其の参 掻凍り編
#4 三番勝負
 グレイシア率いる最大グループ、「ブラン」。僕達は今その心中にいる。四方八方を囲む部下達。中央に開けた雪原。グレイシアの提案でバトルの準備が進められているからだ。規定は以下の通り。お互い三匹のポケモンを使用。シングルバトルを採用。ただし、入れ替えなし、加えて一匹につき一戦とする。つまりこれを三戦行うラウンド制。まず一匹ずつ出し合い、戦闘不能にさせた方の勝ち。一戦を手にする。先に二戦勝利した側に、ソウルの自由権利が与えられる。
 今までの旅でほとんどソウルをパーティに組んでいた。どの地方に行っても、いつも一緒だった。それほど心強い存在という証拠、だと思っていた。しかし実際は、ただソウルに頼りきっているかもしれない。バトルのより良い試合運びも、幾度とあったピンチの救済も、試合を左右する決定機も。彼が登場していることが多い。結局ソウルなしじゃ何も出来ないんじゃないか。そう思われるのが当然だろう。しかし考えてみれば、ソウル以外はみんな新参者。チームとしては未成熟、ゆえに期待度が高いわけだ。バランスを考慮すれば、ソウルが必要とするのは自然だ。
 それよりもここで二つの意味でチャンスが巡ってきた。ソウルを取り戻せることともう一つに。残った者達が自身のパフォーマンスをソウルに見せ、実力を認めさせることだ。メンバー入りして半年も経ってない者もいるが、総して着実に成長している。ソウルがいなくても自分達は十分に戦えるところを見せたい。なによりもソウルを脅かすほどの存在になってほしいとも思っている。
「それでは、最初の一匹だ。とりあえずジンライ、お前から行け。まずは相手の様子を伺う一手といこう」
「えぇ!? それって、オラで勝つ気がないって事っすかぁ! いくらなんでもあんまりですぜ、姐御ぉ。オラが非力だから? シゴウを温存したいから? やっぱり長男はどこにいっても実験体扱いかぁ……」
 つべこべ言わずさっさと行け、と言わんばかりにグレイシアが睨む。その眼光に怯えながら前へ歩む気弱なグラエナ。兄とはいえども、このグラエナは感情のままに行動する性格のようだ。僕にも共感するところもあるけれど、あれでは幼稚だ。損をするタイプだよ。でもね、実験体が成功したからって、その先うまくいくとは限らないんだよ。だから、君はそういう意味で出した訳じゃないと思う。
 さて、それじゃ僕は、確実に勝つ策に出ましょう。ソウルと同じく、この旅の最初のメンバー。
「セキマル、バトル・イン!」
「いーよっっしゃああああ!! 待ってました。ここでオイラが出なきゃ、くすぶってところだぜ! 派手にぶちかまして、勝利を手にする!!」
 勢いよく僕の後方から飛び出す。この極寒の中、相変わらずの元気っぷりを表すセキマル。それを見たグラエナは、さっきまで垂れていた尻尾を不意に高く上げた。あ、こいつオラより小さい。やった、いけるかも! そう思ったに違いない。だが見くびるなかれ。山椒は小粒もぴりりと辛いぞ。
 ハクタイでのニドキング戦ではソウルなしだったとはいえ、三対一のバトル。一対一(サシ)で闘うのは初めて。緊張と興奮、と多少の不安が僕の心で渦巻く。
「それでは先行を譲る。好きに始めろ」
 白い口元がニヤリと微笑む。その余裕もどこまで通せるかな。
 絶対に連れ戻す。一段高い岩場で、部下達に囲まれてくつろいでいるグレイシアと、その隣に座っているソウルに宣言するように見つめた。
「それじゃお言葉に甘えて、“かえんぐるま”!」
 助走をつけた勢いで走る火車と化したセキマル、一直線にグラエナに向かった。まず回避は難しい速さだった。このままダメージを与えこちらが優位に立つ、はずだった。火車は何の障害物も当たらなかったように、雪の上を滑走した。異変を感じたセキマルは体勢を立て直し、四本の腕足を地面につけ着地した。“かえんぐるま”で通った部分から、雪が急速的に蒸発する音が聞こえた。なんと気づけば、あのグラエナがセキマルと対峙していた。
 いつ避けた? あの速さで。スピードがなによりの取り柄であるセキマルから! 当の本人が一番に驚いただろう。
「何だ、トロ過ぎっ! それで本気っすか」
