ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第六話 アニキはバクフーン!? もう一つのアドバンズ!
次の日の朝、仕事の要領をつかんできたソウイチ達はペラップの指示を受ける前から依頼を選び始めていた。
ところが、数を優先するか難易度を優先するかでソウイチとソウヤが対立し、どちらも考えを曲げようとしなかったのだ。
かいがんのどうくつは五個も依頼があり別々の場所へ行かなくて済むのだが、その半数はソウイチ達の実力では苦戦が予想されるもの。
せっかく解決しに行っても失敗したのでは意味がないと、堅実に依頼をこなしたいソウヤは反対していた。
モリゾーとゴロスケもソウヤと同じ考えで、確実に成功させた方がいいのではないかとソウイチに進言する。

「とにかく、今日はここにしようぜ。まとめて依頼片付けた方がお礼だっていっぱいもらえるしよ」

しかしソウイチは身勝手にも三人の意見を無視して依頼をはがし始める。
気合で何とかなるという斜めに向いた強引な根性論に三人は言葉を失った。
もちろん彼はそんなことを微塵も気にせず、三人を放置したまま元気よく階段を駆け上っていく。
このままふてくされているわけにもいかないので、渋々ながら三人は彼の後を追いかけた。
そしてソウイチはギルドの門を飛び出したかと思えば、前方不注意で勢いよく衝突。

「いててて……。誰だよ全く!」

ソウイチが鼻をさすりながら上を見ると、そこに立っていたのはバクフーンだった。
だが普通のバクフーンより背が高く、耳も長い。
何より特徴的なのはオレンジのハチマキを巻き、表が茶色、裏がオレンジのマントを羽織っているところだ。
おでこには星型模様の傷もあり、どこをとっても普通のバクフーンとかけ離れている。

「ん? なんだお前は?」

バクフーンは不思議そうにソウイチを見つめる。
ソウイチはしばらくその姿を見つめていたが、ぶつかったことを思い出し文句をつけはじめた。

「なんだじゃねえよ! ぶつかっちまったじゃねえか!」

「何言ってんだ。お前が前見ないで勝手にぶつかってきただけだろ?」

感情的になっているソウイチに対し、バクフーンは冷静そのもの。
前方不注意でぶつかったのはソウイチで、バクフーンのほうに一切非はない。
大人と子供の対応をどちらがしているかは一目瞭然だろう。

「い〜や、お前がでかいからぶつかったんだ! このひょろひょろ野郎!」

冷静に返されたことでソウイチの怒りはさらに刺激され、あろうことかバクフーンに対して暴言を吐く。
それでもバクフーンは平然としていて怒る様子は全くない。

「悪口を言うのは勝手だが、どっちが悪いとかは関係なしに、ぶつかったら謝るのが普通じゃないのか? そうじゃないと、周りから白い目で見られるだけだぜ」

「なにお!?」

余所見をしていたことは自覚していたものの、どうにも自分の悪口を言われているような気がして我慢ならない。
向こうに悪口を言っているつもりは毛頭ないだろうが、気が立っているソウイチは今にもバクフーンに殴りかかりそうだ。
そこへソウヤ達がようやく追いつき、けんかを察知し慌ててソウイチを引き離す。
こういう場合は大概ソウイチが悪いことを心得ており、怒り狂う彼を必死でなだめるソウヤ。
モリゾーとゴロスケもソウヤに協力しているが、ソウイチの頭の中はバクフーンを倒すことで埋め尽くされている。

(ソウイチ? ソウヤ? どこかで聞いたことのある名前だな……)

