ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第二十話 進め! ねっすいのどうくつ! 
先に行っているソウマ達の後を追いねっすいのどうくつを目指すソウイチ達。
きりのみずうみへ行く方法が見つかった以上もたもたしていれらない。
島が目の前に迫ると地面からは水蒸気が噴き出し始める。
その水蒸気の奥に入口のようなものが見え、四人は足を速めた。
すると、そこにはソウマ達と先に行ったはずのシリウスとコンがいるではないか。

「お、お前ら! なんでここに?」

てっきり先へ進んでいるとばかり思っていた四人には意外な出来事だった。

「お前らだけじゃ頼りなさそうだからな。オレ達もサポートしてやるよ!」

「よくいいますよ。本当はただ一緒に行きたいだけでしょう?」

口ではかっこいいことを言っているが、あっさりとコンに本音を見破られ言葉に詰まるシリウス。
かっこつけるなとソウイチに小突かれ、そのやり取りに誰もが笑った。

「よ〜し! じゃあ行くとするか!」

「おお〜!」

ソウイチの掛け声に合わせ彼らは手を上に突き上げる。
きりのみずうみへは着実に近づいていた。
モリゾーとゴロスケの気分も次第に高揚し、これから起こる出来事にわくわくしている。
先へ進んで行くと、ソウイチ達を試すかのように三つの分かれ道が現れた。

「おいおい……。どれが正解なんだ?」

手がかりらしいものはなく頭を悩ませるソウイチ。
考えている時間も惜しいシリウスは一つ一つしらみつぶしにしようと言うが、それでは逆に時間がかかり本末転倒。

「ここは素直に三組に分かれて進んだほうがいいんじゃない?」

「私もその方がいいと思います。わざわざ戻ってくる手間も省けますし」

モリゾーの提案に賛成するコン。
他にこれといって妙案も浮かばず、全員が納得したうえでそれぞれ分かれることに。
ソウイチはモリゾーと左側、ソウヤはゴロスケと右側、そしてシリウスはコンと真ん中を行くことに決める。
ソウイチ達の選んだ道は敵がほとんど出現せず楽に先へ進んで行く。
これほど敵が出てこないのも珍しいが、それをいいことにソウイチはすっかり浮かれている。

「な〜んだ、結構楽勝じゃねえか」

「油断しない方がいいよ。いつどこから敵が出てくるか分からないもの」

お気楽なソウイチに対しモリゾーは慎重だ。
周囲を警戒し、突然の敵襲にも対応できるようにしている。
ソウイチは大げさすぎると彼を鼻で笑い一気に進もうと一人突っ走った。
慌ててモリゾーが止めようとするがもう遅い。
ソウイチは勢いよく仕掛けられた落とし穴に落ちてしまった。

「もう! だから気をつけないとって言ったじゃないか……」

「バカ! 落とし穴があるんならもっと早く言え!」

穴の底からモリゾーを怒鳴りつけるソウイチ。
いち早くモリゾーは落とし穴に気づき注意しようとしたのだが、結局は油断し落とし穴に気付けなかったソウイチの責任。
まさに自業自得である。
思わずモリゾーはため息をついた。

「何ぼさっとしてんだよ! 早く引っ張りあげてくれ!」

「自力で出れないの?」

落とし穴の壁は簡単に出れないよう傾斜がついており、ソウイチがいくら登ろうとしても滑り落ちてしまうのだ。
世話が焼けると思いつつ、仕方なくモリゾーはソウイチに手を差し出す。
一気に引っ張り上げようとしたが、ソウイチが考えていたよりも重くあと少しのところで力が抜けてしまう。
支えを失ったソウイチは再び穴の底へ逆戻りし、さらに怒りをモリゾーへぶつける。
二回目は力が抜けることもなく、無事ソウイチを引き上げることができた。

