ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第十九話 危うしプクリン! 日照り石の謎を解け! 
澄み切った青空の中で太陽が輝きまさに絶好の探検日和。
翌朝ソウイチ達は朝食を終え、早速森へ調査に乗り出す。
その途中、彼はユクシーのことについて考えていた。

(オレ達兄弟は、なぜかこの場所を知ってる……。そして記憶を消す力があるっていうユクシーの伝説……。この二つは偶然なのか?)

昨日チリーンから聞いたあの話が頭から離れない。
例え記憶は消えていたとしても、体が覚えていれば既視感は感じるだろう。
そこでソウイチは一つの考えを導き出した。

(もしかしたら……記憶をなくす前にオレ達はここに来たことがあって、それでユクシーに会って記憶を消されたのかもしれねえ……)

何の目的でここへ来たか定かではない。
だが一つの仮説としては十分考えられる。

「ソウイチ……? ソウイチ!」

突然自分の名前を呼ばれソウイチははっと我に返る。
モリゾーは心配そうにソウイチの顔をのぞき込んでいた。

「どうしたのさぼ〜っとして。ソウイチらしくないよ?」

「な、なんでもねえよ……。ちょっと考え事してただけだ」

ソウイチはとっさにごまかし先へと進む。
モリゾーはどこか納得いかないようだったが、それ以上深く聞くことはなかった。
とにもかくにも、何が正しいかはきりのみずうみに行けばはっきりする。
今はひたすらそこへ行くための手がかりを探すしかないと思うソウイチであった。

「あれ……? ソウイチ、あれ見て」

「へ?」

突然モリゾーに声をかけられソウイチは間抜けな声をあげる。
彼の指す方を見ると道の真ん中に赤い石のようなものが落ちていた。

「なんやろ……あれ……」

「わからない……」

得体の知れない不気味なものにカメキチとライナも警戒心をあらわにする。
誰も近づこうとしない中、シリウスは宝石かもしれないと石に駆け寄り手に取った。

「あっちいいい!!」

シリウスは絶叫すると持っていた石を放り投げる。
石はゴロスケの方に向かって飛んで行き、彼は地面に落ちるすれすれで石を受け止めた。

「あれ……? これ熱くないよ? どっちかっていうとあったかい感じかな」

「そんなはずはねえよ! だったら他のやつも触ってみろよ!」

ゴロスケは平然と石を手に持っている。
シリウスは自分がオーバーだと言われているように感じ乱暴に石をひったくると他のメンバーに投げてよこす。
その結果熱がらなかったのはゴロスケとカメキチだけで、他のメンバーは石を触った途端火傷しそうな熱さを感じた。
みずタイプということで熱に耐性でもあるのだろうか。

「じゃあ、その石はゴロスケが持っててよ。この先役に立つかもしれないしね」

ソウヤに言われひとまずゴロスケが石を預かることに。
そしていよいよ、一行は霧に包まれた森の中へ足を踏み入れる。
ある程度お互いが近づかなければすぐ見失ってしまうほど森の霧は深い。
それゆえ敵のポケモンがいたとしても素早い対処がしにくいのだ。
逆に言えば敵からもこちらを見つけることは困難で、静かにその場をやり過ごせば回避することもできる。
迷うことを避けるため、彼らは一塊となって森の中を進んで行く。
しばらく進んでいると通路の先に大きな部屋が出現。
その中にはポケや道具などが大量に落ちておりソウイチとシリウスは目を輝かせた。

「ちょっと待て。いくらなんでも、あんな目立つようにたくさんの道具が落ちてるのは不自然だ」

我先に入ろうとする二人をソウマは一旦制止。
というのも、道具類が大量に落ちている部屋はモンスターハウスの可能性が高いからだ。
効率よく回収できるというこちら側の心理を突き野生のポケモンが道具を意図的に配置しているという。
ソウマも過去にその事例を経験しており、大丈夫かどうか見極める必要があった。

「少し遠回りにはなるが、ここは安全を優先して迂回を……」

そこまで言って、ソウマは背後にポケモンの気配を察知。
全員に伏せるよう指示し霧の中に向かってかえんほうしゃを放つ。
霧の中から出てきたのはチェリンボとポポッコの集団。
数はそれほどでもなかったが、相手はソウイチ達の後ろからだけでなく進もうとしていた方向からも押し寄せてきた。
通路上では思ったように動けないと判断し、彼らはやむを得ず部屋の中へ飛び込んだ。
案の定そこはモンスターハウスで、追いかけてきたポケモン以外にホーホーやパチリスなど様々な種族が加わる。

