第九話 対決リーシャン! リーダーの責任
翌朝の朝礼で、ソウイチ達に続き他のメンバーにも遠征へ行くことが告げられた。
今回の目的地は、大陸の東側にある巨大な湖。
この湖に関しては未知の部分が多く、その謎を解明すべく遠征に乗り出すという。
やはりギルドの一大イベントということもあり、話を初めて聞いたメンバーはもちろん、ソウイチ達でさえも一度冷めた興奮が再びよみがえってくる。
特にビッパはソウイチ達の先輩とはいえ、遠征に行くのは今回が初めて。
メンバーの中でも、これから始まるかもしれない大冒険に一際目を輝かせていた。
「出発は数日後。その間にこの中から精鋭を選び出し、そのメンバーで遠征に出かける。みんな、遠征隊に選ばれるようにがんばってくれ!」
ペラップに言われ、一同はいつもより大きな声で返事をする。
遠征に行きたいのは皆同じ、誰もが張り切ってそれぞれの持ち場へと散って行く。
ソウイチ達は普段と同じく、掲示板やお尋ね者の依頼だ。
自分達も選ばれるように頑張らねばと、ソウイチは気合を入れ依頼を選びに行こうとした矢先、カメキチが忘れ物をしたことに気付く。
一足先に階段を上ろうとしていたソウイチは、コントでもやっているかのように階段から滑り落ちその場にひっくりかえった。
「なんでこういう時に忘れ物してんだよ! ったく……」
慌てて部屋へ戻るカメキチに思わず舌打ちするソウイチ。
ソウマになだめられ怒りは収まったものの、やる気は少しそがれてしまったようだ。
ソウマ達はカメキチが来るまで待っているとのことなので、ソウイチ達は一足先に依頼を選ぶことに。
メンバーに選ばれるよう頑張ろうとお互い笑顔で話しているソウヤ達の雰囲気にソウイチのやる気も回復し、いつの間にか三人の話に加わっていた。
階段を上り終え掲示板の方を見ると、どこかで見かけたようなポケモンがいる。
最初に気付いたのはゴロスケで、ソウイチはその二人が誰なのかすぐに分かった。
モリゾー達と出会った時に倒したドガースとズバットだったのだ。
三人の前で大恥をかかされただけに、ソウイチの記憶にはあの二人が強く残っていた。
しかし、いせきのかけらを盗んだ悪人がどうしてギルドに出入りしているのだろうか。
「あいつら性懲りもなく……! もういっぺんぶっ飛ばしてやる!」
「いきなりケンカ売ってどうするのさ!」
いきり立つソウイチを必死でなだめるソウヤ。
以前のことで腹が立つのは分かるが、今回向こうは何もしていないのだ。
悪行から足を洗うとは考えにくいが、だからといって制裁を下していいはずもない。
すると、向こうもソウイチ達に気がついたのかひどく驚いた様子で近づいてきた。
「お、お前らなんでこんなところにいるんだ!?」
「それはこっちのセリフだ!! てめえらこそ何しにきやがった!? ここは盗人の来るところじゃねえぞ!!」
近づいてくるなりものすごい剣幕で怒鳴り散らすソウイチ。
その大声にその場にいた誰もが振り返りソウイチに注目する。
すると、ドガースとズバットはソウイチを憐れむような目で見ると、衝撃の事実を口にした。
彼らもまた、アドバンズと同じ探検隊の一員だったのだ。
人のものを盗むような奴らの正体が探検隊だったと知り、四人は動揺を隠せなかった。
それと同時に、悪人なのに探検隊という職業をやっていることに激しい嫌悪を抱く。
「そういうお前達こそなんでここにいるんだよ?」
「オイラ達は探検隊になりたくてここで修行してるんだ!」
ドガースの見下すような態度にモリゾーはむっとする。
さらにそのあとの大げさな驚き方も四人の怒りを増幅させるには十分で、その場にいたポケモン達も白い目でドガースとズバットを見ていた。
突然、ドガースとズバットはモリゾーとゴロスケをソウイチ達から引き離し隅の方へ引っ張って行く。
呆然とたたずむソウイチとソウヤ。
そしてモリゾーとゴロスケはといえば、ドガースとズバットに偉そうに説教をされていた。
「悪いことは言わねえ。探検隊はあきらめろ」
「な、なんであきらめる必要があるのさ!!」
あきらめろと言われるとは思っていなかった二人は怒りをあらわにした。
しかし、ドガースとズバットはどこ吹く風でさらに続ける。
「だってお前ら臆病じゃないか。お前らみたいな弱虫君に探検隊は無理だぜ」
ズバットに言われ、二人の怒りは頂点に達する。
だがここでもめ事を起こしては自分達の評価を下げるだけだと、つかみかかりたい気持ちを押し殺して冷静に言い返す。
「確かにオイラは弱虫だよ……。でも、そんな自分に負けないように修行してるつもりだ!」
「今もギルドの遠征メンバーに選ばれるようにがんばってるんだ! 余計な心配される筋合いはないよ!」
すると、それを聞いた二人は顔を見合わせるとにやにやし始めた。
何か悪いことをたくらんでいるようにも見える。