「重いってなんだよ重いって! 言っとくけどな、体重は軽い方なんだぞ! 何で重いんだよ!?」

「そ、そんなこと言われても……。本当に重かったんだもの……」

モリゾーの重いというつぶやきがソウイチには聞こえており、ソウイチはモリゾーに向かって一気にまくし立てる。
二度も穴に落ちたうえ重いと言われ彼の怒りはさらに膨らんでいく。
感情に任せありとあらゆる不満をぶつけていると、ついにモリゾーも我慢できなくなった。

「重いものは重いんだよ!! そこまで言わなくたっていいじゃないか!!」

「だったらもう少し力つけろよ!!」

「無茶言わないでよ!! 大体そっちが落ちるのが悪いんでしょ!? 油断してるからそんなことになるんだよ!!」

「なにお!? 教えないお前が悪いんだろ!!」

「勝手に先先行くのに教えてる暇なんかないよ!!」

売り言葉に買い言葉で二人のけんかはどんどんエスカレート。
お互い顔を真っ赤にして罵り合い一歩間違えば手も出そうなほど。
言う言葉がなくなるとお互いにおでこを突き合わせにらみ合う。

「もう勝手にしろ!! お前と一緒にいると気分が悪い!!」

「それはこっちのセリフだよ!! ソウイチがいない方が探索がはかどるよ!!」

とうとう二人は喧嘩別れしてしまい、一人で別々の方向へ行ってしまう。
そのころ、ソウヤとゴロスケは敵の集団に囲まれ苦戦していた。
それほど強い敵ではないのだが、数が多い分技や体力の減りも早い。

「はあ……はあ……。いくらなんでも多すぎるよ……!」

「ここを抜けるには敵を倒すしかないよ……! 頑張ろうソウヤ!」

少し弱気になったソウヤを励ますゴロスケ。
二人は互いに協力し合い、二十以上はいた敵の集団をなんとか倒すことに成功。
ひとまずオレンで体力を回復し先へと進み、大きな部屋に入っていく。

「だけど、こんなに敵が多いとモンスターハウスみたいだね……」

「縁起でもないこと言わないでよ! もしこの部屋がそうだったとしたら……」

ぽつりとつぶやくソウヤに顔を強張らせるゴロスケ。
しかし悪いことに、ソウヤの言葉通り岩陰から大勢の敵ポケモンが飛び出してくる。
その数は先ほどの集団をはるかに超えており、あまりの規模に二人は思わずしりもちをつく。

「どどどうしよう!」

「と、とにかくやるしかないよ! ちょっと下がってて!」

ソウヤは先に立ち上がりゴロスケを引き起こすと、彼の前に立ち敵に向かって十万ボルトを連続で放つ。
すると、敵はあっさりと目を回し半数が戦闘不能になってしまう。
一発で倒れると思っていない二人は唖然とする。

「これなら……」

「行けるかも……!」

二人は顔を見合せてうなずき、敵陣の中へと突っ込んで行った。
ダメージを受けることを覚悟の上で至近距離から技を当てていく。
それから数分で全ての敵が片付いたが、速効性を重視した二人の体は傷だらけだった。

「そうだ! さっきオレンの実を拾ったから、二人で半分こして食べよ!」

「ありがとうソウヤ!」

ソウヤはバッグからオレンを取り出し二つに割るとゴロスケに差し出す。
ゴロスケは嬉しそうに受け取り二人仲良く食べ始める。
相手の状態を常に見て気遣いを忘れないのもソウヤならではだ。
オレンを食べ終わり小休止していると、また次の敵が二人めがけて襲い掛かってくる。
技のPPを気にしつつも、自分達ならできると二人は果敢に敵へ挑むのだった。
そしてシリウスとコンはと言えば、同じ道を繰り返し歩き先へ進めずにいる。
一本道のはずなのに、最終的には出発点に戻ってきてしまうのだ。

