5‐5:紅色と藍色
おくりび山の山頂には、二つの珠を祀る祭壇がある。
一つは、紅色の珠。燃える炎のような鮮やかな輝きを放つ、赤い珠。もう一つは、藍色の珠。水を彷彿とさせる淑やかな輝きを放つ、青い珠。ホウエン地方の伝説と深い関わりがある二つの珠。大地と海、それぞれの化身を目覚めさせ、それぞれの化身を沈める力があるという。用途によっては世界の均衡すらも乱しかねない、危険な宝珠。おくりび山の山頂は、そんな二つの珠を守る役割もある。珠を悪用し、化身を目覚めさせてしまうような事がないように。
「…………」
霧の濃い山頂。紅色と藍色が輝く祭壇。その前に佇むのは、黒い服装をした一人の人物。
その身に纏うのは、真っ黒なローブ。しかもフードを深くかぶり、その素顔を晒さぬようにしている。身長もそこそこで、その体格から考えて男性なのだろうか。
一言も声を発しない黒ローブ。何を考えているのか、何の為にここに来たのか、一体何がしたいのか。それら全てがまるで読み取れぬ程に、その男からは何も感じられない。ただ、何も言わずに二つの珠を眺めているだけ。
と、その次の瞬間。黒ローブはおもむろに二つの珠に手を伸ばした。
この男の目的は、宝珠の回収。そう言う命令だった。この二つの珠があれば、自分達の計画ももう一段階上へ行ける。また一歩前へ進める。この二つの珠を使って化身を――『グラードン』と『カイオーガ』を――。
独特の輝きを放つ二つの珠を、その男は祭壇から取り外そうとする。紅色の珠と藍色の珠、その二つの輝きが黒ローブの陰に隠れる。おくりび山の山頂から、二つの輝きが消え去りそうになる、その時。
「アナタ……そこで何しているの?」
彼の手が宝珠に触れるか触れないかのところで、何者かに怪訝そうに声をかけられる。黒ローブが振り向くと、そこにいたのは一人の女性だった。
黒髪の短髪で、その頭には大きな花飾り。健康的な褐色肌をしており、その雰囲気も活発的である。活発的、であるのだがその裏には何やら現実離れしたようなどこか変わった雰囲気も感じられる。この世のものではないような、ちょっぴり不気味で神秘的な感じ。しかし取っ付きにくい訳ではなく、寧ろ誰とでも仲良くできそう。そんな少し変わった人だった。
彼女の名は、フヨウ。ポケモントレーナーである。しかし、ただのトレーナーではない。ホウエン地方における『四天王』。その一人に当てはまる程の超凄腕のトレーナー。
「っ! なるほど……どうりで山のゴーストポケモン達がいつもより騒がしいと思ったら……そう言うことだったのね」
目の前の男の服装を見て、フヨウは何かを察したらしい。一言も発しない気味の悪い黒ローブを前にしても特に臆することはなく、寧ろ少し威圧的である。
彼女は知っているのだ。この黒い服装の男が、どう言った人物なのか。
「アナタが噂のローブの一員……。今度はおくりび山が標的ってこと?」
おくりび山はフヨウにも縁の深い場所だ。フヨウは幼い頃からこの地のゴーストポケモン達と共に過ごしている。一緒に遊んだり、時には喧嘩をしたり、長い日々を過ごす内にやがてゴーストポケモン達と意志の疎通ができるようになったと言う。だからこそ、分かるのだ。
山のポケモン達が怯えている。この黒ローブの手によって、この静かな山の平和が乱されそうになっている。そんな事、フヨウが黙って認める訳がない。
「紅色の珠と藍色の珠……それを使って、アナタは一体何をするつもりなの?」
黒ローブは何も答えない。果たしてフヨウの声がちゃんと耳に届いているのか、それすらもよく分からない。
「何も喋らないつもり? だけど……」
黒ローブが何を考えているのかは分からない。けれども一つはっきりしている事がある。このままコイツを放っておいたら、おくりび山――いや、ホウエン地方が危ない。
フヨウはモンスターボールを取り出す。すぐさまそれを展開して、中のポケモンを繰り出した。
