ポケットモンスター デスティニー 〜憎しみを砕く絆〜 - 第5章:交錯する意思
5‐6:揺れる炎


 地鳴りのような音が響き、一泊遅れて足元が揺れた。走って移動していたハイク達も、その揺れに巻き込まれてバランスを崩しそうになる。転倒しそうになったのだが、何とか踏みとどまる事ができた。
 ここはおくりび山の内部。数々のポケモンのお墓が並ぶ地帯。そんな所にまで響く程の大きな地響きだ。やはり、山頂で何か争い事が起きている。それも生半可なものではない。生きるか死ぬか、一進一退の攻防戦。

「急いだ方がよさそうだな……」
「うん……。早く行こっ」

 周囲に人の姿は見当たらない。おそらくさっきの轟音を聞いて、皆慌てて逃げていったのだろう。かえって好都合だ。これで無関係の人々に被害が広がらずに済む。
 しかし、モタモタして良い訳ではない。未だ地響きが起きているということは、まだ戦っている人やポケモンがいると言う事だ。ハイク達が行って何ができるか分からないが、それでも見て見ぬふりをする事なんてできない。何かを守る為に戦っている者がいるのなら、少しでもその人達の力になりたい。
 それに、ひょっとするとローブ達――そして研究所から消えたハイクのポケモンとも会えるかも知れないのだ。

「……っ! お前は……!」

 そう思っていた矢先、その人物は現れた。
 身に纏うのは紅いローブ。しかし、今はフードを被っていない。その長い赤髪と、女性らしい素顔が露わになってしまっている。その表情は――無表情。素顔を見ても、未だその気持ちは掴めない。
 そして彼女の傍らにもう一人。こっちはフードを深く被った、茶色いローブ姿の男だ。紅ローブの部下か何かだろうか。

「へっへっへ……。本当にあの人の言った通りになりましたねぇロサさん。のこのことチャンピオン達のお出ましですぜ」

 ロサ。それが紅ローブの名前なのだろうか。
 茶ローブの言葉を聞いても、そのロサと言う女性はあまり大きな反応は見せない。ただ、小さく頷くだけ。茶ローブの事を少しばかり鬱陶しく思っているようにも見える。

「ハイク……。さっきの地鳴りは、やっぱりこの人達が……?」
「いや……」

 レインが耳打ちしてくる。それに習って、ハイクも小声で答えた。

「多分、別にもう一人以上いる。さっきの地鳴りは、もっと上の方からだったと思う」
「それじゃ……」
「あぁ。きっとこの人達は、自分達の計画に邪魔が入らない為の……」

 いわゆるガーディアンと言う事か。計画を邪魔されない為に、山頂へ向かう者をここで食い止めるのが彼女らの役割。
 ロサ達はちょうど次の階へ向かう為の階段前で佇んでいる。このままでは山頂まで辿り着く事ができない。何とかして、強引にでもここを突破しなければ。

「本当に……貴方達はどこまで愚かなの?」
「えっ……?」

 すると唐突に、ロサがハイク達に声をかける。彼女が何を言っているのか分からず、ハイクは一瞬だけ唖然とする。

「邪魔をしなければこれ上危害を加えないって、私はそう忠告したのに……。貴方達はどんどん踏み込んでくる。残酷な真実を知ってもまだ……私達の邪魔をする」
「ふざけるな! 俺の……いや、俺のだけじゃない。沢山のポケモン達を操って、あんなくだらない事をさせて……! 見過ごせる訳ないだろ!」

 そうだ。くだらない。あんな事をして何になる? あんな沢山の人やポケモン達を巻き込んで、一体何を果たそうとしている? そんな事をしてまで、奴らは何を目指しているのか。
 いや。例えどんな目的があるにせよ、あんな事をして許される訳がない。

「そうです……! あなた達のしている事を許す訳にはいきません! 何を企んでいるのか知りませんが、今すぐそこをどいて下さい! まだ上に誰かいるんでしょ……?」
「……そう言われて素直に退くと思う?」
「だったら……!」

 そう言うとレインはモンスターボールを取り出し、すぐさま一匹のポケモンを繰り出す。
 キノガッサのノココ。モンスターボールから出るなり、彼は拳を構えてローブ達を睨みつける。軽くステップを踏み、いつでも飛びかかれるような状態だ。

