ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第四話 ソウイチの秘められた力! ルリリ救出大作戦! 前編
「起きろおおお!! 朝だぞおおお!!」

翌朝、相変わらずの爆音であるドゴームの目覚ましでソウヤ達は目を覚ました。
初日より幾分慣れてきたとはいえ、やはり巨大な石をぶつけられたような大声は体にこたえる。
三人が痛みで頭を押さえている中、相変わらずソウイチはいびきをかいて爆睡している。
昨日の今日でさほど驚かないが、彼は聴覚が他人とずれているのだろうか。
ソウヤは再び十万ボルトで起こそうとするが、一度ならず二度までも電撃で起こされては手が付けられないことになると予想。
関わっても得することはなく、このまま放っておくことをモリゾーとゴロスケに提案した。

「それはかわいそうだよ……。でもどうやって起こそうかな……」

このままにしておくのは気が引ける二人だが、他に効果的な妙案が浮かぶはずもなかった。
しばらく頭をひねっていると、モリゾーはある考えを思いつき早速二人に話してみる。
二人も面白そうだということで大賛成し、三人そろってソウイチの周りを取り囲んだ。
心なしか、黒い笑いを浮かべているようにも見える。

「それじゃあいくよ? せ〜の!」

「うひゃひゃひゃひゃ!! やめてくれ〜!! 苦しい〜!!」

なんと、三人はソウイチの体をいっせいにくすぐり始めたのだ。
ソウイチはネズミ捕りのように跳ね起き、こそばい感覚に体をよじらせている。
必死になってやめるよう訴えるも、完全にソウイチが起きるまでくすぐってやろうという腹積もりの彼らには届かない。
それから数分後、ようやく完璧に起きたと認識しソウヤ達はくすぐるのをやめた。
くすぐられた本人は、あまりの苦しさに激しく肩を上下させている

「よし! 次から起こす時はこれでいいや」

ソウヤの提案に他の二人もうなずくが、毎朝こんなことをされては自分の体が持たないとソウイチは慌てて猛反対。
だが、嫌なら次から目覚ましだけで起きろとソウヤにあえなく一蹴されてしまった。
悔しそうに黙り込むソウイチだが、起きる時間に起きない彼が悪いのだ、誰がどう見ても百パーセントソウイチの負けだ。

「そうだ! こんな事してる場合じゃないよ! 朝礼朝礼!」

モリゾーの一言ではっと我に返り、四人は中央の部屋へと急ぐ。
今回は待たせずに済んだものの、またしても何から手を付ければいいか分からない。
昨日の依頼はペラップが独断で選んだもの、自分たちの判断で勝手に選んでいいものかどうか迷っていたのだ。

「お前達、またうろうろしてるな。こっちに来なさい」

その様子を見かねてか、ペラップは昨日と同じく地下二階へ四人を連れて行く。
ところが、昨日は階段から見て左側の掲示板の依頼をしたのだが、今日はなぜか右側なのだ。
掲示板の大きさも、貼られている依頼の数もさほど変わりはない、一体どこが違うというのだろう。
それを聞くと、彼はは掲示板をよく見るよう指示、じっくり見渡してみると依頼書の欄にポケモンの似顔絵が描かれている。
その似顔絵が描かれた依頼書ばかりがこの掲示板に張られているのだ。
数の多さに驚きつつ、モリゾーとゴロスケは凛々しい似顔絵に目を輝かせていた。
有名な探検隊から直々に出された依頼だと思い込んでいるようだ。
しかし、次にペラップが放った一言で四人の表情は凍りついた。
なんとここに貼られているポケモン達は、すべて悪事を働いて指名手配されたおたずねものだったのだ。
指名手配ゆえに賞金がかけられており、捕まえれば報酬としてお金がもらえるのだが、凶悪な部類が多く手を焼いているのだとか。

「お、おたずねものって犯罪者のことだよな!?」

「あ、当たり前でしょ! 悪いことしてるんだから!!」

「それをオイラ達が捕まえろって言うの!?」

「そんなの絶対無理だよ!! 危険すぎるよ!!」

犯罪者を相手にすると聞けば、誰だって青ざめるに決まっている。
特にソウイチとソウヤは人間時代の犯罪者を想像し、下手をすれば命の危険にさらされてしまうとすっかり腰が引けてしまった。
モリゾーとゴロスケも恐怖で膝が震えており、目も若干うるんでいる。
さっきまでの憧れはどこへやら、すっかり四人とも怖気づいていた。

