのポンッという軽快な音はモンスターボールの開放音そのものだ。しかし自分が全く触れていない状況で突然そんな音が響いたのだから、驚いてしまうのも無理はない。中のポケモンが勝手に飛び出してしまうなど、サユリにとって初めての体験なのだから。
「た、タツベイ……! どうして急に……」
困惑した様子でサユリが問いかけるが、タツベイは相変わらずの様子。「自分に任せろ」と言わんばかりに胸を貼り、堂々とした様子でバトルフィールドに佇んでいる。
確かに、このバトルにおいてチャレンジャーに使用ポケモンの制限はない。極端に言ってしまえば、手持ちに連れられる上限である六匹でジムに挑んでも問題ない。サユリの手持ちも三匹全員が参加できる。
しかし、未だに殆んど共にバトルをした事のないタツベイをいきなりジム戦に参加させるのは抵抗があった。頭殻が未成熟の個体ならば尚更だ。その為、今回のジム戦ではバトルに参加させるつもりはなかったのだが――。
「……お? ひょっとしてそいつ、あの時のタツベイか? そうかそうか、お前さんが連れて行く事にしたんだな」
「あっ……えっと……そうなんですけど……」
タツベイはやる気だ。危ないから下がってと、とても言えるような雰囲気ではない。バトルの音を聞きつけて、居ても立ってもいられなくなったのだろうか。
「タツベイ? 無理してない? いきなりジム戦なんて……」
そう声をかけてみてもタツベイは考えを改めるつもりはないらしい。ブンブンと大きく首を横に降って、「心配するな」とアピールしてくる。
サユリは少し迷う。確かに少し危ないかもしれないが、だからと言ってタツベイの意思を拒むような事をして良いのだろうか。折角ここまでやる気になってくれているのだから、その思いを無下にするのは心苦しい。タツベイだって、戦いたいのだ。それならば。
「……分かった。頑張ろうタツベイ!」
サユリがそう声をかけると、タツベイは大きく頷いて答える。
そうだ。タツベイなら心配いらない。空を飛ぶ為に、あんなに高い所から飛び降りたりだってするのだ。度胸と勇気は誰にも負けない。そんなタツベイならば、例えジム戦でも切り抜けられる。
「さて……俺はどんなポケモンでも手加減はしないぜ? 行けエネコ」
先に動き出したのはカズマとエネコ。しかしウデッポウとのバトルでのダメージが残っているのか、エネコの動きは少々鈍い。それでもどんどん迫ってくるその様を見ていると、若干尻込みしそうになる。何せあの状態から逆転してウデッポウに打ち勝ったポケモンだ。
「“おうふくビンタ”だ」
「よ、避けよう! タツベイ!」
だからこそ、余計に慎重になる。
サユリの指示通り、タツベイは飛び退いて攻撃を回避しようとする。まだあまりバトルをした事のないタツベイの動きは、若干覚束無い。飛び退いたのは良いものの、上手く着地ができずにつまずきかけてしまう。
“おうふくビンタ”は短い感覚で何度も平手打ちを繰り返す技だ。初撃は躱せても、着地に失敗してバランスを崩してしまっては次の一撃を回避できない。タツベイがふらついているその隙に、エネコの“おうふくビンタ”が襲いかかる。
「タツベイ……!」
「よしっ。その調子だエネコ」
一度攻撃を受けてしまったら、ペースは相手に持って行かれてしまう。パンパンッと音を立てながらも次々とエネコの攻撃が通る。最後に一際大きく振りかぶり、その前脚をタツベイに叩きつけた。直撃したタツベイは大きく吹っ飛ばされて、ドサリと倒れ込む。
「だ、大丈夫……?」
「キュンっ!」
倒れ込んだタツベイを見て、サユリとデンリュウがほぼ同時に声を上げる。あそこまで派手に攻撃を受けたのだ。下手ををすれば今の一撃で戦闘不能になってしまった――ように見えた。
「タツ……ベイ……?」
「ほう。意外とタフじゃないか」
サユリ達の思いは杞憂に終わった。倒れ込んだタツベイだったが、すぐにピョンっと飛び起きたのだ。しかも殆んどダメージを感じさせない様子。確かに今の攻撃で身体にはいくつかの小さな傷を負ってはいるのだが、それもまるで気にしていないようだ。
サユリは胸を撫で下ろす。そして改めて実感した。タツベイだって戦える。それなのにサユリが弱気になってしまっては、本当の意味でその実力を発揮する事ができない。
タツベイがサユリの思いに答えようとしてくれているのなら、サユリだってその思いをしっかりと伝えようとする。トレーナーはただポケモンに指示を出しているだけじゃない。横に並んで、一緒に戦っているのだ。
「そうだよね……。よしっ……!」
小さく深呼吸をした後、サユリは前を向く。
タツベイのバトルはまだまだこれからだ。今の攻撃では、それほど大きなダメージを受けていない。対するエネコは、ウデッポウの攻撃によりかなり疲弊している。
このまま行けば――。
「さて、もういっちょ攻撃だ! エネコ、“おんがえし”!」
再びエネコの攻撃。今度は“おんがえし”。技の威力は“おうふくビンタ”よりも上。
どうする? サユリのタツベイはオスだ。しかも攻撃技は接触技しかない。つまり下手に攻撃すれば、また“メロメロボディ”を受けてしまう可能性がある。もしそうなってしまったら、ウデッポウの時のように殆んど攻撃できないままやられてしまうかも知れない。
しかし。対処法がないわけでもない。
(相手にメロメロになっちゃうんだったら、その前に……。次の一撃で倒せば……!)