 ローブ達が簡単に退いてくれるとは思えない。そんな事は最初から想像できる。それならば、力づくで退いてもらうしかない。

「どうやらやる気みたいですぜ……」
「そうね……」
「ロサさん、ここは俺に任せてくだせぇ」
「……貴方に?」

 レインが繰り出したキノガッサを見て、茶ローブがどこか気が抜けそうな口調でそう提案する。それを聞いてロサは怪訝そうに声を上げた。

「ロサさんがわざわざ手を汚す必要はありませんぜ。心配いりません。俺はこう見えてもあなた達の下で働く身。並のトレーナーなんぞには負けません」
「……分かった。そこまで言うなら、貴方に任せてみるわ」
「へっへっへ……。そうこなくっちゃ」

 相手にするのが面倒になったのか、ロサは少々投げやりな口調で茶ローブの提案を承諾する。
 どこかカンに障る笑い声。それを一つ上げると、茶ローブはポケモンを繰り出した。かなり大きな体格を持つポケモン。身体の大半が白い体毛に覆われており、その姿は宛ら雪男のようだ。
 じゅひょうポケモン、ユキノオー。草と氷タイプのポケモン。そのポケモンが現れた途端、周囲の気温が一気に低くなった。その特性、“ゆきふらし”の影響である。一度(ひとたび)その特性が発動すれば、かなり局地的であるが霰を降らすことができる。

「ユキノオー……アイツらは一人ずつ来るのか。なら、こっちは二人で一気に……」
「いや……ハイクは先に行って。ここは私達だけでやる」
「なんだって……?」

 ローブ達が一人ずつ来るのなら、こちらは二人で一気に片付ける。ハイクがそう思った矢先、レインが遮るように提案した。

「あの紅い人としたっぱさんは私達が引き付ける。一刻も早く山頂に向かったほうがいいでしょ?」
「でもっ相手は二人だぞ。お前一人じゃ……」
「大丈夫っ! ここは私達に任せて先に進んで。……あっ。でもこういう事言う人って、大抵失敗するんだっけ? えっ……と、何て言うんだっけこういうの……フラグ?」

 ハイクが本気て心配している中、レインの様子は軽い。傍から見れば不謹慎。しかし、これはレインなりにハイクの気持ちを落ち着かせようとしている行為だ。

「そんな……お前達を置いて……」
『おいハイク! ひょっとしてオイラ達の力を舐めてるのか? こんな奴らに負ける訳ないだろ?』
『そうだよ! あんなローブ達のポケモンなんかオレ達だけで楽勝だって!』
「ノココ……ルクス……」

 ノココとルクス。二匹そろって笑顔を浮かべる。その笑顔と二匹の言葉がハイクの心に響き渡る。
 決心がついた。

「……分かった。ここは任せるよ。でも……」
「……でも?」
「無理だけはするなよ。もし死んだりなんかしたら……絶対に許さない」
「はいはい。気をつけまーす」

 そんなやり取り最後に、ハイクは飛び出した。
 そうだ。カナズミシティの時だって、レインは二人のローブを相手してたじゃないか。だから今回だって、心配する必要はない。レインならば、ハイクに言われるまでもなく切り抜けてくれる。
 そう信じたい。信じるしかない。

「おっと。通さねぇぜ」

 鼻で笑いながらも、余裕そうな口調で茶ローブはそう言う。それもそうだ。無謀にもハイクはほぼ正面から突っ込んでいる。当然、ユキノオーならその進路を遮るのも容易い。
 仁王立ちするユキノオー。そのまま走り抜けようとするハイク。そして、

「ノココ! “マッハパンチ”!」

 その次の瞬間。驚異的な瞬発力で飛び出したノココが、あっと言う間にハイクを追い抜く。瞬きを一つするよりも速く、その拳をユキノオーに叩きつけた。あまりにも速く、そして突発的な攻撃。ユキノオーはその直撃を許してしまっただけでなく、驚いて一瞬身を引いてしまう。
 進路が開けた。

「ハイク! 行って!」

 その一瞬の隙に、ハイクは一気に駆け抜けた。ユキノオーが体勢を立て直すその前に、ローブ達の守りを突破したのだ。
 これには流石に茶ローブも余裕な調子ではいられない。

「なっ……! このガキ……!」

 大きな顔をした手前、こうも簡単に突破される訳にはいかない。ユキノオーを仕向け、ハイクの進行を止めようとしたのだが。

「……待って。今はこの子の相手をするのが先決でしょ?」

 ロサにその考えは否定されてしまう。当然、茶ローブはそれに反論する。

「し、しかしロサさん。いいんですかい? このままじゃ辿り着いちまいますよ」
「このままチャンピオンを追いかけたら、結果としてこの子達の勝手を許す事に繋がるのよ。それじゃ本末転倒。それに……チャンピオンと言えどまだ子供よ。子供一人で何が出来るって言うの?」
「で、ですが……!」
「じゃあ質問。このままチャンピオンを追いかけるけど結局追いつけず、しかもこの子まであそこに辿り着いてしまう事と、ここで確実にこの子を仕留める事。貴方ならどっちを選ぶ?」