「ハハハ! 冗談だよ、冗談。悪いポケモンって言ってもピンからキリ。世紀の極悪人もいれば、スリや置き引きなんかのちょっとしたこそ泥もいる」

本人にとっては冗談のつもりかもしれないが、さっきの語り口調で、しかも犯罪者という単語が出ておきながらどこをどう冗談と認識すればいいのだろうか。
怒り出したいのも山々だったが、今はそれより、極端な極悪非道ポケモンを相手にせずに済んだとほっとしている。
真面目な話をしている時に冗談を混ぜ込むのはやめてほしいものだ。

「世紀の極悪人を捕まえてこいなんて、新米のお前達に頼んだりなんかしないよ。まあ、この中から弱そうなやつを選んでこらしめてくれ」

新米という言葉が弱いと言われているようで抵抗感はあるものの、事実には変わりなく四人ともむっとした表情を浮かべるだけにとどめた。
だがいくら弱いおたずねものを選べと言われても、悪者を相手にするのだから怖いことに変わりはない。
できれば昨日と同じタイプの依頼をこなしたいと思ったが、これも修行のうちだとペラップは一向に取り合わなかった。

「しかし、戦うにはそれなりの準備が必要だね……。誰かに施設を案内させるとしようか」

そうつぶやくと、ペラップは大声でとあるポケモンの名前を呼ぶ。
すると下の階から返事が聞こえ、階段から足音が聞こえてきたと思うと息を切らせてビッパが上がってきた。

「こいつらのことはもう知ってるな? 最近入った新入りだ。広場にこいつらを案内してやってくれ」

ペラップは無礼にもソウイチ達の方を指差し、だんだん彼の行動に反感を覚えるソウイチとソウヤ。
モリゾーとゴロスケにも聞こえないよう、あれやこれやとペラップの悪口を言っている。

「ん? 何か言ったか?」

聞こえてか聞こえずか、不意にペラップが二人の方を向く。
お小言を食らうことだけは嫌なので、二人はなんでもないと全力否定。
どこか腑に落ちない様子だったが、それ以上彼は追及しなかった。

「はいっ! 了解でゲス!」

ビッパは快く承諾、彼もまたここに所属する弟子の一人なのだ。
ちゃんと言うことを聞いて行動するよう四人に注意すると、ペラップは下の階へと降りていく。
すると、ペラップがいなくなった途端ビッパの目が次第にうるんできたではないか。
何事かと四人は彼を気遣うが、悲しかったり体調が悪くて泣いているのではなく、後輩ができたことに感動していたのだ。
今までは自分が新入り扱いだったため、念願の後輩ができて感極まっていたという。
ここだけの話に限らず、会社や学校でも後輩が入ってくるということは少なからず心が躍るものである。

「じゃあ、施設を案内するでゲスから、しっかりついてくるでゲスよ」

涙を拭いて、ビッパは先頭に立って歩き出す。
ソウイチ達もその後について行き、ギルド各階ごとの役割について細かく説明を受ける。
今まで新入りというのが信じられないほど、ビッパの説明は分かりやすく設備の要点がしっかりと理解できた。
ずいぶんと勉強しているんだなと、密かに尊敬の念を抱くソウイチ達。
内部の説明が終わり、一行はいよいよ町へ出向くことに。
ギルドからの長い階段を降り、水飲み場のある交差点を左へ曲がると、そこは活気であふれていた。

「ここがポケモン達の広場、トレジャータウンでゲス」

大勢のポケモン達が買い物をしたり、世間話をしていたりと、人間でいうにぎやかな駅前商店街を思い起こさせる。
ソウイチとソウヤは物珍しさにしきりに辺りを見回していた。
何もかも初めて見るものばかりだが、モリゾーとゴロスケは以前来たことがあるのか二人の様子をうれしそうに眺めている。
弟子入りする前も、買い物や情報交換などで利用していたそうだ。

「まず、僕達の後ろにあるのがヨマワル銀行。お金が預けられるんだ」

振り返ってみると、どこか幽霊のようなポケモンがお金の出し入れをしているのが見える。
金庫のようなものもたくさんあり、いかにも銀行という感じだ。
ただ金庫をそのまま店の中に置いている点は、セキュリティー面で不安が残るのは否めないが。