「仕方ねえ……。一気に倒すぞ!」

こうなってしまっては逃げるわけにもいかず、ソウイチ達は自分達の倍以上いるポケモンを相手にすることに。
ポポッコ達くさタイプはソウイチとソウマ、その他のポケモンは残りで相手をする。
ソウイチとソウマのかえんほうしゃはまるで生き物のようにポポッコ達を焼き尽くし、ものの数分で勝負が決まった。
ホーホーはソウマとライナのでんき技、パチリスはシリウスのあなをほるに翻弄され、モリゾー達はその他のポケモンを相手取り戦う。
それからさらに数分後、部屋の中は目を回し動かなくなったポケモン達で溢れかえっていた。
一息つく暇もなく、彼らは先へ進むため道具を回収すると部屋を後にする。
それから先は順調に進むかと思われたが、ソウイチとシリウスが分かれ道で進む方向でもめたあげく、シリウスの選んだ方向へ進み道に迷ってしまう。
それだけでは終わらず形態の違うモンスターハウスに二度も遭遇するなど踏んだり蹴ったり。
森を抜け出した時には全員くたくたになっていた。

「まったく……ついてないぜ……」

腰を下ろしてため息をつくソウイチ。
最初からこの調子では先が思いやられる。
一度休憩を取ることに決め、各自オレンやリンゴで体力を回復。
その最中、ソウヤの耳は妙な音を耳にした。
さらに耳を澄ませると、水の流れ落ちるような音だと分かる。
他のメンバーにもその音は聞こえ、彼らは音のする方向へ行ってみることに。
そこでの光景を見て、彼らは言葉を失った。
目の前にあるのははるか上から落ちてきているであろう滝の数々。
霧が深く出どころは不明だが、これほどたくさんの滝が同じ場所に集まっている光景は初めてだ。

「すごいなあ……。でもどのあたりなんだろう……。ここが森の一番奥なのかな……」

滝のすごさに感動しつつ辺りを見回すモリゾーとゴロスケ。
上も左右も霧に覆われ、明確な位置はつかめない。
ふと、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
目を凝らすと、滝の向こう側からヘイガニが走ってくるのが見えた。

「ヘイヘ〜イ! 何か手掛かりとかあったかい?」

「いや、何にも見つからねえ……」

ヘイガニに聞かれソウイチは残念そうに首を振る。
かくいうヘイガニの方もこれといった情報はなく気落ちした様子。

「でも……ちょっと気になるものがあってよ」

そう言ってヘイガニはソウイチ達を誘導し、ある物の前へと連れて行く。
そこに置かれていたのは何かのポケモンを象った像でソウイチ達は目を見張った。
ヘイガニを含め、誰もこんなポケモンは見たことがない。
ソウイチ達三兄弟とシリウスは見覚えがあるのだが、喉元まで出かかっている名前がどうしても思い出せなかった。
他に情報はないかと隈なく調べていると、見たことのない文字が刻まれたプレートが像に埋め込まれているのを発見する。

「何なの……? これ……」

「これは足形文字やな……。ちょっと読んでみるわ。え〜と……」

ソウイチもソウヤも、人間の時に使っていたものとは違う文字に戸惑った。
この世界にいるポケモン達は見慣れているのか、すぐさまカメキチが解読に入る。
プレートには、[グラードンの命灯しき時 空は日照り 宝の道は開くなり]と書かれていた。
グラードンという言葉を聞き、元人間の四人はようやく合点がいく。
実物を見たことはないが、本やテレビでその姿は知っていたからだ。

「この宝ってのは霧の湖にある宝のことだな。道が開くってことは……もしかしたら、霧の湖へ行く謎がここに隠されてるかもしれねえな……」

ソウマの言葉に一同は沸き立つ。
ようやくきりのみずうみへつながる重要なヒントを得ることができた。
しかし、ソウマは像を見つめたまま考え込んでいる。
プレートの中にあったグラードンの命という部分が何のことなのかさっぱり分からなかったのだ。

「命を灯すってどうすればいいのかな……。う〜ん……」

悩むソウマを見てモリゾーもいい考えはないかと首をひねる。
すると、モリゾーはある妙案を思いついた。
ソウイチの過去や未来が見える能力を使い、この石像のことを探ろうというのだ。
どちらが見えるかは不明だがやってみる価値はある。
ソウイチが石像に触れると、程なくして強烈なめまいが襲ってきた。

[そうか!……ここに! ここに……があるのか!]

[なるほど……。グラードンの心臓に日照り石をはめる……それで霧は晴れるのか!]