二メートルを越える背丈を持つポケモンだった。頭部にあるのは一つの目。ずっしりとした身体と比較しても大きな手。そして胸部には目を彷彿とさせる模様に、腹部には大きな口のような器官。
てづかみポケモン、ヨノワール。ゴーストポケモン使いである、フヨウのエース。
「アナタはここでアタシ達が止める!」
パートナーであるヨノワールと共に、フヨウはそう宣言する。
ここで止めなければならない。少なくとも、あの宝珠を持っていかれる訳にはいかない。七年前の悲劇を繰り返さない為にも、二つの珠を守り抜かねばならないのだ。
ヨノワールを繰り出してフヨウが臨戦態勢を取るのを確認すると、黒ローブも一つのモンスターボール取り出す。その中から出現したのは、無骨な外見のポケモン。ヨノワールと比べると背丈は小さいが、その質量は倍以上。そんな巨大な身体を支えるのは、四本のアーム。特徴的なのは、頭部の正面にある大きなバツ印。てつあしポケモン、メタグロス。
ホウエン地方に生息するポケモンの中でも、指折りの強さを持つポケモン。しかしフヨウは、そんなポケモンを前にしても屈しない。相手がどんなポケモンを出してこようとも、フヨウ達は全力で戦うだけだ。
「紅色の珠と藍色の珠……。絶対に守ってみせるからね、おばあちゃん……」
―――――
ポケモンセンターへと運ばれたラティアスは、ハイク達がお墓参りから戻ってくる頃にはだいぶ元気になっていた。
アクアの推測通り、彼女が急に倒れたのは栄養失調による衰弱が大きな原因だった。あのまま更に衰弱してしまっていたら危なかったが、そこは流石ポケモンセンター。この段階程度なら、短時間の治療で直ぐに良くなれる。担当の女性医師の治療の甲斐もあって、今やラティアスは支障なく動ける程まで回復していた。
「でもホッとしたよ。元気になってくれて」
ポケモンセンターの一室。ポケモン用のベッドの上に横たわるラティアスに、ハイクはそう声をかける。回復したとは言え、ラティアスはついさっきまで意識を失っていた状態だ。今日一日くらいは、安静にして寝ていた方がいいだろう。
レインには少しの間ロビーで待っていてもらう事にした。まずは、言葉が分かるハイクだけでラティアスの話を聞く。
『別に……あんたに心配される筋合いはない』
しかしそのラティアスは、素っ気ない態度でプイッと顔を背けてしまう。やはりまだ人間を認めてはいないのか。
『……強情だな。もう少し素直になったらどうなんだ?』
カインにそう言われるが、ラティアスは何も答えようとしない。そんなにすぐ人間嫌いを直せと言われても難しいのだろう。彼女はまだ、完全にハイクを信用した訳ではない。
と、その時。ハイクはとある事に気がつく。
「……あれ? 何か目元が赤くないか?」
『う……うるさい! 別に、何でもないから!』
ついさっきまで泣きじゃくっていた所為か、ラティアスの目元は赤い。それに気づいたハイクが理由を尋ねようとするが、ラティアスは慌てて顔を隠してしまった。理由を知らないハイクは、ただ首を傾げるばかりである。
目を覚ましてからと言うもの、ラティアスの人間嫌いは相変わらずだが多少は距離が近くなってきた気がする。ついさっきまでは人間を見る度に襲いかかってきていたのに、今は大人しくしてくれているのだ。一緒にいてくれたカインが説得してくれたのか、それともハイクの言葉を分かってくれたのか。それはまだ分からないが、ハイクは少し嬉しかった。ほんの少しだけ、ラティアスとの距離も縮まってきているような気がしていた。
「……ラティアス、教えてくれ。一体何があったんだ? お前の兄さん……どうしたんだ?」
確かに、まだ信用は足りないのかも知れない。けれども、少しでも事情を話してほしい。どうしてそこまで人間を恨むようになってしまったのか。一体、何が原因なのか。彼女の兄――ラティオスに何があったのか。
『……アイツらは私達に突然襲いかかってきた』
