ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第二話 人間からポケモンに!?探検隊アドバンズ誕生! 後編
夕暮れの海岸を後にし、ソウイチ達は目の前にそびえたつ建物を見上げている。
ずっしりと構えられた探検隊の本拠地、プクリンのギルドだ。
いよいよこれから足を踏み入れようというのだが、入り口はすでに門が降りていた。

「なあ、閉まってるぜ。どうやって入るんだ?」

「この上に乗って、あしがたをみてもらうんだ。実は僕達、さっきも弟子入りしようとしてここに来たんだけど、変に怖くなって引き返しちゃったんだ……」

ソウイチが聞くと、ゴロスケは恥ずかしそうに頭をかいた。
確かに本拠地とだけあって、軽い気持ちで簡単には入れそうな場所ではない。
気の弱い二人の性格から怖気づいてしまうのも無理はなかった。

「でも、ソウイチ達が一緒にいてくれるから勇気が出てきたよ。まずはオイラから行くね」

そうは言うもののやはり怖いのか、足が小刻みに震えているモリゾー。
しかし今更引き返すわけにはいかないと、何とか勇気を搾り出し鉄格子の上に乗る。
それを見てソウイチは格子が抜け落ちたりしないのだろうかと考えた。
そんなことはとっくに対策済みだろうが、少し見ただけではどうも強度に不安を覚える。

「ポケモン発見! ポケモン発見! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたはキモリ! あしがたはキモリ!」

鉄格子の下から声がしている間、モリゾーはしかめっ面で必死に逃げ出したくなるのをこらえていた。
傍から見ればたいしたことないようにしか見えないのだが、これでも耐えている本人は真剣なのだ。

「よし、OKだ。次」

子供のような声から一変し、低くしわがれた声が聞こえてきた。
今度はゴロスケが乗ることになり、モリゾーより震えの度合いは小さいもののやはり怖がっている。
ソウイチ達にはどうもその様子が滑稽に思えて仕方がない。

「よし、まだそばに二人いるな。お前達も乗れ」

ゴロスケの確認が終わるとしわがれ声が言った。
どうやらソウイチとソウヤのことらしい。
ソウヤが乗ろうとすると、一人ずつでは時間がかかって面倒だとソウイチも一緒に鉄格子の上に乗った。
ものぐさなんだからとソウヤは思ったものの、口に出すと怒りだすことは目に見えていたので我慢する。
ところが、いざ乗ってみたはいいものの、急に戸惑いを見せ始めた子供声。
やはり二人同時は難しかったのだろうか。

「おい! どうした? ディグダ、応答しろ!!」

いつまでたっても子供声がうなっているので、待ちかねてしわがれ声が怒鳴る。
どうやら鉄格子を覗いているのはディグダらしい。

「え〜と……、え〜と……。ヒノアラシとピカチュウ!……多分」

「こらあ! 多分とは何だ多分とは!! そんな中途半端な判断じゃ分からんだろうが!!」

煮え切らない態度にしわがれ声はとうとう怒りを爆発させた。
一人増えたぐらいでそこまであいまいになるものかとソウイチとソウヤは疑問符を浮かべるが、ディグダの困惑した様子からそう考えざるを得ない。
しわがれ声に責め立てられディグダはすでに涙声になっている。
どう責任を取るんだとでも言いたげな表情で、じろりとソウイチを睨むソウヤ。
だが当の本人はすっとぼけた顔をして、さも自分のせいではないという風に気にする様子がない。
そしてそれから数分経ったが、門が開く気配は全くない。
入れてもらえないのではという思いが頭をよぎり、モリゾーとゴロスケは不安そうにしている。

「待たせたな……」

しわがれ声がしたかと思えば、目の前の門がひどくきしみながら上に格納されていく。
何の前触れもなかったので、モリゾー、ソウヤ、ゴロスケは開かれた入口を見たまま硬直していた。

「ったく、時間かかりすぎなんだよ……。さっさと入れろっつうの」

大した時間はかかっていないのだが、短気ゆえに数分待たされるだけでもイライラが募るソウイチ。
ソウヤ達のことを気にかける様子もなく、一人で真っ先に中へと入っていく。
ようやくソウヤ達が気付いたころ、彼は穴に唯一かかっているはしごを下っている最中。
慌てて彼の後を追いかけはしごを降りていくと、地上よりも広々としたスペースに降り立った。
そこには、地上の静寂な様子からは想像もつかないほど大勢のポケモンがいるではないか。