「次が、エレキブルれんけつ店。技のれんけつができるんだけど、今日はエレキブルが来てないみたいだね」

モリゾーの指差す店を見ると、確かに人気が全くなく静まり返っている。
今日はたまたま休業日か何かだったのだろうか。
ソウイチとソウヤはポケモンのゲームをやった経験はあるものの、れんけつという言葉に聞き覚えがない。
れんけつとは、独立している技をそれぞれつなげ、一つの技として繰り出すことができるという。
例えば、ソウヤならでんこうせっかと十万ボルト、ソウイチならかえんほうしゃとたいあたりといった具合だ。
一度に二つの効果が出せるのは強敵を相手にする時などに重宝するが、片方の技のPPがなくなるとれんけつが強制解除されてしまうので、そこは注意しておかなければならない。

「そして川の向こうにあるのが、カクレオン商店とガルーラの倉庫」

カクレオンの店では道具を売り買いでき、ガルーラの倉庫には道具を預けたり引き出したりできるという。
ガルーラの倉庫に預けた道具は絶対になくならず、大切な道具があれば預けてから出かけるのが基本らしい。
見る限りでも客の列ができており、他の店より繁盛しているような印象さえ受ける。

「なかなか詳しいでゲスね。それなら安心でゲス。じゃあ、一通り準備ができたらあっしに声をかけるでゲス。そうしたらあっしも、おたずね者を選ぶの手伝うでゲスよ」

すっかりビッパを差し置いて広場の説明を終えてしまったモリゾーとゴロスケ。
嫌な顔をされてしまうかと内心ひやひやしたが、逆に二人の説明に安心したのか、ビッパは町での行動を四人に任せることに。
おごらず、親切でやさしい人物だということはビッパの言動からも理解できる。
そのことをソウヤがほめると、彼は恥ずかしそうに顔を赤くし一足先にギルドへと戻っていった。

「さ〜て、これからどうするんだ?」

「とりあえず、どんな道具があるのか見たいからカクレオンのお店に行こうよ」

ゴロスケの提案に三人も賛成し、まずは道具の整理も兼ねて行ってみることにした。
店では元気な挨拶とともに二人のカクレオンが出迎える。
陳列棚にはさまざまな商品が所狭しと置かれ、その品揃えの多さにソウイチとソウヤは驚かざるをえなかった。
まずは旅先で倒れては大変と、食料と回復の道具を買うことに。
ソウイチとソウヤは道具に関する知識が乏しいので、再びモリゾーとゴロスケに解説をお願いする。

「まずはリンゴ。お腹がすいたときにこれを食べれば、お腹が満たされて行き倒れになることはないんだ。そして木の実。木の実にはいろんな種類があって、それごとに効果が違うんだ」

腹が減っては戦はできぬということだろう、どの世界でも食べ物は大事なのだ。
木の実には、オレン、オボン、モモン、クラボ、チーゴ、カゴという六つの種類があり、オレンとオボンは体力回復、モモンはどく、クラボはまひ、チーゴはやけど、カゴはねむりの各状態異常を回復すると二人は説明する。
次から次へとよどみなく飛び出す説明に、ソウイチとソウヤはすっかり感服しきっていた。
探検隊辞典が頭に組み込まれているのではないかと思えるほど、モリゾーとゴロスケの知識量は多い。
それほど探検隊への熱意は強く、少しでも役立てればと独自に知識を仕入れていたのだ。

「カクレオンさ〜ん!」

モリゾーがリンゴ、オレン、モモンをバッグにしまっていると、向こうから青色のポケモンがやってきた。
丸くてかわいい姿に丸いしっぽを生やしたマリルとルリリだ。
親しげに二人と話すカクレオン達の態度からも、ここの常連であることが伺える。
二人はリンゴを買いに来たようで、お金を渡しリンゴを受け取ってお礼を言う。

「まいど〜! いつもえらいね〜」

彼らの笑顔に緑のカクレオンも思わず笑みがこぼれ、実に微笑ましい光景である。
二人が店を後にしてから、ソウイチはカクレオン兄弟にルリリ達のことを尋ねた。
あの二人は兄弟で、最近母親の具合が悪いらしく代わりにお使いなどの手伝いをしているとか。
何とも親孝行で優しい子供を持って、母親もきっとうれしいことだろう。
まだ幼いにもかかわらず、本当に立派だとその場にいた全員は心から思った。

