第一話 騎士団能力テスト
岩肌が丸出しの、寒々しい山の麓。
大きな岩に囲まれるようにして黒い穴が開いており、そのすぐ横にはポケモンが立っていた。
「準備の出来た者から入れ! ダンジョンでは素早さや攻撃力が大切になる。素早さを削る、たくさんの持ち物は置いていけ!」
あたりはしん、と静まっていた。
聞こえるのは騎士団の年長騎士の怒号(怒っているのかわからないが、怒っているようにしか聞こえない)だけだ。
その年長騎士はナゾノクサであるから、世の中なにがおきるかわからない。だから、僕でも大丈夫だと思ったんだけど・・・。
「おい、リオル! お前は入るのか? 入らないのか? 早くきめろ!!」
「は、はいぃ!」
怖い! 怖すぎます、ナゾノクサさん!
ちなみにここにはナゾノクサさんと僕以外だれもいない。それをあたかも大勢いるように言うもんだから、別の恐怖も這い寄ってくる。
騎士団―――それは大勢のポケモン達の夢見る職業。
街で困ったことがあるとすぐに駆けつけるから、誰しもが一度は見たことがあるだろう。騎士団員の象徴、水色の宝石をつけ、颯爽と現れ、事件を解決していく。
女子男子関係無くのあこがれの的だった。
入団すると一定の訓練期間が与えられ、学んだ後、正式に騎士団員になれる。しかしその訓練期間が厳しく、なにより難しいのが―――
「ダンジョンに入る勇気がないなら帰りな! そんなんで騎士団になったって、誰ひとり助けられないぞ」
―――訓練生になるテスト、初級ダンジョンを突破すること。
僕はごくんとつばをのんだ。
ダンジョンは怖い。怖い、けど。
騎士団になれないくらいなら、死んだ方がましだ!
「行きます!」
僕は後ろへ数歩下がり、走って岩穴に飛び込んだ。
「いや、別に助走つけなくても入れるんだがなぁ・・・」
・・・飛び込む寸前、ナゾノクサさんの声が聞こえてきた。
どうしよう、すごく不安になってきたんだけど。
暗い闇の中で、僕は浮遊感を感じながら思った。
あー、今夜のごはん、なににしようかな・・・。
イエス、ザ・現実逃避。