 確かにロサの判断は妥当だろう。本来の手持ちポケモンを持っていないチャンピオンに突破された所で、大して支障はない。それよりも、そのチャンピオン並みの実力者であるレイン。彼女の方を重要視すべきだろう。

「はぁ……了解です。こっちを仕留めて見せましょう」

 渋々、と言った様子で茶ローブは向き直る。ユキノオーもまた、自分を妨害した忌々しいキノガッサを睨みつけていた。

 一人。今回ばかりは完全に一人だ。カナズミシティの時は、近くにハイクも一緒にいた。しかし今回は違う。
 いざこうしてローブ達を前にすると、レインにも徐々に恐怖心も芽生えてくる。怖くない訳がない。心細くないなんて、そんな事がある訳ない。本当は、ちょっとでも気を抜くと身体が震えてきてしまいそうだ。
 だけれども、逃げ出す訳にはいかない。ここでレインが逃げたら、ローブ達が何をしでかすか分からない。分からないからこそ、ここで止めなければならない。

「ハイク……そっちは任せたよ……」

 そんな呟きを残して、レインはレインの戦いに臨んでいた。



―――――



 外は霧に包まれていた。
 そこそこ濃い霧だ。一応数メートル先まで見渡せるものの、あまり快適とは言えない。足元に注意して進んでゆく事にした。
 おくりび山は多くのお墓が並ぶ内部と、山頂へと続く外の山道の二つに分かれている。まず麓から内部へと入り、そのまま登山して途中で外の山道へと出る。ハイクの向かうべき山頂は、この外の山道からでないと辿り着く事ができない。

 標高が高くなるにつれて、気温は低くなってゆく。上着越しでも突き刺さる寒さを感じながらも、ハイクは足を止める事なく進み続けていた。
 チラリと後ろを振り向いて見ても、ローブ達が追ってくるような気配はない。レインが引きつけてくれている。だからハイクは、こうして一直線に山頂まで駆け抜ける事ができる。

「振り向いちゃダメだ……。今は一刻も速く山頂を目指さないと……」

 また爆発音が起きた。それは明らかに、さっきよりも近くなっている。
 もう少し。もう少しで、山頂だ。

「あっ……!」

 長い石段を登りきったその時。ハイクは慌てて近くの石柱の陰に身を潜めた。
 そこには何匹かのポケモンの姿があった。おそらく、さっきの爆発はあそこにいるポケモン達によるものだろう。
 一匹はあまり見た事がないポケモン。頭が三つもあるように見えるドラゴン。

「あのポケモン……。レインがミシロタウンで買ったぬいぐるみの……」

 そう。確かあのぬいぐるみのポケモン、ジヘッドが進化した姿だ。名前はサザンドラ。

「でもあれは……!」

 この距離からでも分かる。あのサザンドラは、かなり疲弊してしまっている。力なくうずくまり、もう限界が近いように見える。戦況は悪いと言わざるを得ない。
 そのサザンドラの近くには、これまた満身創痍のヨノワール。あの様子じゃ、少なくともサザンドラとヨノワールは敵同志ではない。二匹で力を合わせて一匹のポケモンに食らいつくが、それでもまるで敵わないのだ。一体、サザンドラ達が相手しているのはどんなポケモンなんだろう。

「あれっ……? あそこにいるのって……」

 と、その時。うずくまるサザンドラに駆け寄る一人の少女の姿が目に入る。

「ミシェルさん……!?」

 長いブロンド髪。小柄な体格。間違いない、ミシェルだ。あのサザンドラは、ミシェルのポケモンだったのか。

「どうしてここにミシェルさんが……? でも、とにかく助けないと……!」

 この位置からだと死角になって、彼女が誰と戦っているのかは分からない。しかし、かなり危険な状態である事は確かだ。このまま放ってはおけない。

『ハイクさん! 聞こえますか……?』
「……ヴォル? どうした?」
『ボクを出して下さい! ミシェルさん達を助けます……!』

 モンスターボール越しに、ヴォルがそう提案してきた。
 ハイクは一瞬だけ躊躇う。ミシェルのサザンドラはかなりの力量を持っているはず。そのサザンドラでさえ、あんなにも追い詰められている。そんな奴の相手をヴォルにさせるのは危険だ。そう思った。