そう。確実に、倒すしかない。
エネコが全身を使って体当たりしてくる。トレーナーの思いに答えて、その渾身の一撃を放とうとする。そしてタツベイはその攻撃を――回避せずに、正面から受けた。
「おっと……何だ避けないのか? これでそいつも……!」
「いえ……まだです!」
“おんがえし”を受け、宙を舞うタツベイ。そのまま地面に叩きつけられてしまうように見えた。
しかし。タツベイはまだ力尽きていなかった。大きく後方に飛ばされたタツベイだったが、空中で強引に体重を乗せて足から地面に着地する。踏ん張りが効かずに擦れる音を立てながらも地を滑るが、それでも力強く持ちこたえた。
「おいおい……これを耐えるのか……!」
タツベイはおもむろに顔を上げる。“おんがえし”によるダメージは大きいが、タツベイはまだ倒れない。その瞳の闘志は、まだまだ消えそうになかった。
そんなタツベイの様子を見て、カズマとエネコも驚きを隠せない。あの攻撃を受けて倒れないとは――。そのタフネスは流石のカズマも予想外だった。驚きのあまり一瞬だけ動きを止めてしまう。
「今だよ……! “ドラゴンダイブ”!」
標的であるエネコを視界に捉えたまま、タツベイは走り出した。闘志の宿る目つきでエネコを睨みつけながらも、身体全体を使ってタックルする。その威圧に押されてか、エネコは足がすくんでしまった。動きたくても、動けない。タツベイの渾身の“ドラゴンダイブ”が決まる瞬間だった。
「エネコ、戦闘不能! これでジムリーダーのポケモンは残り一匹となります!」
ウデッポウの攻撃で疲弊していたエネコは、この攻撃で力尽きた。ドサリと倒れたエネコは完全に意識を失っており、とてもバトルを続けられる状態ではない。
倒れるエネコ。下される審判のジャッジ。その一つ一つを確認して、サユリは始めて実感した。ジムリーダーのポケモン、その一匹を下す事ができたのだと。
「たっ……倒した……? やっ、やった! 倒したよタツベイ!」
「キュンキュンっ!」
サユリとデンリュウが歓喜の声を上げると、振り返ったタツベイが笑顔で答えてくれた。
そう。エネコを倒した。ジムリーダーを追い詰めたのだ。ウデッポウとタツベイ、二匹が頑張ってくれたから、こうして前に進む事ができている。サユリは感極まっていた。
しかし。まだ終わりではない。ジムリーダーには、まだ一匹ポケモンが残っている。寧ろここからが本番、とも言えるかも知れない。
「ありがとな、エネコ。ふぅ……正直ビックリだ。まさかあんな強行出るなんてなぁ……。リスク高すぎだぜ」
「でもっわたし……タツベイのこと、信じてましたから」
カズマはエネコをモンスターボールに戻す。彼は笑みを浮かべていた。
ここまでバトルを楽しめたのは久しぶりだった。このサユリと言う少女には、さっきから驚かされてばかりだ。ウデッポウの瞬発的なカウンター、タツベイの小さい身体から想像できない程のタフネス。そして何より、彼女とポケモン達の間にある強い信頼関係。手持ちに加えたばかりのタツベイがあそこまで懐いているのも驚きなのに、既にバトルでもお互いに強く信じあえる仲になっている。
あの少女にはきっと、ポケモンを惹きつける才能があるのだ。
だからこそ。カズマもこんなにもバトルを楽しめる。次はどんなものを見せてくれるのかと、ワクワクしてくる。それならば、こちらも全力を出し切らなければならない。
「けど……俺もまだポケモンは残ってる。そう簡単にバッジは渡さないぜ?」
「分かってます。でも……わたしだって負ける気はありません!」
「……いい返事だ。よっしゃ! こいつが俺の最後のポケモンだ!」
カズマが次なるポケモンを繰り出す。モンスターボールから出てきたのは、もふもふとした身体もポケモンだった。長い胴を持つポケモンであり、その体毛は焦げ茶と薄橙色の縞模様。四足歩行のポケモンだが体格は先ほどのエネコと比べるとかなり大きく、寝転がって並ぶとデンリュウよりも大きいくらいだ。
どうながポケモン、オオタチ。エネコと同じ、ノーマルタイプのポケモン。
「あの子がカズマさんの……」
可愛らしい容姿とは裏腹に、そのポケモンからはどことなく強い威圧感が感じられる。一目見ただけで、曖昧だけれどもサユリにも分かった。あのポケモンは、さっきのエネコよりもずっと強い。
「タツベイ……まだ行ける……?」
サユリがそう尋ねると、タツベイはニッと笑みを浮かべる。「当然だ」と、そう言っているかのように。
「そっか……。それじゃ……!」
「さぁ、全力でかかってこい! サユリ!」
