ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第十六話 いざ遠征へ! えんがんのいわばを攻略せよ!
荷物の準備を整え中央の部屋へ戻ると、ぺラップから遠征についての説明を受ける。
今回の目的はきりのみずうみという場所の探索。
ここからはるか東方に位置するその湖は、霧に包まれており噂だけが飛び交う幻のような場所。
そこにはとても美しいお宝が眠っているとも言われており、お宝という言葉にメンバー達の目が輝く。
きりのみずうみまでは距離があり一日では到達できないので、途中にある高原のふもとで一泊し、態勢を整えてから向かう計画だ。
高原のベースキャンプまで全員で動くのは機動性に欠けると、それぞれいくつかのグループに分けて行動することに。
ソウイチ達はビッパ、ソウマ達はシリウス達とチームを組む。
組み分けに取り立てて異議は出なかったが、ペラップと行動することになったプクリンだけが不満そうな顔をしていた。
ギルドを出発し、ソウイチ達は海沿いの道からベースキャンプを目指すことに決める。
移動中お互いが話に花を咲かせている中、ソウイチとシリウスは集団から少し離れた位置を歩いていた。

「なあシリウス。お前とコンだけでも十分なのに、何でアニキ達と一緒に行くことにしたんだ?」

「ああ。単純にお前らより話してないってだけさ。だからいろいろ聞こうと思ってな」

言われてみれば、彼らはソウイチ達と行動する日が多かった。
ソウイチ達四人のことは大分わかっていても、ソウマ達のことはまだ知らないことがある。
せっかくの機会だから彼らとも中を深めておこうという純粋な理由だ。
それにしてはシリウス達が同行することにソウマ達は何の疑問も示さなかったが、それほど二人は一員に溶け込んでいたということだろう。

「とにかく、いろいろと気になることもあるしな。ソウマ達のことや、ソウマしか知らないお前達のこととかな」

「いろいろってなんだよ? 何か企んでんじゃねえだろうな」

ソウイチはシリウスに詰め寄ったが、彼はすっとぼけると即座にソウマ達の元へ走って行ってしまう。
変なことを暴露されてはたまらないと、ソウイチも慌てて彼を追いかける。
そうこうしているうちに、一行は海が間近に見える場所まで来ていた。
眼下に広がる大海原は太陽の光できらめいており、さわやかな風も吹いて実に気持ちがいい。
しかしその先は崖になっており、ひこうタイプでもない限り通って行くことはできなさそうだ。

「この中を通って行くしかねえようだな……」

「険しくなりそうでゲスね……」

そびえたつ山を見上げ唸るソウマ。
この中にどんな障害が待ち構えているかを想像し、ビッパは少し不安になった。

「で……さっきから気になってたんだけど、この像みたいなのは何だ?」

「ほんとだ。なんだろうこれ……」

ソウイチの真横にはガルーラの姿をした石像が置かれている。
初めて見る謎の像にソウイチ達は興味津々。

「ああ、これはガルーラ像でゲスよ」

「ガルーラ像? って見たまんまじゃねえかよ!」

まさに文字通りと言ったところか。
もちろんビッパも見るのは初めてで細かいことは知らない様子。
ソウイチに突っ込まれて体を小さくしている。
ソウマとライナによると、これに触れることで持ち物の整理ができたり冒険の記録ができるという。
長距離の移動では簡単に道具の整理ができず、旅先では重宝しているのだ。

「うう……。あっしは遠征行くの初めてで……。なんだか緊張するでゲス……」

「あはは。それはオイラ達だって同じだよ。初心者同士、一緒に頑張ろう!」

不安そうなビッパを励ますモリゾー。
そのおかげで彼も少しは気分が落ち着いたようだ。
ゴロスケは率先して地図を広げ、ソウヤとどのルートを通るか相談している。
遠征ということで興奮しているのかもしれないが、彼らを見て出会った時よりは成長しているんだなと感じるソウイチだった。