「だあああ! いつになったら出られるんだよ!」

「落ち着かなきゃだめですよ。冷静になって……」

「落ち着いてる場合か! これで十回目だぞ!? 十回目!」

頭をかきむしるシリウスをコンは落ち着かせようとするが、彼はその言葉を遮り地団太を踏む。
これほど繰り返して進展がないのだから彼の気持ちは分からなくもない。

「怒ってもヒントは見つかりませんよ。でも、どうしてここまで出口が見つからないんでしょう……」

「知るかよ! あ〜あ、嫌になるぜ! まったく……」

力任せに壁を蹴り飛ばすシリウス。
すると、壁の向こう側で蹴り飛ばした音が何重にもこだまする。

「なんですか? 今の音……」

「さあ……。……もしかしたら、この裏が通路になってるんじゃねえのか?」

普通の壁を蹴ってもあそこまで音は反響しない。
壁の裏側に何かあると踏んだシリウスは付近の壁を徹底的に調べたが入口らしきものは見つからなかった。
この裏が通路になっていると信じて疑わない彼はやっきになって辺りを調べ回る。
それでも結果は変わらず、シリウスのイライラは頂点に達した。

「こうなったら、手っ取り早くアイアンテールでぶち抜くか……?」

「ちょ、ちょっと待ってください! そんなことして壁が崩れたらどうするんですか!」

力でごり押ししようとするシリウスを必死で止めるコン。
先へ進むどころか戻ることもできなくなってしまえば取り返しがつかない。

「じゃあどうすりゃいいんだよ! くそお!」

腹立ちまぎれに近くの岩の上へ乱暴に腰を下ろすシリウス。
その途端、座った岩がガクンと下がり衝撃でシリウスは転げ落ちる。
重厚そうな音が響いたかと思えば、目の前の岩壁が横にずれ新たな通路が出現した。
どうやらシリウスの座った岩が起動スイッチになっていたようだ。

「さ、最初から分かってたぜ! これがスイッチだって」

「うふふ。さ、行きましょうか」

見え見えの嘘にコンはあえて突っ込まず、二人そろって新たな道を進んで行く。
ソウイチ達がソウマ達に追い付こうと頑張っている頃、彼らは中間地点にたどり着き六人が来るのを待っていた。
到着してからすでに一時間、一向にソウイチ達が来る気配はない。