「カクレオンさ〜ん!!」

すると、橋の向こうから大慌てでさっきの二人が走ってくる。
買い忘れたものでもあったのかと紫のカクレオンが事情を聞くと、リンゴが買った数より多く入っていたのだという。
それで律儀にも、余分な一つを返しに来たのだ。

「ああ、それは私達からのおまけさ。二人で仲良く分けて食べるんだよ」

どうやら兄弟の親切だったようで、それが分かると二人は笑顔でお礼を言い、再び自分達の家へと帰ろうとした。
だが、何かに毛躓いたのかルリリが目の前で派手に転ぶ。

「おい、大丈夫か?」

「は、はい。すみません、ありがとうございます」

ソウイチは目の前に転がってきたリンゴを拾いルリリに手渡す。
丁寧に頭を下げる彼に、これぐらい大したことないと言おうとしたその時、ソウイチは体が揺らぐような不思議な感覚に襲われた。
めまいの一種かと思い倒れないように踏ん張っている中、どこからともなく声が響いてくる。

[た、助けて……! 誰か助けてえええ!!]

緊迫感を帯びた声が聞こえたかと思うと、さっきまでのめまいは嘘のように治まっていた。
どこから聞こえてきたのかと出どころを探るソウイチの目にルリリの姿が映る。
さっきの声とルリリの声、どことなく響きが似ているような気がしたのだ。
あまりにも見つめたせいか、ルリリは怪訝な面持ちでソウイチを見上げている。

「お〜い、ルリリ〜!」

弟がなかなか来ないので心配になったのか、橋の向こうからマリルが手を振ってルリリを呼んでいる。
ルリリはもう一度四人に礼を述べると、兄の元へと走って行った。
和やかな光景にソウヤ達が温かい気持ちになっている中、ソウイチはずっと彼らの後姿を見つめている。
気になったモリゾーが声をかけると、ソウイチは早速聞こえてきた声について話した。
だが、三人もカクレオン達もそんな声は聞こえなかったと口をそろえる

「ソウイチの空耳じゃないの?」

「そんなはずねえよ! 確かにオレは聞いたんだよ!」

しかし、誰もソウイチの言うことを信じようとはしない。
ソウヤは空耳だという意見を曲げず、気のせいではないかとモリゾーもなだめるが、あの声は確かにルリリのものと全く同じ。
今でも耳に残っている声を、単純に空耳だと片づけることはどうしてもできなかった。

「とりあえずその話は後にして、今度はガルーラの倉庫に行こうよ」

これ以上話しても仕方がないと、モリゾーは次の場所へ行こうと提案する。
自分の意見を無理やり押し通すわけにもいかず、ソウイチは納得いかないまま三人とカクレオン商店を後にした。


「いらっしゃ〜い! 何か用かい?」

元気な声とともに、奥からガルーラが姿を現した。
明朗快活、彼女の笑顔はまさにその言葉がぴったりであろう。
道具を預けたいと、ゴロスケは早速要らない道具を次々とカウンターの上に並べ始める。

「これを預けるんだね? 間違いないかい?」

念を押されてゴロスケはうなずき、ガルーラは早速倉庫へ道具をしまおうとしたが、突然ソウヤが大声で待ったをかける。
いきなり何事だとソウイチはソウヤを怒鳴りつけるが、ソウヤはうつむいて答えようとしない。
しつこく問い詰めると、モモンのみが預けられそうになったからだと白状した。

「バカ! モモンは毒を回復するだけだから二つでいいんだよ! オレンの方が体力を回復するからたくさんいるだろうが! おやつで食べるんなら帰ってからにしろよ!」

「なんだよ……。ソウイチだって、本当はおやつ代わりにオレン食べようと思ってるんでしょ! 回復で使うにしたってその量は多すぎる!」

手に抱えているオレンを見て、ソウヤもすかさずソウイチに突っ込みを入れる。
バッグにしまっておけば分からなかったものを、最後の言葉で墓穴を掘りまんまと逆襲された。
結局どちらも食い意地が張っているということだ。
そしてどちらが先に言い始めたかで兄弟げんかとなるが、モリゾーとゴロスケは毎度のことで慣れてしまったのか、適度に距離を取って成り行きを見守っている。
それに対し何とかけんかをやめさせようとするガルーラだったが、エスカレートするけんかにとうとう堪忍袋の緒が切れた。