二人が呼び合うのを聞き、バクフーンの頭の中に何かが思い浮かぶ。
だが、どこで聞いたことのある名前なのかまでは思い出せなかった。

「お〜い! ソウマ〜!」

「先輩〜!」

「お待たせ〜!」

ソウマが振り返ると、ライチュウとカメール、そしてヒトカゲの三人組が走って来るのが見えた。
どうやらこのバクフーンの知り合いのようだ。

「ソウマ、こいつらは?」

「ああ。オレがギルドへ入ろうとしたら、いきなりこのヒノアラシがぶつかって来たんだ。それでちょっともめててな」

カメールはソウイチ達を指差してソウマに尋ねる。
どうやらバクフーンの名前はソウマというようだ。
もめているという割に彼は特に怒っている様子もなくカメールに事のしだいを話す。
その平静とした態度が気に食わなかったのか、ソウイチの怒りが再燃した。

「だ〜か〜ら〜! お前が突っ立ってたのが悪いんだろうが!!」

ソウイチはやり取りを見ていて気がそれたソウヤの腕を振り解きソウマとの間合いを詰める。
隙あらば一発ぐらい殴ってやろうという魂胆だったが、ソウマの前にカメールが立ちふさがり思わず背筋が凍るような目つきでソウイチを睨みつける。

「なんやお前? オレらにいちゃもんつける気か?」

どすの利いたカメールの話し方にソウイチはたじろいだが、カメールが関西弁をしゃべっていることに驚いた。
人間の、それも特定の地域でしか存在しない方言がなぜポケモンにまで伝わっているのだろう。
やはりポケモンの世界にも人間が知らないだけで方言が存在するのだろうか。

「このしゃべり方は生まれつきや。それよりお前、はよソウマに謝れ。ぶつかってきたんはそっちの不注意やろうが」

話をそらしてはぐらかそうとしていると思ったのか、ソウイチに理由を聞かれても目つきを緩めることなくカメールは相変わらず彼を睨み続ける。
もちろんソウイチには謝る気などさらさらなく、荒い鼻息を出すと大げさに顔を背けた。
その動作が気に食わなかったのか、カメールはソウイチの首根っこをつかみ自分の顔の高さまで持ち上げる。

「おい! 調子乗るんもええかげんにせえよ!! 謝らんのやったら……!」

「やめとけカメキチ。どんな事情があっても手を出した方が負けだ。行くぞ」

ソウマの言うことにカメールは不服そうだったが、舌打ちすると乱暴にソウイチを突き放した。
ソウマは後ろで見ていた二人にも目で合図し、マントを翻すとそのままソウイチ達の横を素通りしてギルドの中に入っていく。
固唾を飲んで見守っていたソウヤはそこで我に返り、慌てて四人を呼び止めた。
まだ自分達に用があるのかと、彼らは怪訝な面持ちでソウイチ達を見つめる。

「うちのリーダーがご迷惑をおかけしてすみません……。どうも怒りっぽくて……」

ソウヤは丁寧に頭を下げて謝り、モリゾーとゴロスケもごめんなさいと頭を下げる。
場の空気を壊されてはたまらないと思い、ふざけるなと言いかけたソウイチの口をソウヤは器用にもしっぽで塞いだ。

「リーダー……、ってことは、お前らもギルド所属の探検隊か?」

ソウマに聞かれてソウヤははいと答えるが、なぜ一発で探検隊だと分かったのだろうか。
やはりそれらしい格好をしているからそう見えるかとも思えたが、見分け方は実に簡単なものだった。

「あなた達が持ってるそのバッジよ。ノーマルランクのところを見ると、まだまだ駆け出しのようね」

ライチュウに指摘され自分達のバッジを改めて見ると、外枠部分はまだ真っ白。
ランクが上がれば色も変わるとプクリン言っていたが、白のままなのを見るとまだレベルは上がっていないようだ。
それに対し彼らのバッジは、同じ白さでも輝きのあるダイヤモンドランク、ノーマルの自分達と比べればかなりの格上である。
畏れ多くも大先輩にけんかを吹っかけてしまい、三人は余計すまない気持ちになりまた頭を下げた。
彼らが謝るのに比例して、言いたいことを口に出せないソウイチの怒りは膨れ上がっていく。

