ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語 - 第一章
第二十一話 対決グラードン! 炸裂! バーニングストーム!
最上部に近づくにつれ謎の叫び声は大きさを増していったが、突如鳴りやんでしまう。
いなくなったのか、それとも息を潜めているのか。
最上部に到達した彼らは一層不穏な空気を感じる。

「妙な感じがするわ……。張り詰めた感じというか……体中の毛が逆立つというか……」

「とてつもなく、危険な予感がします……」

ライナとコンだけでなく、彼らは本能的に身の危険を感じていた。
これ以上先へ進んではまずいと第六感が警告している。
その時、彼らの耳をつんざくような叫びが辺りにこだました。
今だからはっきりと分かる。
この叫びは、ポケモンの鳴き声だと。
一定のリズムで地面が揺れ、ソウイチ達の体はそれに合わせ飛び上がる。
足音は徐々に大きくなり彼らに近づいてきた。

「な、何かこっちに来ます!」

遠くに見えるポケモンらしき姿を見てドンペイが叫ぶ。
足音は段々早くなり、その姿もはっきり肉眼で確認できた。

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

足音の主は、あの石像に描かれたポケモン、グラードン。
自分達とは比べ物にならない巨大さに彼らは呆然とし、その巨体を下から見上げることしかできなかった。

「お前達! ここを荒らしに来たのか! 今すぐ帰れ!」

グラードンの声はソウイチ達の腹に重く響き渡る。

「ち、違うよ! オイラ達はただ霧の湖に……」

「何……!? 霧の湖だと! 侵入者は生きて返さん!」

モリゾーはグラードンの誤解を解こうとしたが、グラードンはソウイチ達を敵とみなし全く話を聞こうとしない。
それでも説得を続けようとする彼らに対し、グラードンは大きく彼らに向かってしっぽを振る。
気付いたソウマが叫んだが、ライナ、ドンペイ、コン、ゴロスケの四人はよけきれず岩壁に叩きつけられてしまう。
ソウイチ達は慌てて駆け寄り四人の状態を確かめる。
幸いゴロスケは軽傷だったが、他の三人は背中や足を痛めとても戦える状態ではなかった。

「ライナ、ドンペイ、コン。お前らはここで休んでろ。これ以上けががひどくなったら大変だからな」

しっぽの攻撃を受けたあげく壁に叩きつけられるダメージは並大抵ではない。
気遣うソウマに三人は謝るが、ソウマは気にするなと言い鬼のような形相でグラードンを睨みつける。
他のメンバーも自分の大切な仲間を傷つけられグラードンへの敵意をむき出しにする。

「お前達もあんな風になりたくなければ今すぐ帰ることだ!」

「ふざけんじゃねえ!! 仲間傷つけられて帰れるか!!」

「よくも大事な友達を……!!」

シリウスは体中の毛を逆立て電気を溢れさせている。
ソウイチの背中からは通常よりも大きな炎が上がり柱のようになっていた。
モリゾー、ソウヤ、ゴロスケの目も怒りに燃えている。

「よくもライナやドンペイに手を出したな……」

ソウマの怒りは幼いドンペイや想いを寄せているライナを傷つけられ頂点に達した。
マントをその場に脱ぎ捨てると、自分の身長をはるかに超える火柱を背中から噴出。
普段は力を抑制するため炎を出さずに戦っているが、本気になったり怒りが頂点に達すると炎を噴き出すのだ。

「お前みたいな野郎は……オレが絶対にゆるさねえ!!」

「いいだろう! 覚悟するがいい!!」

ソウイチ、シリウス、ソウマの三人は声をそろえてグラードンに宣戦布告。
グラードンは大きく鳴くと戦闘態勢に入る。
両者はしばらくにらみ合ったまま動かず、突如その均衡をグラードンが破った。
グラードンの目が青く光ったかと思えば、地面や壁から突き出していた巨大な岩が雑草を引き抜くかのごとく簡単に抜けていく。
抜けた岩々は空中に漂いソウイチ達の上を茶色に染める。