 一回回避しただけで図に乗りやがって。セキマルも同じ感情を抱いたに違いない。再度“かえんぐるま”で仕掛ける気だ。落ち着けと声を掛けようものなら簡単だが、すでに火炎が走っていた。対してグラエナは、ゆったり数歩の横移動。あちらが逆に落ち着いていた。するとそこへ“かえんぐるま”が猛スピードで横切った。間一髪に思えたが、実際グラエナは毛先一寸も焦がしていない。
 また避けられた! 何だよこいつ。取り囲んだ「ブラン」の部下達から、「おおっ」という歓声が沸いた。これを受けたグラエナは、あごを上げ、自慢げに胸を張った。一方この歓声がセキマルのプライドを侮辱した。ふつふつと沸騰し始めるように、彼の怒りがつのる。その怒りに触発されたのか、懲りずに再三同じ技でグラエナに向かう。なんと、今度のグラエナは、動かない。前足揃えてお尻まで地についている! グラエナの目前まで轢かんばかりの勢いで“かえんぐるま”が迫る。そう、目前まで。だが文字通り目の前まで来て、いきなり右に進路が傾いた。傾いたと思ったら、そのまま岩壁に突っ走っていく。その周辺にいたポケモンはとっさに避け、火車は案の定激突した。激突したとたんに炎が散るように払われ、倒れたセキマル本体が現れた。立ち上がると、激突した反動か、クラクラとして足がおぼつかなかった。まさかあの胸を張った行為は、“いばる”!? だから相手に当たらず、自分にダメージを負ったのか。セキマルは手や腕で両目をこすり、対象の位置を確認する。
「あちちちちっ、あっちー!!」
 それはグラエナのばかにうるさい叫び声だった。両目が開かれた瞬間に、セキマルは反射的に“ひのこ”を飛ばしたからだ。なんて切り替えが早く、隙のない攻撃。よほどお怒りのご様子……。
「あちちー! イテーッ! なんかひりひりしてカイーッ!」
 しめた、「やけど」を負った。これで確実に体力を奪える。追い打ちにまた放ってやろうと思った。セキマルがもう一発の“ひのこ”を投げようと腕を引いた。
 ザクッ。
 瞬間にグラエナの爪がセキマルを仕留めた音だった。“かえんぐるま”を避けたものとは比にならないくらいの速さ。刹那だ。しかし表情は「やけど」を負った苦い笑顔を含んでいる。なんてタフさと異常なスピード。
「パワーとしてはまだまだだが、とにかく速い。手に負えんぐらいにな。とくにリスクが加われば、なおも向上する。シゴウ達と肩を並べる唯一の理由がこれだ。この速さを武器にしているがゆえに、必ず先制を逃さない。その姿はまるで稲妻。『ブラン』の閃光の雷神とは、ジンライのことだ」
 冷ややかで鋭いグレイシアの声が、肌を刺すような寒風と共に流れて聞こえた。たぶんあのグラエナの特性は「はやあし」。状態異常になると素早さが上がるもの。なんてことだ。つまり自慢の能力を上乗せさせちゃったということか。
 かまわず“かえんぐるま”を放つセキマル。同時にグラエナは避けるように走る。
「そのまま追え! 追いつかなくてもいいから、そのまま!」
 大声でセキマルに指示を送る。スピード負けを想定した第二プランを。指示通りにセキマルはグラエナを追いかけまわす。それをグラエナは駆けたり、跳ねたり、進路変更をフェイントしたりする。火車のまま走り続け、雪が溶け、跡をつけたように湿った黒い土が現れる。広大な白いキャンバスに鉛筆を走らせたようである。
「無駄無駄っ。そんなんでオラと渡り合えるかっての。足止めする手段すら浮かばない頭してんすか?」
 走っている間も“ちょうはつ”する余裕を見せたグラエナ。だがその余裕は自らを危機に陥らせた。
 ズルッ。
 瞬間にグラエナは宙に浮いた。“かえんぐるま”で走った後に溶けた雪解け水と、露出した土が混ざりあったぬかるみに滑ったからだ。原因は、たぶん不注意。調子にのったことから、この事態が起きただろう。これで二匹の間隔が一気に狭まる。グラエナに迫る、荒ぶる炎。着地していないグラエナはこれ以上の回避は不可。このまま接触するのも無理ないと思われた。だが車輪のようにまとった炎が散り、みたびセキマルが現れる。そして散った炎は、セキマルの右手に吸収される。
 体に当てるんじゃない。体のどこか一点にだけ当てるんだ。“かえんぐるま”の炎をそのまま、この腕に集約した“ほのおのパンチ”で!