「よ〜し! ほんならさっさといこ……ん?」

「どうしたんですか?」

先へ進もうとし足を止めるカメキチにドンペイが尋ねる。
よく見ると、大きな入口の他にもう一つ小さな穴があるではないか。
地図にはどちらが出口につながっているかということは書かれておらず、すっかり困ってしまった。

「弱ったでゲスね〜……。どっちに行くでゲス?」

「な〜んだ。簡単だよ!」

「行く道は一つしかないね」

一同を振り返るビッパに対し、モリゾーとゴロスケは自信満々に答えた。
二人とも同じ考えなのだろうとソウイチ達は納得していたが、次の瞬間その予想は大きく外れることになる。
なんとゴロスケは大きな入口を選び、モリゾーは小さな穴を選んだのだ。
珍しく食い違った意見に二人は口論を始めた。

「大きい方が絶対安全! 小さい方はなんか怪しそうだよ!」

「そんなの分からないじゃないか! 小さい方が出口に通じてることだってあるでしょ!?」

お互いにこっちが正規のルートだと言い張り自分の意見を曲げようとしない。
しまいにはソウイチが決めるべきだとソウイチに迫り、自分の意見の正しさをソウイチにぶつける。
それがあまりにもしつこくうるさいので、とうとうソウイチはいい加減にしろと二人の頭を殴りつけた。

「いたたた……。ちょっと! 何するのさ!」

「いつまでも騒いでんじゃねえ!! 何のためにチームが分かれてると思ってんだよ!!」

殴られた二人はソウイチを睨みつけたが、彼の意見であっさりチームを分ければいいという結論に至った。
ソウイチはさらに何か言おうとしたが、すでに二人だけの会話になっており割って入るタイミングを失う。
お互いに笑うモリゾーとゴロスケに、くだらない争いにしびれを切らしたシリウスの鉄拳と怒声が飛び、それでソウイチは満足することにした。
ちいさなよこあなへは、ソウイチ、モリゾー、ソウヤ、ビッパ。
えんがんのいわばへは、ソウマ、ライナ、ドンペイ、シリウス、カメキチ、コン、ゴロスケが行くことになった。
小さいメンバーしか入れないので横穴組は少人数。
ソウヤはゴロスケと分かれるのは心配だったが、彼が大丈夫だと言い張るのでしぶしぶ承知する。
二組に分かれて中に入り、その場が静寂に包まれること数時間。

「いや〜、結構道具とかいっぱいあったよな」

「それにかなり楽に進めたよね」

「この調子なら向こうより早く着きそうでゲスね」

横穴から声が聞こえ、ソウイチ達が顔を出す。
だが、てっきり山を抜けたと思っていた彼らは前に見た光景に愕然とする。
ゴロスケの言った方が正しかったと分かり、ソウイチはどういうことだと厳しくモリゾーを問い詰めた。

「まさか違うなんて……。で、でも道具とかいっぱいあったし……」

「バカ! 道具なんかより早くキャンプにつくほうが大事だろうが!!」

ソウイチは腹立ち紛れにモリゾーの頭を殴りつける。
無駄骨と分かり怒らずにはいられない。
さらに先程の意味のない争いに巻沿いを食ったことも怒りを増長させる原因になっていた。