「はいっ! 行こうタツベイ!」
小さく頷くと、タツベイは走り出す。ついさっきまでエネコとバトルしていたはずなのに、タツベイはまるで体力の消耗を感じさせない。相変わらずのタフネスだ。その勢いは衰えることを知らない。
「“ドラゴンダイブ”!」
加速して更に勢いを増したタツベイは、エネコの時と同じように威圧感を放ちつつもタックルしようとする。流石に一撃とはいかないだろうが、今はそれで十分だ。サユリにはまだデンリュウがいる。後続の彼女に少しでも繋げられれば、きっと勝利だって見えてくるはずだ。
しかし。
「向かい撃てオオタチ!」
あまりにもスマート過ぎて、一瞬何が起きたのか分からなかった。
バトルフィールドに響いたのは、ドスンと何かが激突する音。舞い上がる埃の中、倒れていたのは“ドラゴンダイブ”を使ったはずのタツベイだった。既に目を回しており、とても立ち上がれそうにない。
「なっ、なに……?」
何が。一体、何が起きたのか。サユリは今一度頭の中を整理してみる。
確かに、タツベイは“ドラゴンダイブ”を使った。しかしその攻撃はオオタチには通用しなかったのだ。しなやかに身体を捻らせて“ドラゴンダイブ”を回避、自らの尻尾を使ってタツベイを投げ飛ばす。そして信じられない程の跳躍力で宙を舞うタツベイの更に真上へと飛び込み、タツベイを床に向けて叩きつけた。
「タツベイ!」
「キュン!」
信じられない。一撃、しかも一瞬でオオタチはタツベイを下してしまった。今の攻撃は“たたきつける”か。
洗練された俊敏な動き。流石はカズマの最後のポケモン。一筋縄ではいかない。
「残念。“ドラゴンダイブ”は結構短調な攻撃だから避けやすいんだよな。過信は禁物だぜ」
カズマの言う通りだ。“ドラゴンダイブ”は相手を威圧して一直線に突進する技。つまりその“威圧”が効かなければ簡単に回避されてしまう。オオタチは自分より小さなポケモンの威圧感などまるで気にしなかったのだろう。だから通用しなかった。
「……ありがとう。タツベイ」
サユリはタツベイをモンスターボールに戻す。
彼はよく頑張ってくれた。猛攻を掻い潜り、エネコを倒してくれたのは金星だろう。オオタチには敵わなかったが、これでカズマの最後のポケモンとその動きの一部を確認する事ができた。
ウデッポウとタツベイ、二匹がここまで繋げてくれたのだ。
「さぁて……お前さんも最後の一匹だな。勿論、来るんだろ?」
サユリはくるりと振り向いてデンリュウを見据える。目と目を合わせただけで、その気持ちは感じ取れた。
「勿論……バトルは続けます!」
「へへっ……そうこなくっちゃ……!」
デンリュウの思いもサユリと同じ。全力で戦い抜きたい。ウデッポウ達が繋げてくれたものを無駄にしたくない。バトルに勝って、バッジを受け取りたい。
一人と一匹の気持ちは、重なった。
「デンリュウ……お願い!」
「キュウっ!」
鳴き声を一つ上げて返事をすると、デンリュウはバトルフィールドへと降り立つ。
サユリもデンリュウも、緊張の為か相変わらず心臓はドキドキしている。でも、その気持ちは以前までとは違う。緊張はあるが迷いはない。もう後ろを振り向いたりはしない。その澄んだ瞳で、しっかりと前を見ていた。
「行くよ……デンリュウ! “でんきショック”!」
「キュゥン!」
サユリの声がデンリュウに届く。鳴き声を上げて右腕を掲げると、その一点に電気が纏わり始めた。バチバチと音を立てつつも、電気がその右腕に収束する。そして掲げた右腕を振り下ろすと、蓄えられた電気が発射された。
刹那、強い発行と共に大きな電撃音。常人では到底視覚できない程の速度で、その攻撃が着弾する。
「なっ……!?」
カズマは息をするのも忘れそうになった。
バチッという轟音の直後、焦げ臭い臭いが周囲に立ち篭める。今の“でんきショック”で、床の一部が焦げてしまったのだろう。良く見ると焦げた部分からは煙も出ている。
だが、幸いにもオオタチにその攻撃が当たる事はなかった。どうやら命中精度はあまり良くないらしく、相手が勝手に外してくれたのだ。それは良かったのだが。
「外れちゃった……。で、でもっ! 今のは今までで一番勢いが強かったよ!」
「キュン……!」
今の技を見てそんな反応? あの少女達は、あれを見て何も不思議に思わなかったのだろうか。なぜなら、今のはどう見たって――。
「“でんきショック”の威力じゃねーだろ……ありゃ……!」
“でんきショック”はでんきタイプの技の中でも初歩中の初歩だ。バトルの経験が薄いでんきポケモンでも扱えるような技ではあるが、それ故に威力はかなり低かったはず。