「へへっ、でもがんばればいいってもんじゃないぜ。実力がなければ遠征隊には選ばれないんだろ?結局のところは実力だよ。じ・つ・りょ・く!」
ズバットの一言で、ついにモリゾーとゴロスケも堪忍袋の緒が切れた。
額に青筋を浮かべドガースとズバットに詰め寄る。
「え、えらそうに!! 実力って言うけど、そっちこそなんなんだよ!!」
「探検隊ですらなかった僕達に負けるくらい弱かったじゃないか!!」
二人の顔は怒りで真っ赤だ。
ここがギルドでなければ技の一つや二つはお見舞いしていただろう。
ソウイチ達と隔離されていなければ、おそらくソウイチの方が先に手を出していたかもしれない。
ところが、ものすごい剣幕の二人を見ても彼らは平然としている。
「ケッ、あの時はアニキがいなかったからな」
「あ、アニキ……?」
アニキと聞いて真っ先にソウマを思い浮かべる二人であったがさすがにそれはありえない。
ドガース達にもう一人仲間がいるというのは初耳だ。
「我が探検隊ドクローズは全部で三匹。そのリーダー、つまりアニキがものすごい実力の持ち主。はっきり言ってしまえばものすごく強いのさ」
「お前らなんかアニキさえいれば一ひねりさ」
自慢げに語ってはいるが、結局強いのはそのアニキなる人物だけということを自分からアピールしているようなもの。
モリゾーとゴロスケは何がしたいのかよくわからない二人にあきれ果て怒る気力すらなくなっていた。
「お、噂をすればこのにおいは!」
「におい?」
ドガースとズバットは何かに気付いたようだが、モリゾーとゴロスケは辺りのにおいをかいでも何も感じない。
すると、階段から紫色のスカンクのようなポケモンが降りてくる。
「どけ! 邪魔だ!」
突然そのポケモンは、目の前にいたソウイチとソウヤを毒ガスで吹き飛ばす。
間髪を入れない攻撃をよけられるはずもなく、ガスを大量に吸い込んだ二人は苦しそうにむせ返り地面をのた打ち回っている。
「そ、ソウイチ!!」
「ソウヤ!!」
モリゾーとゴロスケは二人の方を振り返る。
毒ガスの威力が想像以上にすさまじかったせいか、二人とも半分気を失いかけ体をけいれんさせていた。
ガスは周囲にも拡散し、ゴミが腐ったような屁のような不快なにおいに誰もが顔を歪ませている。
「どけ! こいつらみたいに張り倒されたいか?」
決して大声で怒鳴ったわけではないが、そのポケモンの言葉にはモリゾー達を震え上がらせるには十分の威圧感があった。
二人は逆らうことなく大人しく道を譲る。
そのポケモン、スカタンクは四人を鼻で笑い堂々とドガースとズバットに近づく。
二人はあらん限りの言葉でスカタンクをほめたたえる。
「そんなことより。お前ら、金になりそうな仕事はあったのか?」
「掲示板にはせこい仕事しかなかったんですが、耳寄りな話が」
ドガースとズバットはスカタンクにこっそり耳打ちする。
その話を聞いて、思わずにやりと笑うスカタンク。
「早速帰って悪巧みだ。行くぞ!」
傍若無人な振る舞いをするだけして、スカタンクは二人を引き連れギルドから出て行った。
それを見計らい、モリゾーとゴロスケはソウイチとソウヤの元へ駆け寄る。
「し、死ぬかと思ったぜ……」
「目の前にお花畑が見えたよ……」
まだ少しガスの効果が残っているのか、二人とも青ざめ足元がおぼつかない。
けがをしていないことにモリゾー達は安心したが、すぐに肩を落としうなだれる。
「ごめん、ソウイチ……。オイラ、あいつらを前にして戦う勇気が出なかったよ……」
「二人がやられたっていうのに、情けないよ……」
本当はあの場でスカタンクにつかみかかろうと思えばできたはず。
だが、スカタンクの妙な威圧感と毒ガスの恐怖から、足はすくみ言葉ものどもとでつかえ出てこなかった。
強い探検隊というのは、バトルだけでなく、毅然とした態度も必要だということを思い知った二人。
「ったく! 少しは根性見せろよ!! あんな奴らにやられて悔しくないのか!?」
またしても恥をかかされ、ソウイチはモリゾーとゴロスケの頭をはたき感情に任せて怒鳴りつけた。
ソウイチの剣幕に二人は縮み上がり、今にも泣きそうな表情をしている。
「そんな言い方はないでしょ? 気にしなくていいよ。あんなやつらにわざわざけんかを売ることないもの」
ソウイチを手で制し、モリゾーとゴロスケを優しく慰めるソウヤ。
あの場でけんかを売らず耐えたことは間違いではないのだ。
言葉はまだいいが、先に手を出した方が圧倒的に悪いことをソウヤは理解していた。
「でも、やっぱり弱虫だって事には間違いないよ……」
「だけどそれを克服するためにギルドに入ったんだ。気持ちを切り替えなきゃ」
徐々に前向きになるモリゾーとゴロスケ。
ソウイチも少し怒ってはいたが、つまらないやつのことでいつまでも気分を害しても仕方がないと怒りを鎮める。
