ポケモン不思議のダンジョン 空 狂った少女の狂わぬお話 - 大きなお話の前に
狂った世界の狂った少女
「――――本当にいいの?」
「うん、大丈夫だよ」
「未練はないな」

 紅水晶な彼女が聞く。私に続いて翡翠な彼が頷く。
 私なんかの突拍子もない提案に同意してここまで来ちゃうんだから、彼も大概莫迦だよね。

「では、行きますよ?」
「はーい」
「……急げ、奴らが来る」
「おー、大変だー」
「……本当に大変だと思ってます?」

 最後に聞こえた彼女の声は、呆れとか、諦めが混じってたかな。
 私と翡翠な彼はゲートの中に飛び込む。離れないように、手をつないで。
 ぐるぐる回って、ちょっと気持ち悪いかなぁ。



 ―――― ビシィッ! ――――


 そんな音とともに、どこかから攻撃が加わってくる。痛いなぁ。痛いなぁ。アハハ。
 ああ、もう一回攻撃が来る。……次のターゲットは、私じゃないの?
 ……駄目だよ。私は傷ついても、グチャグチャになってもいいからさ。私以外に嫌な思いをさせないで!
 彼の体を押し飛ばす。攻撃は、私にだけ来る。
 そう、これでいいの。私は不幸になってもいいから、他の人は不幸になっちゃダメ。

「うおッ! 大丈夫か!」
「あなたは? 怪我とか、色々……」
「いつもいつも! 少しは自分のことも――――」
「また来るよ。避けて」

 避けて、なんて言ったけど、これは完全に私狙いかな?
 やった、翡翠な彼は怪我しないんだ。よかった。



 ああ、痛いなぁ。痛いなぁ。
 なんだか、だんだん……前も、彼も、自分の体も、見えなくなってきちゃった。

「頑張れ! もう少しだ! もう少しの辛抱だ――――」

 だんだん、声も聞こえなくなってきちゃった。もう、駄目かなぁ。
 最後にもう一度来た攻撃から、彼を守らなきゃ――――

「――――――――!!」

 もう何も聞こえない。何も見えない。
 でも、これだけ。言うならできるだろうから。

「……ありがと。頑張ろ?」

 それを最後に、私の意識は……――――

綿で作った狼 ( 2014/08/13(水) 19:10 )