ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第七話 足で見分けろ!? 初めてのみはりばん!
「ふ〜、ようやく退屈なのが終わったぜ……」

「し〜っ! そんなこと言ってたら怒られるよ!」

いつものように朝礼が終わると、ソウイチはやれやれといった風に肩や首を回す。
その大げさな動作がペラップの目に留まるのではないかと思い、モリゾーは慌ててやめるよう促した。
さらにはカメキチにもソウヤにも、毎日やっていることこそ本当は大事なんだと言われ、ソウイチはすっかりむくれてしまう。
そう怒るなと苦笑いしながらソウイチを慰めるソウマだったが、突然大きな声が辺り一面に響き渡る。
声の主はドゴームで、何か急用でもあるのかしきりに手招きしているのだ。

(ったく、いちいち大声出さなくても分かるっての……)

口に出すと起こられることは重々承知していたので、あえて心の中でつぶやくにとどめるソウイチ。
メンバー全員が集まったことを確認すると、どごーむは部屋の隅にあいている大きな穴へと彼らを誘導する。

「ディグダ! 連れてきたぞ!」

「ありがとうございます。ドゴームさん」

丁寧にお辞儀をして礼を言うディグダ。
どうやら用があるのはドゴームではなく彼のようだ。

「で、用ってのはなんだよ」

早く仕事を終わらせたいためか、自然とソウイチの口調はとげを含んでいた。
その様子を察知し、すかさずソウヤが脇をつつく。
もちろん、嫌な顔を露骨にするなという注意だったのだが、単にソウイチのイライラを助長させることにしかならなかった。

「今日、お前達には見張り番をやってもらう」

効きなれない単語に、ソウイチ達四人は首をかしげる。
ソウマ達四人は前々から聞いているのか、さしたる違和感は感じていないようだ。
ディグダによると、今日は父のダグドリオに掲示板を更新する仕事を言いつけられており、見張り番ができないとのこと。
そこで今日一日だけ、ソウイチ達に代わりをやってほしいというのだ。
急いでいるせいか、ディグダは要件だけ告げると素早く地面に潜ってどこかへ行ってしまった。

「と、いうわけだ」

ドゴームは笑顔で言うが、ソウイチ達には何がどういうことなのかさっぱり理解できない。
しびれを切らしドゴームに突っかかるソウイチだが、いつもの大声で瞬殺されてしまい、有無を言わさず仕事をする以外方法はなかった。
もっとも、冷静な物言いをすれば多少は違ったかもしれないのだが。

「じゃあ、オレ達は普通の依頼があるから、そっちのほうを片付けてくるぜ」

これには四人とも耳を疑った。
ソウマ達も一緒に呼ばれているということは、てっきり彼らも同じように見張り番をやるとばかり思っていたのだ。
彼らだけそんなことをするのはずるいと四人は抗議したが、実はソウマ達も新入りのころに見張り番は経験していた。
新入りは必ず見張り番の仕事をするのが恒例のようで、もう新入りではないソウマ達四人はやらなくてもいいのだ。
だが、そんなことよりもソウイチが悔しかったのは、年下であるドンペイにその説明を受けたこと。
いくら以前からいるとは言っても、やはり自分より下の者から教えを受けるのは恥ずかしいと思っているのだろう。
多数の依頼を済ませるため、帰ってくるのは二日後ぐらいになるといい、ソウマ達は出かけて行った。

「ほら、ぼさっとしてないでさっさと持ち場につけ」

「チッ、言われなくても分かってるよ!」

自分で納得がいかない状態で命令されることは、ソウイチの怒りをさらに加速させる。
ドゴームをすさまじい目つきで睨みつけると、力任せに穴の中へ飛び込んだ。
深さが分からず危険だというソウヤ達の制止を振り切った結果……
ドゴームの大声と対等に勝負できるほどの大音響と地響きが周囲にこだました。

「だから勝手に行動しないでって言ってるのに……」

額に手を当ててすっかり呆れ果てているソウヤ。
モリゾーとゴロスケも言葉は発さないが、呆れた表情をしているのは明確。
備え付けのはしご伝いを注意しながら降りていくと、海岸での出来事を再現しているかのようにソウイチが頭から地面に埋まっていた。
何とも間抜けな姿で、見たら思わず笑ってしまいそうになるが、そんなことよりも先に、どう助けようかと右往左往するモリゾー。
自業自得なので、ソウヤとしてはこのまま放っておくほうがいい薬になると思ったが……

「もがあああ!! もごあああ!!」

地面の下からでも響く猛獣のような唸り声。
必死に手足をばたつかせていることからも、早く出せと催促している様子のソウイチ。

「やっぱりかわいそうだから出してあげようよ……」

哀れになったのか、ゴロスケは二人にもソウイチを助けるよう頼む。
どうしようか悩んでいる二人だったが、結局渋々ながらも、三人でソウイチを地面から引っ張り出す。
口の中にまで土が入り込んだのか、ソウイチは激しくむせている。
あの高さで頭から突っ込んだのだ、入らないはずがない。