「あんた達!! いい加減にしなさい!! いつまでやるつもりなの!!」

先ほどの笑顔からは想像もつかないほどのどすの利いたかみなりに、ソウイチとソウヤは口をあけたままガルーラの方を見て硬直。
直接怒られてはいないモリゾーとゴロスケでさえ思わず体を縮めたほどだ。

「で、結局預けるの? 預けないの?」

ソウイチとソウヤの顔を交互に見ながら、ガルーラは低い声で確認する。
本気で怒らせたときの恐ろしさをかいま見、ソウイチとソウヤはすっかり震え上がっていた。

「あ、預けます……」

ソウヤはようやく消え入りそうな声でつぶやき、ガルーラは道具をしまいに倉庫へ行った。
温厚な人とはいえ、本気で怒らせてしまえば必ず鬼のようになるということだ。
まだガルーラの恐怖は抜けきらなかったものの、他には特にやることもなくいつまでもビッパを待たせてはいけないと思い、急いでギルドへと戻る。
すると、銀行の近くにマリルとルリリが、上半身が黄色、下半身が茶色で鼻が長いポケモンと一緒にいるのが見えた。
四人は気になって彼らに声をかける。
向こうもアドバンズに気づいたようで早速事情を聞く。
二人は以前に大切なものを落としてしまい、それを長い間探していたが見つからなかった。
そこへこのスリープが、どこかで見たことがあるかもしれないと一緒に探してくれることになったのだ。
それでこれから一緒に探しに行くという。
失くしたものが見つかるのはうれしいもの、マリルとルリリの喜びようにソウイチ達も笑顔になる。
にしてもこのスリープ、見返りを求めず幼い子供のために落し物探しの手伝いを快く引き受けるとはなんと立派なことか。
四人とも、その心の広さと優しさにすっかり感心していた。
いよいよマリル達が落し物を探しに行こうとすると、スリープとソウイチの肩がぶつかる。
スリープは少し頭を下げて謝ると、ルリリ達と広場から出て行く。
どことなく雑な謝罪にソウイチが不満を漏らそうとしたその時、またしてもめまいが始まった。

[言うことを聞かないと痛い目にあわせるぞ!!]

[た、助けて……! 誰か助けてえええ!!]

声だけのときとは違い、今度は脳裏にもスリープがルリリを脅迫している光景がありありと映し出される。
それがあまりにも一瞬だったため、さすがにソウイチも幻覚ではないかと我を疑う。
だが、鮮烈な映像が記憶から消えることはなく、やはり幻覚ではないと確信した。

「あれ? ソウイチ、どうかしたの?」

不意にゴロスケに声をかけられ、ソウイチは困惑する。
ソウヤとモリゾーも心配そうに顔を覗き込むので、さすがに映像のことを話さないわけにはいかない。
大勢に聞かれてはまずいと思い、ソウイチは三人を交差点付近へと連れて行き、自分が体験したことについて洗いざらい話した。
このままではルリリが危ない、早速助けに行かねばと息巻くソウイチだったが、三人は明らかに態度が違う。

「ソウイチのこと信用してない訳じゃないけど、やっぱり信じられないよ……。だってスリープはすごく親切そうなポケモンだったよ?」

「そうだよ。あそこまで他人のためにしてあげるポケモンが悪者だなんて思えないよ……」

モリゾーとゴロスケは、あくまでもスリープを悪者ではないと言い張った。
見ず知らずの人のために落し物を探すというのは、立派であり探検隊としても見習うべきことなのだ。

「見かけだけで判断してどうするんだよ!? 上辺はいいやつでも、実はものすごく腹黒いやつなんてごろごろいるんだぞ!!」

ソウイチは業を煮やし二人を怒鳴りつけるが、勢いに気圧されつつもスリープが悪者ではないという意見を変えない。
あろうことか、ソウイチが疲れているせいで変な夢を見たのではないかと言い出す始末。
ルリリ達のこともあり、疲れのせいにされてはたまらないと彼も躍起になって反論するが、またしてもソウヤの一言で黙らざるを得なくなってしまう。

「とにかく、ソウイチ以外そんなもの見てないし、聞いてもないんだから信用できないよ。大体睡眠欲の塊なんだし、立ったまま夢を見てたっておかしくないでしょ?」

そう、あくまでもさっきの映像はソウイチの脳裏に映し出されたもの。
証拠として成立するはずもなく、ましてや普段から寝起きが悪いとすれば誰も信じてくれるはずがなかった。
それに四人はまだ修行の身、自分達の独断で動くことはできない。
ルリリ達のことは気になるが、まずはペラップに言われた依頼を済ませなければならず、ビッパを待たせっぱなしにするわけにはいかないのだ。
これ以上、ソウイチに反論する余地はなかった。

