9. 信頼、トレーナーとポケモンと
木漏れ日の林道を抜けたその先。森の中に一際目立つ開拓されたそこに、ミズヒキタウンは存在した。
スミレタウンやヒイラギシティと比べると、かなり小さな田舎町とも呼べる印象。街いっぱいに高層ビルなどの大きな建物が建ち並ぶヒイラギシティを見た後だと、ここは随分遠くまできてしまったのではないかと錯覚しそうになる。コンクリートやアスファルトで道路などは形成されているものの、それは土埃で薄汚れており、どことなく古臭い。建物も背が低い物が殆んどで、それも民家が大半を占めている。人の数も少なく、当然車通りもない為、聞こえてくるのは鳥ポケモンのさえずり声や風で揺れる草木の音ばかりである。
騒がしいヒイラギシティとは打って変わって、ここミズヒキタウンは静かで落ち着いた町であった。
エドガーと別れた後。日がだいぶ西に傾いた時間帯に、ようやくサユリはミズヒキタウンに到着した。
朝早くにヒイラギシティを出発してから、休憩を挟みつつも歩き続けて数時間。途中、アシッド団の襲撃を受けたとは言っても、ミズヒキタウンに到着する頃にはもうこんな時間だ。
遠い。そして交通の便も悪い。出発する時間帯がもう少し遅かったら、そしてアシッド団達にあれ以上足止めをされてしまっていたら、日が沈むまでに到着できなかったかも知れない。体力の少ないサユリなら、尚更その可能性も高かっただろう。
取り敢えず無事に到着できた事に安堵しながらも、サユリは伸びをしていた。
「ふぅ……やっと着いたぁ……」
「キュゥ……」
サユリの真似をしてか、デンリュウも伸びのような動作もする。腕が短い為、届いていないが。そんなデンリュウの様子を見て、サユリはクスリと笑っていた。
「さて……どうしようかな」
ミズヒキタウンに着いたのは良いものの、今後の予定を決めておかねばならないだろう。
サユリがミズヒキタウンに向かっていた理由。それはとある絶景を一度見てみたかったからだ。リョウラン地方の中ではかなり有名な、非常に珍しい絶景スポット。そこにあるのは、ここミズヒキタウンでしか見ることができない、貴重な光景。サユリが行きたかったのは、『星空の洞窟』と呼ばれるスポットだった。
星空の洞窟とは、洞窟内のとある場所の天上が、まるで満天の星空のように見える事から由来してそう名付けられた洞窟だ。無論、本当に星がそこにある訳ではない。その光景を作り出しているのは、リョウラン地方でのみ採れるとある鉱石である。『月下光石(げっかこうせき)』と呼ばれるそれは、元々暗闇で発光するという特殊な性質を持つ石だ。それが複数、暗い洞窟内の天上に採掘されないまま剥き出しになっている。発光する月下光石がいくつも剥き出しになっている所為で、まるで星空のように見えるのだ。
洞窟の中なのに、星空の下にいるかのような気分を味わえる。サユリの好奇心はそれに引っ張られ、是非一度訪れてみたいと強く願うようになっていた。態々ミズヒキタウンに来たのも、全ては星空の洞窟の為。それならば、一刻も早くそこに行ってみたい。
だが、一つ問題がある。それは、現時刻が少し遅すぎる時間帯だと言う事だ。流石に周囲が暗くなり過ぎては、洞窟内に入れてもらえない可能性もある。今から洞窟に向かって無駄足になるくらいなら、最初からポケモンセンターで一泊して明日訪れる、と行動した方が無駄がないように思える。長時間歩いた為身体に疲れも溜まっているし、そうする事が最善ではないのだろうか。
「……うん。そうしよう」
小さく頷きつつも、サユリはそう口にする。方針は決まった。
今はポケモンセンターに向かおう。部屋がいっぱいになってしまうのも困るので、早いところ部屋を取っておくべきかも知れない。
そう思い、デンリュウを連れて歩きだそうとした、その時。
「るりっるりぃ!」
「キュウ……?」
ドンッと音を立てて、デンリュウに小さな何かがぶつかってきた。驚いたデンリュウが鳴き声を上げて、視線を足元に向ける。青くて丸い小さなポケモンが、そこにいた。