「もう謝らなくていいわよ。ソウマだってもう気にしてないんだし。ね?」

「ああ。急いでてぶつかることは珍しいことじゃないしな。次から気を付けりゃそれでいいさ」

ライチュウが笑顔でソウマを見上げると、バクフーンもにっと笑って彼らの非礼を許す。
新人で自分より年下の相手に怒るのは大人気なくつまらないことだと彼は理解していた。
その寛容な心に打たれ、憧れのまなざしでソウマを見つめるモリゾーとゴロスケ。
リーダーとしての風格は十分、こんな人と一緒に探検できたらどれほどいいだろう。
ソウマがかっこいいと言われるたびに、ソウイチは自分のプライドが削り取られていくような気がしてますます腹が立った。

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前はライナ、よろしくね」

「僕はヒトカゲのドンペイって言います。どうぞよろしく」

「オレはカメールのカメキチや。さっきの関西弁……やっけか? それは生まれつきや」

三人の自己紹介の中でも、生まれつき関西弁をしゃべるカメキチは目立っていた。

「そしてオレが、探検隊アドバンズのリーダー、ソウマだ。よろしくな」

ソウマは握手を求めて手を差し出すが、四人の関心はチーム名の方へ向けられその場に固まる。
自分達もアドバンズ、ソウマ達のチーム名もアドバンズ、同じチーム名が別のチームで使われているとはどういうことだろうか。
首をかしげているソウマに気付き、へそを曲げたソウイチ以外の三人は握手をしたが、どうにもそのことが気にかかる。

「かっこいいな〜……。あのソウマっていうバクフーン……」

颯爽と去っていく彼らを見て、ますます憧れの念を抱くモリゾー達。
ようやくソウヤのしっぽが外れ、ソウイチはため込んでいた怒りを吐き出した。

「あんなやつのどこがいいんだよ! オレの考えたチーム名パクリやがって!」

「どう考えても向こうが先でしょ……。下手するとこっちがパクッたって言われるかもしれないのに」

いつまでも腹を立てているソウイチにため息をつくソウヤ。
その一言一言がソウイチの癪に障り、ストレスを発散すべく足を踏み鳴らしながら歩き出すが、勢い余って階段を踏み外しそのまま下へと転げ落ちていく。
慌てながらも転げないよう三人は階段を駆け下りたが、ソウイチは井戸に頭をぶつけて気絶していた。
ソウヤが呼びかけて揺り動かしても、彼が起きる様子は全くない。
そのころ、ソウイチは夢のようなものを見ていた。

[アニキ……。本当に過去の世界へ行っちゃうのか……?]

[仕方ねえよ。オレがやらなきゃ世界は救われないんだ。留守は任せたぞ]

[嫌だよ……。アニキがいなくなるなんて……、そんなの嫌だよ!]

[ソウヤ、男なら泣くな。もうお前も大きいんだ。例えオレがいなくても、ソウイチと協力して、兄弟で力を合わせて生きるんだぞ]

[ソウヤのことは任せろよ。オレがしっかり面倒見てやる]

[頼むぞ、ソウイチ!]

姿こそぼやけていたものの、会話の内容ははっきりと聞こえた。
そして、アニキと呼んでいた人間の額には、星形模様の傷跡がくっきりと浮かんでいる。
さっきのバクフーンと同じように。

「……ソウイチ、ソウイチ!!」

ソウヤが何度も揺り動かした甲斐あってか、ソウイチはようやく息を吹き返した。
ぶつけたところが痛むのか、しきりに後頭部をさすっている。
あれほどまで派手な落ち方をしてたんこぶを作るくらいだったのは幸いだが、それでも三人は不安をぬぐいきれない。
心配するなと答えるソウイチだが、それよりもさっき見た夢の方が気になっていた。

(オレがアニキと呼んでいたあの人間……。頭には星形の傷があった。さっきのソウマってバクフーンも、同じ位置に星形の傷があった……。まさか……、まさかな)