答えてはくれないと、そう思っていた。けれども、ラティアスは意外とすんなり話し始めてくれた。ハイクとカインは揃って口を閉じ、ラティアスの話を聞く。
『アイツらは多分、最初は私達を捕まえようとしてたんだと思う……。でも兄さんと私が抵抗して、加減して攻撃してくるアイツらのポケモンを蹴散らしちゃったから……。最終的にアイツらは私達を障害だって判断したんだ……。ポケモン達が急に強くなって……』
ラティアスはあの時の光景を思い浮かべる。捕獲のために敢えて加減していたポケモン達が、本性を剥き出す瞬間。背筋が凍るような感覚に襲われたのをはっきりと覚えている。
『私は戦うのとか苦手で……だからあっと言う間に追い込まれて……』
そうだ。あの時は殆んど抵抗できなかった。まさにされるがまま。ポケモン達の攻撃を次々に受けて、やがてラティアスは瀕死直前まで追い込まれてしまった。
『私がやられて、それでもアイツらは攻撃を止めようとしなかった。アイツらは……ただ普通のバトルをしてたんじゃない……。私達を、本気で殺そとしていて……』
あの人間達はあまりにも非情だった。障害と判断したから、厄介な事になる前に消す。ラティオスとラティアスが邪魔になったから、これ以上面倒な事になる前に排除する。そんな捻れた価値観を持っていたのだ。
『そうだよ……あの時、本当は私が死ぬはずだったんだ……! でも……兄さんが……私を庇って、それで……』
“いやしのはどう”と言う技がある。波導を浴びたポケモンの傷を癒し、ある程度体力を回復させる技。ラティオスは傷ついたラティアスを助ける為に、その技を使ってくれた。でも、その直後。再び襲いかかってきたポケモンからラティアスを守る為、自ら盾になって――。
『兄さん……兄さん、が……!』
あの瞬間がフラッシュバックして、ラティアスは思わず口を抑える。恐怖心が鮮明に蘇ってきて、身体の震えが止まらなくなった。
“いやしのはどう”で回復した直後で、まだ上手く動けないラティアス。そのラティアスに襲いかかってくるポケモン。ラティアスを守る為、盾になるラティオス。そしてその直後の――鮮血。
『私……私の所為で……あっ……ああ……!』
「ラティアス……!」
錯乱しかけるラティアス。それを目の当たりにしたハイクが、ポンっと肩に手を置きながらもそう声をかける。
「ごめん……無理に思い出さなくていいよ」
『えっ……?』
「不謹慎、だったよな。いきなり首を突っ込もうとするなんて……。俺が悪かったよ」
ハイクに優しく声をかけられる。ラティアスの身体の震えは止まっていた。
ラティアスは困惑した。どうして震えが止まったのか。どうして落ち着けたのか。ついさっきまで人間を嫌っていた自分が、人間の言葉を聞いて安心してしまう何て事――。
いや、違う。何か、違和感がある。
『何……なの……あんたは……?』
「何って……俺は別に……」
『あんたは……本当にニンゲンなの……? 私達の言ってる事が分かるし、それに……何かが、根本的に違うような……』
「ひ、酷いな。俺は紛れもなく……」
そこで、ハイクの脳裏にとある言葉が浮かび上がってくる。
転生者。キンセツシティでタクヤが口にした言葉。
タクヤは自分の事を転生者と名乗り、そしてハイクも同じ存在だと言った。人の身でありながら、ポケモンと会話ができる存在。けれども、本当にそれだけなのだろうか。転生者とは、本当はどういった存在なのだろうか。
もしかしたら。最早ハイクは、人間ではなくなっているのではないのだろうか。
『ハイク……?』
突然難しそうな表情を浮かべるハイクを見て、不審に思ったカインが声をかけてくる。しかしハイクは、それに気づく事もできずにいた。
ハイクは少し不安になりつつあった。自分は、一体何者なのか。転生者とは、結局何なのか。白ローブはいずれ分かると言っていたが、その答えは未だに見えていない。本当に人間じゃないのだとすれば――。
そこまでハイクが考えた、その時。
ドンッ――!