「……ん? どうしたの?」
デンリュウの様子に気づいたサユリも、視線を向ける。青い小さなポケモンは、きょとんとした様子でサユリとデンリュウの顔を見比べていた。
おそらく、ちゃんと前を見ずに走っていた所、デンリュウに激突してしまったのだろう。突然の出来事に目を丸くしているようだ。
「どうしたんだろ、この子……? 迷子かな?」
「キュン?」
サユリは首を傾げる。
おそらく野生のポケモンではないだろう。周囲が森に囲まれている町とは言え、こんな所まで野生のポケモンが入り込んで来るなんて考えにくい。それならば、誰かトレーナーのポケモンに違いない。
「おーいっ!」
サユリが考え込んでいると、そんな風に誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。反射的に振り向いてみると、そこにはこちらに走ってくる少年の姿が。
歳はサユリと同じくらいだろうか。身長はサユリより少し高めであり、髪は栗色。七分丈のパーカーとズボンを身につけている。顔つきはかなり可愛らしく、顔だけ見ると女の子と勘違いされてしまうのではないだろうか。声の高さや男物の服を着ている所から、れっきとした男だと分かるのだが。
「こらっルリリ! 勝手に行っちゃダメだって言っただろ!」
「るぅり?」
息を切らせながらも、ルリリと呼ばれたそのポケモンを叱る少年。しかしルリリは恍けたような鳴き声を上げて嘯いていた。
この少年が、ルリリのトレーナーなのだろうか。どうやら、かなり仕付けに手を焼いているようだが。
「ごめんね。ルリリが迷惑かけたみたいで……」
「……えっ? ううん。大丈夫だよ」
「キュウ!」
小さく頭を下げて謝る少年だったが、サユリは首を横に振ってそう答える。デンリュウも気にするなと言わんばかりに鳴き声を上げていた。だが、少年はこのままではまだサユリ達に申し訳ないらしい。
「ほら! ルリリも謝って!」
「るりぃ?」
「ルリリ! 恍けない!」
「る……るりぃ……」
少年が叱りつけると、ビクリと身体を震わせたルリリが涙目になる。下唇を噛み締めて、ブルブルと震え出した。そして、
「るぅりぃぃ!」
大声を上げて、ルリリは泣き出してしまった。
「えっ……えぇ!?」
その様子を間近で見たサユリがひどく慌て始める。目の前で急に泣き出されたのだから、サユリの性格上それは仕方がないと言えば仕方ない。オロオロとしながらも、サユリは慌ててルリリに駆け寄る。
「え、えっと……ほら! 気にしなくても大丈夫だよ? わたしもデンリュウも別に怪我とかしちゃったって訳でもないし……」
「キュ……キュン!」
「るりぃぃぃぃ!」
サユリとデンリュウが揃って宥めようとするが、ルリリの泣き声はますます大きくなるばかりだ。
これには参った。こんな時、一体どうすればいいのか。不器用なのが災いして、頭の中がごちゃごちゃになってきた。ただオロオロするだけで、どんな言葉をかければいいのかも分からない。
だが、ルリリのトレーナーである少年は、かなり落ち着いた様子だった。
「ど、どうすれば……」
「大丈夫だよ」
「……へっ?」
「僕はもう騙されないぞルリリ。嘘泣きだって分かってるんだからね!」
「う……嘘泣き……?」
少年が口にした言葉を聞いて、サユリはチラリとルリリの方へと目をやる。冷や汗をかいて硬直するルリリの姿が目に入った。
「る……るりぃ……」
苦笑いを浮かべるルリリ。ジリジリと後ずさりしながらも、少年から逃げようとしている。さっきまで目尻に浮かべていたはずの涙は、いつの間にかなくなっていた。
「ルリリ!」
「るりっ!」
少年に名を呼ばれたルリリが、慌ててデンリュウの陰に隠れる。チラッと瞳を覗かせながらも、ルリリは少年の熱が収まるのを待っているようだった。そんな様子を見て、少年も思わずため息をつく。
無邪気で好奇心旺盛、おまけにイタズラ好きであるルリリと、その世話に手を焼く少年。これが、彼らとサユリとの出会いであった。