一度は頭に浮かんだ考えを、ソウイチはありえないと否定する。
だがこれほどまでに特徴が一致する人物がいるだろうか。
呆然としているソウイチの目の前でソウヤはまた意識を失ったのではないかと手を振るが、ソウイチは大丈夫だと手短に答え再び歩き出す。
しかし依頼の最中でも、ソウイチの頭からさっきの夢の内容と否定した考えが消えることはなかった。
それから数時間後、彼らはようやく依頼を終えギルドに帰還。
ランクの高い依頼だけに疲労も並大抵ではなく、ソウヤ達はしきりに首を回したり肩を叩いたりしている。

(しかし、やっぱり気になるな……。あの夢……)

疲れていることすら忘れ、ソウイチはしきりにさっきの夢について考えていた。
否定したはいいが、どうしてもその考えが頭から抜けないのだ。
ついには本気でソウヤに心配されてしまい、ソウイチはとうとう自分の見た夢のことを話して聞かせる。
案の定、ソウマがソウイチとソウヤの兄弟ではないかという意見に三人は目が飛び出るほど驚いた。
ソウマの事で機嫌を悪くしていたソウイチの口から、そんな言葉が飛び出してくるとは思ってもみなかったのだ。

「でも……、じゃあなんで向こうは分からなかったの? 兄弟だったら僕達みたいに分かるんじゃ……」

「夢からして、あのときのオレ達は小さかったし、アニキもオレ達がこんな姿になってるなんて夢にも思わねえはずだ。それに、オレ達と同じようにポケモンになってるってことは、兄弟だったこと自体を忘れてる可能性だってある」

ソウヤの疑問はもっともだったが、今のソウマは人間ではない。
彼はあくまでもバクフーンになっており、その状況がソウイチ達と同じだと仮定すれば記憶を失っているはず。
夢だからそうとは限らないと言いつつも、だんだん表情が曇っていくソウヤ。
頼れるのは自分の記憶だけだが、その記憶がないのだから間違っていたらと不安になるのも当然だ。

「だったら、なおさら直接聞くしかねえだろ? それしか解決策はねえよ」

ソウイチは覚悟を決め、ソウヤの肩を叩くと一足先にギルドへ続く階段を上っていく。
ソウヤと同じぐらいソウイチも不安だったが、このまま疑問を抱き続けるわけにはいかない。
門をくぐり地下への階段を下りていくと、ソウマ達はちょうど依頼から帰ってきたところなのか、依頼者からお礼を受け取っている。
それが終わるのを待ってからソウイチ達は四人に声をかけた。
ソウマに用があることを伝えると、この後は特に何もないので大丈夫だとすんなり承諾。
ソウイチは大事な話なのでと彼だけをギルドの入り口まで連れて行き、近くに人影がないことを確認すると口を開いた。

「実はさあ……。変だと思うかもしれねえけど、お前って兄弟いねえか?」

「兄弟……? ああ、兄弟はいないな」

やはり人違いだったのだろうか。
否定されて肩を落とす二人だったが、次にソウマの口から飛び出てきた言葉に耳を疑った。

「でも、オレが人間だったころには兄弟が二人いた。他人に軽々話すようなことじゃないかもしれねえけど、オレは元々人間だったんだ。オレが人間からポケモンになって随分経つけど、あいつら、どうしてるんだろうな。兄弟で仲良くやってるんだろうか……」

昔を思い出すように目を閉じ、離れ離れになった兄弟のことを想うソウマを見てソウイチは確信した。
このバクフーンは紛れもなく、自分達の兄、ソウマなのだと。
あの優しかった兄なのだと。
ソウイチは意を決し、その兄弟の名前を聞いてみる。
それは、ソウマが完全に二人の兄であることを決定づけた。
その名前は、次男がソウイチ、三男がソウヤ。
気のせいかソウイチには、ソウマの目元が光ったように思えた。
二人のことを思い出し、切なさで胸が締め付けられているのだろうか。