『危険だからダメだ、なんて言わないで下さいよ……? ボクだって誰かの力になりたい……いつまでも弱いままじゃないんです! お願いします……!』
「だけど……!」

 だけど、やっぱり危険すぎる。そんな言葉を口にする前に、ハイクは言いよどむ。
 カナズミシティの時と同じだ。今のヴォルには、強い意思がある。どんな言葉でも揺れ動かない、確固たる決意がある。そんなヴォルに、ハイクは押されてしまう。
 確かに、危険かも知れない。でも、ヴォルだって戦えない訳ではない。ヴォルだって、誰かを守れるようになりたいのだ。それならば。

「……分かった。行こう、ヴォル!」
『はいっ!』

 ハイクはヴォルのモンスターボールを手に持ち、石柱の陰から飛び出す。
 そうだ。カナズミシティの時だって、ヴォルは頑張ってくれた。117番道路の時だって、彼はあんなにも奮闘してくれたじゃないか。だから大丈夫だ。ヴォルならば道を切り拓いてくれる。彼の決意を見て、自然とそう思えるようになっていた。

「“かえんぐるま”だ!」

 今まさにサザンドラ達に襲いかからんとするポケモンに向けて、ハイクはモンスターボールを投げた。その中から飛び出したポケモン――ヴォルが、すぐさま指示通りの技を打つ。
 全身が激しい炎に包まれ、そのまま縦回転して突っ込む技。“かえんぐるま”によって、標的のポケモンは一瞬だけ動きを止められた。その隙に、ハイクはミシェル達へと駆け寄る。

「ミシェルさん! 大丈夫ですか……!?」
「えっ……ハイク、さん……? やはり来ていたのですね……」
「やはり……?」

 疲労の為かぐったりとした表情を見せるミシェル。返ってきたのは意外な言葉だった。
 やはり、と言う事はハイクがここに来るのを知っていたのか。いや、予想ができたのだろう。
 キンセツシティから逃してくれたのはミシェル本人だ。彼女はハイク達が118番道路へと行ったのを知っている。それならば、そちら方面にあるおくりび山を訪れているのではないか、と予想するのも不思議ではない。
 問題は、彼女の表情だ。ぐったりとした表情の裏に見せるのは、希望だけではない。ハイクと言う助けが入っても、完全には喜べずにいる。おそらくミシェルは、心の片隅ではハイクの登場を望んではいなかった。そう感じられる。

「あっ……ハイク君? 来てくれたんだ」
「……え? この声……」

 と、その時。聞き覚えのある声で話しかけられて、ハイクは反射的に振り向く。向けた視線の先、ヨノワールの傍らにいたのは、やはり見覚えのある女性。

「フヨウさん……! そうか……フヨウさんだったんですね……!」

 そう。ホウエン四天王の一人として数えられるポケモントレーナー。フヨウだったのだ。
 フヨウの故郷はここおくりび山の付近だ。当然、この場所は彼女にとって縁の深い地。たまたま帰省していた所、異変に気づいて駆けつけたと言う事か。

「さっきまでの地響きや爆発音……ここでバトルしてた音だったんですね」
「……やっぱりかなり響いてた?」
「ええ、まぁ……。麓にいても聞こえるくらいには」

 「あちゃー……」と言いつつも、フヨウは自分の後頭部を掻く。やはりポケモンのお墓が多く並ぶ場所だけあって、あまり騒音を立てない方が望ましいのだろう。にも関わらずあの地響きと爆発音だ。自責の念に駆られてしまうのも無理はない。
 しかし、フヨウばかりが悪い訳じゃないだろう。諸悪の根源は、今まさに向き合っている人物とそのポケモン。

「お前がフヨウさん達をここまで……!」

 ポケモンの方は、ハイクも良く知っている種だ。このポケモンを使うトレーナーと、一度バトルした事もある。顔の大きなバッテンが特徴的なそのポケモンは、てつあしポケモンに分類されるメタグロス。タイプは鋼とエスパー。
 そして、そのポケモンを連れているトレーナーと言うのが――。

「黒い……ローブ……? ツツジさんが言っていた……!」

 服装は真っ黒なローブ姿。体型から見ておそらく男性。そして、傍らにメタグロスを連れたトレーナー。ツツジが言っていた特徴と一致する。次はおくりび山で何をしようとしているのだろうか。