「遅いですね〜……。何かあったんでしょうか?」

「まさか、やられちゃったんじゃ……」

不安な表情をするドンペイとライナ。
探しに行った方がいいのではとソウマに言うが、その必要はないと彼は言う。

「あいつらのことだ、きっと大丈夫だ。そのうち追いついてくるさ」

ソウマの言葉は力強く自信に満ちていた。
ソウイチ達の行動や絆の強さをソウマはこの目で見てきている。
だからこそ彼らを信じているのだ。

「ほやけど、シリウスのやつ何でわざわざ残ったんやろ?」

「あいつらと一緒に行きたかったんじゃねえか? 本人は力を貸すとか言ってたけど、一緒にいる時間はあいつらの方が長いしな」

ソウマはシリウスの本音をとっくに見抜いていた。
それを聞いてカメキチも腑に落ちた様子だ。

「大丈夫かなあ……。私、ちょっと道具を整理してくる」

ライナはソウマに向かって言うとガルーラ像の方へ向かう。
ドンペイも手伝おうと彼女について行った。

「なあ、カメキチ……。ちょっと、折り入って相談があるんだけだよ……いいか?」

「相談? 珍しいやん。まあ、オレでよかったら乗ったるわ」

二人がいなくなったのを見計らいソウマはカメキチに声をかける。
これほど真剣な表情で相談を持ち掛けてくる彼にカメキチは驚いたが、親友の頼みならばと快く引き受けた。

「実は、ライナのことなんだけど……。あいつ、オレのことどう思ってるのかな……」

「……は?」

思わずカメキチはぽかんと口を開ける。
ソウマの質問の意味が理解できなかったようだ。

「だからさあ……。こう……オレのこと……好きなのかなって……」

ソウマの顔は徐々に赤くなり、声も段々小さくなっていく。
その様子を見てカメキチは目を丸くする。
こんなソウマを見るのは初めてだった。

「実はオレ……出会ってからずっとあいつのことが気にかかって仕方ねえんだ……。それが最近になって強くなってきてるんだよ……。オレ、あいつの事好きなのかな……?」

「好きなんちゃうか? お前絶対あいつに恋しとるで」

彼の言葉を聞いてカメキチは確信した。
ソウマはライナに恋心を抱いていると。
表情、仕草、言葉からそれははっきり見て取れた。

「そ、そうか? でも……オレが好きでも、あいつがオレのこと好きじゃなかったら……」

「好きかどうかは聞いてみるしかないやろ?」

いつになくマイナス思考菜ソウマに直球で答えるカメキチ。
その瞬間ソウマの顔は真っ赤になり必死に彼の言葉を否定する。

「で、できねえよ! 恥ずかしいって……!」

赤い顔のままうつむきソウマはため息をつくと考え込んでしまう。
無言の時間がしばらく続き、ようやくソウマの方が口を開いた。

「カメキチ……。このことはみんなには言わないでくれるか? なんか、照れくさいからさ……」

「言うわけないやろ? オレはそうそう秘密をしゃべったりはせんけんな」

カメキチはドンと胸を叩きソウマに宣言する。
恋愛の問題は非常にデリケートなのだ。

「ありがとな……。相談に乗ってくれて」

「ええってええって。困った時はお互い様やろ?」

ソウマに礼を言われると屈託のない笑顔で返すカメキチ。
そこへ、通路の奥から誰かの声が聞こえてくる。
こちらに向かって走ってくるのはソウヤとゴロスケ。
二人が無事着いたことに四人は安堵するが、いくらオレンで傷をいやしたとはいえ二人はあまたの敵を相手にしてへとへとに疲れていた。

「今のうちにしっかり休んでおくといいわ。そういえば、ソウイチとモリゾーは?」

二人はライナに聞かれ、途中の道が三方向に分かれそれぞれ二人組になり先へ進んだことを話す。
二人もてっきりあの二人かシリウス達が先に着いていると思っていたので意外だった。

「そうか……。まあ、あいつらのことだから心配はないと思うが……」

不安を覚えるも、ソウマはソウイチ達のことを信じていた。
しかし、次にシリウス達が到着しそこから数十分待っても二人は姿を見せない。
いくら道中で苦戦しているからとはいえ、これほどまで時間がかかるのは変だ。
ソウマは胸騒ぎがし、様子を見てくるとソウヤ達に言い残しソウイチ達を探しに出かける。
二人が途中で倒れていたらと思うと気が気ではない。
そんなことは露知らず、ソウイチは収まらない怒りを周囲に向け八つ当たりの限りを尽くしていた。

「くそが! 人間の時の体重より全然軽いのになんで重いんだよ!! お前の筋肉がないからだろうが!! 人のせいにしやがって!!」

石を投げつけたり岩に蹴りを入れたりと、やっていることはもはや探検隊には見えない。
敵ポケモンはそんな様子に恐れをなしたのか誰も出て行こうとしなかった。
中には冷静でない分倒せると思ったポケモンが彼の前に躍り出ていくも、怒りの塊となったソウイチに歯が立つわけもなくわずか数十秒でやられてしまう。
いくら八つ当たりを続けてもソウイチの怒りは留まる事を知らず、そのひどさは段々エスカレートしていくようだった。
一方モリゾーも、身勝手な言い分のソウイチに腹を立てかっかしながら歩いている。

「自分勝手にもほどがあるよ! せっかくオイラが助けようとしたのに! だったら自力で出て来いよって話だよ、もう!」

自分の善意を真っ向から否定されたあげく罵声を浴びせられたのだ。
ソウイチと異なり激しい八つ当たりはしていないものの、彼は相当な怒りを覚えていた。
ところが、ぶつぶついいながら歩いているうちに彼の顔からは怒りが薄れ悲しみの表情が浮かぶ。

(オイラ、言い過ぎたかな……。大事なパートナーなのに一人でいた方が楽だなんて言っちゃったし……。でも……ひどいことを言ったのは向こうだ。オイラは悪くない……! ソウイチが謝るまで、オイラは絶対に謝らない……!)