「実は……、驚くかもしれねえけど、オレの名前もソウイチっていうんだ」

「僕の名前もソウヤっていうんだよ」

二人は思い切って自分達の名前を告げるが、ソウマは違うと目の前で手を振る。
あくまでも弟達は人間、ポケモンと同じ名前なのは単なる偶然だと思ったのだろう。
しかし二人は、原因不明でポケモンになり人間の時の記憶をほとんど持っていないこと、直感的にお互いが兄弟だと分かったこと、ソウイチが夢で頭に星型の傷がある人間をアニキと呼んでいたことを信じてほしい一心で訴えた。
二人の言葉を聞くうちに、ソウマの顔は徐々に驚愕の表情で満ちていく。
二人の言った言葉を整理しようとしていたが、あまりにも意外で唐突だったため思考は混乱するばかり。
ポケモンになったのは自分だけだと思っていた分、二人までもがポケモンになり記憶を失ったと分かってショックでもあった。

「そいつは、家を出るときオレにこう言ったんだ。ソウヤを頼むって……。兄弟で力を合わせて生きろって!」

「オレも、弟にそんなことを言った記憶がある……。まさか本当にお前ら……、ソウイチとソウヤなのか……?」

最後の言葉が決め手になったのか、ソウマはようやく二人が実の弟であると分かったようだ。
それは二人にも伝わり、ソウイチとソウヤはしっかりとうなずいてみせた。
次の瞬間、ソウマは優しく二人を抱きしめる。
その体からは、人間の時にソウイチとソウヤのそばにいた兄と全く変わらない、温かく、優しい匂いがした。
その匂いが、失われていた兄弟の記憶を二人の頭の中に呼び起こす。
ソウマは二人を置いていったことを詫び、再会できたことを心から喜んでいた。
彼の目からは、一筋の涙が零れ落ちる。
気にするなと言いながらも、ソウイチの目にも涙が浮かんでいた。
ソウマはが優しく弟達の頭をなでた瞬間、人間の時のソウマの姿と、バクフーンのソウマの姿が重なり合う。
ソウヤはこらえきれなくなり、ソウマの胸に顔をうずめて泣きじゃくる。
ソウイチは声こそ出さなかったものの地面は少しずつ濡れていき、ソウマの温もりを肌で感じ取っていた。
そんな二人を見ながら、ソウマは穏やかな笑みを浮かべ優しく頭をなで続ける。
数年ぶりに、三兄弟は一つとなった。
だが、事情がよく分からないモリゾー達は蚊帳の外で、何がどうなっているのかさっぱりだ。
三人が落ち着いてきた頃を見計らい声をかけると、ソウイチとソウヤは分かりやすく事情を説明した。

「つまり、ソウマはソウイチとソウヤのお兄さんなんだね?」

「そういうことさ。改めてよろしく。いつも弟達が世話になってすまないな」

深々と頭を下げるソウマをモリゾーとゴロスケは慌てて止める。
むしろ世話になっているのは自分達の方、ソウイチとソウヤのおかげでギルドに入門することができたのだから。
お礼を言わなければならないのはこちらの方だ。

「そういえばアニキ、もう一つ聞きたいことがあるんだ」

先程、ソウマ達が去り際にチーム名がアドバンズということを言っていたので、聞き間違いかどうかソウイチは尋ねる。
予想通り、ソウマは探検隊を結成した当初からアドバンズという名前を使っていた。

「実は、オレ達のチーム名もアドバンズなんだ」

「それは本当か?」

突然目の色を変えるソウマ。
ソウマたちが弟子入りする際、チーム名の重複は不可能なのでしっかり名前を考えるようペラップに言われていた。
そのため何度も念入りに名簿を確認し同じ名前がないことを確かめアドバンズに決定したのだが、それならばソウイチ達のチーム名が通った理由はどこにあるのだろう。
ソウマは急に立ち上がると小走りにギルドの中へと駆け込んでいき、それを見た四人も慌てて後を追いかけた。
彼は迷うことなくプクリンの部屋へと向かうが、声をかけてきたライナに気づかないのか何の反応も示さず部屋へと入っていく。
珍しいと思いつつも、一体何があったのだろうかと三人はプクリンの部屋に通じるドアを見つめるのみ。

