ポケットモンスター デスティニー 〜憎しみを砕く絆〜 - 第2章:塗りつぶされる心
2‐4:カナズミシティ ―反撃の突破口―

 太陽は沈み、辺りには夜の帳が下りていた。
 街灯が照らされたカナズミシティは、昼とはまた違った明るさを纏い始める。都市部であるカナズミシティは、例え夜になっても人々の活気は中々収まらない。通りには人々が行き交い、時にはポケモン達も駆け回る。普段だったのならば、あと数時間は昼のような活気が維持されるだろう。

 ところが、今日に至っては人通りが極端に少ない。大通りに出てみると、人が少ないばかりか、殆どの店のシャッターまでも閉まっていた。周囲に建てられた民家やマンションのカーテンもほぼ閉められ、住民は外の何かを拒んでいるように見える。
 それもそのはず。現在のカナズミシティは、彼らの攻撃をまともに受けているのだから。

 ハイクとレインはポケモンジムに向かっていた。
 何とかウルガモスを倒す事ができたが、バスが破損してしまった為、彼らは歩いてカナズミシティを進んでいく事にした。テロ行為が行われているはずのジム。急いで向かわなければ、ひょっとしたら取り返しのつかない事になってしまうかも知れない。ルクスと車酔いが冷めたヴォルも、彼らに続く。

 しかし、事態はジムがテロを受けているなどで片付けるには、あまりにも不十分な状況にまで陥ってしまっていた。
 ポケモンジムの位置は把握している。大通りからでは、はっきりとその位置を捉える事ができた。一段と眩い光に包まれ、緊迫した街中で唯一騒がしい場所。あそこがジムに違いない。ジムにたどり着ければ、敵の正体も分かるかも知れない。

 そう。ジムと言う狭い範囲ではない。今現在、このカナズミシティ全域で活動している、その敵の正体を。

「っ!? また……!?」

 突然 地面が蹴り飛ばされるような音が響いたかと思うと、そのポケモンは飛びかかってきた。
 まるで岩石のような姿をしたポケモンだ。非常に頑丈な殻で覆われており、その殻の耐久力はダイナマイトでも傷つかない程らしい。体長はハイクよりも頭一つ分程低いが、そのポケモンが地面を蹴りつける度に大きな音が響いているのを見ると、体重はかなり重いようだ。
 それが、メガトンポケモンのゴローニャだと言う事は誰が見ても分かるだろう。だが、一番の問題はゴローニャがハイク達に襲いかかってきていると言う事ではない。こんな街中で暴れまわっていると言う事だ。

『……させるか』

 ゴローニャがもう一歩でハイク達に届くと言う直前、割り込んできたカインによって妨げられてしまった。空中で上方から“リーフブレード”受け、豪快に地面に叩きつけられる。自身の体重も重なって、落下の力はゴローニャでは制御できない程だった。

『……みんな、大丈夫か?』

 ゴローニャを蹴散らしたカインが、そう尋ねてきた。相変わらず冷静で、技のキレも申し分ない。ゴローニャは一撃で倒されたように見えた。

「あぁ、大丈夫だ。ありがとう、カイン」

 ハイク達はゴローニャの攻撃を受けなかったので、彼は何気なくそう答えた。それを聞いたカインも、肩の力を抜きかける。だが、

『っ! なに……!?』

 ゴローニャが倒れているはずのその場所から、再び物音が響く。砂埃が舞うなか、倒したと思われていたゴローニャが、カインに反撃してきた。咄嗟に腕を前に突き出し、カインはゴローニャの“ジャイロボール”を受け止めようとする。回避してしまうと、ハイク達が技に巻き込まれてしまうかも知れない。そう判断したカインが、反射的に行った行動なのだが--。

『クッ……』

 ゴローニャの体重が伸し掛った事により、踏ん張るカインの足元が音を立ててめり込む。受け止める事はできたものの、このままでは押し負けてしまう。流石のカインと言えど、重量のあるポケモンの物理攻撃をいつまでも抑える事は難しいようだ。

「あのゴローニャ、まだ……!」

 このままではやられる。仮にカインが手を離して回避を試みたとしても、直ぐに押し倒されてしまうだろう。かと言って、このまま受け止め続けるのも無駄に体力を持って行かれてしまう。
 何か、別の力が必要だ。別のポケモンのサポートがなければ、状況を打破する事はできない。