「何が目的だ……? どうしてこんな事……!」

 ハイクが問いかけるが、黒ローブは何も答えない。少しも反応すら見せない。極端に寡黙なのか、それともハイクの話など聞く気もないのだろうか。
 何だか気味が悪い。今まで出会ったローブ達とは、違った何かが感じられる。心の奥に引っかかる、奇妙な違和感。

「(何だ……? 俺は……この人に会った事がある……?)」

 有り得ない。そんな事、ある訳がない。けれども、なぜだか初対面とは思えない。どこかで会った事あるような、そんな気がする。
 漠然とした感覚だけれども、どうにも無視できない。一体、この人は誰なんだ。

「ハイク君! 多分、その人の目的は紅色の珠と藍色の珠!」
「紅色と……藍色……?」
「そう! そこの祭壇に祀られている宝珠のこと!」

 ハイクが記憶の中を探っていると、黒ローブの後方を指差しながらもフヨウがそう声をかけてくる。目を凝らして見てみると、確かにそこには祭壇が。紅色に輝く物体と藍色に輝く物体も確認できる。
 聞いた事がある。おくりび山の山頂。そこにある祭壇に祀られている二つの宝珠。それにはホウエン地方にまつわる超古代ポケモンを目覚めさせ、また鎮める力があるのだと。
 成程。つまり奴らはその超古代ポケモンを復活させ、手に入れようとしていると言う事か。

「それなら……何としても阻止しなければなりませんね……」

 この黒ローブと以前にどこで会ったのかは分からない。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
 ローブ達が超古代ポケモンを善用するとは思えない。今までのポケモンのように、強引に使役して悪用するに違いない。そもそも、眠っている超古代ポケモンが復活してしまったら、何が起こるか分からないのだ。それならば、みすみす宝珠を持っていかれる訳にはいかない。

『ハイクさん……!』
「うん……分かってる」

 ヴォルがチラリとこちらを振り向く。彼がこの状況で何を求めているのか。それは、目を見れば何となく分かった。

「フヨウさん、ミシェルさん。ここは俺達に任せて、二人は少し休んでいて下さい」
「えっ……それって……!」

 ハイクの提案。驚いたフヨウは目を見開く。
 当然の反応だろう。たった一人と、その手持ちポケモンだけであの強大な存在に立ち向かうのだと言うのだから。

「ダメです! そんな事、認める訳にはいきませんわ! わたくし達二人で戦っても敵わない相手ですのよ!? それなのに……本来の手持ちポケモンを連れていないあなたが戦っても勝てる訳が……!」
「……あぁ。それでさっきあんな顔してたんですか」
「えっ……?」

 ついさっき、ミシェルはハイクの姿を見てどこか陰のある表情を浮かべていた。それはハイクの身を案じての事だったのだ。自分達が二人がかりで戦ってもまるで敵わないトレーナー。そんな奴を相手にして、今のハイクとそのポケモンでは無事ではいられない。そう思い、心配してくれていたのだろう。
 だけど。

「大丈夫です。ミシェルさん達が戦ってくれたお陰で、少なからず奴らも疲弊しています。全くの無傷な訳がありませんよ。寧ろかなり追い込めているはずです。ここまで来れば……あとは俺達だけで十分です」
「そんな……だからって……!」

 ミシェルは未だに引き下がろうとしない。しかし、いくら何を言われようとハイクは考えを変える気はなかった。
 ここまで来て、引き下がれる訳がない。このまま奴を放っておいたら、他にどんな被害が出るか。想像するだけでも恐ろしい。だからこそ、黙って見過ごす訳にはいかないのだ。

「ヴォル……行けるな?」
『はい……いつでも!』

 黒ローブに向き直りつつも、ハイクはヴォルにそう確認する。背中から炎を吹き出して、ヴォルは頷いた。
 黒ローブは何も言わずに、ヴォル達へと指を指す。彼の傍らにいたメタグロスが、おもむろに前に出た。どうやら彼らもやる気である。

『(ボクの……ボクの力がどこまで通用するかは分からない……。だけど……!)』

 ギリっとヴォルは歯ぎしりする。
 本当は、どこまで戦えるか分からない。もしかしたら、全くバトルにならず一方的にやられてしまうかもしれない。そう思うと、少し怖くなってくる。
 でも。いつまでも、弱いままは嫌だった。もっと強くなって、誰かを守れるようになりたい。もっと皆の力になりたい。だから。

『ボクは……負けない!』

 ヴォルの背中から吹き出る炎の勢いが、より一層強くなった。

absolute ( 2015/02/21(土) 17:48 )