「だ、大丈夫……?」

心配そうにソウイチを気遣うモリゾーだが、逆にソウイチはモリゾーに食って掛かる。
自業自得なのは棚に置いて、たまっていた不平不満をわめきちらし、完全に頭にきているようだ。
あまりの自己中心的な物言いに三人とも呆れ果てた。
こんな状態で仕事ができるのかどうか定かではないが、怒りをまき散らしているソウイチを先頭に先へ先へと進んでいく。
しかしある程度のところまで進むと、通路の構造上光が全く入らなくなってしまったのだ。
今まで明るかったせいか、そのあまりの暗さに四人とも驚いた。

「とりあえず手探りでいこう。壁伝いに行けば大丈夫だよ」

暗い中で頼りになるのはやはり壁。
途中で分岐していないことは分かっているので、このままそって行けば目的の場所まで行けるということだ。
でも、イライラが収まっていないことも加わってか、ソウイチは不満顔である。
ソウヤもそれが気に障ったのか、一本道だから迷うはずがないとむっとした。

「だから、その途中で障害物とかあったら危ないだろ?」

ソウヤは思ってもみなかった盲点を突かれ、あ、と言葉を発したまま黙りこくってしまった。
そう、いくら一本道であれ、このように土がむき出しのトンネルなら石などの障害物が壁や地面からつきでていてもおかしくはない。
それで全員がまとまって転んでしまっては危ないとソウイチは考えたのだ。

「じゃあどうするの? 明かりはないんだし……」

ゴロスケの言うとおり、ランプなどの明かりはここにはない。
戻って取ってくることもできるといえばできるが、あまり時間がかかってはドゴームにどやされてしまう。

「だからこうすればいいのさ!」

ソウイチはいきなり背中から炎を吹き出し、その周辺は一気に明るくなる。
あまりにも突然だったので、そばにいた三人は思わず飛びのいた。
自慢げに笑みを浮かべるソウイチに多少の文句はあったものの、この暗闇の中でほのおの明かりはありがたい。
ソウイチの怒りもいつの間にかおさまり、結局おとがめなしということで四人はそのまま先を目指す。
数分ほど歩いたところで光が差し込み始め、格子戸の真下にたどり着いた。

「どうだ〜? 見えたか〜?」

通路の中を反響してドゴームの声が聞こえてくる。
同じく通路をメガホン代わりにして、四人も真下についたことを伝えた。
ドゴームは今回の仕事の内容を詳しく説明し、いよいよ仕事のスタートだ。
簡単そうに見えて、瞬時の判断力が要求されるあしがたの鑑定。
途中意見が分かれることがあったものの、ドゴームにどやされることもなく、四人は順調に仕事をこなしていく。
やがて日は暮れ、ギルドを訪れる客足も少なくなり、ディグダの帰還も相まって今回の仕事は終了となった。
穴から出てくるとドゴームとペラップが待っており、そろってねぎらいの言葉をかける。

「で、仕事の出来具合だが……」

結果を引っ張るペラップに、四人ともつばを飲み込んで次の言葉を待つ。
そして出てきた言葉は、パーフェクト。

「え……? パーフェクト……?」

思わず四人とも耳を疑う。
確かにこれだというあしがたを外したつもりはなかったが、いくらか自信がないものもあった。
つまり、学校のテストで満点を取ったと言われ、しばらくの間は信じられない時と同じような感覚である。
初めてにしてはよくやったとペラップにべた褒めされ、ようやくそれが現実のものとなって押し寄せてきた。

「よっしゃあ!!」

「やったあ!!」

ソウイチを筆頭に四人ともが飛んで跳ねて喜び、実にうれしそうである。
あまり大したことには見えないかもしれないが、それでも初仕事をやってのけたのだ。
初めてのことがうまくいけば誰でもうれしいもの。
しかもうれしいことはそれだけで終わりではなく、特別報酬まで出されるというからうれしさは倍増。
ふっかつのたね、PPマックス、しあわせのたねなど普通の依頼ではなかなか手に入らないものばかり。
ここまでもらってしまっていいものかと、変に遠慮がちになるほどだ。
でも、頑張ったご褒美なのでもちろん遠慮する必要などない。

「この調子で明日もがんばるんだよ!」

笑顔で言うペラップに対し、彼らはしっかりと返事をした。
そして間もなく食事となり、いつもより多めに食べるソウイチ達。
仕事でも食事でも大満足の一日となり、満ち足りた気持ちで床に就く。
この後始まるであろう、最初の探検のことなど知るはずもなく……

火車風 ( 2013/11/24(日) 10:45 )