「うわあ〜……!」

モリゾーとゴロスケは目を輝かせてそのポケモン達を見ていた。
ここにいるということは、このポケモン達も探検隊を生業としているのだろうか。

「おい、お前達!」

背後からの声に振り向くと、そこに立っていたのは頭が八分音符のような形をしたポケモンだった。
彼の名はペラップ。ギルドの情報通であり、親方の次に重要な役職を任されているという。
軽く自己紹介を終えると、彼は何を勘違いしたのかソウイチ達をアンケートや勧誘の輩と思い込み追い払おうとしたのだ。
せっかく入ることができたのに追い出されてはたまらないと、ゴロスケとモリゾーは探検隊に志願する意思を彼に伝える。

「ええっ!? で、弟子入りしたいだって!?」

それを聞いてペラップはひどく驚いた表情をした。
探検隊になりたい者がここへ弟子入りにくることは珍しいことではないはず、どうしてここまで驚く必要があるのだろう。
理由は明白、年が経つにつれこのギルドの修業が厳しさを増し、ついていけないものが続々とやめてしまった。
ここ数か月弟子になりたいという者は一人も現れず、彼ら四人は久しぶりの志願者ということなのだ。
ペラップ自身は独り言としてつぶやいていたつもりだったが、その内容は四人に筒抜け。

「ねえ、修行ってそんなに厳しいの?」

代表してモリゾーが尋ねてみるが、ペラップは大慌てで否定し直後にあふれんばかりの笑顔を見せる。
都合の悪いことを聞かれてしまい、弟子入りをやめると言い出されてはたまらない、その一心なのだろうが違和感は全く隠せていない。

「なんか、急に雰囲気変わったな……」

小声でささやきかけるソウイチにうなずくソウヤ。
四人がペラップを見る目は疑惑であふれんばかり。

「さあ、こっちだよ。ついてきな」

突き刺さる視線などものともせず、ペラップは彼らを手招きしはしごを降り始めた。
この下には一体何があるのかと、彼らもその後に続いてはしごを降りる。

「ここがギルドの地下だ。」

ここから下へははしごが伸びていないことから、どうやらここが最下層のようだ。
すると、九にモリゾーとゴロスケは窓際に駆け寄る。
ソウイチとソウヤは何か珍しいものでも見えたのかと思ったが、二人の反応は全く異なるものだった。

「うわあ、すごい!」

「ここから外が見えるよ!」

無邪気にはしゃぐ二人を尻目に、ソウイチとソウヤは理解できないという表情で呆れかえっている。
窓があれば外ぐらい見えるのは当たり前だ、これが二人の言い分だった。

「そんなことでいちいちはしゃぐんじゃないよ! 静かにしな!」

ペラップが叱りつけると、二人はすごすごと戻ってきた。
弟子入りをしようというのに身勝手な行動をとれば怒られるのは当たり前。
そして彼は階段脇にある大きな扉の前に四人を連れてきた。

「これからお前達を親方様に紹介する。くれぐれも、くれぐれも粗相のないようにな」

ペラップは強く念を押す、一足先に部屋の中へ入る。
どのタイミングで入ってよいかわからず、ソウイチ達は少し間をおいてからドアを開けた。

「親方様、新しい弟子を連れてきました」

ペラップは奥のほうにいるピンク色のポケモンに話しかける。
モリゾー達もそのポケモンを見たが、イメージしていたものとは大分かけ離れていた。
親方というからにはひげを生やした強面の人物を想像していたのだが、このポケモンはどこをどう見ても一般にいう親方の雰囲気は一切ない。
本当にここで一番上の立場なのだろうか、そう問わずにはいられないほどだった。
しかし、ペラップが呼びかけたにも関わらずそのポケモンは無反応。
考え事で話を聞いていなかったのだろうか、普通ありえないが立ったまま寝ているのだろうか。
そのポケモンの周りをぐるぐる回っているペラップにソウイチ達が注意を向けていると……

「やあ! ボクはプクリン。君達、探検隊になりたいんだって?」

何の前触れもないあいさつに一同びっくり。
唐突に話しかけてきたので、四人は面食らって言葉が出てこなかった。
しばらくした後、ようやくモリゾーが探検隊になりたいという意向を伝えるが、どうも不意に話しかけてこられるというのは反応に困る。