 と、その時。

『うぉりゃっ!』

 カインを押し倒そうとしたゴローニャに、外部からの攻撃が加えられた。そのポケモンの拳がゴローニャを捉えた瞬間、激しい炸裂音が鳴り響く。そのポケモンの援護をいち早く察知したカインは瞬間的に飛び退いていたので、ゴローニャと共に飛ばされてしまう事はなかった。
 “ばくれつパンチ”と呼ばれる格闘タイプの技。しかし、放ったのはフレイではない。そもそもゴウカザルは、“ばくれつパンチ”を使う事ができないのだ。カインを援護したのは、また別のポケモン。

『すまない。助かった』

 カインがそうお礼を言うと、そのポケモンは『どんなもんだ』と言わんばかりに笑顔を作った。
 緑色の丸いキノコの笠を被ったような頭。“ばくれつパンチ”を放った伸び縮みが可能な腕と、その強靭な脚には鋭い爪も確認できる。長い尻尾には、毒の胞子でできた種がくっついているらしい。二足歩行のポケモンだった。
 きのこポケモン、キノガッサ。草と格闘の二つのタイプを持つそのポケモンは、自分よりも身体が大きいゴローニャを易々と殴り飛ばしていた。

「ちょっと危なかった……かな?」

 モンスターボールを片手に持ち、ヒヤッとした表情でレインがそう言った。カインのピンチを察知したレインが、咄嗟にポケモンを繰り出していたのだ。
 このキノガッサは、レインの手持ちポケモンの一匹だ。彼女との付き合いも中々長く、そのバトルの力量はかなりのものである。彼は主に拳を使った攻撃を好んで行っており、“ばくれつパンチ”もまた、彼の得意技の一つであった。
 カインとキノガッサの攻撃を受けたことにより、ゴローニャは既に戦闘不能だ。弱点であるタイプを二度も突かれ、流石に再び起き上がる事はできないらしい。カインの“リーフブレード”を受けてもケロッと起き上がった時はハイクもヒヤッとしたが、何とか切り抜けられたのだから取り敢えず良好だろう。

『へへっ。オイラも結構強いだろ?』

 胸を張ったキノガッサが拳を掲げた。伸ばされた腕もその脚と同様に中々筋肉質で、あの“ばくれつパンチ”の威力も納得できる。彼はその行為に見合っただけの実力を持ち合わせていた。

『あぁ。ノココ……だったか?』

 その言葉を前にしたカインは、思わず苦笑する。ノココと呼ばれたキノガッサは、相変わらずの笑みを見せていた。

「でも、無事に切り抜けられたんだから良かったよね。……ハイク?」

 レインがチラリとハイクの顔を見ると、彼はまるで何かに取り憑かれたように引きつった表情をしていた。気を失っているゴローニャを眺め、完全に思考を一点に集中してしまっているハイクは、レインの呼びかけに気づく様子すらない。もう一度呼びかけてみたものの、やはり反応は無かった。その代わり、その重たい口からボソボソと呟くように言葉が漏れる。

「ゴローニャのタイプは……岩……。さっきの、ユレイドルも……。カナズミ……ジムは……」
『は、ハイクさん……?』

 ハイクの異変に気づいたヴォルも、心配そうに顔を覗き込む。消え入るように呟いたのを最後に、ハイクは歯を噛み締めていた。
 彼らはバスを脱出した後、このゴローニャの他に一度ポケモンに襲われている。ユレイドルと呼ばれるポケモンであったが、勿論こんな街中を徘徊しているようなポケモンではない。いわつぼポケモンも呼称されるそのポケモンの主な生息地は、温暖な海だ。トレーナーのポケモンでない限り、こんな街中に出没するなどあり得ないのだ。いや、ユレイドルだけではない。ゴローニャだって、こんな街中で急に襲いかかってくるなど、普通なら考えられない。

 考えられる理由は二つ。一つは、カナズミジムにテロ行為を仕向けた者達が連れてきた。これなら想像つくだろう。もし敵がポケモンを利用して悪行を行う輩だったとすれば、強引だが納得いく。
 だがもし、その敵とやらが連れてきたポケモンではないのだとしたら? 想像したくないが、どうしても考えてしまうのだ。ゴローニャとユレイドルの共通点。そして、今 自分たちがいる場所がカナズミシティだと言う事。この事から考えられる最悪の状況を前にすると、ハイクの意識は簡単に連れてゆかれてしまった。