「岩もろとも埋もれてしまうがいい!!」

グラードンが手を前に振ると空中の岩はソウイチ達めがけて突進し、雨あられと彼らに降り注いだ。
次々襲い掛かる岩を彼らはよけていくが、モリゾーとゴロスケは連続で飛んできた岩を避けきれず吹き飛ばされ、全身を岩に押しつぶされた。
かろうじて立ち上がるも急所に入ったダメージは大きく先ほどのように素早くは動けない。
ソウイチ達の怒りのボルテージはどんどん上がっていき、カメキチがなみのりでグラードンの動きを止めソウイチとソウマはかえんほうしゃ、ソウヤとシリウスはアイアンテールでグラードンを攻撃。
二人のアイアンテールはグラードンの肩辺りを直撃したが、グラードンは二人を腕で振り払い至近距離からマッドショットを浴びせる。
泥の波は二人を飲み込みグラードンに接近していなかったソウイチ達さえも埋もれてしまう。
ほのおとでんきタイプの彼らにとって大量の泥によるダメージは計り知れなかった。

「くそお……! さすがに伝説だけはあるぜ……!」

「二人がかりで攻撃したのにぜんぜん堪えてないなんて……!」

泥から抜け出し汚れた顔をぬぐうソウイチとソウマ。
手応えがあったにもかかわらず表情一つ変えないグラードンにソウヤは恐怖めいたものを感じた。
モリゾー、ゴロスケ、カメキチは口の中に土が入ってしまい苦しそうにむせている。
彼らは改めて敵の強さを認識した。

「でも負けるわけにはいかねえんだよ……!! 相棒を傷つけたらどうなるか思い知らせてやる!!」

「やめ! 返り討ちに会うぞ!」

無鉄砲にも再びグラードンに挑みかかるシリウス。
とっさにカメキチが彼の首根っこをつかみ慌てて自分達の側へ引き戻す。

「放せカメキチ!! オレはこいつを……!!」

首をつかまれてもなお、シリウスはグラードンに攻撃しようと暴れる。

「あほぬかせ!! アイアンテールしか対抗できる技のないお前が一人で勝てるわけないやろが!!」

「じゃあどうやったら倒せるんだよ!? コンを傷つけられたままおめおめと引き下がれるかよ!!」

カメキチの言う事は正論だったが、引き下がるつもりはシリウスに毛頭なかった。
リーダーとして、パートナーとしてコンを傷つけられたままなんの一撃も与えられず敵にいいようにしてやられるなど我慢できるはずがない。
再び特攻しようとするシリウスをカメキチはまた捕まえ、グラードンを倒せるかもしれない作戦があることを告げる。
その方法とは、グラードンに対し不利なソウイチ達が相手の注意を引き、その間カメキチ、モリゾー、ゴロスケが技を溜め背後から攻撃するというもの。
至近距離からみずやくさタイプの技で集中攻撃を浴びせれば、さすがにグラードンもただでは済まないだろうという算段だ。

「うまくいくんだろうな?」

「それは分からん……。確証はないけど、もうやるしかないやろ!」

仲間に万一のことがあってはいけないとソウマは慎重だった。
しかしこれ以上迷っている時間は残されていない。
カメキチの言葉で彼らは覚悟を決め、作戦を実行することにする。

「何をこそこそしている!! 食らえ!!」

グラードンの背中から真っ赤に燃え上がった岩が噴き出しソウイチ達に降り注ぐ。
岩には溶岩が尾ひれのように付き彼らを燃やそうと襲い掛かる。
ソウヤ、シリウス、モリゾーは溶岩に触れないよう必死に回避。
ソウイチとソウマは溶岩の合間を縫いひるむことなくグラードンに攻撃を浴びせる。
ゴロスケとカメキチはみずでっぽうやハイドロポンプで溶岩を冷やしていく。

「こしゃくな……! ならば奥義、ソーラービームを食らうがいい!!」

グラードンの口に太陽の光が集められ、徐々に大きな球体を形作っていく。
とくせいのひでりで普通よりもエネルギー充電にかかる時間は短い。

「今や! みんな頼むで!」

カメキチの合図で彼らは二手に分かれた。
その様子を攻撃の届かない場所で見守るライナ達。

(みんな……、私達の分まで頑張ってください……!)