それなのに、今のは一体何だ? あまりにも常識から逸脱している。“10まんボルト”にも匹敵する程の威力じゃないか。本当にあれが“でんきショック”だと言うのか。
「何モンだ……? あのデンリュウ……」
何にせよ、今は大事なバトル中だ。あれこれ考察するのは後にしよう。
威力が高いと言っても、精々“10まんボルト”くらいだ。“でんきショック”として見ると信じられない威力だが、でんきタイプの技という大きなくくりで見ればそれほど驚く事じゃない。対処は十分可能だ。
「よーし……もっと行くよ! “でんきショック”!」
再び“でんきショック”が放たれた。要領はさっきと同じ。右上に電気エネルギーを収束させ、それを一気に開放する。
強い発光。大きな電撃音。間違いない。先ほどの威力はまぐれなどではない。
「ひえぇ……スゲェ威力だな。でも……」
やはり命中率は低い。今の攻撃だって、オオタチとはだいぶ離れた所に着弾してしまっていた。
おそらく、まだデンリュウはあの技を使い慣れていない。放つ事はできているものの、制御は上手くできていないのだ。それどころか、自分の電気エネルギーに少し振り回されているかのような印象も受ける。
「命中率が低い“10まんボルト”……って所か。だったら……」
いくら威力が高くても、使いこなせなければ意味はない。当たらなければどうって事はないはずだ。それならば。
「ま、まだまだ……! でんきショッ……」
「オオタチ! “ふいうち”だ!」
デンリュウが“でんきショック”で追撃しようとしたその時。オオタチは動いた。床を蹴って走り出し、あっと言う間に加速する。目にも留まらぬスピードで、デンリュウに突進した。
“ふいうち”。相手の攻撃に瞬時に反応し、素早く迎撃するあくタイプの技。相手よりも一歩早く、かつ大きなダメージを与える事ができる。デンリュウが右腕に電撃を収束する前に、オオタチの攻撃は決まっていた。
「キュン……!」
「デンリュウ……!」
攻撃を受けたデンリュウはバランスを崩し、背中からドサリと倒れ込んでしまう。肺の中の酸素が押し出され、むせ返ってしまった。
「キュゥ……」
「だ、大丈夫……?」
咳き込みながらもデンリュウは立ち上がる。少し息苦しそうだが、バトル続行は可能な様子。深呼吸をした後、デンリュウはサユリ笑顔を作って見せた。
取り敢えずは安心だが、サユリの頬には一筋の汗が流れ落ちる。まさかここまで攻撃が当たらないとは、正直予想外だった。確かにでんきタイプの技を打てるようにはなった。しかし、それをバトルでキチンと使いこなせるかどうかは別問題な訳で。
「よーし、よくやったぞオオタチ」
反撃を警戒してか、“ふいうち”を一発当てるとオオタチは素早く後退していた。そのお陰で追撃等を受ける事はなかったのだが――。
「キュン……!」
デンリュウの表情にも焦りが現れ始める。
自分だって分かっている。技のコントロールができない。打つことはできるものの、思った方向に飛んでいってくれないのだ。打つことだけに精一杯で、細かく標準を合わせる所まで集中できていない。
これじゃ駄目だ。いくら技を打てたって、攻撃にならなきゃ意味がない。宝の持ち腐れだ。
「だ、大丈夫だよデンリュウ……! 落ち着いて打てばきっと……!」
「キュゥ……!」
「おっ……来るのか? 油断するなよオオタチ。どこに飛んでくるか分からないからな」
オオタチが警戒心を研ぎ澄ます中、デンリュウが技の準備をする。
右腕に纏う電気。それに加え、今度は左腕にも電気を収束させる。バチバチと音を立てて火花を散らし、時折一段と強く発光する。右と左。さっきの倍以上の電量だ。時間に比例して発光も強くなり、どんどん勢いが強くなっているのが見て取れる。
命中率が低ければ、もっと広い範囲に攻撃するしかない。それならば、多くの電気が必要だ。そう考えたデンリュウは、無理矢理にでも自らの電気エネルギーを外側に解放しようとしていた。
「お、おいおいマジかよ……さっきよりも強いじゃねーか……!」
「凄い……。よ、よしデンリュウ! そのまま……!」
そのまま“でんきショック”。無論、デンリュウもそのつもりだった。
しかし。
「えっ……?」
その時。まるでストッパーが取れてしまったかのようだった。
「キュゥウ!?」
一際大きなデンリュウの鳴き声。その直後、巨大な電撃音が轟いた。
