リウの日記0日目
あたしはママがあまり好きじゃない。
母親らしいことなんて今までほとんど何もしてくれなくて、お仕事が忙しいのを理由に家にはめったに帰ってこない。帰ってきても、なんだか気まずそうにパパが作ったご飯だけ食べて、また仕事のもとへと戻っていっちゃう。帰ってきてもあたしとはあまり話をしてくれない。
ママはどこまでもポケモンとお仕事一筋で、家族のことなんて頭に無いのかもしれない。
あたしはママに愛されていないのかもしれない。そう思って自分が生まれてきたことを呪ったことがある。
ママはとてもすごい人だって小さいころにパパに飽きるほど教えられた。
アリビノ地方で一番つよいポケモントレーナーなんだって。それを聞いて、幼いあたしはママを誇りに思えた。でも、少しだけ大きくなって物事がよく分かるようになっていくにつれて、それはあたし自身の重荷になっていった。
アリビノ地方の頂点に立つ一番強いポケモントレーナー、チャンピオンである人を母親に持ったあたしに対する周囲の目と言葉は複雑だった。みんな、いろんな感情が入り混じった目であたしを見る。
あたしもママみたいに強くなるっていう期待。
所詮親の七光りだという人の意地の悪い言葉。
ぜんぶ、ぜんぶが鬱陶しい。あたしはあたしであって、ママのようにはなれない。あたしはママじゃない。比べる対象が違う、馬鹿じゃないの?
ママへのあこがれが劣等感に変わっていく。周りの期待とか、そういうのも嫌だけど、一番嫌なのは自分がチャンピオンの娘であることを実感するたびに自分を嫌いになっていくあたし自身。
でも、そんなことがたくさんあっても、あたしはママが嫌いにはなれない。
ママはとてもすごい人。
チャンピオンの座をずっと守ってきた、アリビノ地方最強のポケモントレーナー。あたしはママが誰かに負けるところを見たことがない。5歳の時に実際に見たポケモンリーグでのエキシビションマッチでも、おたがいに遠く離れた液晶画面越しでも。
もちろん誰にも負けてほしくない。あまり好きじゃないママだけど、負けるところなんて見たくなかった。誰にも負けないママだから、少しだけ好きでいられる。
今年であたしは14歳になる。アリビノ地方でポケモンを連れて旅に出ることが許される年齢になった。
これから出会うポケモン、町、ひと。たくさんの「新しい」に出会いたい。きっとそうやってたくさん出会ってたどりついた先に、あたしの夢があるはずだから。