 横腹を突かれたグラエナは、反動を含めて二度地面に叩きつけられた。静止した体を確認すると、“ほのおのパンチ”が当たった箇所からひとすじの煙がたなびいていた。
「一戦目はそちらの勝利とする。我々は黒星発進か。はぁ……」
 潔くグレイシアが敗戦を認めた。負けを悔いているというより、何やっているんだという非難の表情。
「ちくしょ〜。またあそこで“ふいうち”やればよかった! せっかく『やけど』に耐えて『はやあし』の発動で上乗せしたのに〜。スピードじゃオレの方が速かったのに〜!」
「うるさいっ! いまさら“とおぼえ”したって後の祭りだろーが。次戦の準備だ。さっさと失せろっ!!」
 先ほど閃光のなんとかと賞賛したのに、この扱い。可哀想なものだな。
「あとはまかした。頼むぜ!」
 セキマルはそう言って第二戦で戦う仲間の背中を叩き鼓舞する。思いを背負ったその者は、僕の足下から離れ、闘技場ともいえる広場の中央に出た。
「おいおい、俺の相手がそんな嬢ちゃんでいいのかよ。ちっと俺をなめすぎていないか」
 対面したもう一匹のグラエナ、さきにセキマルと戦った者の弟がふかす。それもそのはず、二番目に出たのは紛れもなくイーブイだからだ。未進化の、しかもメスのイーブイを、僕は送ったのだ。けれど、三匹しかいないといっても、捨て試合にするつもりは毛頭ない。二番に出す意義は十分にある。
「あなたこそ、私をなめない方が身のためですよ。私を本気にさせたら、痛い目にあいますよ」
 なんと、普段は大人しい彼女が、こんな強気な挑発をかますなんて。上等だと言わんばかりの笑みを見せた弟グラエナは、頭を下ろす形でかがみ、戦闘態勢をとる。
 まもなくグレイシアの「始め」の合図で、第二戦が開始された。僕はイーブイに、開幕いきなり“すなかけ”を浴びせかけるよう指示をだした。イーブイはすかさず反転して、後ろ足で交互に地面をかきあげ、はだけた土を飛ばす。グラエナにとっては虚をつかれた先制である。ふりかかってきた雪や砂利を払うように、素早く顔を左右に振る。それでもお構いなしに“すなかけ”をしまくる。3〜4ターンかけて連続に砂をかけても、相手は一向に攻撃してこない。グラエナの命中率だけが下がる展開が続いた。するとあの落ち着きのある声が、僕達に向けて発せられた。
「なんだよ、これ。痛い目にあいますよとか言っておきながら、随分ちんけな戦法だな。どう俺を痛めつけるのかって、期待までさせといてよぉ。残念だ。もう飽きたから、さっさと片付けてやるよ」
 不意にグラエナは口を大きく開く。開かれた口の前に、闇を思わせる漆黒の玉が一つ浮かび上がる。適当な大きさになると、それはイーブイに向かって放たれた。おそらくあれは、“シャドーボール”。まさか、無駄打ちにする気か? ノーマルタイプにゴーストは効果がないことを知らないのか? 僕の経験上、そのようなことが発生した時は体をすり抜けるはずだ。
「あうっ!」
 うそ。当たった。見事にイーブイに命中した。なんで! どうして!? 何が起きたっていうんだよ。
「ハクトッ。そいつは“かぎわける”を使ったんだ! だから命中率はおろか、タイプ相性も関係なく当たったんだ!」
 グレイシアの隣でソウルが、大声張り上げて僕に報告した。もしかして反撃してこないの間に使われたのか。ならこちらも、相手の体力を削らずにはいられなくなった。
「イーブイ、“アイアンテール”!」
 重くなった鋼の尾でグラエナに対抗する。一転して激しい肉弾戦に移った。両者共に著しく体力を奪い合っている。けれどその合間にも、欠かさず僕は“すなかけ”を指示した。再び砂をかけると、グラエナは吠えるように言った。だいぶ疲れている様子だった。
「ハハッ。またそれかよ。俺の攻撃が外れさえすればどうにかなるっていうのか?