思わず顔を背けてしまう程の眩い光が放たれると、デンリュウの中から大量の電気が溢れ出す。両腕だけだったはずの電気はいつの間にか膨れ上がり、既にデンリュウの身体全体を覆ってしまっていた。四散した電気が周囲の床に次々と着弾し、その度に眩い光と轟音が発生する。
「攻撃技……じゃねーよな。こりゃアレだな……」
デンリュウの変貌を前にして、カズマは冷静に状況を分析する。
あの様子。少なくとも“でんきショック”ではない。止め処なく溢れる自身の電気に振り回され、デンリュウは苦しんでいる。攻撃が当たらずに焦ったデンリュウは、もっと強力な攻撃をしようとして自らの電気エネルギーを限界まで高めようとした。その結果――。
「そんな……まさか……!」
苦しむデンリュウを目の当たりにして、サユリはとある光景がフラッシュバックする。それは、つい数日前の事。あのピカチュウとデンリュウがバトルをした時に起きた出来事。
「これって……あの時と、同じ……!」
あの時と全く同じ感覚。それをじわじわと感じてきて、サユリは動けなくなる。恐怖心と不安感、そして罪悪感が入り混じるあの感覚。震える身体を抑えながらも、サユリは一つ口にする。
「暴走……!」
爆発音が轟く。溢れる電気の勢いはどんどん強くなってきて、近づく事さえもままならなくなる。また一つ鳴き声を上げると、一段と強い電気が発射された。それが床に被弾する度に、爆発が起きている。
不測の事態に、審判も驚きのあまり目を見開いてしまっていた。最早バトルどころではない。既に何発かはオオタチに掠ってしまっている。今は何とか直撃は避けられているものの、このままでは危ない。
「オオタチ! クッ……このままじゃマズイな……。止めねーと……!」
カズマはボソリと口にする。しかしそうは言ったものの、正直難しい。近づく事もできないこの状況で、無理矢理押さえ込んで止めるのは不可能に近い。それならば遠距離からの攻撃で何とかするしかないのだが、それもあの電気に撃ち落とされては意味はない。あの電気よりも強い攻撃を打たなければ、状況は打開できない。
「あれよりも強い攻撃か……。もう“10まんボルト”とかそんなレベルじゃねーぞ……!」
しかし、そんな攻撃はそうそうない。それこそ、伝説級のポケモンかそれに匹敵する程でない限り――。
「デン……リュウ……」
サユリは立ち竦む事しか出来ずにいた。身体の震えが止まらない。足がすくんで動けない。
まただ。また、自分の所為でデンリュウが苦しむ事になってしまった。何が「落ち着いて」だ。焦っていたのは自分じゃないか。その焦りがデンリュウにも伝わり、その結果「何とかしなければならない」と言う強い使命感をデンリュウに与えてしまった。それに答えようとして、デンリュウは無理をしてしまったのだ。
「わた、しの……」
そう。全部、何もかも自分の所為。変われただなんて、そんなの思い上がり。何も変わってない。何も成長できていない。結局、自分はポケモン達を振り回すだけの存在なんだ。
数々の思いが、サユリの中を駆け巡る。けれども。
「違う……」
違う。違う、そうじゃない。納得なんかできる訳ない。こんなの絶対間違ってる。
何も成長できていない? ポケモンを振り回すだけの存在? そんなのただの言い訳だ。未熟さを認めたんだと無理矢理納得して、自分に言い訳して逃げてるだけだ。
駄目だ。逃げるだけじゃ、駄目なんだ。
「負けないで! デンリュウ!」
少女の声が耳に届き、デンリュウはボンヤリと目を開く。そこにいたのは、真っ直ぐな瞳でデンリュウを見つめるサユリの姿だった。しかもそれだけでない。一歩、また一歩デンリュウへと歩み寄ろうとしている。
「キュウ……?」
未だに溢れる電気は止まらない。それどころかまた強くなっている。このまま近づけば、巻き込まれる危険性だってある。
「おいっ……!」
カズマが慌てて声をかけるが、サユリは聞く耳持たない。足を止めず、ゆっくりとデンリュウに近づいてゆく。
「だい……じょうぶだよ、デンリュウ……。デンリュウは一人じゃない……。わたしがついてるから……。だから……! きゃっ!?」
ドンッ、とサユリの足元に電気が被弾する。驚いて身を引いてしまったが、直撃した訳ではない様子。しかし、今のはかなり危なかった。
「それ以上近づくな嬢ちゃん! 危険すぎる!」
カズマは声を張り上げる。しかし、サユリは止まらない。
「やめろったらやめろ! 死にたいのか!」
「やめませんっ!」
力強い一言。普段からあまり声が大きくないサユリからは想像できないくらいの音量。その勢いに押されてか、カズマは言いよどんでしまう。