「……わかったよ……。どうなっても知らねえからな……」

しぶしぶと意見を飲み、ソウイチはもやもやした気持ちのまま三人とギルドへ戻る。
地下では、ビッパが四人が戻ってくるのを待っていた。
早速依頼を選ぼうとするが、何しろ四人は全くの素人、どれを受ければいいのか見当がつかない。

「じゃあ、ここは先輩としてあっしが選んであげるでゲス」

その様子を見かねてか、ビッパが助け舟を出す。
怖そうなものは選んでほしくないモリゾーとゴロスケだったが、怖くない悪人などいるはずがない。
それを察してか気付かずか、ビッパは分かっていると依頼を選び始める。
しかし、突然ブザーのような警告音が響き渡ったかと思えば、掲示板が裏返しになってしまった。

「こ、これってどういうこと……?」

「おたずねものポスターや掲示板は、壁が回転式になってるんでゲス。それで壁をひっくり返している間に、ダグトリオというポケモンが情報を書き換えているんでゲス」

困惑するばかりの四人に、ビッパは情報の入れ替え作業について説明する。
ダグトリオはトンネルを掘ってギルドまで進み、壁を回転させて新しい情報に書き換える役目を持っているのだ。
地味ではあるが重要な仕事で、彼もこの仕事に誇りを持っているのだとか。
四人が感心しているうちに情報の更新は終わりいざ選ぼうとした時、ソウイチはふと右上端にある依頼が目に留まった。
その依頼を見つめているうちに、徐々に怒りで顔が赤くなってくる。
ビッパと他の三人もどうしたのかと気になったが、ソウイチは無言でその依頼をにらみつけるばかり。
お互いに顔を見合わせた後、ソウヤ達もその依頼を見てみるが、なんとスリープがおたずねものとして手配されていたのだ。
しかも、他のおたずねものより依頼の危険度は高い。

「あの野郎!! やっぱり極悪人だったじゃねえか!!」

ソウイチは今まで信じようとしなかった三人を振り返って怒鳴りつける。
三人はようやくソウイチの言っていたことが嘘ではないと分かり、すでに顔面蒼白。
スリープの親切心には完全に裏があったのだ。
ソウイチは身を翻すと、あっという間に階段を駆け上がり見えなくなってしまった。
呆然としていたゴロスケ達は慌ててソウイチの後を追い、その場には全く事情が飲み込めていないビッパだけが取り残された。
ソウイチは全速力で階段を駆け下り、スリープ達が歩いていった方へ向かおうとすると、交差点でマリルが右往左往しているのを見つける。

「マリル、どうした!? ルリリやスリープはどこ行った!?」

「それが……。あの後三人で落とし物を捜していたんですが、気がついたらスリープさんがルリリをどこかに連れて行っちゃって……。呼んでも戻って来ないし、不安になって……」

マリルはすっかり動揺しきって、目は潤んでいる。
その表情を見て、ソウイチの拳はぶるぶると震えた。
幼い子供を騙して誘拐するなど絶対に許せない行為、すっかりはらわたが煮えくり返っている。
そんな中、ようやくソウヤ達もソウイチに追いついた。
ソウイチは遅いと三人を怒鳴り、再びマリルに向き直りスリープとルリリがどこへ行ったかを尋ねる。
マリルは四人を先導し、高くそびえ立つ岩山へと連れてきた。

「ここなの? 二人が入っていった場所は?」

「そうです! どうか、どうかルリリを助けてください!」

ソウヤが聞くと、マリルは目に涙をためて懇願する。
言われなくとも、すでに四人の意思は固まっていた。
悪事を働くとどういうことになるか、スリープに思い知らせてやる必要がある。
使命感に燃えているソウイチ達が、マリルには今までで一番頼もしく見えた。

「っしゃあ! じゃあ行くぜ!」

「おう!」

ソウイチの掛け声に応え、アドバンズは山頂を目指し山へと入っていく。
目指すは打倒スリープ、ルリリ救出作戦開始だ。

火車風 ( 2013/11/21(木) 22:20 )