―――――
少年の名は、シンヤ。ここミズヒキタウン出身で、歳はサユリやユキと同じ十四歳。まだポケモントレーナーになってから日は浅いらしく、数日後にミズヒキタウンを旅立つ予定との事。やはりリョウラン地方を回るつもりらしい。その目標は、ポケモンと心を通わせるようなポケモントレーナーになる事。彼曰く、ポケモントレーナーである兄の影響を受けているのだとか。その兄のお陰もあって、ポケモンの知識はサユリのそれを上回っている。因みに彼の兄は現在、ミズヒキタウンにはいないらしい。何やら色々と忙しいのだとか。
シンヤのパートナーは、みずたまポケモンに分類されるルリリ。特徴的なのは丸い尻尾で、自分の身体にも匹敵する程に大きい。ポケモン図鑑の説明によれば、そこには成長に必要な栄養がたっぷり詰まっているとの事。ノーマルとフェアリーの二つのタイプを併せ持つポケモンであるが、まだ幼い為にバトルはあまり得意ではないらしい。
取り敢えず自己紹介を済ませたサユリは、シンヤから色々と話を伺っていた。ここミズヒキタウンの事、ポケモンの事、そしてトレーナーの事。同い年であり、かつ似たような目標を持っていると言う事もあって、会話は思いのほか弾んだ。引っ込み思案なサユリと違って、シンヤが積極的に話題を提供してくれた、と言う事もあったが。
「へぇ……じゃあルリリはお兄さんから譲り受けたポケモンなんだね」
「うん。でも全然僕の言う事聞いてくれなくってさ。ホント参ってるよ」
デンリュウに戯れつくルリリを見ながらも、シンヤが半ば諦めがついたような口調でそう言う。
ルリリからしてみれば、ただ遊びたいだけなのだろう。その気持ちばかりが先行してしまって、結果としてシンヤの意思とは違う行動を取ってしまう。ルリリだって、シンヤを信頼していない訳でない。信頼しているからこそ、取ってしまう自由な行動。シンヤはそれに振り回されてしまっていた。
「でもやっぱり、サユリがちょっと羨ましいよ。デンリュウもウデッポウもサユリの事を凄く信頼してて、サユリについて行ってる。それって凄い事だと思うよ」
「凄い事、か……」
シンヤのその言葉を聞いて、サユリは考えさせられる。
凄いだなんて、自分には似合わない言葉じゃないか。確かに、デンリュウもウデッポウもサユリを信じてくれている。サユリについて来てくれている。でもサユリは――彼女自信は、それに答えてられていない。まだまだ自分は弱いから、デンリュウ達の力になれない。
だから、もっと強くなる。強くなりたい。そうする事で、少しでもデンリュウ達の気持ちに答えられるのなら。迷わず突き進みたかった。
「……サユリ? どうかした?」
「……ううん。何でもないよ」
ボーっとなって考え込んでいたサユリ。シンヤに声をかけられるが、多くは語らず首を横に振る。今はまだ、この気持ちを誰かに話すべきではない。今は心の奥へと仕舞っておくべきだ。そんな気がした。
何も言わずに、サユリ達は自分のポケモン達を眺める。
相変わらず戯れつくルリリ。少し離れた所で、何やら自分の触覚をいじっているウデッポウ。そして、ルリリと戯れるデンリュウ。
「……そういえば」
ふと何かを思い浮かべたシンヤが、サユリに言葉を投げかける。
「デンリュウと一緒にヒイラギシティでポケモンバトルをした、って言ってたよね?」
「うん。そうだけど……」
「でもデンリュウは“たいあたり”しか使えなくて、それで結局負けちゃったと……」
「……うん」
サユリは小さな声でそう答える。
あのバトルの内容は、思い出せば思い出すほど胸が締め付けられる。自分の力がなかったせいで、デンリュウに怪我をさせてしまった。デンリュウがどんな技を使えるかすら把握していなかったから、まともな指示も出せなかった。
確かに勝てる相手ではなかった。しかしだからと言って、あの内容はあまりにも酷い。その原因は、サユリにある。
