ポケットモンスター デスティニー 〜憎しみを砕く絆〜
第3章:壊されたつながり
3‐2:人質


『……それで、ラプラス……アクアも一緒に行くことになった』
「そうなんだ。新しい仲間が増えたんだねっ!」
『まぁ、そうだな。それで? 今はポケモンセンターにいるんだよな? 今から戻るから、もう少しだけ待っててくれ』
「う〜ん……。実は今ポケモンセンターじゃなくて、フレンドリィショップにいるの」
『……フレンドリィショップ?』
「そう。キズぐすりとか、色々と補充しておこうと思って。そしたらね、凄い物を見つけたんだよっ!」
『凄い物、か。その様子じゃ……またぬいぐるみか?』
「そうっ! 凄いんだよ! 超激レアぬいぐるみ、2/3スケールのムンナ色違いバージョン!」
『それは、そんなに凄い物なのか……? と言うか、何でそんな物がフレンドリィショップに……』
「フレンドリィショップで限定販売されてたやつだよ! まだ残ってたなんて……。凄いよ〜もふもふだよ〜。9820円だよ〜……」
『9820円……!? フレンドリィショップの品にしては、随分高いんだな……』
「……買って」
『……えっ?』
「買ってよ、ハイク」
『な、何を言い出すんだ急に……』
「だって約束したでしょ。ぬいぐるみ買ってくれるって」
『い、いやー!? いやいやいやちょっと待て! レインが欲しがってたのはジヘッドのぬいぐるみだろ! 確かあれは5000円出してお釣りがくるくらいだったよな……』
「新しいぬいぐるみを買ってくれるってだけで、なにもジヘッドのぬいぐるみって指定した訳じゃないもんっ。そういう約束だったでしょ?」
『なっ……!? い、いや、言われてみれば確かに指定はしてなかったような……』
「でしょー? それじゃ、私はフレンドリィショップにいるから。よろしくね、ハイク」
『ま、待て! よく考えるんだ! もっとお前好みのぬいぐるみが……』

ブツンッ!

 ハイクとの通話を切ったレインは、満面の笑みでぬいぐるみを抱えていた。



―――――



「ハァ……」

 ハイクがレインと合流してから、数十分が経過していた。
 一気に軽くなった懐を寂しく思いながらも、訪れたのは116番道路。カナズミシティの北東、115番道路とはまた別の道を進むと、この道路に出る。海岸沿いの115番道路とは違い、草木が茂る中に整備された道があり、奥の大きな岩山まで基本的に一本道となっている。
 カナズミシティからこの道を進み、岩山に開けられたトンネルを抜ける事で、シダケタウンに辿り着く事ができる。取り敢えず、次の目的地はそこにする事にした。
 コトキタウンからカナズミシティに向かった時のようにバスなどを使って向かう方法もあったが、シダゲタウンにバスなどで向かう為には大きく迂回しなければならず、時間もお金も余計にかかってしまう。徒歩で向かえば安上がりだし、116番道路を突っ切る事で意外と早く到着する事ができるのだ。
 ……諸々の理由でお金の問題もあるのでありがたい。

「どーしたのハイク? ため息なんかついて。元気ないよ?」
「誰のせいだと……。いや、廻り巡れば俺のせいか……」

 チャンピオンになったと言えど、ハイクはお金をそれほど持っている訳ではない。9820円の出費は痛かった。気持ち的にも。
 ちなみに、レインのぬいぐるみは購入後に自宅に郵送してもらった。やはりあのサイズのぬいぐるみを持ち歩いて旅をするのは厳しいのだろう。流石に郵送料はレインが払ったが。

「それにしても……次はシダケタウンかぁ……。何か手がかりはあるかな?」

 いまだに出費を気にしているハイクであったが、レインはナチュラルに話題を変える。切り替え早いよとハイクは心の中でつっこむが、ここまでくるとこれ以上どう思い返そうと無駄なような気がするので、ハイクは素直に話題に乗る事にした。