次は根性を見せろと、最後の一言だけは忘れていなかったが。
そこでようやく忘れ物を取りに行ったカメキチと待っていたソウマ達も合流。
日頃から整理しないのが悪いとライナから小言を食らうカメキチだが、反省しているのかしてないのかへいへいと軽く受け流している。
全員そろったということで早速依頼を選ぶ。
今回はたきつぼのどうくつに関する依頼が多いため、それらをまとめてこなすことにした。
ギルドを出発して交差点に差し掛かると、見慣れないソーナンスとソーナノがソウイチ達に近づいてくる。
「こんにちはナノ! 新しいお店『パッチールのカフェ』がオープンしたノ! 夢と浪漫あふれるすてきな店ナノ〜!」
ソーナノの指す先には、いつできたのか巨大な穴と下へ続く階段があった。
どのような店なのか分かるはずもなく、行くか行かないかしばし迷うアドバンズ。
結局、不安ながらも好奇心が勝り、試に行ってみることになった。
「八名様ご案内〜ナノ!」
「ソーナンス!」
ソーナンスとソーナノに続き階段を下りていくソウイチ達。
階段にはところどころ窪みがあり、中にはランプが設置され薄暗い光が足元を照らしている。
階段を下りると一気に目の前が明るくなり、地上からは想像もつかない規模のカフェが姿を現した。
大型のテーブルとバーカウンターが置かれた店内は非常に広く、ギルドのメンバーにトレジャータウンの住人を足しても満員になるかどうかというほど。
すると、店の奥から渦巻目にぶち模様の体をしたポケモンがふらふらとアドバンズの元にやってきた。
いらっしゃいませと笑顔で出迎えたのは、店主もといオーナーのパッチール。
「ここは新しい発見を求めて、日々チャレンジし続ける探検家のためのカフェなんですぅ」
特徴的な話し方でカフェの説明を始めるパッチール。
ここは探検隊のポケモンに喜んでもらえるよう作られており、探検の合間においしいドリンクを片手にくつろぐのはもちろんのこと、探検家のポケモンが喜ぶ様々なサービスを展開しているとのこと。
しかもなんと、今日がオープン初日なのだ。
「なるほどな〜。どうりで気づかんわけや」
「でもすごく素敵なお店ね」
地下で工事を進めていれば地上にいる限り簡単には気付かない。
ライナもカメキチも納得し、うれしいサプライズに出会えたことを喜ぶ。
初日なので店内を案内するとパッチールは言い、ソウイチ達も彼の後について行く。
最初はバーカウンターを備え付けたドリンクスタンド。
探検中に拾ったグミやリンゴを使い、自分が持って来た好きな食材でドリンクを作るという。
リンゴを持って来ればリンゴジュース、グミを持って来ればスムージーという感じだ。
「へえ〜。なんかうまそうだな〜……」
「まったく食いしん坊なんだから……」
今にもよだれをたらしそうなソウイチにため息をつくソウヤ。
食べ物のこととなるとどうしてもソウイチは我慢が利かない。
「まあ、ソウイチの気持ちもわからねえって訳じゃねえけどな」
少し笑いを含みながらソウマは言う。
誰でも美味しいものに興味がわくのは当然と言えば当然なのだ。
「では次のご案内に参りますぅ〜」
次にパッチールが連れてきたのは探検リサイクル。
使わない道具を倉庫に保管して居うるうちに満杯になり、捨てなくてはいけなくなった時のものだ。
「でも、いらければ売ればいいんじゃ……」
「ああ!! MOTTAINAI!! 今もどこかのダンジョンでお腹をすかせている探検家がいるかもしれないというのに!!」
モリゾーとゴロスケが言いかけた途端、突然パッチールが大声で叫ぶのでソウイチ達の心臓は飛び跳ねた。
しかも何気に片言交じりである。
「いきなり大声出すなよ!! びっくりするじゃねえか!!」
「あ、これは失礼を……」
ソウイチに怒られ頭をかくパッチール。
気を取り直して再度説明に入る。
「そこでてまえども考えました。皆さんの余った道具をここに集めて、ほしい道具と交換すればどうかと。ある方はいらなくても違う方はほしいってよくあるじゃないですか」
「確かにそうね……。ほしいときに限って道具がないってこともあるし……」
品は違うが、人間の世界でもこういったリサイクルショップはよくあるもの。
いらないからといって無駄にしてはいけない。
ライナを含め誰もがパッチールの精神に感心した。
「カフェに集う探検家の間で道具をぐるぐる回せばみんな幸せなのではないかと。道具も無駄に捨てずにすむし、これでもうMOTTAINAIとは言わせないっ! ……みたいな」
(なんでもったいないだけ片言なんだろう……)
口には出さなかったが、心の中で突っ込みを入れているゴロスケ。
相手の印象にもったいないという言葉を残すためなのか、それとも素でああなのか、さすがに本人には失礼に当たりそうで聞けない。
