ポケモン不思議のダンジョン 空 狂った少女の狂わぬお話
始まる、動く、大きな歯車
いざ参らん、ギルド
 
 パチパチと木の燃える音が響く。やはりこちらの世界にも灯りが必要な時間はあるんだね。と、長い階段を上り終えて思う。
 そんな灯りを前に構えるのは、ピンクのポケモンを形どった建物。うーん、プクリンだったかな?
 左右にポケモンのトーテムポールを備えるその建物、驚くべきことにギルドらしい。
 ギルドっていうくらいだから、もっと堂々としたものかと思ってたよ。うーん、これって偏見?

「こ、ここが探検隊のギルド。紅縞瑪瑙のギルドって呼ばれてるみたいです」
「へぇ……、なんというか……。偏見かもしれないけど、ちょっとこれって様変わりしてる?」
「う……そう、かもしれません。ちょっと不気味ですよね」

 よかった。未来で培った感覚は、こっちの人とだいたい同じみたい。
 やっぱりこれは、ちょっと、うん。そうだよね。

「ギルドは不審者が入ってこないかを入口で監視しているんです。足型で。
 その為の穴がそこにあるんですが……」

 成程、確かに穴があいている。穴といっても、勿論落ちないように……ていうか、足型を判断するために網の形に組まれた木が収まっている。
 オパールちゃんは少し言葉を濁した。ってことは、これが怖くて入れないのか。

 ふふ、仕方がないなぁ。

「分かった。私から乗ってみるね」
「ふぇっ!? え、あのっ」

 とりあえず乗ってみた。……くすぐったっ!? しかも今【ミシッ】っていった!
 脚が四本、全部くすぐったい! は、早くしておくれっ。

「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「誰の足型? 誰の足型?」
「足型は――――」

 そんな掛け声があって、しかしそれは途中で途切れた。
 オパールちゃんと顔を見合わせる。これは一体……?

「あ、足型は……」
「ん? どうした? どうした! 見張り番のジルコン!」
「えーっとぉ、足型はぁ……。
 ――――多分ロコン! 多分ロコン! 自信ないけど……」
「多分ってなんだぁ!?
 はっきり言え! はっきり!」
「は、はい!
 と、言う訳で、種族をお教えいただけますか?」
「おい、ジルコン!?」

 うわぁ。これは、これは……。大変なんだねぇ。
 聞こえてきた遠さから言って、結構離れてるよ? そんなところから、はっきりと足型を判別しろだなんて、酷だよね。
 まあ、言わないとお話が進まないね。仕方がない。

「はい、私はロコンです。合ってますよ」
「ありがとうございます。良かった、合ってた……。
 足型はロコン! 足型はロコン!」
「……いくらロコンがこの辺におらず、見慣れていないとはいえ。足型を見て完全に判断するのが、ジルコン。お前の仕事だろう?
 ったく……。もう一匹いるな、乗れ。
 次はないぞ、ジルコン」
「はいっ! 次の方、お願いします!」

 ふふ、なんだか寸劇を見ている気分。
 私はどいて、オパールちゃんに任せないと。
 じーっ。

「は、はい……乗りますよ……。
 うう……えいっ!」

 勢いよく、オパールちゃんが飛び乗った。【ミシミシッ】と音がなり、最後に【バキッ】となった。

 ……あ、ありのまま、今起こったことを話すのぜ!?
 ふと目を離した瞬間に、オパールちゃんが消えていた。
 ……何が起こったのか分からないのぜ、ただ、分かるのは、オパールちゃんが最後にいた見張り穴の格子は、見事に折れているだけなんだぜ――――

「オパールちゃん、大丈夫ー!?」

 お、落っこちた!? ちょ、これ大丈夫なの!?
 下からは話し声が聞こえてくる。

「うわぁっ!? えっと、足型は……と言うか、イーブイ! イーブイです!」
「イ、イタタ……。尻尾打った……」
「なんだ!? 何があった!?」

 ああ、もう……ぐちゃぐちゃ……。

 もうどうにでもなーれ!