「やめません……。わたし……デンリュウの事、信じてますから……!」
「サユリ……」
サユリはまた一歩前に出る。周囲には変わらず強い電撃。しかし、サユリは屈しない。いくら危険にさらされようとも、サユリは前に進む。デンリュウを、信じているから。
カズマの心境が少しずつ変化する。もしかしたら、彼女なら。誰よりもポケモンを思っているサユリなら、この状況を打開してしまうのではないか。そう思えるようになってきていた。
「逃げちゃダメ……。向き合わなきゃダメなの……!」
再びサユリの足元に電気が被弾する。しかし、今回は身を引かない。恐怖心なんて振り払い、一歩ずつ確実に進む。
「ごめんね、デンリュウ……わたしが余計な事言ったばっかりに……。わたしに答えようとして、頑張ってくれたんだよね……。苦しい、よね……。自分の中から凄い力が溢れてきて、しかも制御が効かなくて……」
「キュンッ……」
「でも、その電気……その力だって、デンリュウのものなんだよ……! デンリュウの中に眠ってた……デンリュウが持ってた力なんだよ……! それなら……デンリュウならきっと使いこなせるはずだよ! わたしは……ずっとそう信じてる……!」
暴走する力に飲み込まれそうになって、意識が朦朧としてくるデンリュウ。けれどもサユリの言葉だけは、しっかりと届いていた。
「だから……」とサユリは続ける。
「わたしは……絶対に諦めない……! だからデンリュウも……諦めないで!」
ドクン、と胸が高鳴るのをデンリュウは感じていた。
デンリュウはポケモン。サユリは人間。言葉は完全には通じないけれども、それでも伝わってくる。サユリの気持ち、彼女の思いが。
「キュウ……」
そうだ。こんな所で、諦める訳にはいかない。
自身の電気に振り回される身体を強引に動かし、デンリュウは力いっぱい地を踏みしめる。止め処無く溢れる電気を押さえ込もうとしているのだ。
大丈夫。これくらい、大した事ない。だって、これは自分の電気エネルギーなのだ。自分で制御できない訳がない。
「キュゥゥウ!」
デンリュウが鳴き声を上げる。
絶対に負けない。絶対に諦めない。信じてくれる人がいるから。デンリュウは頑張れる。その思いに答えられる。答えたい。だから、立ち止まる訳にはいかなかった。
その時。
流れが、変わった。
デンリュウから放れる電気。その量が、目に見えて減ってゆく。それだけではない。その身体を包んでいた巨大な電気が、みるみる収束されてゆく。その様子はまるで、デンリュウが電気を充電しているかのようだ。
「デンリュウ……?」
眩い光が、収まってゆく。電気が次第に収束してゆく様を見て、サユリはじわじわと実感する。デンリュウが、自らに打ち勝った。その電気エネルギーを押さえ込む事に成功したのだ、と。
「デンリュウ!」
涙目になりながらも、サユリは歓声を上げる。
やってくれた。あのデンリュウが、遂に。サユリは嬉しくて嬉しくてたまらなかった。そして心底安心した。心の片隅にあった不安感も払拭され、自然と笑顔が溢れていた。
「キュウ……?」
暴走が止まり、デンリュウも落ち着きを取り戻す。自らの身体を見て、彼女も状況を理解したらしい。
デンリュウの表情がパァっと明るくなる。そして歓喜の鳴き声を上げていた。
「“じゅうでん”で押さえ込むとはな……」
喜び合う一人と一匹を見て、カズマはボソリと呟く。
今のはおそらく“じゅうでん”だ。放出する自らの電気をその技で吸収し、押さえ込んだのだろう。まさか土壇場であんな事をやってしまうとは。
「へっ……へへ……ハッハハハ!」
不安と安堵が瞬時に切り替わり、カズマは肩の力が抜けてしまう。そして堪えきれなくなって、彼は吹き出した。
面白い。本当に、面白い。一体、彼女達はどこまで自分の想像を超えてくるのか。最早彼女達の行動は予測不能だ。でも、例えどんな事でも彼女達なら成し遂げてしまいそうな、そんな気さえしてしまう。無限の可能性。カズマはそれをサユリ達に見出していた。
「カズマさん、どうされますか? あんな事があっては、バトルは中止に……」
「いいや。続けるさ。お前さん達もそうしたいだろ、サユリ!」
不安そうな表情で確認する審判員だったが、カズマは即答。カズマの掛け声を受け、サユリ達もまた大きく頷いた。
「はい! まだバトルは終わっていません! 決着をつけましょう!」
「キュウ!」
ここまで来て、途中で止めるなんて事できる訳がない。今ここで決着をつけなければカズマもサユリも、そしてそのポケモン達も気が済まない。