「……皆、急ごう! ジムに向かうんだ!」

 溜め込んだ空気を一息で吐き出したハイクが、不意に顔を上げた。周りを殆んど見てない様子で、彼はそのまま走り出す。ジッとしていられなかった。すぐにでも、ポケモンジムに向かわなければ。自分の感じた予感が膨れる度に、ハイクの鼓動は高鳴っていった。

「ど、どうしたのハイク!」

 ハイクの考えをイマイチ掴めていないレインであったが、それでも彼を追って駆け出した。ハイクの事だ。何かに気づいてしまったのだろう。今のハイクは、無鉄砲モードに突入中だ。このまま放っておけば、自分の身などお構いなしにどんな無茶を仕出かすか分からない。
 彼を助けなければ。ただその一心で、レインはハイクを追いかけていた。

「っ! あれは……!」

 ポケモンジム前では激闘が繰り広げられていた。
 警備隊員と思しき人々が、それぞれのポケモンを繰り出して対処に当たっている。ポケモンジムからは、数匹のポケモン達が現れ始めていた。
 積極的に警備隊に襲いかかるポケモン達を見て、ハイクはある事に気がついた。周囲に確認できるのは、ポケモンの姿だけ。指揮するトレーナーはどこにも見当たらない。ポケモン達が、自分だけの意思で暴れまわっていると言うのだろうか。いや、そんなはずはない。どこかに、彼らを指揮する人物がいるはずなのだ。

 ハイクは周囲を見渡した。
 数では警備隊のポケモンの方が多いはずなのだが、状況は必ずしも良いとは言えない。ジムから出現するポケモンの力が、圧倒的過ぎるのだ。数名で相手をしてやっとバトルが成立する程。それでも何匹かは取りこぼしており、そのポケモン達が街で破壊活動を開始している。ハイク達に襲いかかってきたゴローニャやユレイドルは、その取りこぼしたポケモン達の一部だったのだろう。

「何としても食い止める! これ以上 突破されるな!」

 警備隊のリーダーと思しき男が、声を張り上げて士気を高めようと試みる。しかし、いくら士気を高めた所で、戦況は覆せそうにもなかった。
既に大分 消耗してしまっている。このまま持久戦を続ければ、全滅してしまう事だってあり得るだろう。根源を叩かなければ、いつまで経っても打開する事はできない。

「き、君たち! 避難勧告は出たはずだぞ! 早く逃げるんだ!」

 ハイク達に気がついた警備隊員の一人が、声を張り上げた。
 既にハイクの周囲には、一般市民の姿は見受けられない。本格的に攻撃が始まった事により、大半の人々は退避したのだろう。
 だが、今のハイクにとって、危険だとか避難勧告が出てるだとか、そんなものは関係ない。

「目の前でこんな事が起きてるのに、逃げるなんて出来ませんよ!」

 ハイクがそう言い返した瞬間、警備隊の一部分が突破された。他のポケモンと比べ、一際体長が大きかったそのハガネールが、“アイアンテール”で複数のポケモンをなぎ払ったのだ。
 てつへびポケモンと呼ばれているだけあって、その姿はまるで鋼の大蛇。蜷局を巻いたその身体をのっそりと動かし、確実に前に進んでゆく。

「まずいっ! 頼むから早く逃げろ! 子供がここにいちゃいけない!」
「子供扱いしないで下さい! 俺は……!」

 ハイクの言葉は、響き渡った轟音によって遮られてしまった。
 ハイクと警備隊員がやり取りをしていた、すぐ横。地面が盛り上がり、そこから溶岩にも似たものが噴出された。それはハガネールの攻撃ではなく、ハガネールを狙った別のポケモンの攻撃。ハガネールの進行はそこで妨げられ、弾かれたその巨体はドスンと音を立てて横転する。
 ギョッとしたハイクは、思わず目を見開いていた。この技は、“だいちのちから”。地面タイプの、特殊技。