「プクリン! ちょっと話がある」

ソウマは挨拶もそこそこにプクリンに近寄っていく。
それを見てペラップは失礼だと腹を立てるが、ソウマは黙っててくれと一蹴し脇目も振らずプクリンに詰め寄る。
ペラップが呆然と立ち尽くす中、ソウマはプクリンに名簿がどこにあるかを聞く。

「名簿? どうして必要なの?」

「ちょっと確認したいことがあってな。オレ達のチームと、別のチームの名前がかぶってる可能性があるんだ」

それを聞いてペラップはあり得ないと即座に否定したが、過去に一度前例があったことをソウマは知っていた。
プクリンに頼んで公にしなかったため外部に漏れることはなかったものの、今の様子ではそれを忘れているか覚えていても忘れたふりをしているのだろう。

「じゃあ、それは一体どこのチームなんだい?」

むっとした様子でソウマに聞き返すペラップ。
経緯を説明しようとしたところで、部屋のドアが荒々しく開きその張本人達が到着した。
ペラップは再びマナーをやかましく注意するが、ソウイチ達は注意などそっちのけで自分達のチームとソウマ達のチームの名前が同じであることをプクリンに説明する。
だが、プクリンの反応はその場にいた全員の斜め上をいくものだった。

「アニキってどういうこと?」

これにはさすがに誰も開いた口がふさがらず、思考が回復するまでに時間を要した。
あとで説明するからと言おうとした矢先に、今度はライナ達まで部屋の中へ飛び込んでくる。
部屋の外で聞き耳を立てて今までの話を聞いていたようだ。
もちろんペラップは早速説教しようとしたが、またしても全員からうるさいと一蹴されてしまい黙り込むしかなかった。
その扱いが不服なのか、時折ソウイチ達のほうを見ては何かをつぶやいている。

「で、アニキってどういうことなんですか?」

ドンペイの疑問に答えるべく、早速ソウイチは入り口での話をその場にいる全員に聞かせた。
不思議なことがあるものだと話を聞いていないメンバーは心底驚ている。
ライナ達は以前人間からポケモンになったことをソウマから聞かされていたものの、弟達も同じ道をたどっているとは夢にも思わなかった。

「そやけど、同じチーム名使っとったんは意外やったな〜……」

「そうですよね。どうして今まで気付かなかったんでしょう?」

カメキチとドンペイの言ったことで本来の話題に戻り、プクリンは語気を強めてペラップに理由を問い詰めた。
彼は慌てて名簿を確認し、そしてソウイチ達とソウマ達のチーム名がかぶっていることを発見。
自分のミスであることをようやく自覚し、ひたすらプクリンに土下座をして詫びを入れている。

「で、どうすればいいんだ? チーム名はかぶっちゃいけねえんだろ?」

「う〜ん……」

以前のチームはお互いに面識がないので片方が名前を変えることで落ち着いたものの、今回は両チームのリーダーが兄弟ということもあり前例がない。
どうするのが一番ベストな方法か、プクリンは目を閉じて首をひねり考え始める。
そして数分後、ようやく解決策が思い浮かんだのかプクリンは笑顔で全員に告げた。
その解決策とは、特例として八人一組のチームを組成すること。
扱いとしては四人と四人の二チーム分で探検隊バッジも二つあるのだが、実質は八人一チームと変わりない。
さらにダンジョン内でメンバーを入れ替えたり分割して活動することも可能という。
そうなれば人数が多い分こなせる依頼の数も増え、強敵のいるダンジョンは集団で挑めるのでいいことづくしだ。