頭を振り、謝った方がいいのではという考えを吹き飛ばすモリゾー。
助けようとしたのに逆にひどいことを言われなぜ自分が謝らなければならないのか。
自分も悪かった部分はあるが、ケンカを吹っかけたのはソウイチなのだから彼が先に謝るべきだと彼は思っていた。
本当は自分から謝りたかったのだが、彼の頑固な性格が邪魔をし素直になれない。
そしてソウイチは相変わらず八つ当たりを続け中間地点への道を進んで行く。

「おい! そこのお前! ここがどこだか分かってるのか!?」

「ああ!? どこのどいつだ!!」

声の主はこの一帯を縄張りにしているマグマッグ。
ソウイチの怒りが頂点に達しているとも知らず彼の前に飛び出してきたのだ。

「人の縄張りを荒らしておいて、ただで済むと思うなよ!」

マグマッグはソウイチに向かってひのこを吹きかけるが、ソウイチは相手を一睨みするとかえんほうしゃでひのこを吹き飛ばしてしまう。
いとも簡単に自分の攻撃を跳ね返されたマグマッグの顔は一瞬にして青ざめる。
身の危険を感じ逃げようとするがもう遅い。
ソウイチはマグマッグに飛びかかり、技を使うことも忘れ素手で殴る蹴るの攻撃を加える。
マグマッグの悲鳴は辺り一帯に響き渡り、近くまで来ていたソウマの耳にも届いた。

「今の悲鳴は……まさか……!」

ソウイチ達がやられたと思ったソウマは声のした方へ駈け出す。
通路の角を曲がった途端、何かと思いっきり衝突しソウマはしりもちをつく。
そこにいたのはソウイチで、彼の無事を確認しソウマはほっとする。
一方のソウイチは先に行っているはずのソウマがここにいたことに大変驚いた。

「お前らが来るのが遅いから心配して探しに来たんだよ。けがとかはないか?」

「どこもねえよ。じゃあ行こうぜ」

気遣うソウマに素っ気なく答えソウイチは彼の横をすり抜け先へ行こうとする。
そこでソウマはモリゾーがいないことに気付きソウイチに尋ねるが、ソウイチは放っておけばいいとまったく取り合わない。
不審に思ったソウマが厳しく問い詰めると、ソウイチは来る途中でモリゾーとケンカし別れたことを白状した。

「……探しに行くぞ」

「ええ!? な、なんでだよ! あんなやつ別に……!」

「いいからとっととこい!!」

ソウマは険しい顔でソウイチに怒鳴ると、嫌がる彼の首根っこをつかみ引きずりながらモリゾーを探しに行く。
尋常ではない力の入り方に、当初は抵抗していたソウイチもなすがままソウマに引きずられていく。

「やっぱり……言い過ぎたのかな……」

岩の上に腰掛けうつむくモリゾー。
時間が経つにつれ、ソウイチとケンカしたことに対し後悔し始めていたのだ。

「確かにソウイチの言ったことは自分勝手だよ。でも、重いって言われたらやっぱり怒るよね……。仲直りはしたいけど自分から謝りたくはないし……どうしたらいいんだろ……」