「大丈夫ですか!?」

 “だいちのちから”を放ったポケモンを連れた一人の女性が、駆け寄ってきた。
 見覚えのある人だ。教師のような格好をしているその女性は、慌てて駆け寄ってきた為か肩を上下に揺れらして息を切らしている。
 彼女が連れるポケモンを一言で言い表すなら、巨大な顔。まるで石の彫刻のような姿をしているが、これでもちゃんとポケモンであり、のっそりと身体を動かしている。体長はハイクの腰くらいか。コンパスポケモン、ダイノーズ。全身から強い磁力を発生させているらしく、チビノーズと呼ばれるユニットを操る事もできるらしい。意外と器用なポケモンなのかも知れない。

 ハイクはそのポケモンを連れた女性の姿を見た瞬間、安堵の表情を浮かべた。てっきり、彼女も人質に取られていると思っていたのだ。カナズミジムのジムリーダーであるその女性はトレーナーズスクールの教師も勤めている為、彼女が不在の際にジムは襲撃を受けたのだろうか。

「ツツジさん……!」

 ハイクが声をかけると、ツツジと呼ばれたその女性は驚きを表情に表していた。予想し得なかった意外な訪問者を前にして、このような緊迫した状況も相まってどぎまぎしてしまっている。

「あれ……? ハイク君!? どうしてこんな所に……?」
「え……!? ハイク君って、まさか……」

 ハイクの名前を聞いた途端、警備隊員は露骨に表情を変える。
 ハイク。数ヶ月前に誕生したばかりの、現ホウエンリーグチャンピオンの名前。目の前にいるこの少年が、あのトレーナーなのか。どこかで見た事があるような気がしていたが、まさか本当に――。警備隊員は言葉を失っていた。

「大変な事になってるって聞いて……。今はどんな状況なんですか?」

 そんな警備隊員を他所に、ハイクがツツジに現状を尋ねた。呼吸を整えたツツジが、それに受け答える。

「ついさっきまではテログループ動きは殆んど見られなかったのですが……。突然ジムのドアを突き破って中からポケモンだけが現れて、急に暴れ始めて……。テログループも人質もまだジムの中だと思いますが、暴れまわっているポケモン達の力が協力過ぎて対処も遅れている状況で……」
「まだ中に人が? でも、あの暴れているポケモン達って……」

 そこでハイクは一瞬だけ息が詰まるが、拒む身体を無理矢理 使役して言葉の続きを吐き出した。

「ジムトレーナーの……ポケモンじゃないですか……?」

 ツツジは目を見開いた。動揺しているのが分かる。恐らく、彼女も何となく感づいていたのだろう。しかし、自分でも気づかぬ内に否定し続けていた。そう、誰だって、受け入れる事を拒むはずなのだ。自分の知るポケモンがこうやって人に危害を加え、あろう事か自分の前に立ちふさがる事など。受け入れられるはずがない。

「えっ……!? ハイク、それって……!」

 ハイクの考えを掴めずにいたレインだったが、ようやく彼が狼狽している理由が分かった。今まで遭遇したポケモン達は、殆んどが他地方のポケモンだった。だが、どうやらホウエン地方のポケモン達も例外ではないらしい。
 なぜこんな事になってしまったのだろうか。何らかの感染病が原因? それとも、自分たちが予想し得ないような、イレギュラーな理由が?

「確認は、取れてませんが……。そんな事、あるはずが……」

 ツツジの口調が沈んでゆく。
 確かに、確認は取れていない。これはハイク達の憶測でしかない。だが手がかりはある。ジムの中にテログループが残っているのだとして、突入して捕まえる事ができたら――。
 カナズミシティの為にも、そしてハイク達の目的の為にも、これは重要な手がかりになり得るかも知れないのだ。

「……やるしかない」

 意を決したハイクは、ポケモンジムに向き直る。ジムの前には沢山のポケモン達が攻防を繰り返しており、近づく事さえ困難だ。だが、そうだとしても、ここでのんびり見物という訳にはいかない。自分が、自分たちができる事ならば、この状況を打破したい。

「……ハイク、行くんでしょ?」
「あぁ……。ポケモンジムに突入して、テログループを引っ張り出す!」

 レインもハイクの気持ちは分かっていた。こうなってしまっては、ハイクを止める事はできないだろう。しかし、内心では自分もその気ではあった。
 自分だって、ただ見物しているだけなんて事はできない。沢山の人はポケモン達が苦しんでいるのに、無視するなんて耐えられるはずがなかった。自分の力が誰かの役に立つのなら、多少の危険は省みない。ハイクもレインも、決意は硬かった。