「でもその後、あのデンリュウがどんな技を使えるか調べたんだよね? 一体どんな技が使えるの?」
「えっ……と……。それは……」
確かにあの後。サユリはデンリュウの使える技を調べた。調べ方は簡単。デンリュウに何でも良いから覚えている技を使って貰えばいい。
ポケモンは基本的に、最大で四つまで技を覚えるとされている。生まれつき覚えている技。自らの経験で自然と覚える技。人間が何らかの手助けをして取得する技。ポケモンが覚える技は様々だが、どんなポケモンでも覚えられる技は最大四つ。
最終進化系に属するデンリュウであれば、技を四つ覚えていても不思議ではない。しかもデンリュウはでんきタイプ。でんきタイプの技こそが、最も得意となるタイプであるはずなのだ。普通に生活していれば、でんきタイプの技は自然と身につけているもの。
しかし、このデンリュウは――。
「“たいあたり”と……“なきごえ”……」
「うんうん。あとは?」
「……それだけなの」
「……え?」
シンヤは言葉を失いかけた。サユリの言っている事が、少し信じられない内容だったからだ。
デンリュウが覚えている技は、“たいあたり”となきごえ”だけ? そんな事、あるわけない。だって、どっちもあまりにも初歩的な技じゃないか。生まれたばかりのポケモンでも、大半が使える技。まさか最終進化系であるデンリュウが、そんな技しか使えないなんて事――。
「ちょっと待って……! “たいあたり”となきごえ”だけって……。それって本当……?」
「……多分……。何度試しても、その技しか使えないみたいだし……」
そう。このデンリュウはでんきタイプの技を使えない。それどころか、他の技も初歩的な技しか使えないと言うのだ。
最終進化系のポケモンだと言うのに、使える技は二つだけ。しかもそのどちらもが、初歩中の初歩とまで言われている技。でんきタイプの技をまるで使えないのもそうだが、その程度の技しか使えないなのて。そんな事、普通ありえない。
(でも……あの時のあれは……)
サユリは一つ思い返していた。それは、あの時。黒髪の少年とのバトルの際、デンリュウピカチュウ達に向けて放った技。
技名までは分からないが、あれはでんきタイプの何かしらの技なのではないのだろか。しかもあの時、デンリュウは明らかに電撃を纏っていた。
しかし、それ以降デンリュウはあの技を使えていない。それどころか、電撃すら纏えていないのだ。
あれは、偶然だったのだろうか。ただ暴発して、たまたま出ただけだったのか。その真相は、未だに分かっていなかった。
「う〜ん……。何か原因があったりするのかな? 例えば、何かしらの出来事がトラウマになって、技を出せなくなった……とか……」
「どうなんだろ……」
サユリは出会う以前のデンリュウの事は何も知らない。確かに、デンリュウはバトルはあまり得意ではないのだと感じてはいたが――。
しかし、本当にトラウマが原因なのだろうか。だがもし本当にそうなのだとしたら、そもそもペリッパーやピカチュウとのバトルの時みたいに、あそこまで積極的にバトルに参加できないような気がする。
それに、デンリュウのあのぎこちない動き。あれはまるで、根本的な戦い方を知らないような動きだった。
「デンリュウ……。もしかして、わたしと出会う前から殆んどバトルをした事がなかったんじゃないかな? だから、技の出し方を知らないだけで……」
「つまり経験が少ない……って事? でも、それはちょっとおかしいんじゃないかな……」
おかしい? 一体、何がおかしいと言うのだろうか。
「デンリュウは最終進化系のポケモンだよ? 確かに、バトルが苦手であんまりバトルをしていない個体でも、進化は成長の過程でほぼ必ず起こる現象だけど……。でも、そこまで成長した個体だったら、自然と技を打てるようになるはずなんだ。サユリの言う通り、もし経験が少ないのが原因で、デンリュウが技を使えないのだとしたら……」
「だと……したら……?」
「あまりにも早すぎる段階で、急激に進化しちゃったとしか……」