「……分かりました。ジム戦、続行します」
審判員がそう宣言する。サユリとデンリュウ、そしてカズマとオオタチはすぐさま頭を切り替える。
まだバトルは終われない。どちらかが倒れて決着が着くその時まで。最後まで駆け抜ける。
「デンリュウ……!」
サユリが名を呼ぶと、デンリュウは頷いて走り出す。デンリュウは“じゅうでん”により身体中に電気を纏い、淡く発光している。その効果により、次に放つでんきタイプの技の威力が引き上げられる事となる。
「こっちも行くぜオオタチ! “おんがえし”だ!」
対するカズマのオオタチは“おんがえし”で応戦。エネコも使っていた技だ。
エネコと比べ、一度進化を経験しているオオタチの方が筋力も強い。当然、カズマへの懐き具合もバッチリだ。技の威力は、エネコのそれより遥かに大きい。
勢い良く突進するオオタチ。それに負けじと、進める足を早くするデンリュウ。二匹それぞれが一直線に駆け抜ける。真正面から、ぶつかりあう。
「そこだよデンリュウ! 一気に放電して!」
「キュウ!」
デンリュウの鳴き声が響き渡る。その次の瞬間、蓄えられていた大量の電気が解放された。
今までで最も強い発光。轟音と共に光と電気が膨張し、バトルフィールドを包み込む。サユリもカズマも、思わず目を瞑って腕で顔を覆ってしまう。
しばらくして炸裂音が徐々に小さくなり、光と電気も収まってゆく。
「ど、どうなって……」
サユリは恐る恐る目を開く。残留した電気がバチバチと音を立てる中、二匹のポケモンがお互いに向き合っている。と、その時、その片方がどさりと倒れ込んだ。
バトルフィールドにいた誰もが、それを見て一瞬何も言えなくなる。静寂の中、そこに立っていたのは――。
「オオタチ、戦闘不能! よってこのバトル、チャレンジャーの勝利とします!」
デンリュウは倒れていなかった。自分の足で、しっかりと立っていた。
バトルの勝利をすぐには実感できず、デンリュウはポカンとしている。それはサユリも同じだ。やがてジワジワと実感してきて、心の奥から感情が高まってきて。安心だとか、喜びだとか、そう言った感情が入り混じって、でも暖かかった。
自然と、サユリの足が動く。意識するより前に、デンリュウのもとへと駆け寄ってゆく。
「やった! やったよデンリュウ! わたしたち……勝ったんだ!」
「キュンキュゥン!」
サユリはデンリュウに抱きつく。デンリュウも満面の笑みを浮かべ、サユリに答えていた。
―――――
「ほれ。これがこのジムを制した証、カプセルバッジだ。受け取れ」
カズマが一つのバッジを手渡してくる。銀色でコイン状、そして真ん中にはカプセル剤をモチーフにしたエンブレム。昨日ユキが見せてくれたものと、瓜二つ。そう。これが、ジムバッジだ。
震える手で、サユリはゆっくりとそのバッジを受け取る。然程大きくないバッジで、重量もそれほどない。けれども、重量とはまた違う“重み”をサユリは感じていた。これこそ、ジムリーダーに勝利した証。
「あっ……ありがとうございます!」
「キュン!」
ガバっと、緊張の為かカクついた動きでサユリはお辞儀する。それに習って、デンリュウも頭を下げた。
そんなサユリ達の様子を見て、カズマは思わず苦笑する。バトルが続くにつれて慣れてきたと思っていたが、バトルが終わると再び緊張感に襲われたらしい。ガチガチに固まっているサユリを見ていると、何だか可笑しくなってしまった。
「えっ……!? どうして笑って……!」
「いやー、悪い悪い。ところで、お前さんはこれからどうするんだ? やっぱり、リーグ目指すか?」
カズマに笑われて再び赤面するサユリ。大して反省もしてない様子でカズマは返し、話題を切り替える。
赤面しながらも、サユリは考える。今回のジム戦だって、始めは力試しの為に受けようとした。しかしユキの話を聞いて、そして実際にバトルをしてみて。サユリの心境は変わっていた。
「リーグ……目指してみようかなって思ってます。行けるところまで……行ってみたいんです」
「……そうか。お前さんなら、結構良いところまで行けると思うぜ。頑張れよ」
「は、はいっ!」
サユリの表情が明るくなる。何せカズマはジムリーダーだ。ジムリーダーにそんな事を言われては、嬉しくなってしまうのも無理はない。
「それじゃ、次はどこのジムを受けるつもりだ?」
「えっと……。まずカルミアシティに行きたいと思ってるので、それで……」
「って事はユーカリシティ……みずタイプのジムか。あそこのジムリーダーは結構お転婆な嬢ちゃんだったな。デンリュウならタイプの相性はいいが、あの嬢ちゃんもかなりの実力者だからなぁ……。油断は禁物だぜ?」
