02
俺がネオと出会ったのは数年前。
マンガだったら『カッ』という効果音が入ってそうな真夏日のこと。
カーテンを締め切った、冷房の効いた部屋で、俺は
(ツタージャって光合成しなくても生きられるじゃん)
などとこのうえなくどうでもいいことを考えながら、パソコンをしていた。
―――突然だった。
バンっと窓が開かれ、茶色いボールが飛び込んできたのは。
夏の暑苦しい風が、俺のほおをなでていく。
それに合わせて、カーテンがバサバサと踊った。
ボールはころころと床を転がり、かべに当たって止まった。
こ・・れは・・・?
よく見ると、ボールは小刻みに震えていた。
生き物、なの、か?
「えと・・・その・・・あの〜・・・。」
排除しなければ。
快適なパソコン生活を邪魔した奴は抹殺すべきだ。
だがしかし、すっかり引きこもりが身について、コミュニケーション力ががた落ちしていた俺にとって、遠巻きにそう言うのが精一杯だった。
いや、できれば俺のスーパーカッコイイ技で殺してやりたいよ?
でもさ、床が汚れるんし・・・、さっき言ったとおりポケモンと話したのなんてもういくら前か思い出せないぐらいだし・・・。
けしてにらみつけると体当たりしかくりだせないわけじゃないぞ?
そう考えているうちに、ボールのヒクヒクはどんどん大きくなっていた。
思い切って顔を近づける。
そして、それは、最悪の、タイミング、だった。
生き物は飛び上がり、それは俺の顔へあたる。
「いってえええ!!」「あ、すみません!」
殺そう。こいつ今すぐ殺そう。体当たりで殺す。
生き物と目があう。
生き物は茶色い体毛に顔をうずめ、申し訳なさそうにこちらを見ていた。
(え、ケッコウカワイイジャン・・・)
許す。全力で許す。体当たりで(以下略
俺のライフポイントを奪っていった生き物は、慌てながら頭を下げた。
「私ネオって言います。ここで働かせてください!お願いします!」
思いがけない言葉とはこういうことを言うのだろう。
そして、今俺が爪をかむ思いをしているのは、これが原因なのだろう。
「またパソコンと話しているんですかぁ?」
「いや、今は、違う。お前と過去の俺の一人愚痴をしてる。」
言っといてなんだけど一人愚痴ってなんだ。
「おもったんだけどよ・・・お前仕事らしい仕事やってないよな。」
見なくても、ネオがびくりと体を震わせたのがわかる。
おい。