「……えっ? 今、何か……」
例えるなら、鉄球が岩石を粉砕する音だろうか。どこか遠くでそんな音が響いた気がする。聞き間違いかなと思ってカイン達の様子を見てみると、彼らもハイクと同じようにソワソワし始めている。主にラティアスが顕著だ。
『今……変な音が……!』
『……あぁ。聞き間違いじゃない。今のは……』
どうやら気の所為ではなかったようだ。しかし、今のは一体何の音なのだろうか。おくりび山の方から聞こえてきた気がするが。
「(まさか……)」
嫌な予感がする。まさかとは思うが、またローブ達によるものなのか。
しかし、仮にそうだとしても、今回は何が目的なのだろうか。奴らが狙うのは、強いポケモンが多くいるポケモンジムのような施設ではないのか。
何にせよ、ハイクがすべき事は一つ。
「ちょっと……様子を見てくるよ」
『……なら俺も行こう』
「いや。カインはラティアスの事を頼む。念のため……何が起きるか分からないから」
『……分かった。だが、本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫だよ。アクア達もいるし。アクアの実力、カインはよく知ってるんだろ?」
『そう、だな……。了解した』
そんなやり取りを最後に、ハイクは部屋をあとにする。まだラティアスには聞きたい事があったのだが、今はさっきの妙な音の確認が必要だ。この妙な胸騒ぎが、杞憂に終わってくれるといいのだが――。
「あっ、ハイク。ラティアスどうだった?」
ロビーを通りかかったハイクに声をかけてきたのは、彼の帰りを待っていたレイン。この様子だと、どうやらさっきの音には気づいていないらしい。他の人達を見ても、それは同じだった。あの部屋にいたハイク達にしか聞き取れない程の大きさの音だったのか。
「ラティアスは大丈夫。一日安静にしてれば完治するみたいだよ。……それよりさっきの音、聞こえたか?」
「……音? 何の事?」
やはり聞こえてなかったか。だとすると、このポケモンセンターから離れた場所――例えば、おくりび山の山頂付近から聞こえた音である可能性が高い。
「さっき何かがぶつかるような音が聞こえたんだ。もしかしたら……おくりび山で何かあったのかも知れない」
「えっ……まさかローブの人達が……!」
「まだ分からないけど、その可能性も……」
あくまで可能性があるだけだ。しかし、もしその予感が当たっていたら――。
「だったら、早く止めにいかないと……!」
「うん……! ラティアスの事はカインに任せてある。行こう……!」
ハイクはレインと共に、ポケモンセンターを飛び出した。
―――――
「あれは……!」
おくりび山の上空。サザンドラの背中に乗っているミシェルが見たのは、立ち篭める砂埃だった。
砂煙の中、時折禍々しい黒い光のようなものが見え、その直後に爆音が轟く。あの黒い光は、おそらくポケモンの技。悪タイプかゴーストタイプの技によるものだろう。
あそこでポケモンバトルが行われている。ミシェルは思わず息を呑んだ。
「まさか既に誰かがローブと……? サザンドラ、お願いしますわ……!」
おくりび山の山頂を目指し、ゆっくりと降下してゆくサザンドラ。
かなり激しいバトルだ。着陸場所を間違えれば巻き込まれかねない。安全でかつ現場から近い場所を身長に選択し、上手い具合に着地しようとする。煙が晴れたその一瞬の隙をついて、サザンドラは素早く急降下した。
「うっ……! あ、ありがとうございます……サザンドラ……」
ミシェルはサザンドラから飛び降りるが、上手く着地できずに尻餅をついてしまう。鈍い痛みで思わず顔をしかめながらも、ミシェルは立ち上がった。
「いたっ……い、いや……痛がってる場合ではありませんわ……」
気を取り直し、ミシェルは油断なく周囲を見渡す。この砂埃――ここでバトルが行われているのは確かだ。おそらく、ゴーストタイプか悪タイプの技が使えるポケモンがいる。