「女の人でみずタイプの使い手……。分かりました。気をつけます」
みずタイプのトレーナー。確かに、単純なタイプの相性はサユリに分がある。しかし相手はジムリーダーだ。例え相性が良くたって、油断しているとあっと言う間にやられてしまう。気を引き締めて行こう。
「……それじゃ、わたし達はそろそろ行きますね。初めてのジムバトル……とっても楽しかったです!」
「おうよ。何か困った事が遠慮なく俺に頼れよ。俺はポケモンドクターだからな。ポケモンの怪我や病気なら何とかしてやるぜ」
「はい! ありがとうございます!」
そんなやり取りを最後に、サユリ達はポケモンジムをあとにした。
初めてのジムバトル。そこで初めての勝利を収めた。内気だった少女が、また大きく前進した瞬間。少女の思いとポケモン達の思い。それがいくつも重なり合って、大きな力になってくれた。
これから、少女には一体どんな出会いや困難が待ち受けているのだろう。でも。例えどんな困難が待っていようと、彼女とそのポケモン達ならきっと乗り越えられる。前に進める。
サユリ達の旅は、まだ始まったばかりである。
―――――
「ふぅ……」
サユリ達を見送った後。カズマは肩の力を抜いていた。
また負けてしまった。ここ最近だけでもこれで三回目。けれども、不思議と悔しい気持ちよりも嬉しい気持ちの方が大きい。期待できるトレーナーが増えれば増える程、胸が高鳴ってくるのだ。彼らがこれからどんな活躍を見せてくれるのか。それを考えるだけでもワクワクしてくる。
「……特にあの嬢ちゃん達だな。さっきの“ほうでん”、土壇場で始めて出したんじゃねーか……?」
カズマはサユリと彼女のデンリュウを思い浮かべる。
オオタチにとどめを刺したあの技は、おそらく“ほうでん”。やはり威力は常識外れに高かったが、あの感じはほぼ間違いないだろう。しかし、彼女達はあれが“ほうでん”という技であるとは認識していない様子だった。直前まで“でんきショック”を使っていた事を考えると、あの“ほうでん”は今までデンリュウは使えなかった技。つまり土壇場で編み出した技であるという事になる。
やはりあの少女達は、カズマの想像を大きく上回ってくれる。最早常識と言う枠には収まりきらない程。一体、彼女達はどこまで進んでくれるのか。本当に楽しみだ。
「お疲れ様です、カズマさん」
「おうっ」
そんな時。さっきのバトルの審判をしてくれていた女性が声をかけてきた。いつも通りの気の抜けた声で、カズマは答える。
因みに、この女性はポケモンドクターであるカズマの助手でもある。
「……さっきの“ふいうち”、迂闊でしたね。あれで“せいでんき”を受けなければ、バトルの結果は変わっていたかも知れないのに」
そして、物事をストレートに口にする人物でもある。
「うっ……それを言うなって。確かにちと気持ちが先立ったって言うか、ビビり過ぎたって言うか……」
「ビビってたんですか?」
「い、いやっ、ビビったっつーか……。はぁ……お前さん意外と毒舌だよな……」
「嘘がつけないだけです」
ズバズバと言葉を投げかけるその女性に、カズマもしどろもどろしてしまう。
確かに、あの“ふいうち”でオオタチがデンリュウの特性である“せいでんき”を受け、麻痺状態になってしまったのは確かだ。その麻痺が最も影響したのは、最後の攻撃。麻痺すると身体の自由が奪われ、動きが鈍くなってしまう。その所為でオオタチの“おんがえし”よりも先にデンリュウの“ほうでん”の発動を許してしまったのだ。
今思い返すと、本当に気持ちが先立ち過ぎてしまったと思う。あんな“でんきショック”を見せられて、動揺していたのかもしれない。
「それにしても……あのデンリュウ、何者なんでしょう? 持っている電気エネルギーの量が、平均的なデンリュウのそれとは大きくかけ離れていた気がするのですが……」
「あぁ……それなんだよな……」
カズマは考える。
サユリの連れていたデンリュウ。あのデンリュウは、一体何だったのか。深く考えれば考える程、余計に分からなくなってゆくような気がする。サユリに聞いておけば良かったと、ちょっぴり後悔していた。
しかしやはり、あの電気エネルギーは並のデンリュウと比べても少し異常だったのではないだろうか。いや、それだけではない。あの感じは――。
(あの電気の感じ……どこかで……)
心当たりがあるような、無いような。カズマは一人、そんなモヤモヤとした感覚を感じていた。