「なので、使わない道具がたまったら『探検リサイクル』をぜひご利用くださいませ〜。おまけでくじ引きなんかもやってるのであわせてお楽しみください〜」
「へえ〜、それはお得やな〜」
くじ引きがもれなくついてくると聞き興味をそそられるカメキチ。
景品も参加賞から大当たりまでさまざまで、一種の宝くじのようだ。
これで店の施設案内はすべて終了となった。
店員がハイテンションではあるが、なかなか楽しそうな店だ。
それをモリゾーが伝えると、パッチールはくるくる回って喜ぶ。
「ありがとうございますぅ〜。たくさんの探検家に愛される夢と浪漫あふれるカフェを目指して参りますので、今後ともよろしくお願いいたしますぅ〜」
今日は依頼を受けるためあまりゆっくりしている時間はなく、ソウイチ達はパッチール達に別れを告げたきつぼのどうくつを目指す。
そこでまずは依頼の分担だ。
今回は依頼が多いため、いつもの四人組ではなく各二人組に分かれての探索となる。
真っ先に名乗りを上げたのはソウイチで、お尋ね者であるリーシャンを捕まえたいと言い出した。
「ええ!? オイラ達でやるの……?」
「すこしは根性きたえねえとな。絶対捕まえるぞ!」
ソウイチはやる気満々なのに対し、モリゾーはあまり気が進まない。
スリープを相手にしたことがあるとはいえ、どれほど凶悪かわからない相手に不安を抱いていた。
そしてソウヤとゴロスケの方はリリーラをナマズンのところまで案内する依頼。
これも依頼者が倒れてしまうと元も子もなくなる難易度の高い内容だ。
「大丈夫かなあ……」
「心配ないよ。いざとなったら僕が援護するよ」
顔を曇らせるゴロスケにソウヤは笑顔で言う。
その笑顔を見て、ゴロスケも幾分か安心したようだ。
自動的に残りはソウマ達が引き受けることになるが、そこでソウイチはよせばいいものを、もう一つお尋ね者の依頼をやると言い出した。
これにはモリゾー以外のメンバーも驚き、付き合わされる本人は泣きそうな顔をしている。
「もう勘弁してよ〜!」
「これぐらいで弱音吐いてどうすんだよ。とにかくさっさと行くぞ!」
ソウイチは嫌がるモリゾーを引っ張り一足先に行ってしまった。
あの調子で大丈夫かと心配するソウヤに、きっとうまくやれるとソウイチを信頼するソウマ。
そして彼らは二人組に分かれ、各々依頼をこなしに行くのだった。
ソウヤ達はリリーラを連れ、ナマズンがいる四階を目指している。
今回はなぜか、以前よりも敵が少ないと感じる二人。
その方がリリーラを危険な目に合わせずに済むので都合はいいのだが、嵐の前の静けさという風にもとれ少し不気味だ。
「ナマズンは大丈夫でしょうか……」
「きっと無事だよ。心配しなくても大丈夫」
一刻も早く会いたいリリーラを優しく元気づけるソウヤ。
依頼者の不安を軽減することも探検隊の務めだ。
下の階へ行く階段はほどなく見つかり、三人はそこを降りていく。
一方ソウイチ達はというと、お尋ね者を倒すためフロア中を隅から隅まで探し回っていた。
水の中や岩の隙間などをくまなく探してもリーシャンは見つからない。
「まさか急に出てきたりしないよね……?」
「今さらびびっても仕方ねえだろ? とにかく前進あるのみ!」
モリゾーの気持ちなどお構いなしに先へ進むソウイチ。
ため息をつきながら、半ばあきらめたような表情でモリゾーは後をついて行く。
「こっちであってるんですか?」
「オレの直感に間違いはねえよ。」
先ほど仲間にしたウパーのヌマオに聞かれても、ソウイチは自信満々に歩き続ける。
すると、そこにはソウイチの言ったとおり下へ続く階段があった。
「すごい……。本当に直感が当たるなんて……」
「これがオレの力よ。さ、下に行こうぜ!」
偶然というものは恐ろしいものである。
ソウイチはさらに鼻を高くしすっかり有頂天になっていた。
そしてソウマ達はというと、二人のシェルダーを探し歩き回っている。
「とりあえず一人のシェルダーは五階にいることは分かってるけど、もう一人はどこにいるんだ? 三階まで来たのに全然みつからねえな……」
「隠れとんちゃうか? 敵に見つかったらあかんて」
辺りを見回すソウマに対し、カメキチは岩と岩の隙間をのぞきこんでいた。
シェルダー程の大きさなら小さな隙間にも隠れることができる。
襲われないために息をひそめていると考えられなくもない。
「でも、隠れてるとしたら、私達が来たら出てくると思うわよ?」
「あ、言われてみれば……。ほやけど、向こうはこっちのこと知っとんか?」
ライナの言うことにも一理あるが、シェルダーがソウマ達のことを知っているとも考えにくい。
どちらにせよ、フロアを隅々まで探す必要はあるようだ。
依頼を済ませた後はソウイチのサポートに回るつもりだったため、あまり時間をかけるわけにはいかない。
このフロアに見切りをつけ、ソウマ達は次のフロアに移るべく階段を探し始める。