「シダケタウンで何の手がかりを掴めなかったとしても、その先……キンセツシティまで行けば、再び奴らと接触できるかも知れない。あそこにもポケモンジムがある。もしかすると、奴らはカナズミシティと同じシチュエーションを再現しようとするかも知れないし……」

 消息不明のローブ達の手がかりが殆んどないこの状況で、ハイクの勘は意外に的を射ているように感じられた。もしもローブ達の目的が強力なポケモンの強奪なのだとすれば、カナズミシティのようにジムを襲おうとするかも知れない。行ってみる価値はある。

『(んっ……?)』

 ハイクとレインがそんな話をしている傍ら、ルクスはピクリと何かを感じ取った。
 違和感。いつもとは何かが違う、そんな漠然とした感じ。自分達以外の誰かが、この近くにいるような――。
 ピンッと耳を逆立たせ、ルクスはキョロキョロと辺りを覗い始めた。この違和感の原因が、この近くに存在している気がする。直感的にそう感じていた。

「ルクス……? どうしたの?」

 急にキョロキョロとし始めたルクスに、レインはいち早く気づいた。しかしそんなレインの問いかけに応答する余裕もないかのように、ルクスは注意を払い続ける。様子が違うルクスを見て、レインは戸惑い始めた。

「ルクスがどうかしたのか?」
「わ、分かんない……。急にキョロキョロし始めて……」

 レインに説明され、ハイクもルクスの変化に気づく。徐々に警戒心を強め、周囲の様子を覗っている。一目見ただけでも、様子が変である事は明らかだった。
 ルクスにつられて思わずハイクも周囲を確認する。整備された道。少しだけ人の手が加えられ、綺麗に生え揃った草花。その周囲にあるのは、どこにでも見かけそうな木々。ハイクの見た感じでは、特に変わった所はないように思えた。

「ルクス、一体何が……」
『誰かに……見られているような……』

 ボソリとルクスがそう言った。
 基本的にポケモンの感覚は、人間よりも優れている場合が多い。視覚や、嗅覚や、聴覚。中には人間よりも劣っているものもあるが、郡を抜いて優れているものもある。極端な場合が多いのだ。サンダースであるルクスも、人間よりも優れている感覚が存在する。そんな彼だからこそ、ハイクやレインが気づかなかった事を、こうして感じ取る事ができたのかも知れない。

 誰かに見られていると言われても、ハイクは指摘されるまで全く気づかなかった。いや、言われた後でも正直あまりよく実感できてない。言われて見れば、そんな気がしなくもない。根拠も何もない、妄想のような感覚。ハイクが感じたのは、それだけだった。

「考え過ぎじゃないか? 人の気配は感じられ……な……」

 しかしその瞬間、それは起きた。
 ハイクがルクスに伝えきる前に、突然地響きが発生した。唸るような激しい地響きと共に、地面そのものまでもが揺れる。まるで規則的に何かを叩きつけているかのような、そんな地響きだった。

「うぐっ……!?」
「きゃっ!? 何なの……!?」

 ハイク達はバランスを崩しかけ、思わず強く踏ん張ってしまう。
 こうして体感して、ハイクはすぐに地響きの原因を察した。何かが、恐らくポケモンが、こちらに向かって猛スピードで突進してくる――。

「あれは……!」

 ハイクが顔を上げると、途端に二匹のポケモンの姿が目に入った。
 むっくりとした体格に、四足歩行。二本の大きな牙も然ることながら、やはり印象的なのはその長い鼻だろう。背中からその鼻にかけてはより強固な皮膚で覆われており、さながら鎧のようである。あんなもので覆われた身体で体当たりされてしまったら、人間などひとたまりもないだろう。
 ポケモンの名はドンファン。よろいポケモンとも言われている。

「ルクス……! まさかあのドンファンが……!」
『……違う……』
「……ち、違う?」

 タイミングから考えて、あのドンファン達がルクスの感じていた気配だと思った。ところが彼に確認した所、思いもよらぬ答えが返ってきた。

『オレが感じた気配は……アイツら、じゃ……ない……。もっと別の、何かだと思うんだ!』
「別の……って……」

 ハイクは再び困惑した。目の前にいるのは二匹のドンファン。しかも敵意は非常に強い。
 普通に考えれば、ルクスの感じていた気配は彼らのものだと思うだろう。しかし実際は――。