サユリは息を呑んだ。シンヤの言った事が、かなり的を射ているような気がしたからだ。
早すぎる段階での進化。つまり本来すべき経験を積まずに、何かしらが原因となってデンリュウまで進化してしまったと言う事だ。ひょっとすると、あのデンリュウは実はかなり幼い個体なのではないのだろうか。それこそ、まだ進化するはずがないくらいに。
「いや、でもあくまで僕の想像だよ? 実際にそんな現象が起きるかどうかなんて、よく分かんないし……」
「うん……。でも、何か特別な原因があるはずだよね。あの子だけにある、例外が……」
ルリリと戯れるデンリュウ。その表情は純粋無垢で、一片の曇りも感じられない。姿を見ただけでは、どこにでもいる普通のデンリュウではないか。
けれども、あのデンリュウは普通ではない特別な何かを持っている。それが何のかは、今のサユリには分からない。もしかしたら、それが原因となって危険にさらされるような事もあるかもしれない。それこそ、アシッド団の襲撃を受けた時のように。でも。
「でもわたしは……例えデンリュウがどんな存在だったとしても、一緒に歩いていくよ。一緒に前に進むんだって、そう決めたから」
「……そっか」
サユリの思いを聞いて、シンヤは静かに答える。
そう。デンリュウがどんな存在であれ、そんな事は関係ない。ずっと一緒だって、そう約束したから。どんな苦難が待っていようと、一緒に乗り越えてみせる。サユリの心は一つだった。
サユリの心境を感じたシンヤ。彼だって、ここまで聞いたら黙っていられない。少しでも力になりたい。そんな思いが、心の底から溢れ出してきていた。
「サユリ! 僕も協力するよ!」
「えっ……? 協力?」
「そう! 協力! 実はちょっと考えって言うか……気づいた事があるんだよ。もしかしたら、デンリュウがでんきタイプの技を使えるようになれるかも……」
「ほ、本当っ!?」
サユリは思わず声を上げてしまった。何事かと思ったのか、デンリュウとウデッポウが不思議そうな顔でこっちを見ている。
デンリュウがでんきタイプの技を使えるようになれるかも知れない。もしそれが本当なら、是非とも力を借りたい。デンリュウだって、本当は望んでいるはずだ。でんきタイプの技を、使えるようになりたいと。でもデンリュウは、今までずっと上手くできずにいた。ずっと技を使えずにいたのだ。それが克服できるのならば、これ以上のチャンスはない。
「……お願い、シンヤくん……。デンリュウに力を貸してあげて!」
「勿論! でもデンリュウだけが頑張るだけじゃ駄目だよ。サユリ自信も頑張らなくちゃね」
「う、うん!」
グッと拳を握って、ぎこちないながらもサユリは意気込む。
頑張らなければならない。元からそのつもりである。さっきも言ったはずだ。デンリュウと一緒に前に進む、と。デンリュウが頑張るのなら、サユリもそれに負けないくらい頑張る。
絶対に、強くなるんだ。
「えっと、でも今日はもう遅いから明日……。サユリ達は星空の洞窟にいくんだっけ?」
「うん。そのつもりだよ」
「じゃあその後。僕も星空の洞窟まで行くよ。そしたら技の練習をしよう」
「うん! ありがとう!」
そう約束した後、サユリはシンヤと別れた。
周囲もだいぶ薄暗くなり、街灯や建物にも光が灯り始めている。日が沈んだせいか、辺りの気温もだいぶ涼しくなってきた。アスファルトで覆われた都会であるヒイラギシティとは違って、森の中に存在するミズヒキタウンは夜になれば昼の暑さもだいぶ和らぐ。過ごしやすかった。
明日。星空の洞窟に行って、その後またシンヤと会う。練習をすれば、デンリュウがでんきタイプの技を使えるようになるかも知れないのだ。今からでも気持ちが高ぶってくる。
「よーし……頑張ろうね、デンリュウ!」
「キュウ!」
デンリュウと共に、サユリはもう一度意気込む。
どんどん暗くなり、夜も深くなってゆくミズヒキタウン。そこで一晩過ごす為、サユリ達はポケモンセンターに向かって行った。