「し、しかし親方様! そんな処置をしては他のチームから不満が……」

「大丈夫だよ、そこは僕がきちんと説明する。それに、彼らは兄弟なんだし、一緒の方がもっと楽しいでしょ?」

ペラップは慌ててプクリンに異を唱えるが、あまりに屈託のない笑顔に渋々意見を認めざるをえなかった。
あまりの寛大な処置にソウイチ達はお互い手を取り合って喜んだ。
仲間が増えるのはとても嬉しいことで、それも先輩とあれば分からない部分をいろいろと教わることができる。
弟子入りしたばかりのソウイチ達四人にとって、これほど心強いことはない。
彼らは何度もありがとうと礼を述べプクリンの部屋を後にする。
一時はどうなることかと冷や汗ものだったが、いい方向に転んで万々歳だ。
と、ここで一つの問題が浮上した。
チームを統合するにあたってのチームリーダーは誰なのかということだ。
二つのチームが一緒になったからには、どちらかがリーダーの座を譲ることになるのは必須。
分割して行動するときがあるとはいえ、全体的にチームをまとめるリーダーは一人でいい。
この場合年長者で長年リーダーを務めてきたソウマが全体を統括するものだと誰もが思っていたが、その予想を裏切ったのはソウマ本人であった。

「アドバンズのリーダーはオレじゃない。ソウイチだ」

あまりの衝撃発言に七人は飛び上がったが、特に一番衝撃を受けたのはソウイチだ。
自分よりも立派な兄が、自らリーダーの座を自分に譲るなど考えてもみなかった。
ライナ達からは不満の声が上がったが、ソウマはそれを手で制しその理由を述べる。
ソウマは今までリーダーをやってきたが、ソウイチがリーダーを務めたのはほんのわずかな期間。
それなのに早々とリーダーの座を降ろすのはソウイチが成長する機会を失うと考えたのだ。
リーダーは普通のメンバーとは違い戦略や技構成など頭脳的にも体力的にも学ぶことがたくさんある。
それを通してソウイチにはもっと立派になってほしい、それがソウマの意見だった。
兄にここまで言われたことは初めてなので彼はすっかり照れていた。

「ソウイチ。チームのことはお前に任せる。しっかり頼むぜ!」

「ああ! チーム名に恥じないようにがんばるぜ!」

ソウマはソウイチの頭に軽く手を置き、ソウイチは輝いた笑顔でそれに応える。
最初こそ不服そうなライナ達だったが、ソウマの意見に説得されソウイチを新しいリーダーとして迎え入れた。

「それじゃあ、朝礼で寝る癖を直さないとね〜」

「るせえ! よりによってみんなの前で言うなよ!」

ソウヤに茶々を入れられ、ソウイチは完熟トマトのごとく真っ赤になって怒る。
一同は笑いの渦に包まれ、彼は余計に顔を赤くして黙り込んでしまった。
ちょっとずつ直していけばいいと笑うのをやめたソウマに撫でられ、幾分かはソウイチの恥ずかしさも紛れたようだ。

「みなさ〜ん! 晩ご飯の時間ですよ〜!」

食堂からチリーンが姿を現し鐘を鳴らす。
いつの間にか窓からさす日の光も赤みが差しており、彼らのお腹も栄養分をよこせと大きな音を立てた。

「じゃ、早速飯食いに行こうぜ!」

ソウイチは他のメンバーを尻目に真っ先に駆け出す。
抜け駆けはたまらないと残りのメンバーも大慌てで食堂へとなだれ込んでいく、
一人その場に残ったソウマは、そんなソウイチ達の様子を見てふっと笑う。

(やっぱり昔と変わらねえな。でも、あいつらはこれから、もっと大きくなる。頑張れよ、新米探検隊)

そして自分も、空腹を満たすために食堂の中へと入って行った。
兄はいつでも弟達のことを信頼し、そしていつでも、応援しているのだ。
さらなる成長に期待を込めて。

火車風 ( 2013/11/23(土) 17:09 )