(先輩、しっかり!)

(絶対に負けないで!)

自分達も加勢したかったが、傷つき満足に動けない体ではかえって足手まといになる。
応援するしかできない現状が非常にもどかしくてしょうがない。

「今のうちにできるだけ攻撃だ!」

ソウイチはグラードンの左足にたいあたりする。
足を集中的に狙うことで体勢を崩そうとしたのだ。
ソウヤとシリウスはアイアンテールで右足を、ソウマはスピードスターで左足を攻撃した。

「そんなやわな攻撃など効くものか! これで終わりだ!!」

エネルギーを溜め終え、グラードンは足元に向かってソーラービームを発射。
激しい衝撃音と共に砂埃が舞い上がり辺り一面何も見えなくなる。
勝負あったと思わず笑みを浮かべるグラードンだが、視界が晴れ改めて足元を見ると、そこにソウイチ達の姿はなかった。

「何!? やつら、どこへ消えた!!」

予想外の事態に動揺するグラードン。
すると、背後から地鳴りのような音が聞こえてくる。
振り返ると、巨大な波に乗ったカメキチ、モリゾー、ゴロスケが自分に向かって来るではないか。
再びソーラービームの準備を始めようとしたが、目元にモリゾーのタネマシンガンが直撃し思わず目元を手で覆う。
その隙にゴロスケがみずでっぽうを発射、そのみずでっぽうにカメキチがれいとうビームを当て即席つららを作りグラードンへお見舞いする。

「いい気になるのもたいがいに……!?」

グラードンの言葉が途中で途切れたかと思うと、相手はバランスを崩し地面へ倒れこむ。
何事かと思い足元を見ると、自分の足が巨大な穴の中に落ち込んでいるではないか。
それはソーラービームが来る直前にシリウスのあなをほるで作られたものだった。
その穴を使いソウイチ達は直撃を回避していたのだ。
再び立ち上がろうとするグラードンの目の前には波が迫り、なすすべもなく一瞬にして飲み込まれてしまう。

「どうじゃ! これがオレらの本気じゃ!!」

真正面からグラードンを睨みつけるカメキチ。
反撃する間もなくくさ、みず、こおりの技を一度に食らいグラードンはかなりのダメージを受けていた。

「これぐらいでやられると思ったか!!」

だがしかし、グラードンはゆっくりと立ち上がり再び大きな鳴き声をあげる。
あれほどの技を受けながらなおも立ち上がってくる様はさすが伝説のポケモンというべきか。
その尋常ではない体力にソウヤとゴロスケはすっかり恐れをなしていた。
いつまでも倒れない相手にシリウスの焦りも増す一方。
絶大なダメージを与える方法が思いつかず、ソウイチもソウマも奥歯を強く噛み締めていた。
そこへ、不意を突きグラードンがソーラービームを発射。
最大までエネルギーを溜めていないとはいえ、彼らはよけることに必死で横から迫るグラードンのしっぽに気付かなかった。
ソウマは地面に伏せやり過ごせたが、他のメンバーはしっぽに弾き飛ばされライナ達がいる近くの岩壁に叩きつけられる。
慌てて彼らの元へ駆け寄るソウマだったが、叩きつけられたメンバーは白目をむいて気絶していた。

「フハハハハ! 無様なものだ!」

「てめえ……! オレの大事な仲間達をよくも!!」

ソウマは腸が煮えくり返るような怒りを覚え、背中から噴き出す炎もさらに大きくなる。
額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げ、唇をひん曲げた彼の表情を見てグラードンは彼をあざ笑う。

