プロローグ
空間が脈動した気がした。
体全体で感じ取る事ができる衝撃。暗闇に佇む‘それ’が大きくうごめいたかと思うと、凄まじい風圧と共に耳を覆いたくなるような轟音が、襲いかかってきた。
鼓膜が激しく振動し、それに応じるかのように視界も上下に揺れる。まるで地震でも起きたのではないかと錯覚する程の、大きな衝撃と轟音だった。
この音は、何かの機械音? それとも、ポケモンの鳴き声? いや、違う。これは、‘叫び’だ。
オオオーーーーン――
暫時 大きくなる衝撃と音。少年は溜まらず耳を抑えてしゃがみ込んでしまう。
その叫びから感じられるのは、強く大きな感情だ。それは、憎しみと捉える事もできるし、悲しみと捉える事もできる。どちらにせよ、それを受けて強い嫌悪感を抱いてしまう事は変わりない。ただ一つ言える事は、それは強大な負の感情の塊だと言う事だ。
しかし、その叫びを受けても尚、少年は立ち上がる。そして自らのその瞳で、しっかりと‘それ’を見据えた。
ここは薄暗い空間だった。けれども、そんな中でも‘それ’はしっかりと視覚できる。当たり前だ。この短時間で、ここまで圧倒的な力を見せつけられたのだ。見ようと思わなくとも、自然と視界に捉えてしまう。
‘それ’はそれほど強大で、底の知れない力をもっていると言う事だ。
―――はもう駄目かも知れない。いや、―――だけじゃない。他のポケモン達もだ。
彼らはすでに満身創痍のはずだった。傷ついた身体中が悲鳴を上げてるのに違いない。恐怖でおののきそうになっているのに違いない。楽になりたいと、心のどこかで思っているのに違いない。
それでも、彼らは少年と同じように立ち上がる。例えそれが虚勢だったとしても、また返り討ちにされるのだとしても、彼らは屈しない。例え体力が尽きたとしても、彼らは強い思いだけで突き進む。
しかし……、少年は苦悩していた。
ポケモン達は戦ってくれる。こんな、頼りない自分についてきてくれる。‘それ’を止めようと、必死になって立ち上がってくれる。
だからこそ、もう彼らには戦ってほしくないのだ。
もう十分に頑張ってくれた。だからもう、これ以上 苦しまなくてもいいはずだろう。それなのに……どうして、そこまでして戦うのだろう。どうして、そこまでして前を向くのだろう。どうして、どうして、どうして――――。
「俺たちは……」
少年の瞳に宿る光は、ゆっくりと、しかし確実に弱まっていった。