「ふ、二人とも! 何をするつもりですか!? 危ない事は止めて下さい!」
「大丈夫ですよツツジさん! こう見えても、ハイクはチャンピオンなんですよ?」
「こう見えてもって……。何かひどくないか?」

 ツツジが慌てて止めようとするが、二人はまるで屈しない。
 既に危険な目には何度も遭ってきてるのだ。今更引き下がる事などしない。自分でもできる事があるのなら、それを全うするだけだ。

 ハイクとレインは、再びジムに向けて駆け出した。ツツジが心配そうに彼らの名を呼ぶが、ハイク達は止まる事を知らない。ハイクも内心ではツツジに悪いと思ってはいたが、だからと言って大人しく引き下がる訳にもいかない。ハイクはチャンピオンだ。レインだって、彼に匹敵する程の実力を持ち合わせている。無論、自分一人だけの力でそこまで上り詰めたのではない。沢山の人々やポケモン達が力を貸してくれた。彼らがいなければ、ハイク達はトレーナーとしてここまで成長できなかったかも知れない。
 それなら、今度は自分達が力になる番だ。それこそが、今ハイク達が成すべき事だった。

 ジムに近づくにつれ、周囲の攻防も激しくなってゆく。警備隊員のお陰で戦闘を避けてジム付近まで行く事はできたが、流石に入口は守りが硬い。その割には警備隊員の数が足りておらず、ジム入口を守るポケモン、ボスゴドラには対処しきれていなかった。二匹のグラエナで攻撃しているものの、まるで歯が立たない。てつヨロイポケモンとも呼ばれているだけあって、その甲殻はかなり硬い。あのグラエナの攻撃では、まともなダメージを与える事はできないだろう。
 だが、

「はーい! どいて下さーい!」
「……えっ? なっ……! どうしてこんな所に子供が……!」

 ボスゴドラに苦戦し、四苦八苦していた警備隊員だったが、突然聞こえた少女の声から動揺してしまっていた。彼かから見れば、レインもハイクもまだ子供。こんな所にいる事自体が不自然に見えたのだろう。
 しかし、彼らは例え子供であっても、ポケモントレーナーである。

「ノココ、“マッハパンチ”!」

 地面を蹴って飛び出したノココが、ボスゴドラに突進する。目にも止まらぬスピードで突き出された拳が、ボスゴドラの頭部を捉えた。
 “マッハパンチ”は素早く攻撃を仕掛けられる技ではあるが、威力にやや難がある。だがそれでも、直前までノココの接近に気づいていなかったボスゴドラの動きを止める事はできる。
 “マッハパンチ”を受けて怯んだボスゴドラは、そこで態勢を崩しかける。自分の体重を支えきれず、転びかけてしまっている。大きな隙ができた。

「“ばくれつパンチ”!」

 その隙を逃さず、レインの指示を受けたノココは“ばくれつパンチ”を放った。右腕で“マッハパンチ”を放った為、その流れで今度は左腕に力を集中させる。強烈な左ストレートが、ボスゴドラに襲いかかった。

「グオォォォ……!」

 うめき声を上げたボスゴドラは、ノココによって殴り飛ばされた。その巨体は信じられないくらいに大きく飛び、豪快な音を立てて地面に叩きつけられる。
 二度にも渡る格闘タイプの攻撃を受け、ボスゴドラは既に目を回していた。

「…………っ!?」

 警備隊員達は思わず口をあんぐりと開けて、唖然としてしまっていた。自分達が苦戦していたポケモンを、こうも簡単に倒されてしまったのだ。それも、子供の所持するポケモンの力で、だ。この目の前の状況を上手く飲み込むことができず、警備隊員は言葉も出ない。

「ハイク、これで……!」
「うん、突入できる! ありがとう、ノココ!」
『おうっ!』

 これで守りは崩れた。ボスゴドラによって守られていたジムの入口は、完全に露出してしまっている。これなら簡単に突入できるはずだ。

 未だ唖然とする警備隊員を他所に、ハイクとレイン、そして彼らのポケモン達はジムの中へと入っていった。

absolute ( 2014/04/29(火) 11:25 )