[さすがだな! やっぱりオレのパートナーだ!]

夢が終わり、ソウイチは現実に引き戻される。
頭の中に響いた声にソウイチは聞き覚えがあるような気がした。
誰の声かはわからないが、以前聞いたことあるような気がするのだ。
だが今回は映像がなく音声のみで正体は分からない。

「ソウイチ、大丈夫……?」

「あ、ああ……」

難しい表情をしているソウイチに声をかけるゴロスケ。
ソウイチはさっき見えたことをありのまま全員に伝える。

「その日照り石って……」

「ああ、ゴロスケが持ってる石に間違いねえ。それに、ここを見てみろよ」

ソウイチはゴロスケの持っている石を見て確信する。
そして石像には何かがはまっていたような窪みがあり、大きさはちょうどその石と同じ。
ソウイチはゴロスケに石をはめてみるよう言い、ゴロスケは窪みへ石をはめ込む。
その途端、石像の両目に赤い光が宿り地面が音を立てて揺れ始めた。

「あぶねえ! 一旦離れるぞ!」

ソウイチの声で一斉に像から離れ、離れた瞬間辺りはまぶしい光に包まれる。
光が消失し目が開けられるようになると、さっきまで立ち込めていた霧は嘘のようになくなっていた。
驚くのはそれだけではない。

「おい! みんな上を見てみろ!」

突然シリウスが叫び他のメンバーが上を見てみると、そこには通常ではありえない光景が展開されていた。
岩の木とでもいうべきか、地面から空へ向かって太い柱が伸び、その天辺に巨大な島のようなものがあるではないか。
その信じがたい光景に一同は腰を抜かしそうになる。
先程の霧はあの島のようなものを覆い隠すためのものだと考えて間違いないだろう。
恐らく霧の湖は、あの島の上にある。

「ヘイ! こうしちゃいられねえ! おいらギルドのみんなに知らせてくるよ! みんなは頑張って先を目指してくれ!」

そう言うなり、ヘイガニは全速力でベースキャンプへと戻っていく。
進むべき道は見えた。
湖を目指し、ソウイチ達が歩き出そうとしたその時。

「待ちな!」

行く手を阻むように彼らの目の前に現れたのは、あの憎きドクローズ。

「ご苦労だったな。ククククッ」

「ケッ、謎さえ解いてくれればお前らに用はねえ」

「へへっ。お宝はいただきだぜ!」

そう、最初からこの三人はお宝を目当てに遠征に参加し、湖の場所が分かればお宝を奪って逃げ帰るつもりだったのだ。
彼らの真の目的を知りソウイチ達は怒り心頭。
ソウマ達はペラップからしか事の顛末を聞いておらず、彼らがソウイチ達を貶めた張本人だと知ると一斉に三人を睨みつけた。
大事な仲間を卑怯な手を使って散々嫌がらせをしてきたのだ、許せるはずがない。

「ククククッ。残念だが、お前達にはここでくたばってもらおう」

住人という数を目の前にしながらも、スカタンクは怯えることなく堂々としている。
ドガースとズバットは相変わらずへらへらしており、ソウイチ達の怒りはどんどん膨らんでいく。

「そ、それはこっちのセリフだ!」

「お前らを霧の湖になんか行かせるものか!」

三人を睨みつるモリゾーとゴロスケ。
宝を奪うためならこの三人は何をしでかすか分からない。
そんな危険な連中を先に通すわけにはいかなかった。

「ククククッ。もう忘れたのか? お前達はオレ様とドガースの、毒ガススペシャルコンボに敗れていることを」

「ああ、確かにあの時は負けたよ。でもなあ、いつまでも負けっぱなしだと思ったら大間違いだ。てめえらに、いつまでも負けてるわけにはいかねえんだよ!」

不敵な笑みを浮かべるスカタンクに声を荒げるソウイチ。
向こうが戦うというならこちらも容赦はしない。
以前の自分達より大きく成長しているという自信が彼らにはあった。

「ほう。というと、またオレ様達と戦うということか?」

「そうだ! 今度こそ負けるもんか!」

ソウヤは頬から電気をほとばしらせている。
やる気は十分、いつでも戦う準備はできていた。

「それに今度はオレ達もいる。あくまでも戦うっていうなら、全力で相手をしてやる。オレの大事な弟や仲間達をひどい目にあわせたことを後悔させてやる」

「あんた達みたいな最低な奴に負けるもんですか!」

「覚悟しな! 徹底的に叩きのめしてやる!」

ソウマの凛とした声は冷静さを感じさせるが、同時に激しい怒りも含まれている。
ライナとシリウスもソウヤと同じく電気をほとばしらせ、今にも相手に飛びかかりそうだ。
ところが、ソウイチはスカタンクに相手をするのは自分達四人だと宣言し、ソウマ達に先に進むよう言う。
誰かの助けを借りて勝っては意味がない。
やられた時と同じメンバーで勝ってこそ成長したと言える、彼はそう思っていた。