「じゃあ、探検隊として登録するから、チーム名を教えてくれない?」

プクリンは戸棚から、名簿のようなものを取り出す。
これに書き込んで初めて登録完了となるようだが、チーム名と言われてモリゾーとゴロスケの額を汗が伝う。
探検隊になれるうれしさのあまり、どんなものにするか全く考えてなかったのだ。
早速二人はソウイチに救いを求めるが、急に言われてもすぐに思いつくようなものでもない。
だがチーム名がないまま活動開始というのも締まりがないので、戸惑いの表情を浮かべつつもその場に座り込んで名前を考え始めた。
ところがポケダンズ、Tフォース、アルタリア、適当に思い浮かべてみるもののしっくりとくるものが全くないのだ。

(くそお、全然思いつかねえ……。名前の頭文字もだめ、タイプ関係もだめ……。もっといいのはないのか……、何かいいものは……。ん……?)

突然、ソウイチの脳裏にある単語が浮かび上がる。
この単語ならばチーム名にふさわしい立派なものになる、そう彼は確信した。

「いい名前を思いついたぜ! アドバンズってのはどうだ?」

これを思いついた理由は、彼が持っていたゲーム機にアドバンスという名前がついていたからだ。
名前の響き、文字数という直観的な理由で彼はこの言葉を気に入っていた。
頭文字とタイプがだめならゲーム機の名前と、これまた斜め上の発想を行ったものだ。

「アドバンズか……。うん!、いい名前! それにしようよ!」

モリゾーとゴロスケはすっかり気に入ったようで、ソウイチの意見に大賛成。
もちろんこの世界にゲーム機があるはずもないので、彼らもかっこよさそうな響きに惹かれたようだ。

「アドバンズ……。アドバンスは確か、英語で前進って意味があったよね」

「そうそう! 常に上を目指して前に進み続ける! 途中で絶対あきらめたりしねえって意味が込められてんのさ!」

自信満々にうなずくソウイチだが、込められた意味はソウヤの補足を聞いて即席で作ったもの。
疑わしそうな目を向けるソウヤだったが、今大事なのはチーム名としてふさわしいかどうか。
ここで突っ込んでも仕方がないとソウヤも心の中で納得し、全員一致でアドバンズとすることにした。

「じゃあ、アドバンズで登録するね。登録、登録、みんな登録……」

プクリンは名簿に書き込みつつぶつぶつと何かをつぶやいている。
その言葉が聞こえ始めたとたん、ペラップは自分の両耳を慌ててふさぐ。
なぜふさぐのか四人が聞いても、いいからふさげの一点張り。
納得がいかず考えあぐねていると、部屋中に爆発音のような大音響が響き渡り、耳をふさいでいなかった彼らは卒倒しそうになった。

「おめでとう! これで君達も探検隊の仲間入りだよ」

今の大音響で登録は完了したようだ。
本来ならば手を取り合って喜ぶところだが、彼らは手を取り合う以前に足元がふらついて立っていることすらやっとの状態。
それみたことかと、ため息をつきつつペラップはソウイチ達を見る。

「記念に探検隊キットをあげるよ」

プクリンはさっきと別の棚から箱を取り出し、彼らに差し出した。
箱を開けると、中には見たことないものがいろいろと詰め込まれている。
探検に必要なものが入っていると、プクリンはバッジからバッグの使い方まで丁寧に教えてくれた。
重要なことを聞き漏らすまいと、ソウイチ達はプクリンの言葉に耳を傾けている。

「そしてこれは、僕から君達へのお祝い」

そう言ってプクリンが差し出したのは、青バンダナ、黄色と緑のハチマキ、ピンクのスカーフ。
特別変わったものではないが、お祝いという言葉はそれを十分特別なものへと価値を高めてくれた。
ソウイチは迷わず青バンダナを選択し、ソウヤは緑、モリゾーは黄色のハチマキを取り、ゴロスケはピンクのスカーフを取った。
こういう場合、たいていは一人か二人自分と好みが被るものだが、今回は偶然にも四人がそれぞれ異なるものを選んだ。
なんにしても、ケンカすることなくほしいものが決まるのはいいことである。
ふとソウヤは、ソウイチがバンダナを首ではなく頭に巻いていることに気付いた。

「ねえソウイチ。なんで頭にバンダナ巻いてるの? 普通は首に巻くものじゃない?」

「前に映画で見たんだけど、なんか海賊でこういうスタイルがあったんだ。それが気に入っててさ」

確かに、映画やアニメでは頭にバンダナを巻く海賊は多いような気がする。
これといって着用場所の決まりもないので、ソウヤはソウイチの説明を聞いて納得した。

「いよいよ明日からは修行だね。僕も応援してるよ、がんばって!」

「は、はい! 一生懸命がんばります!」

プクリンは彼らを励まし、モリゾーとゴロスケは姿勢を正してはっきりと答えた。
ギルドに入る前はおどおどしていた彼らだが、正式に探検隊として登録したことで凛々しく見える。