その頃、ソウヤ達は無事にリリーラをナマズンの元へ連れて行くことに成功。
彼らの笑顔を見て、二人も自然と笑顔を浮かべる。
リリーラとナマズンはお礼を言うと、一足先にギルドへ帰って行った。
「じゃあ、僕らもソウイチ達のサポートに回ろうか」
「ソウイチ、無茶してないといいけど……」
ソウヤはソウイチの身よりも、付き合わされているモリゾーのことが心配だった。
何よりお尋ね者を捕まえるには数が多い方がいいと考え、ソウイチ達と合流すべく彼らを探し始める。
一方ソウイチ達はお尋ね者を探して東奔西走していたがなかなか見つからない。
「くそお〜! どこにいるんだよ!」
「そんなに焦ったってしょうがないよ……」
いらだつソウイチをなだめながらも、少し呆れた様子のモリゾー。
ソウイチはさらに何か言おうとしたが、通路の奥を見た途端口をつぐむ。
話しかけようとしたモリゾーの口を慌てて塞ぎ、黙って奥を指差した。
その先には、岩の上に座ったリーシャンが見える。
幸いにもソウイチ達には気づいていないようだ。
ヌマオも、この辺でリーシャンは見かけないとのことからお尋ね者で間違いない。
「よ〜し! 早速成敗してやるぜ!」
「あ! ま、待ってソウイチ!」
モリゾーが止めるのも聞かずに、ソウイチは全速力で飛び出して行った。
慌てて追いかけるモリゾーとヌマオ。
覚悟しろと彼はリーシャンに前口上を述べたが、リーシャンが浮かべていたのは恐怖にひきつった顔ではなく不気味な笑いだった。
予想外の表情にソウイチが戸惑っている間に、ようやくモリゾー達も追いつく。
それでもリーシャンは表情一つ変えず笑いを浮かべたままだ。
「へへっ……! わなにかかったな!」
「え? わ、わなって……」
言葉の意味を理解する間もなく、どこに潜んでいたのか、三人の周りには部屋を埋め尽くすほどのポケモンが姿を現した。
リーシャンはすでにソウイチ達の気配に気づいており、この部屋、モンスターハウスで一泡吹かせてやろうと画策していたのだ。
モリゾーとヌマオは全身から血の気が引いて行くが、ソウイチははめられたことへの怒りと自分への過剰な自信から気合十分だった。
「ハッ! 何人いようが、オレがまとめて倒してやるよ!」
「まずいよ! 絶対ソウヤ達を待った方がいいよ!」
「そうですよ! 数が多すぎますよ!」
モリゾーとヌマオは必死にソウイチを止めるが、彼は一向に聞き入れようとしない。
無謀にも、ソウイチの独断でモリゾーとヌマオは自分達の数倍いる敵と戦うことになってしまった。
襲い掛かってくるポケモンにソウイチはだいもんじ、モリゾーはタネマシンガン、ヌマオはたいあたりで応戦。
しかし、モンスターハウスの恐怖をなめきっていたソウイチは目の前の敵に集中しすぎて、他の部屋から敵ポケモンがやってくることを忘れていた。
案の定敵の数は減るどころか増える一方で、リーシャンの確保にすら向かえない。
「ちきしょお……! きりがねえ……!」
「うう……。体が……」
ソウイチは連戦でPPを使い果たし、モリゾーやヌマオも体力は限界。
木の実やタネでの回復も焼け石に水で、もうバッグの中には何も残っていない。
「これでとどめだ!」
美味しいところはいただきとばかりにリーシャンが迫ってくる。
すると、三人の目の前に二つの影が表れリーシャンを遠ざけた。
間一髪、ソウヤとゴロスケが援護に駆け付けたのだ。
「モリゾー、大丈夫? ここは僕が引き受けるからモリゾーは休んでて!」
「無茶しすぎだよ! 少しはパートナーのことも考えたら? 僕らが何とかするから、ソウイチ達はここにいて」
ソウヤとゴロスケは勇敢にも大勢の敵に向かって飛び出して行く。
道中でそれほど体力も技も消耗していなかった二人は順調に敵の数を減らしていくが、ここで予想外の事態が起きる。
ベトベターの吐き出した毒にソウヤとゴロスケが侵されてしまい、回復のための手段もなかったのだ。
全身を駆け巡る吐き気とめまいに耐えながらも二人は戦ったが、ついに体力が限界を超え倒れてしまった。
「ソウヤ!! ゴロスケ!!」
とっさにソウイチは敵と二人の間に割って入り、自ら攻撃からソウヤとゴロスケをかばう。
彼も自分がいかに大失態を犯したかようやく気付いたが、もはや技とも呼べない攻撃で時間を稼ぎ仲間の盾になる以外に術はなかった。
敵の攻撃はいつまでたっても止まず、目の前が徐々に揺らいでくる。
ここで死ぬのか、自分の作戦ミスで仲間を死なせてしまうのか、後悔と恐怖がソウイチの中に広がっていく。
意識が途切れる前に見えたのは、一斉に襲い掛かってくる敵を包み込む巨大な炎だった。
「う、うう……」
意識が戻ったソウイチは辺りを見回す。
いつの間にかギルドの部屋に寝かされており、横ではモリゾー達が眠っていた。
自分も含めけがの手当てはすんでいるようで、ほっと胸をなでおろす。