それとも、こうもしないと自分の攻撃が当てらないのかよっ!
なんて期待外れなやつと相対しちゃったのかなあ、俺は。がっかりだ」
 まずい、“いちゃもん”をつけられた。同じ技を連続で使えなくしやがった。
「こっちも“シャドーボール”だ」
 イーブイも同等の大きさの玉を放った。
その後、“すなかけ”、“アイアンテール”、“すなかけ”、“シャドーボール”、“すなかけ”、“アイアンテール”と立て続けに繰り出した。次は間違いなく「砂」だと察知したグラエナは、意を決して突進してきた。
でも残念。こっちも決着つけたいし。
「“とっておき”ー!!」
 迫るグラエナの正面を、押し出すように前足を突き出したイーブイ。身につけた技全ての衝撃波を受け、反動で高く宙を舞う。先程の攻防戦でのダメージと共に計算すれば、確実に戦闘不能に至ったと判断した。あとはグラエナが地に着き、倒れたら、僕達の勝利だ。まもなくソウルは解放され、連れ戻すことができる。
「なるほどな、なかなか攻めないと思ったら、こんな策略を企てたのか。まったく、えっれ〜モノをくらわせやがって。この俺を吹き飛ばす威力だもんな。だが、せっかくの大技なのにひんしにさせなかったのは、絶対にあってはいけないことだ。敵を野放しにさせたら後で何をされるか分からない。俺達はそんな恐ろしい野生の世界で生きている。だめだ、これじゃ落第だ。『お仕置き』が必要、だな」
 グラエナはゆっくりと体を反転させ、地面にいるイーブイを捉えた。何をするつもりだと思ったその矢先、自身の両前足を縦に振るった。しかしそこから拳や光線が出るわけでもなかった。けれど、何かがイーブイに向かって放たれたようだ。そしてその時はすぐに訪れた。
「うんっ!?」
 いつの間にかイーブイは飛ばされていた。僕に向かって真横に飛ばされ、ついに衝突した。あまりにも速く飛んできたので、受け止めきれずおもいっきり腹をうった。その衝撃を受けた僕はたまらず尻餅をついてしまった。痛いの一言も呟かず、ただちにイーブイを確認した。僕の腕の中で、ぐったりと首がうなだれて横たわっていた。戦闘、不能……。先にイーブイが倒れてしまった。
「瞬く雷の一閃のようにスピード特化したジンライとは相対して、シゴウは旋風の如く攻撃を避け、巴投げのように相手に返す。己の技量だけではなく、相手の技をも支配する戦法。数々の戦場を潜ってきた経験と、確かな実力がなければ決して成せぬ(わざ)だ。ジンライと対をなして言うのなら、朔風の風神。北の風の猛威、それがシゴウ。我ながら良い例えだな。さあ、これで互いに一勝一敗。お前達の仲間を巡る戦いも、次で最後。泣いても笑ってもわめいても、次の勝敗でこいつの運命が確定する。お前が三番手として選んだ、最後に相応しい、誇らしい一匹を場に出すのだ!」
 肌を刺すような冷たい風の如く、淡々と話すグレイシアの声が聞こえてきた。顔を上げると、彼女は再び余裕を含んだ笑みを浮かべていた。
 今まで何が起きたのか理解が追いつかず、狐につままれたような気分であった。だが、グレイシアとグラエナの発言から察するに、実に容易なトリックだったことが分かった。イーブイの攻撃を喰らう時、確実に自分の急所を突かれないように受け、“とっておき”と同等以上の威力をお見舞いした。あえて後攻にして相手の攻撃を受けるかわりに、通常の二倍の威力を与えられる技……。“おしおき”だったのか、あれは!! それにしても、フルパワーの“とっておき”を受けても落ちないあのタフさや、予想外の状況でも立て直し対処できるあの戦術には驚いた。野生とは思えないほど鍛えられている。ますます恐ろしい。ゆえに、最後の第三戦は慎重にいきたいところだ。なぜなら僕の手持ちはあと一匹しかいない。しかも……。
「さっきのチビ達ならまだしも、あいつって? 勝つ気あんのか?」