 ☆☆

「……大丈夫か?」
「はい……大丈夫です」
「良かった……。くそ、トルマリンにもしっかり言っておいたのに。そろそろ木格子を作り直したほうがいいって」
「……弁償とかしたほうがいいですか?」
「いや、元から作り直す予定だったんだ。寧ろ、外す手間が省けたと思えば……な」
「……ごめんなさい」

 開いた入口から入ってみると梯子があったから、降りてみると今の会話が更に下の階から聞こえてきた。三階建てなのか……。
 そちらに降りてみると、見事にオパールちゃんがしょんぼりしていた。うん。お疲れ。
 慰めているのは、紫っぽい体で、さっきの掛け声の片方。ドゴームという種族のポケモンだった。

「オパールちゃん、大丈夫?」
「あ、ザクロさん。はい、こちらのタンザナイトさんが介抱してくださったので」
「……ありがとうございます」
「いや、ギルド側の責任だ。気にすんな」

 はぁ、無事で良かった。もしも何かあったら、私の体を犠牲にしてでも助けようと思ってたけど大丈夫みたいだね。
 ドゴームさん――――タンザナイトさんにはお礼お礼。


「おいっ! なんの騒ぎだ?」

 騒ぎを聞きつけやって来たのは、カラフルな羽が特徴的なポケモン――――ペラップだった。

「いや、このイーブイが見張り穴に乗ったら、木格子が折れて見張り穴に落ちたんだよ」
「なんだって? む……済まないことをしたね。我々の責任だ」
「いえ、大丈夫です。介抱してもらいましたし。
 それより、わたし達、ギルドに入門したくてきたんです!」

 おお、攻め気。このほんの短時間で成長したね。って、これ以上ダラダラしたらズルズル流れて行きそうだもんね。収拾つかない。
 ギルドに入門する、と言われてペラップさんとタンザナイトさんは酷くびっくりしていた。うーん、そんなに驚くことかなぁ?

「ギ、ギルドに入門だと!?」
「まさか……今時、こんな厳しいギルドは耐えられないと脱走するものが後を絶たない所に入ろうと思う奴がいるなんて……」

 ブツブツと呟いている二匹に、オパールちゃんは恐る恐る話しかける。

「あの、ギルドの修行って、そんなに厳しいんですか?」
「――――ハッ!?
 い、いやいや! そんなことはないよ! 修行はとーっても楽チン!」

 いきなり言葉を翻して明るく言うペラップさん。
 ……でもさ。

「楽なんだったら、脱走する人なんていないと思うんだけど……。
 それに、楽だったら修行にならないんじゃ……」
「て、適度になっているんだよ!」

 思わず呟く私の声を目ざとく聞いて、声を少し荒げるペラップさん。
 あう、これ以上何か言ったらまたズルズルと長引きそうだね。終了っと。

「とにかく! 親方様のところに案内するから付いてきな」

 そう言って歩き出すペラップさんに二匹でついていく。
 後ろ姿を見送るドゴームさんが逃げ場を探すようにキョロキョロしていたのが印象的だった。


 ☆☆


「自己紹介がまだだったね。
 ワタシはトルマリン。情報屋のペラップなんてあだ名をもらってるよ」

 情報屋ってことは、物知りなのかな?
 今度、ちょっと聞いてみたいこと聞いてみよっと。

「わたしはオパールです」
「ザクロです。よろしくお願いします」
「よろしく。さあ、ここが親方様の部屋だよ」

 簡単に自己紹介を済ませると、丁度着いたみたいだ。
 トルマリンさんは、顔に少し影を落として言った。

「くれぐれも……くれぐれも、粗相のないようにね」
『……はぁ』

 すっごく怖かったりするんだろうか。そんなに慎重に言うってことは。
 どんな人なんだろう?

「親方様、トルマリンです。入りますよ」

 扉を開けたその先には――――!



 ピンクのボールがこちらに背を向けていました。

 ……えっと。あれが、親方様……だよね?