「いいのか? ソウイチ」

「ああ。アニキ達は先に行っててくれ。こいつらをぼこぼこにしたらすぐに追いつくからよ」

ソウイチの目と表情からは怒りとやる気、そして絶対に勝つという自信が感じられた。
それを見てソウイチが本気であることを理解し、シリウスと共に励ました後二人を連れ一足先に湖へ向かう。

「さあ、こっからが本番だ! 覚悟しろよてめえら!」

「オイラ達の実力を分からせてやる!」

ソウイチの背中からは激しく炎が吹き出し、まるでオーラのごとく背後に浮かび上がる。
モリゾー達も準備万端、いつでも攻撃を仕掛けられる状態だ。

「……いいだろう。食らうがいい! オレ様とドガースの、毒ガススペシャルコン……」

「あ〜ん! 待ってえええ!」

スカタンク達がどくガスを吐こうとした瞬間、それを遮る大きな声が響き渡る。
そしてソウイチ達とドクローズの前に転がって来たのは普通の物より一際大きなリンゴ、セカイイチ。
それを必死で追いかけているのは何とプクリン。
セカイイチに追い付くや否や、ソウイチ達には目もくれず大事そうに抱きかかえる。

「やっとつかまえた! ボクのセカイイチ! セカイイチがなくなったら僕は……僕は……」

喜んだかと思いきや急に目を潤ませ始めるプクリン。
ハイスピードで展開される目の前の出来事に、ソウイチ達やドクローズの思考回路は完全に停止する。
我に返り、最初にプクリンに声をかけたのはスカタンク。

「お、親方様……。ここで何をしているのです……?」

「ん? 何って、森を散歩してたらね、セカイイチが僕から逃げ出しちゃったの。で、それを追いかけてたらここに来ちゃったってわけ」

さわやかな笑顔で話すプクリンに彼らは唖然とした。
プクリンは確かベースキャンプでペラップと待機しているはず。
それがここにいるということは、セカイイチを追いかけているうちにのうむのもりを通り過ぎてきたという事。
それにもかかわらず疲れたり傷ついた様子もなく、どうやってここまで来たのか目を疑うほど。

「そうだ! 君達こんなところでさぼってちゃいけないよ?」

「へ?」

急に真面目な話になり、再びソウイチ達は間の抜けた顔をする。

「君達のお仕事は森の探索でしょ? ほら先へ行って行って」

「で、でもよお……」

ソウイチはドクローズを倒す気満々でいたが、プクリンの乱入ですっかり調子が狂ってしまう。
始めた勝負を放置したまま先へ行くことはできなかったが、プクリンは聞く耳を持たず、繰り返し先へ行くようソウイチ達に言った。
これ以上逆らえばどうなるか分からない。
渋々ながら、ソウイチ達は勝負をあきらめソウマ達の後を追う。
ドクローズはその場に取り残され、気が付けばソウイチ達の姿は見えなくなっていた。

「あの〜……親方様……。我々も探索に出かけようと思うのですが……」

もちろん本当の理由は、ソウイチ達の後を追って叩きのめそうという魂胆だ。
彼らがいいのだから自分達もすんなり許可されるだろうと思ってのことだったが、プクリンはなぜか三人を行かせたがらずここで一緒に待つよう言う。
それからは何を言ってもプクリンは馬耳東風で全く相手にされない。

(アニキ〜。なんか妙な展開になってきやしたね〜……)

(このままじゃアドバンズのやつらに先を越されますぜ。どうするんです?)

(仕方がない。プクリンは、ここでオレ様達が倒す。そしてアドバンズを追いかけるんだ)

しびれを切らした三人はここでプクリンを倒しソウイチ達を追いかける方針に変更。
どくガスで倒す準備を進める中、プクリンはのんきに鼻歌を歌って全く気付いていない。

(プクリンは……オレ様達がここで倒す! 探検家として有名なあのプクリンもここで終わりだ! ククククッ!)

スカタンクは不気味な笑いを浮かべ、プクリンが振り返った瞬間ドガースとどくガスを噴射する。
どくガスは一直線にプクリンの元へと向かうのだった。

火車風 ( 2014/04/12(土) 13:46 )