素直な気持ちと頑固な気持ちが頭の中でぶつかり合っている。
一言、ごめんなさいと言ってしまえばそれで済む。
しかし彼の性格がそれを許そうとしない。
なんとかうまく仲直りできる方法はないものか、すっかりモリゾーは考え込んでしまう。
そのため、彼の背後に迫る影に気付かなかった。
一瞬にして彼は火だるまになり、熱さにもだえ地面を転がる。
目線の先にいたのは、ソウイチが倒したマグマッグとドンメルやブビィなどほのおタイプのポケモン。

「また侵入者か……! 今度こそ叩きのめしてやる!!」

縄張りを守る自分のプライドをソウイチにズタズタにされた怒りはすさまじく、いわおとしでモリゾーの動きを封じた後他のポケモンと共にほのお技で集中攻撃を行う。
岩で身動きできないモリゾーはじりじりと体を焼かれ、その熱さと痛みに悲鳴を上げる。
完膚なきまでに叩き潰そうと、マグマッグは一層攻撃の手を強めモリゾーを痛めつけた。
モリゾーはタネマシンガンで岩を砕こうとするも、止まないひのこ攻撃で打ち出してもすぐに焼失してしまう。
一切の抵抗を封じようと、ついにマグマッグはあくびでモリゾーの眠気を誘った。
程なくして頭が揺らぐほどの強烈な眠気が彼を襲い、ひのこの束が迫りくる中彼の意識は途切れる。

「……ゾー……。モリゾー! しっかりしろ!」

誰かの呼ぶ声に、モリゾーはうっすらと目を開ける。
そこにいたのは必死の形相でモリゾーを揺り動かすソウマ。
目を開けたことを確認すると、ソウマはオレンを彼に食べさせる。
ひのこで負ったダメージはすっかり回復しソウマも安心した。
その様子を、ソウイチは申し訳なさそうで不満そうな表情で見ている。
それを見てモリゾーはソウイチに何か言おうとしたが、ソウマは手で制すとソウイチの首根っこをつかみモリゾーの前に連れてくると、彼に謝るようソウイチに言う。

「な、何でオレが謝んなきゃなんないんだよ!?」

「これを見てまだ分かんねえのか? お前と一緒にいれば、モリゾーがここまでひどい目に遭うこともなかったんだぞ?」

ソウマの声は恐ろしいほど低く怒気をはらんでいた。
ソウイチだけでなく、モリゾーでさえもその迫真さに背筋が凍る。
ソウイチが何も言わないで黙っていると、ソウマは彼と同じ目線になるまでしゃがみ彼の目をじっと見つめた。

「話を聞く限りじゃお前が悪い。モリゾーは出れないお前を助けようとしてくれたんだぞ? 不注意で穴に落ちたお前を、一生懸命助けようとしたんだ。それを感謝するどころかモリゾーが悪いって言うのは間違ってないか?」

淡々と、一言一言語り掛けるようにソウマは話す。
ソウイチも、本当は自分が悪いことは分かっていた。
落とし穴に気付かなかったのも、理不尽な罵声を浴びせたのも、一切モリゾーに非はない。
それを分かっていながら、彼は自分が悪いと認めずさらに言い訳をする。

「でも、あいつがオレのこと重いって……」

「そりゃあ、引っ張り上げるときは誰だって重いさ。逆にお前がモリゾーの立場だったら、一回で何も言わずに引っ張り上げられるか? モリゾーは悪気があって言ったわけじゃない。本当はお前も分かってるだろ?」

返す言葉もなかった。
全てはソウマの言うとおりである。
自分の情けなさに腹が立ち、モリゾーに八つ当たりしただけなのだ。
ソウイチは黙り込みうつむいた。

「モリゾーだってそりゃあ言い返したくもなるさ。せっかく助けてあげたのに何でここまで悪口言われなきゃいけないんだ、ってな。でも、モリゾーも忘れちゃいけないぜ」

「え?」

急に自分に話しを振られ、モリゾーは驚いてソウマの方を見る。

「誰かを助ける時は見返りをもらうために助けるわけじゃない。ただ助けたい、その一心で助けるんだ。例えお礼を言ってもらえなかったとしても、悪口を言われたとしても、相手はきっとどこかで感謝してる。分かるな?」