「気がついたみたいだな」
いつ部屋に入ってきたのか、ソウイチの背後にはソウマが立っていた。
普段は決して見せないような厳しい顔つきで彼を見ている。
「あ、アニキ……。オレ、一体……」
「この大バカ野郎!!」
怒鳴り声と共にソウマの強烈なびんたが飛ぶ。
あまりの強さにソウイチはその場にひっくり返り、起き上がった後も頬を押さえ呆然としていた。
「仲間をあんな目にあわせるなんて何考えてんだ!! オレ達が偶然見つけたから良かったけど、オレ達が来なかったら今頃どうなってたと思ってんだ!!」
尋常でない剣幕でソウイチを怒鳴りつけるソウマ。
ここまで激怒したソウマを彼は生まれて一度も見たことがなかった。
「だ、だって……」
「だってもへったくれもあるか!! 他のみんなはお前を気遣ってたのに、お前は自分優先でちっとも仲間のこと考えてなかっただろうが!! それでもアドバンズのリーダーか!?」
ソウイチは何も言い返すことができなかった。
嫌がるモリゾーを連れまわし、彼の忠告を無視した挙句命の危険にまでさらした。
モリゾーだけではない、ソウヤも、ゴロスケも、仲間になったヌマオすらも死にそうな目に遭わせてしまったのだ。
張り切りすぎるあまり、一切周りを見ていなかった自分が全面的に悪いのだから。
「仲間のことを考えられねえようなやつは、アドバンズのリーダーでもメンバーでもねえ!! 自分の判断がどれだけ甘かったか、よく考えろ!!」
そう言い放ちソウマは部屋を出て行った。
意識が途切れる前にソウイチが感じた死の恐怖を、モリゾー達はきっとあの時感じていただろう。
自分が冷静に判断できていれば、自分勝手に突っ走らず仲間の意見を聞き入れていれば。
ソウマの言葉はソウイチの胸をえぐり、彼は激しい自責の念に駆られる。
すると、そこでようやくモリゾー達も目を覚まし、ソウイチが今にも泣きそうな表情をしていることに驚いた。
何しろ、出会ってから初めて彼の悲壮な表情を見るのだ、動揺しないはずがない。
「みんな、すまねえ……。オレが自分勝手な判断して、みんなを危険な目にあわせちまった……。ほんとに……、ほんとにすまねえ!」
ソウイチは三人の前に向き直り土下座した。
彼の土下座を見て三人はますます混乱する。
「オレは……、リーダー失格だ……! もっとみんなのこと考えてやれてたら、あそこでやられずにすんだんだ……! オレ、オレ……!」
いつの間にか、地面にはいくつもの染みができている。
彼は本当に自分勝手なことをした自分を責めていた。
小刻みに体を震わせ、嗚咽を漏らすソウイチの姿を見て三人はとてもいたたまれなくなる。
「ソウイチ、もう泣かないで。オイラはもう気にしてないからさ」
「今回は仕方ないよ。あそこまで敵が増えるとは思わなかったもの」
モリゾーとゴロスケはソウイチの肩に手を置き彼を慰める。
彼が心の底から反省しているのは十分に分かった。
「それに、ソウイチの自分勝手に付き合わされるのは毎度毎度のことだから慣れてるよ」
冗談めかして言うソウヤだが、彼もソウイチのことを怒ってはいなかった。
普段は文句を言ったりけんかしたりもするが、やはり三人ともソウイチのことを信頼している。
そして何より、彼のことが大好きなのだ。
「じゃあ、許してくれるのか……?」
「もちろん! だから泣かないで。明日からまたがんばろう!」
モリゾーも、ゴロスケも、ソウヤも笑顔でソウイチを見ていた。
励ましで彼の涙も止まり、ありがとなと小さな声で三人に感謝する。
ソウイチも、三人のことが大事で、本当に大好きなのだ。
「どうやら目が覚めたようだな」
またいつ部屋に入ってきたのか、ペラップが四人に声をかける。
「しかしソウイチの無鉄砲さには呆れたよ。今回は罰として全員晩御飯抜きだ」
「ええええ!?」
励まされるかと思いきや、まさか飯抜きを食らうとは予想だにしていなかった四人。
不平を口にするが、ペラップは逆に彼らを叱りつける。
「おだまり!! 依頼を失敗しておいて言える立場かい? 連帯責任だよ連帯責任! 明日からは失敗しないようにがんばること! 以上!」
「そ、そんなのありかよ〜……」
ペラップが出ていくと力なくその場に座り込むソウイチ。
四人の腹からは、何か食べ物をよこせと催促しているように大きな音が鳴っている。
その後、ソウイチは一人でソウマを探しに部屋を出た。
幸いにもソウマは一人きりで、他に話を聞いている者は誰もいない。
神妙な顔つきでやってきたソウイチにソウマは声をかけた。
「どうした? なんか用か?」
「頼む! オレに、もう一度リーダーをやらせてくれ! もう二度と仲間をあんな目にあわせたりしねえって誓う! だから……、頼む!」
ソウイチはソウマにも土下座し、必死で頼み込む。