「ほのおタイプの貴様に何ができる! 大けがをする前に潔く負けを認めるんだな!」

「そんなの……死んだって認めるか!!」

その瞬間、ソウマの体全体が巨大な炎に包まれた。
電光石火のごとくグラードンに突進すると、その途中で体に回転が付き始める。
ソウマ五個目の技、かえんぐるまの発動だ。
しかしその大きさはソウイチをはるかに超え観覧車が回転しているような大きさだった。
その巨大さにライナ達も思わず息を飲む。

「じめんタイプにほのお技が効くものか!!」

再びグラードンはげんしのちからで岩をソウマに投げつけた。
普通ならば岩がほのおを貫通し、ソウマはダメージを受けるだろう。
ところがほのおの厚い層が岩を寄せ付けずソウマに届く前に粉砕してしまった。
思わずグラードンはひるむがすかさずマッドショットを放つ。
岩よりも連続して押し寄せる泥は、ソウマの炎でからからに乾き砂となって宙を舞う。

「おのれえええ!!」

グラードンはとうとう怒りで我を見失い、腕を振り回してソウマを叩き落とそうと暴れはじめる。
巨体ゆえ動作の合間には隙ができ、ソウマは軽々と攻撃をかわしていく。

「オレの仲間や弟を傷つけた報いは、ここで受けてもらう!! 覚悟しやがれ!!」

ソウマはさらに回転の速度を上げ、グラードンを軸にし周囲を回り始める。
するとほのおは壁のようにそびえ立って行き、しまいにはグラードンを包み込んだ。

「燃え上がれ……正義の炎よ……! バーニングストォォォム!!」

ソウマの声に反応し、炎の壁が竜巻のように回転を始める。
今までとは比べ物にならない熱さにグラードンは体をくねらせもがき苦しむ。
体の中まで燃やし尽くされてしまいそうな感覚をグラードンは初めて味わった。

「バ、バカな……! じめんタイプの我が……番人の我が負けるなど……!! ぐああああああ!!」

灼熱の炎はグラードンの戦意さえも焼き尽くしていく。
炎の回転速度は増す一方で、ソウマはひたすらグラードンの周りを周回する。
頭の中にあるのは、グラードンを倒すというただ一つの目的。
戦いの結末がどうなるのか、ライナ達は固唾を飲んで行方を見守った。
やがて炎の嵐が消え去ると、グラードンは力なくその場に倒れこみ動かなくなる。
軍配は、ソウマに上がった。

「はあ……はあ……! 仲間や兄弟を思う気持ちが……負けるはずねえんだよ……! 例え……相性が不利でもな……!」

勝ち誇った笑みを浮かべるソウマだが、彼の体力はほとんど残されておらず今立っているのがやっとだった。
そこへ、気絶していたソウイチ達もようやく意識を取り戻し倒れたグラードンを見てあんぐり口を開ける。
ドンペイやコンは興奮気味にソウマの活躍をソウイチ達に伝えた。
不利な相手を一人で倒したとにわかには信じられなかったが、とにもかくにも、彼らはグラードンに勝ったのだ。

「まったく無茶しやがって……」

「でも倒せたからいいだろ? あいつに思い知らせてやれたんだ。大事な仲間や兄弟を守れれば、オレはそれでいい」

呆れた表情を見せるソウイチだが、内心はソウマの勇気と強さに改めて惚れていたのだ。
仲間を守るため危険を顧みず戦ったソウマの姿が、彼の目にはまぶしく、そしてかっこよく映っていた。

「ほら、アニキ。オレンのみ食べて元気出して」

ソウヤにオレンを差し出され、ソウマは礼を言って受け取り口の中へ入れる。
三個ほど食べると彼の体力は瞬く間に回復し足取りもしっかりしてきた。
疲労もすべて回復とまではいかなかったが、ひとまずはこれで大丈夫だろう。