ソウマの言葉にしっかりとうなずくモリゾー。
世の中にはお礼や賞賛がほしいという目的で行動する人がいないわけではない。
しかし、お礼をもらえて当然という考え方をすれば次第に傲慢になり、やがて自分自身の格を落とすことになる。
助けてやったのに、それでは自分も相手もいい気分にはならない。
お礼はもらえれば嬉しいが、相手の力になれ、危機を救うことができたことこそ一番の喜びではないだろうか。

「今回はソウイチが全面的に悪い。けどモリゾーも、お礼が当たり前と思っちゃいけない。大事なのは、[相手が助かってよかった]と自分で思えることだ。全力でやったなら、きっとそう思えるはずだ。そうだろ?」

探検隊として忘れてはならない基本姿勢、ソウマは二人にそれを伝えたかった。
ソウイチとモリゾーも、お金にはならなくても相手が喜ぶ顔を見て自分達も嬉しかったことを思い出す。
二人はソウマの言葉にしっかりとうなずいてみせた。

「よし。なら、どうすればいいか分かるよな?」

ソウマは二人の目を見て促す。
最初はお互い黙っていたが、やがてソウイチからモリゾーに声をかけた。

「モリゾー……ひどいこと言って悪かったな……。オレのせいで迷惑かけたのにあんなこと言って……。助けてくれてありがとな」

「オイラも言いすぎたよ……。一人の方がはかどるなんて言ってごめんね」

どちらも自分に悪いところがあることは十分承知していた。
二人とも意固地にならず、素直に自分の気持ちを口にし謝罪する。
お互い目が合うと二人とも恥ずかしそうに笑った。
その様子を見てソウマも満足そうだ。
その後彼らは中間地点へと戻り、戻って来た三人を見て誰もが安堵する。
その時、かすかながら何か唸り声のようなものが聞こえた気がした。
気のせいかと思えたが、直後にはっきりと何かの叫び声が聞こえてくる。
一体この先に何があるというのだろうか。
それを知るためには先へ進むしかない。
ユクシーのことも、この叫び声のことも先へ進んでこの目で確かめなければ分からないのだ。

(ここを越えればユクシーに会えるかもしれねえ。そうすれば記憶をなくす前のオレが誰なのか分かるかもしれねえんだ)

そこでふと、ソウイチは自分の感じていたことをモリゾー達に話していないことに気付く。
伝えるべきかどうか迷ったが、突然話されても混乱するだろうと前もって伝えることに。
二人に声をかけここに来て自分が感じたことを伝えると、ソウヤとソウマも同じことを考えていたと名乗り出る。
これにはモリゾー達だけでなくソウイチも驚いた。
兄弟全員記憶の欠如があることを考えれば、三人とも何かしらユクシーの伝説と関わっている可能性がある。

「それなら、ますますこんなとこで止まってられないね」

「ソウイチ達がどんな人間だったのか、ユクシーに真実を聞かなきゃ!」

モリゾーとゴロスケはさらに意気込んだ。
考えが間違っていたとしても、ユクシーから話を聞けば記憶を失ったヒントが得られるかもしれない。
ライナ達もモリゾー達と同じで、三人が記憶を取り戻す可能性があるなら全力を尽くすつもりだった。

「行こうぜ。お前がなんでこの世界に来たのか聞くために」

シリウスも人間時代のソウイチを知るとはいえ、それはあくまでも彼がこの世界に来る前までの話。
ソウイチ達三兄弟がポケモンになった理由を彼とコンも知りたかった。
三人は互いにうなずき、仲間達と共に最上部を目指し洞窟の奥へと足を踏み入れていく。

火車風 ( 2014/04/15(火) 03:10 )