しばらくその様子を見ていたソウマだが、やがて顔を上げるように言い、しゃがんでソウイチと顔の高さを合わせる。
「分かったんならもういい。次からはちゃんと仲間のことも考えろよ。先陣切って引っ張るのはいいけど、あんまりワンマンになりすぎて冷静さを失うな。いいな?」
ソウイチの目を見て、一言一言を言い聞かせるようにしゃべるソウマ。
「じゃ、じゃあ……、許してくれるのか?」
「過ぎたことでくよくよしてもしょうがねえさ。でも、同じ失敗は二度とするなよ?」
もう怒ってはいないのか、最後には優しく頭をなで笑顔になるソウマ。
それでようやく、ソウイチも普段の元気を取り戻した。
リベンジに向けての気合も高まりつつある。
自分の部屋に戻ろうとしたところで、ふとあることを思い出したソウイチはソウマに質問した。
「あ、そういえばよ、アニキ達も晩飯抜きなのか?」
「え?そんな話は聞いてないぞ?」
普段こそ八人のチームだが、正式には四人 四人の登録になっているため罰が適応されるのはソウイチ達四人だけなのだそうだ。
すでにソウマ達は晩御飯を食べたそうで、ソウイチがうなだれて部屋を出たのは言うまでもない。
自分の部屋に戻ってからも腹の虫はおさまらずいつまでも大きな音をたてて鳴っている。
それが翌朝になっても継続しているものだから、ソウイチはまた三人に対し申し訳なくなった。
「ほんと迷惑かけてごめんな……。オレのせいで……」
許してもらったとはいえ、ソウイチはまだ昨日言われたことが忘れられなかった。
今回の罰は本当に身に染みる。
「仕方ないよ。また頑張ればいいんだからさ。とにかく元気出していこう!」
前向きなモリゾーとゴロスケの笑顔を見ていると、ソウイチも自然と前向きな気持ちになった。
仲間がそばにいるというのは、本当に心強いことである。
しかしさすがに空腹は癒えないため、ガルーラの倉庫から預けていたリンゴを何個か引き出し、おやつ代わりに食べることにした。
もちろんこのことは誰にも内緒だ。
「自分の道具を食べたってバチはあたらねえよな」
「多分ね」
ソウイチはリンゴ、ソウヤは木の実を口いっぱいに頬張り栄養補給。
モリゾーとゴロスケもリンゴを食べ対リーシャン戦に備え体力を蓄えている。
それから数十分後、食べ終えた四人はリーシャンと再戦するためにたきつぼのどうくつへ向かった。
今回はソウマ達が別の依頼でいないため四人だけで行くことになる。
今度こそ仲間を死にそうな目にはあわせない。
ソウマとの約束でもあり、自分との約束でもある決意を、ソウイチは胸に刻み込んだ。
どうくつに入ると、ソウイチは目を皿のようにしてくまなくリーシャンを探す。
だが、リーシャンはおろか普通の敵ですら出てこず、辺りには四人の足音だけが響いている。
実に不気味だ。
「とりあえず、前にリーシャンがいた階まで行ってみようよ」
モリゾーの提案で、四人はひたすら下へ下へと足を進め、以前リーシャンがいたと思われる階にたどり着いた。
静まり返った部屋に、遠くから聞こえてくる鈴の音。
リーシャンは余裕綽々と四人の前に現れた。
「またお前達か。懲りないやつらだな。今度もこいつらにやられてしまえ!」
再びリーシャンは部屋をモンスターハウスに変え、自分は高みの見物をするべくその場からいったん離脱する。
以前なら動揺していたソウイチ達だが、今回は一向に動じず冷静な目で敵を見ている。
四人ともすでに戦う準備はできていた。
「かかれえ!」
リーシャンの声で敵ポケモン達が一斉に襲いかかってくる。
四人は一度、ソウイチとソウヤが前に立ちふさがり、モリゾーとゴロスケが後ろに回る陣形を組む。
四人はできるだけ敵ポケモンを引き付け、ソウイチの合図で四方に散らばった。
敵ポケモンがソウイチ達に突っ込んで来た瞬間大爆発が起こり、土煙がもうもうと部屋に立ち込める。
視界が晴れると、リーシャンの目に飛び込んできたのは倒れた敵ポケモンだった。
「ば、バカな! あれだけの数を一瞬で……!?」
一気に顔が青ざめていくリーシャン。
モリゾーとゴロスケがソウイチ達に隠れて行っていたのは、地面に大量のばくれつのタネを埋める作業。
普段は使い道がなく数十個単位という莫大な数が余っていたので、ここぞとばかりに即席地雷を作ったのだ。
そして爆発を確認すると、今度は手に持っていたばくれつのタネを豆まきのように散布し、さらにダメージ与えていた。
ちりも積もれば大爆発、敵はひとたまりもなく戦闘不能になったというわけだ。
「残るはお前だけだ! 覚悟しろ!」
「絶対に負けないぞ!」
ソウイチとソウヤはリーシャンを見据え、モリゾーとゴロスケも気合十分。
しかしリーシャンはそれほど焦る様子もなく、以前のような気味の悪い笑みを浮かべている。
次の瞬間、リーシャンの目が不規則に点滅し始め、瞳の中には奇妙な配色の波紋が現れた。
(あれは……。まずい!!)