「ライナ、ドンペイ、コン。けがは大丈夫か?」

自分のことより三人を気遣い尋ねるソウマ。
ドンペイとコンは休んでいる間とオレンのおかげで、まだ多少痛みは残るが大方回復していた。

「私も大丈……いたっ!」

「ライナ! 大丈夫か?」

立ち上がろうとしたライナは突然よろける。
倒れそうになったところをソウマが支え彼女の足を見ると、足首の周りは赤紫に変色しひどく腫れていた。
オレンを食べてはいたが、足のダメージまでは回復できなかったようだ。
ソウマに心配をかけまいと一人で立とうとするライナだが、襲ってくる激痛に自然と顔が歪む。

「無茶するな!今無茶したら余計悪くなるぞ。」

ソウマはバッグから湿布薬を取り出しライナの足に塗った。
そしてマントをはたいて汚れを落とすと、下側を引きちぎり包帯代わりにライナの足に巻く。
彼が薬を作れるという事実をソウイチ達は知らず、その手馴れた作業に驚きじっと見つめる。

「これで多少は痛みが引くはずだ。特効薬があればよかったけど、材料がなかったからな……」

残念そうな表情を浮かべるソウマだが、十分な応急処置でライナの足の痛みは少しずつ引いて行く。

「あ! あれ見て!」

突然ゴロスケが叫ぶ。
なんと、グラードンの体が光りはじめたかと思えば気泡のように散り散りになり消えてしまったのだ。
何が起きたのか分からず彼らの間に動揺が広がると、どこからか声が聞こえてくる。

「あれは本物のグラードンではありません。あのグラードンは、私が作りだした幻です。私はここを守るもの。この先を通すわけにはいきません」

澄んでいながらも凛とした響きを持つ声。
しかし声の主はどこにも見当たらない。

「ちょ、ちょっと待てよ! オレ達はここを荒らしに来たわけじゃねえ!」

「ただ確かめたいことがあってここに来たんだ!」

また誤解されては大変だと、二人は声に向かって異を唱える。

「……確かめたいこと?」

「うん! ほんとだよ! オイラ達は探検隊だから、来たからにはお宝とかもらえれば嬉しいけど……」

「でも、それが悪いことになるなら全然いらないよ! それより、僕達はここまでこれたことが嬉しいんだ! お願い、信じて!」

モリゾーとゴロスケは必死に声の主へ訴える。
考え込んでいるのか、声はなかなか聞こえてこない。

「……分かりました。あなた達を信じましょう」

再び声が聞こえると、ソウイチ達の前に光が集まりその中から黄色のポケモンが姿を現す。

「初めまして。私はユクシー、きりのみずうみの番人です」

「えええ!? ユクシー!?」

その姿にソウイチ達は目を見張った。
伝説や番人というからには、荘厳でいかつい姿を想像していたのだ。
それに反し、ユクシーはソウイチ達よりも小さくどこかかわいらしい姿をしている。

「私は、きりのみずうみであるものを守っているのです。今からそこへご案内します、どうぞこちらへ」

そう言うと、ユクシーは奥へ続く道を進んで行く。
ソウイチ達もついて行こうとするが、足を痛めたライナをどうしようか迷っていた。
すると、ソウマはライナの前に背を向けてしゃがみ彼女に乗れと言う。

「だ、大丈夫よ! これぐらいなんとも……」

「遠慮すんなよ。歩くと痛いんだろ?」

ライナは恥ずかしさから一度は断ったが、ソウマは彼女が痛みを我慢していることを分かっていた。

「うん……分かった……」

ライナは顔を真っ赤にしてソウマの背中におぶさる。
ソウマの背中は、炎とは異なる心地よい温かさがあった。

「ソウマ……」

「ん?」

「ありがとう……」

小さな声で背中越しに礼を言うライナ。
その顔は赤いままだったが、恥ずかしさではなくソウマの優しさを感じているからであった。

「気にすんなよ。困った時はお互い様だろ?」

振り返りざまにライナの笑顔を見て自分も微笑むソウマ。
彼の顔もまた、心なしか少し赤くなっていた。

火車風 ( 2014/04/20(日) 16:12 )