 だがゆっくりと考えている時間は、今はなかった。

「ハイク……? あのドンファン達って……ひょっとしてこっちに来る……?」
「だろうな……。このままじゃヤバい……!」

 116番道路に野生のドンファンが生息していると言う話は聞いたことがない。と言う事は恐らく、あのドンファンもローブ達によって持ち込まれたポケモンと考えて、ほぼ間違いない。
 迎撃しなければ、このままでは潰されてしまう。幸いにも、まだ距離はある。間に合うはずだ。

「アクア、頼むっ!」

 咄嗟の判断でモンスターボールを投げ、ハイクはアクアを繰り出した。

『早速 私の出番ですか』
「あぁ、あのドンファン達を止めてくれ! “れいとうビーム”だ!」
『任せて下さいっ!』

 アクアが息を吸い込むと、急激な温度定価により彼女の口元には白い霞のようなものが現れ始める。一秒としない内にエネルギーは青白く発光し始め、一気に膨張した。
 その直後、アクアの“れいとうビーム”がドンファンに向けて放たれた。しかし、ただ一直線に放った訳ではない。上手く微調整して軌道をずらし、二匹のドンファンを的確にとらえたのだ。たちまち氷塊が形成され、冷気に弱いドンファンは進行を妨げられてしまう。ドンファンの動きは止まった。

「わ〜凄い! アクア凄いんだね!」

 一発の“れいとうビーム”で二匹のドンファンを退けたアクアを見て、感激したレインが歓喜の声を上げる。アクアに指示を出したハイクでさえ、少し驚いていた。
 “れいとうビーム”を指示したとは言え、一撃で決めろとまでは支持していない。つまりトレーナーの指示なしで、あんな調整をした事になる。いくら知能が高いポケモンとは言え、これほどまでとは。

「(人質……か……)」

 そんなアクアを見てハイクが思い出したは、彼女が今朝、ハイクに出した提案だった。



―――――



『私を……人質にしてほしいんですっ!』

 あまりにも予想から大きく逸脱したラプラスの提案を前に、ハイクはすぐに返答できなかった。人質などと言う物騒な単語が、この会話の流れのどこから出てきたのか。仲間に加わりたい理由との繋がりが、全く見えてこない。

「えっ……ひ、人質……?」
『意味が分からない。却下だな』

 困惑するハイクだったが、カインは冷静に一蹴していた。
 ストレートにカインにはねられたはずのラプラスだったが、まるで驚いていないように見える。カインがどう反応するのか分かっていたのだろうか。それとも、それほどまでに心に余裕があったのか。

『ふぅ……。人の話は最後まで聞くものですよ、カイン。まだ私の話は終わってません』

 そう思っていたが、この反応を見るかぎりカインの反応を予測していたらしい。こうして見ると、ラプラスはカインの事を、よく分かってくれている。それがひしひしと感じられた。
 そう言えば、ラプラスとは以前にも会った事があるとカインは言っていたが、実は意外と長い付き合いだったのかも知れない。ひょっとするとハイクとレインのように、幼馴染だった可能性も――。そう思うと、どうも気になって仕方なくなってくる。カインかラプラスに真相を確かめたい気もするが、このままでは再び話が大きくそれてしまいそうなので、今は我慢する事にした。

「……人質って、あの人質のこと? どう言う意味だ?」

 ラプラスに言い返す言葉が見つからず、顔を背けているカインを他所に、ハイクはラプラスに尋ねた。

『……私も、そして貴方達も、どうしてホウエンにこんな異変が訪れたのか。具体的な理由は分かっていません。ですが……目星はついている。戦うべき敵は、はっきりしているはずです』
「あのローブ達……」

 そこでハイクは、ある事に引っかかった。
 いくら情報屋と言えど、ラプラスはあまりにも多くの事を知りすぎではないだろうか。
 ハイクが旅を始めたのは、昨日の朝。いや、もう昼近かった時間帯だ。実質まだ丸一日も経っていない。にも関わらず、ラプラスのこの情報量は何だ。昨日、ハイク達に起きたこと。まるでそれを全て知っているかのようではないか。誰かが、彼女に情報を提供したようにしか――。