 すでに群衆は強風に吹かれた林のようにざわめいた。彼らの視線をいっぱいに浴びたリーフィア、彼女の話題であった。雪国ではまず見かけない、生存しにくい草タイプ。相手は、グレイシアの直近の部下の残り一匹にして、天敵の氷タイプのがんめんポケモン。リーフィア対オニゴーリ。恐らくこの対面になってしまう。この絶対に負けられない戦いに、何とも不利な状況を強いられた。しかし、バトルに有利不利はつきもの。それに、目の前の敵を負かすことを目的にするなら、与えられる条件は双方ともに同じなんだ。まだ始まってもいない。戦いながら探ってみればいい。
 こちらに振り向いたリーフィアの表情は、ここまで絶えず笑顔のままだった。気圧されていなかった。それどころか闘志すら感じた。こんなにも心強い仲間がいてくれる。僕はなんて幸せ者なんだ。この戦いに勝利した暁に、皆でポフィンパーティーで祝おう。ジュースで(さかずき)を交わそうではないか。
「トウガ、待て。お前は行くな」
 オニゴーリが荒れた戦場へ赴こうとした途端、グレイシアに制された。素直に身を引くオニゴーリだが、その大きな顔には驚きしか含まれてなかった。オニゴーリだけではない。この場にいる全員も同じ心境だった。部下の三体で勝負すると提案したのだから、てっきりオニゴーリも参戦するのだと思っていた。他を出してこちらの戦略を狂わそうとしているのか? 相変わらず冷たく刺々しい声と口調でグレイシアは話し始める。
「二戦通してお前達の実力と気合を見せてもらった。アタシはこの地で幾多の人間やポケモンと戦いを交えたが、今回ばかりは初体験だ。二匹のパフォーマンスに引けを取らず、未だ連戦に意欲的である! 残りのポケモン同士では圧倒的に我々が有利。それなのにまだ挑み続ける気力すらある! 自負ではあるが、我々と一戦交わしただけでも恐怖に(おのの)くのが普通であり、平均だ。それなのに、くくく……。本当に末恐ろしい奴らだ。今、アタシの中でかつてないほどに興奮している! お前達と戦いたい!! 当初アタシは部下を戦わせると宣言した。しかしせっかく残した一匹枠。ここで急遽アタシが場に召喚する! トウガ。お前の出番がなくなってしまうが良いか?」
「お嬢様のお望みを拒む理由が、一体どこにあるのでしょうか。私めでよろしければ、どうぞお代わり下さいませ」
「すまないな、じゃアレを」
 承知、と言うばかりにオニゴーリはお辞儀し、グラエナ兄弟に耳打ちする。すると、どこからともなく小さな木箱のような物を、グラエナが咥えて持ってきた。それをオニゴーリは鼻先で器用に開け、その中からまた何かを咥えて取り出した。紐状のような物が確認出来るが、何かを下げていた。鉱石か? 一瞬光ったように見えたが。今度はそれをオニゴーリはグレイシアの頭から首まで通した。
「ご武運をお祈り申し上げます。いってらっしゃいませ」
「ありがとう。お前の分まで頑張るよ」
 グレイシアは再びこちらに向き直し、胸元に落とした宝石を翻した。その輝きは、快晴時の雪よりも眩しかった。その直後、二つの光が頭の中できらめいていた。それぞれ異なる色の光がイメージされた。そこにグレイシアが下げているものの光も現れた。三つの光は、まるで呼吸を合わせるかのように、交互に点滅を繰り返す。一つは灰色。もう一つは桃色。そして最後は……。
「喜べ。お前達のここまでの活躍ぶりを評し、このアタシ自ら相手にしてやる。この勝負の結果次第で、あのルカリオの運命が決まる。同時に我々の運命も賭けている。もはやこれは戦いではなく、儀式に等しい。神聖で、しかし無慈悲な時間をアタシ達は共に過ごす。そんな覚悟を持ってお前達に挑むつもりだ」
 今やグレイシアの瞳は、首飾りに埋め込まれた深海の如く蒼い宝石と同等に輝いていた。今の彼女の顔からは、いつもの余裕の笑みが消え失せた。
 また。まただよ。またあの同じ形のペンダント。イーブイとリーフィアが身に付けているものと同種だ。ついに偶然の産物として見るという現実逃避もここまでなのか。

■筆者メッセージ
絶賛健闘中。
ジョヴァン2 ( 2014/05/14(水) 17:43 )