「……」
「……」
「……親方様。……親方様?」

 トルマリンさんも思わず呼びかける。これは一体――――

「やあっ!」
「ひにゃぁっ!?」

 隣にいるオパールちゃんが私に抱きついてくる。私もちょっとびっくりしたよー。
 ピンクの親方様……プクリン親方は、つい先ほどまで切れていたスイッチを急に押したかのように話し始めた。

「君達がボクのギルドに入りたいってポケモンかい?
 大歓迎! ボクはここの親方、サードニックス。ニックスって呼んでね!
 君達は一緒に行動するってことでいいんだよね?
 じゃあ早速、君達のチームを登録しようか。チーム名を教えてくれる?」

 マシンガントークだった。ええと、ニックス親方に、チーム名を教えてくれと言われた。うん、内容は分かった。

「チーム名だって。オパールちゃん、何か考えある?」
「え、えっと……すいません、考えてないです。
 ザクロさんは、何かありませんか?」
「うーん……適当にぱっと考えようか」
「ですね。
 ザクロさんが最近感銘を受けた物ってなんですか?」

 んー……。色のついている形のない海、風、風に吹かれて擦れる木葉、どれも言ったらどう思われるか分からないものばっかり。
 その中で大丈夫そうなものは……うん。これかな。

「太陽、かな。こんなに暖かくて、明るかったんだ……って」
「太陽ですね?
 えっと……異国の言葉で、太陽のことを【エル・ソル】というらしいです。なので、それで……」
「へぇ、物知りだね。じゃあ、それでお願いします」
「分かった! 【エル・ソル】で登録するよ?」

 そう言うとニックス親方は、大きく息を吸い込み始めた。うん?
 トルマリンさんはなんか慌ててるし……?

「いかん! お前ら、耳を塞げ! あと衝撃に備えろ!」
「はいぃ!?」

 耳を塞いで衝撃に備えるって、一体何が起こるの?
 とりあえず耳は塞いだけど、衝撃っていうのがよく分からない――――

「登録、登録……――――


 ――――たああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ひにゃぁっ!」
「みぎゃっ!?」
「ひえぇぇ……」

 びっくりするぐらいの大きな声。それと、衝撃波。これって、ハイパーボイス?
 それに吹っ飛ばされた私は、部屋の外まで一直線。え、ちょ、窓! 窓空いてる!
 落ちる! それは流石に誰も得しない! 誰も得しないことしたくない!
 誰かー!

 ぴとっ……。

「きゃっ……親方様ったら……大丈夫ですか?」
「うぇ? あ、はい……」

 私を受け止めてくれたのは、風鈴のようなポケモン……チリーンだった。
 うわあ、私浮いてる! チリーンさんの念力かな?
 チリーンさんはコロコロと笑った。

「親方様のハイパーボイスで吹き飛ばされちゃったんですね?
 私もでした。ちょっと怖いですよね、あれ」
「はい……ありがとうございました」

 ゆっくりと降ろしてもらい、お礼を言う。いやあ、本当に感謝だね。
 このチリーンさんはクォーツさん、ギルドの弟子の一匹らしい。

「ザクロさん! 大丈夫ですか!?」
「ザクロ! 大丈夫かい!?」
「あ、はい、助けてもらいました」
「よくやった、クォーツ!」
「いえいえ……私も体験者の一匹ですから」

 ううん、今回のはホントに怖かった。これより怖いことなんてザラにあるけどね。
 はぁ……心臓に悪い。



「やぁっ! 大丈夫だったかい? ごめんね、そこまで吹っ飛ぶと思ってなかったからさ」
「いえ……助けていただきましたし、大丈夫です」
「それは良かった!
 まあ、それは兎も角として、君達の登録は済んだよ。
 もう逃げられない……もとい、ボク達の仲間入りをした記念にプレゼントがあるよ!」
「……今、もう逃げられないって……」

 うん、それ、私も聞こえた。でも、触れてあげないのが大人って奴なのよ。オパールちゃん。
 ニックス親方から受け取った箱の中には、バッグが二つと地図、それとバッジが入っていた。

「探検隊の必須道具。このバッグはね、君達が活躍する毎に容量が増えていく不思議なバッグなんだ。
 この地図は、新たな場所が発見される度に雲で隠れている部分が取れていくこれまた不思議なバッグだよ。
 最後に、探検隊バッジ。探検隊の必需品だよ。
 これから、大変なこともあると思うけど、一緒に頑張ろうね!」
「えっと……は、はい! 頑張りましょうね、ザクロさん!」
「うん、ソウダネ……」
「……?」

 ……うーん。
 ニックス親方の不穏な発言があって、素直に喜べない。

 ……まあ、オパールちゃんの為にも、ギルドの修行、頑張ろうかな。
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綿で作った狼 ( 2014/08/17(日) 19:07 )