『そう、ローブ達です。あのローブ達……』

 ハイクは密かに不信感を募らせる。ラプラスはカインの知り合いだ。彼も心を許している。そんな彼女に、悪意があるとは考えられない。実際、彼女の瞳を見ていても、何かよからぬ事をを企んでいるとは思えないのだ。
 しかし、どうも引っかかる。はっきりとは断言できないが、何となく分かる気がする。ラプラスは、何かを隠している。ハイク達に、言いたくない事がある。そんな気がした。

 思考を巡らせ、黙り込むハイクだったが、彼の代わりにカインが会話をつなぐ。

『それとあんたの言う人質……。何の関係があるんだ?』
『実は……。私はあのローブ達に狙われています』
『なにっ……!?』

 流石のカインも、思わず声を上げていた。ハイクは尚更だ。驚きが露骨に表情に現れている。

『昨晩、私は人間に襲われました。茶色いローブを着た人間が二、三人……。彼らは自分達のポケモンを使い、私を……捕らえようと……』
「そんな事が……」

 ラプラスの表情は沈んでいた。かなり怖い目に遭ったのだろう。その時の事を思いだし、少し震えているようにも見える。そう言われて見れば、ラプラスの身体に、所々できたばかりの傷が見受けられた。ローブ達に襲われた際、怪我をしてしまったのだろうか。
 目的の為には手段を選ばないローブ達に憤りを感じ、ハイクは拳を強く握り締めていた。

『昨日は……その……なんとか追い払う事はできたのですが……。ローブ達はまた私を狙ってくるでしょう……。昨日チラリと聞こえたのですが、どうやら彼らの目的遂行の為には、私が必要みたいですから……』
「ラプラスが、必要……!? どう言う事だ……?」
『私にもさっぱり……』

 思いもよらぬ情報に、ハイクはますます混乱してくる。ローブ達の目的は、てっきり強力なポケモンの強奪だと思っていたが――。どうやらまた別にあるらしい。しかしなぜラプラスが必要なのだろうか。さっぱり分からない。

『なるほど……。何となくあんたの考えが分かった』

 混乱して目を回しかけていたハイクだったが、カインは冷静にラプラスの考えを読み解いていた。実はラプラスに弱いと言う意外な一面もあったが、やはりカインの冷静な洞察力には舌を巻く。

「考えって……?」
『……ラプラスが俺達の人質だとローブ達に思わせれば、奴らに圧力をかける事ができる。奴らの計画達成の為に本当にラプラスが必要ならば、こいつがいなくなっては困るだろうからな。そうして奴らを脅す事によって、これから奴らに捕らわれたポケモン達を助けるのにも、新たな情報を聞き出す為にも、戦闘を最小限に抑える事も可能になるかも知れない。ラプラスはそれを狙っている』
『フフッ……。さすがカインですね。大体あってます』
「なるほど……」

 多少のリスクはあるものの、確かにそれは有効かも知れない。ローブ達に狙われているラプラスを連れて行く事により、必然的に彼らと接触するチャンスも増えるだろうし、彼女が必要なら迂闊に攻撃もできないだろう。
 それに、いずれにせよ、このままラプラスを一匹だけでここに残しておくのは危険だ。彼女がどれほどバトルをできるのかは分からないが、一匹だけではいずれ捕まってしまう。やはりハイクは、ラプラスを放っておけなかった。

「……分かった。俺達と一緒に行こう。いいよな、カイン?」
『まぁ……仕方ない、か……』
『……っ! ありがとうございますっ!』

 渋々、と言った感じでカインは承諾した。
 その返答を聞いたラプラスはホッとしたような表情をした後、ハイク達にペコリと頭を下げた。本当は断られるのではないかと、心配だったのだろう。