「ソウイチ、ソウヤ! 一緒にがんばろうね!」

モリゾーとゴロスケは再び手を差し出し、ソウイチとソウヤに握手を求める。
二人も、一緒に頑張ろうとまたお互いに固い握手を交わした。
探検隊アドバンズ、今ここに生誕。


晩御飯がすむと、ペラップはソウイチ達を奥のほうの部屋へ案内した。
弟子が住み込みで働くときに使う部屋で、そこにはわらを敷いた寝床のようなものが四つほど並んでいる。
ペラップはここをソウイチ達の部屋だというが、部屋という割には窓とわらしかなく、とても居心地がいいものとは思えない。

「わ〜い! ベッドだ〜!」

ソウイチとソウヤが顔をしかめている中、無邪気にわらの上へと寝転がるモリゾーとゴロスケ。
布団の上で寝慣れているソウイチとソウヤにとっては、これからこの上で寝るというのは到底信じがたかった。
できれば寝たくないところだが、布団がこの世界にあるはずもなく他に選択肢はない。

「明日から仕事だから、今日は早く寝るんだよ?」

仕事をする上で一番の敵は寝不足。
彼らはペラップに快く返事をし、ペラップは満足げにうなずくと部屋を出て行った。

「二人ともどうしたの? 立ってないで座ってみなよ。気持ちいいよこれ」

モリゾーとゴロスケは突っ立っている二人を怪訝な面持ちで見つめる。
それでもやはり、わらの上に座ることに抵抗を覚えるソウイチとソウヤだったが、しぶしぶとわらの上に寝そべってみた。
すると、想像していたちくちくと体に刺さる感じもなく、かなり寝心地は良さそうだ。
布団よりは多少劣るが、全然眠れないということもなさそうである。

「ソウイチ、ソウヤ。今日はオイラ達に付き合ってくれてありがとう」

「二人がいてくれたおかげでギルドに入ることができたんだ」

モリゾーとはゴロスケは再び二人に感謝の意向を述べる。
二人は気にしなくていいと言いながらも少し照れていた。
感謝されるのはうれしいが、こう何度もお礼を言われると気恥ずかしいものがある。
だが、モリゾーとゴロスケにとって、二人のおかげで夢を実現するための一歩を踏み出せたのだ。
いくら感謝しても感謝しつくせないほど、ソウイチとソウヤの存在は大きいもの。
それからほどなくして、四人はお休みの挨拶を交わし目を閉じた。

「ソウイチ、まだ起きてる?」

「ああ、まだ寝ちゃいねえよ」

挨拶を交わしたはいいが、いまだに寝つけずにいるソウイチとソウヤ。
海岸でモリゾー、ゴロスケと出会ってからギルドへ入るまでのことを思い出し、物思いにふけっていたのだ。

「なんか、あっという間に入門しちまったよな……」

「そうだね。今日はびっくりすることばかりだったよ。これからどうなるのかな、僕達……」

二人は自分の手足をもう一度見つめた。
冷静に考えられるようにはなったものの、自分達がポケモンになったことは今でも信じられない。
もちろん先行きなど全くの不透明、どんな出来事が待ち受けているかなど想像すらできなかった。
これが夢で、寝て起きれば人間に戻っているかもしれないと考えてはみたものの、さすがに非現実的すぎる。

「まあ、なるようになるんじゃねえか? 今はぐだぐだ考えてもしかたねえよ」

「そうだね……。きっと、大丈夫だよね……。お休み、ソウイチ」

楽天思考のソウイチだが、その言葉は逆にソウヤを安心させた。
なるようになる、普段なら適当にしか聞こえないその言葉が、今はとても頼りがいがある言葉に聞こえる。
一足先にソウヤは眠りにつくが、それでもソウイチはまだ意識があった。

(本当に、これからどうなるんだろうな……)

天井を見つめて考え込んでいるうちに、ソウイチの意識も薄れていく。
こうして、ソウイチ達がポケモンになってからの一日は終わりを告げた。
明日からは、探検隊アドバンズとしての新しい一日が始まる。
まだ見ぬ冒険への、第一歩が。

火車風 ( 2013/11/19(火) 03:54 )