ソウイチは以前、同じような状態を見たことがあった。
目を見続けていると、やがて催眠状態になり相手に操られてしまうというものだ。
直感的に同じものだと判断しすぐ三人に向かって目を見ないよう叫ぶが、ソウヤはかろうじて間に合ったもののモリゾーとゴロスケは目をそらすことができなかった。
二人の瞳からは光が消え、瞼も半分下がりうつろな目をしている。
「チッ……。遅かったか……!」
「お前達! あいつらをたたきのめしてしまえ!!」
リーシャンの号令で、突然モリゾーとゴロスケはソウイチとソウヤを攻撃し始める。
ソウヤは状況が呑み込めず二人に呼びかけ正気に戻そうとするが、彼らは一向に攻撃をやめない。
「こいつらはさいみんじゅつでリーシャンに操られてる! 何言ったって聞こえねえよ!」
「じゃあどうするのさ! パートナーを傷つけろっていうの!?」
正気に戻す方法もわからず、かといってむやみにパートナーを傷つけることはできない。
打つ手なしの二人はひたすらモリゾー達の攻撃に耐え部屋を逃げ回っている。
「ハハハハ! いい気味だ! そのまま仲間同士でつぶし合え!」
リーシャンは再び岩の上で高みの見物を始め、四人の様子を見ながら高笑いしている。
ソウイチは忌々しそうにリーシャンを睨みつけるが、どうすれば二人を元に戻せるのか全く分からなかった。
リーシャンを倒せばさいみんじゅつが解除される可能性もあるが、二人の攻撃を避けながらリーシャンと戦うのは難しい。
「そうだ! 一か八かだけどこんなのはどう?」
何かを閃いたソウヤは、隙を見てソウイチに耳打ちする。
彼の作戦を聞いて、ソウイチもこれしかないと賭けに乗ることにした。
「オレはモリゾーを引きつけるから、お前はゴロスケを頼む!」
「チャンスは一回だよ! 気をつけてね!」
二人はそれぞれモリゾーとゴロスケを引き付けにかかり、攻撃を避けつつリーシャンの方へと徐々に誘導していく。
だがすべての攻撃をよけられるはずもなく、ソウイチはダメージを受けていた。
ソウヤの方もできるだけゴロスケを傷つけまいとしてかなり体力を削っている。
何より、この作戦を一度実行すれば次からは相手に警戒され成功させることは不可能。
体力、戦術的にも失敗は許されない。
一方リーシャンの方は二人の作戦に気づくそぶりもなく、ただただこの戦いを見物していた。
「よ〜し! 行くぞソウヤ!」
「オッケ〜!」
二人は一斉にリーシャンの方へ走りだし、ある程度近づいたところでかえんほうしゃと十万ボルトを放つ。
「力を合わせたところで倒せると思っているのか? 甘い甘い!」
リーシャンは二人の攻撃を軽々とよけた。
しかし、二人の作戦はこれで終わりではない。
「甘いのはお前だ!」
「これだけで済むと思うなよ!」
二人はリーシャンの左右を速度を落とすことなく通過。
さらに攻撃をしてくると予想していたリーシャンは意表を突かれ、狐につままれたような顔で二人を見る。
正面を見ると、そこにはタネマシンガンとみずでっぽうを出しながら突っ込んでくるモリゾーとゴロスケの姿が。
ソウイチとソウヤは、自分たちがリーシャンの前に出ることによって後ろから追いかけてくる二人を見せないようにしていた。
そして二人が技を出すタイミングを見計らって左右に分かれ、無防備なリーシャンに攻撃しようと考えたのだ。
「う、うわあああ!!」
技だけでなくモリゾーとゴロスケ自身もリーシャンに激突し、リーシャンはそのまま岩から転げ落ちる。
途中のでっぱりで頭を強打し、そのまま目を回してしまった。
その隙をついてかえんほうしゃと十万ボルトを浴びせ、リーシャンは完全に戦闘不能。
「やったね! ソウイチ!」
「おう! さすがソウヤだぜ!」
二人は互いにガッツポーズをし健闘をたたえる。
リーシャンを倒したことでモリゾーとゴロスケも正気に戻り、これで晴れてリベンジを達成。
リーシャンはその場で御用となった。
ギルドに戻ると、朝の不機嫌そうな様子とは一転し四人をほめたたえるペラップ。
彼らもお尋ね者を捕まえることができて満足そうだ。
「リーシャンノタイホニ、ゴキョウリョクカンシャシマス! コレハイライノホウシュウデス。ドウゾウケトッテクダサイ」
ジバコイルは四人に3000Pを手渡した。
モリゾーとゴロスケは思わぬ大金に飛び上がって喜んだが、ペラップは素早くそれを回収するとソウイチ達の取り分である300Pを手渡す。
「ええ!? またこれだけなの……?」
「修行の身なんだから我慢しな」
不満そうな顔をして抗議するも、ペラップはお約束の言葉を言いプクリンの部屋へ戻ってしまう。
せめてもう少し金額が増えれば。
十分の一に減らされた報酬を見て、ため息をつかずにはいられない四人であった。