「(そっか……。女の子、なんだよな……)」

 たとえ戦う力を持つポケモンだとしても、怖いものは怖い。ただでさえラプラスは温厚なポケモンであり、その中でも彼女はメスなのだ。弱い一面があっても、当然だろう。ひょっとしたら、バトルだって本当は苦手なのかも知れない。

『ところでラプラス。昨日あんたに襲いかかってきたローブ達、そいつらはどうだったんだ? 追い払ったと言っていたが、その様子じゃかなりキツかったようだが……』

 そんな中 口を開いたのは、カインだった。それは、彼なりの気遣いの言葉。恥ずかしがっているのか目は背けたままだが、気持ちは確かに込もっていた。

「ラプラス……?」

 だがラプラスは、返答をしなかった。いや、返答が出来なかった。
 カインの質問を聞いた途端、ラプラスは俯いて硬直してしまったのだ。まるで、思い出したくもない事を思い出してしまったかのように、ラプラスは俯いたまま何も喋らない。

 昨日、余程怖い目にあったのだろうか? いや、これはそんな感じではない。何となく、ハイクにはラプラスの今の気持ちが分かる気がする。
 目の前で起きたこと、自分の目で見たこと。それが受け入れられないような、夢でも見ているかのような、そんな感覚に襲われている。自分自身でも気づかぬ内に、何かを否定し続けているような、そんな――。

『……ラプラス? どうかしたのか?』

 カインのその一言で、ラプラスは我に返った。弾かれるように俯いていた顔を上げ、自分に取り付いた感覚を振り払うように首を振る。ゆっくりと前を向くと、カインと視線がぶつかった。

『……いえ、大丈夫です。多少苦戦はしましたが、何とか……なりました』
『……そうか。ならいい』

 だがその瞬間、ハイクは気づいてしまった。ラプラスを見据えるカインの瞳が、ギラリと輝いているのを。まるで何かを見抜いたかのような、そんな瞳だった。
 なぜだかハイクの心臓が、ドクンと大きく高鳴っている。ハイクまでもが緊張している。なんだか少し怖い。それだけの張り詰めた雰囲気が、この辺りを占めていた。

『……さて。そろそろ行くか、二人とも。レイン達が待ってる』

 そんな沈黙を破ったのは、カインだった。先ほどまでの沈黙が嘘だったかのように、プイッとラプラスから視線を逸らし、ハイク達を先導するように歩き始める。
 どうかしたのかとカインに尋ねてみようかと思ったのだが、どうやらタイミングを逃してしまったらしい。

「あ、あぁ……」

 反射的に、ハイクは呼応した。そうしながらもラプラスの為のモンスターボールを取り出そうとする。が、鞄をポケモンセンターに忘れてきてしまった事に気づいた。今ハイクが持っているのは、カインのモンスターボールとヴォルが入ったボールだけだ。
 何にせよポケモンセンターに戻る必要はあったのだが、そこまでラプラスを外に連れて向かわなければならないことになる。手早くすませば何とかなるかも知れないが――。

「目立ちそうだなぁ……」

 ボソリとハイクは呟いた。このラプラスは小柄な方とは言え、ハイクやカインよりも大きいのだ。そのまま街中を歩けばさぞ注目を浴びるだろう。正直目立つのがあまり得意ではないハイクは、少しそれが心配でもある。
 だが、いまだに少し表情が曇ったままのラプラス、そして何よりも先ほどのカインの瞳を思い出すと、そっちばかりが気になってハイクの心配はどこかに吹き飛んでいた。今度、改めて二人に真相を確かめてみようと、ハイクは心の中でそう決めるのだった。

『あの……、ハイク。ちょっといいですか?』

 そう決心した最中、ハイクはラプラスに声をかけられた。
 気持ちを落ち着かせたのかさっきのような曇った表情ではなかったが、かわりに真剣でまっすぐな瞳をハイクに向けている。

「どうした?」

 何かただ事でもない事があるのだろうか。そう考え、ハイクの肩には少し力が入る。
 何かを決心したような表情のラプラスはハイクの耳元へと顔を近づけ、ヒソヒソと喋り始めた。

absolute ( 2014/04/19(土) 15:51 )