ふと正面をよく見てみると、砂埃の中うずくまる大きな何かの影が見えた。あれは、ポケモン? 形はどこか人に近いような気もしたが、よく見ると足のようなものが見当たらない。ゴーストタイプのポケモンなのか。
「あれは……ヨノワール?」
その影の正体がヨノワールだと気づいたのは、ミシェルが少し接近した時だった。砂埃と霧の所為で視界が悪かったが、この距離まで来ればよく分かる。しかもヨノワールの傍らには、トレーナーと思しき人影が。
「大丈夫ですか……!?」
あの人影はローブではない。それを確認したミシェルが、ヨノワールとそのトレーナーに向かって駆け出した。
あの様子では、ただのポケモンバトルではなさそうだ。真剣勝負、ではあるのだが、大会などのような雰囲気とは違う。敗北するのは許されない、極限状態での攻防戦。少しでも気を抜けば、重いプレッシャーと緊張感に押しつぶされそうだ。
「あれ……? アナタは……?」
「わたくし、国際警察に所属しております、ミシェルと言う者です。ローブ達を追ってここまで来ましたの。えっ……と」
「あっ、国際警察の人なのかな?」
ヨノワールのトレーナーは女性。しかも見覚えがある。確か、かなり有名な人物だったはずだ。ミシェルは自らの記憶を探る。
「……フヨウさん、ですわね。ホウエン四天王の……。ここで、一体何が……?」
「多分、アナタが追ってるって言うローブの人が……」
そう言いながらも、フヨウは前方を指差す。その示す先に目を向けると、そこに居たのはメタグロスを連れた黒いローブを羽織る人物だった。
ミシェルの頬を、一筋の汗が流れ落ちる。やはり、ハンサムは正しかった。本当に、おくりび山にローブが現れたのだ。藍色の珠を強奪し、グラードンを復活させる為に。
「……フヨウさん。あなたのヨノワールは……」
「……うん。アタシ達も必死になって戦ったんだけど……強いよ。あの人とメタグロスは」
ヨノワールはかなり大きなダメージを受けていた。まだ立ててはいるものの、限界は近い。
フヨウは四天王だ。当然、そのバトルの腕も並のトレーナーを凌駕している。そのフヨウさえも難なく追い込むとは――。あの黒ローブ、ヘタをすればチャンピオンクラスの実力者ではないだろうか。
「フヨウさん、手短に説明します。まず……えんとつ山で眠っていたグラードンの姿が消えた、との事ですわ」
「えっ……グラードンが!?」
「えぇ。おそらく、ローブ達はグラードンを復活させるつもりです。あの方は藍色の珠を狙ってきたのですよね?」
「うん……。あ、いや……多分、紅色の珠も狙ってる」
「紅色の珠も……!?」
まさか、グラードンのみならずカイオーガまでも復活させるつもりなのか。それでは、まるで七年前と同じではないか。マグマ団とアクア団、二つの組織が激突したあの時と。
「わたくし達も戦いますわ! あの方に宝珠を渡す訳にはいきません!」
「あ、ありがとう助かるよ……! 正直、ちょっとキツかったんだよね……」
フヨウとヨノワールの様子を見ると、どのくらい激しいバトルを繰り広げていたのかが伝わってくる。ポケモンのみならずフヨウの姿もボロボロで、既に何度ポケモンの技に巻き込まれそうになったのだろうか。息もだいぶ乱れており、体力もだいぶ消耗しているのが分かる。
こんなの、ポケモンバトルじゃない。少なくとも、あの黒ローブはポケモンバトルだと認識していない。ただ、邪魔者を排除しようと自らのポケモンに淡々と攻撃させている。
ミシェルは怒りを覚えた。
ポケモンは兵器なんかじゃない。それなのに、ポケモンにこんな事をさせるなんて。許さない。許される事じゃない。
「あなたは……あなただけはここで……!」
何も喋らない黒ローブ。そんな彼を睨みつけ、声を張り上げるミシェル。
おくりび山の山頂。ミシェルのサザンドラの咆哮が轟いた。