「やりすぎだよソウイチ! そんなに時間は経ってないだろうから、今からでも間に合うよ!」

「じゃあさっさと行くぞ!」

頭を押さえてうずくまるモリゾーをかばうソウヤ。
ソウイチは舌打ちすると肩を怒らせて大きな入口へと入っていく。
こんな状態で大丈夫なのかと、不穏な空気が辺りを包み込んだ。
その頃、ソウマ達は出口を目指しえんがんのいわばを進んでいく。
なぜか野生のポケモンと遭遇せず、進むペースはかなり早い。
シリウスやコンは、ソウマ達からライナと出会い、カメキチ・ドンペイのこと、ソウイチ達との再会などソウマやライナしか知らないこともたくさん聞いた。
シリウスは人間時代のソウイチの話や、自分達の活動についての話をする。
その内容はゴロスケが初めて聞くようなものも多く、目を輝かせて彼らの話に耳を傾けていた。
通路を抜け他の部屋に入ると、ちょうどそこにはクラブ達とタマザラシ達の姿が。
どちらもみずタイプを持ちライナとシリウスのでんき技を使えば簡単に倒せるはずだったが、地面が海水で濡れておりでんき技が使えない状況に陥ってしまう。
おまけにじめんタイプの混ざったトリトドン達も出てきてしまいやっかいさに拍車をかける。

「くっそお! ここに来て何で出てくるんだよ! このままかみなりでけりつけてえのに!」

「あかん! こんなところででんき技使ったら敵だけやのうてこっちまで感電してまうで!」

イライラが募るシリウスをいさめるカメキチだが、その間も敵の攻撃が止むことはない。
今はでんき技を使わず、なおかつ効果のある技で相手を倒すしかないのだ。
ソウマはスピードスターの連射し敵全体にすばやくダメージを与えていたが、その分PPの消費も早く決して有利とは言えない。
ドンペイやライナもメタルクローやでんこうせっかで援護するもののそれだけでは力不足がだった。
その時、ソウマの背後に向かってトリトドンが突進する。

「ソウマさん! 危ない!」

「アホ! よけろ!」

コンが叫んだがソウマはその場から動こうとしない。
カメキチが援護に動くもトリトドンはすでにソウマと距離を詰めていた。

「くらえええ!!」

トリトドンの体がソウマにぶつかると思われた。
ところが突然彼の姿が掻き消え、トリトドンは止まることができずそのまま突っ込む。
すると、いつの間にか下にいたソウマがトリトドンの体をつかむと、勢いを殺さず壁に向かって投げつける。
避けることもできずトリトドンは壁にめり込み目を回してしまった。

「い、今のは……?」

「背負い投げだよ。武道の稽古をしてたからこういうのは得意なのさ」

何が起こったのか分からず呆然とするライナ達にソウマは説明する。
消えたように見えたのは、座り込む手前まで姿勢を落とし投げ飛ばしやすくするためだったのだ。
ソウマは敵が襲い掛かってくるたびに背負い投げで壁に向かって投げつけていく。
突っ込む速度に投げられた勢いが加わり叩きつけられる衝撃は並大抵ではなく、その場にいた敵はあっという間に戦闘不能になってしまった。

「どうだ? 技を使わなくったって勝てるのさ」

感心と驚きで立ち尽くす一同にソウマはにっと笑ってみせる。
一方ソウイチ達はというと、ソウマ達に追いつくため必死に後を追いかけていたが、その後ろから敵ポケモンが大勢追いかけてきていた。
倒すことよりもソウマ達に追い付くことを優先した結果、敵が敵を呼びだるま式に膨れ上がってしまったのだ。

「ちいい!! なんでこんなに増えてんだよ!!」

背後の大群を見て怒りと焦りをぶちまけるソウイチ。
これほど増えてしまってはとても相手にできるわけがない。

「こうなったら十万ボルトで一気に……」

「だめだよ! 地面がぬれてるからみんな感電しちゃうよ!」

頬から電気を出すソウヤを見てモリゾーは慌てて彼を止める。
今でんき技を使えば自分達も深刻なダメージを受けることは目に見えていた。
海水は真水よりも電気をよく通し、その分ダメージが上乗せされることも考えられる。

「じゃあどうするんでゲスか! このまま出口まで連れて行くんでゲスか!?」

「落ち着け!! わめかれたら対策が思いつかねえだろうが!!」

頭をかきむしりながら周囲に怒鳴るソウイチ。
何か手はないかと考えてはいるものの、敵の攻撃を防ぎつつではなかなか妙案も出てこない。
そんな時彼はある考えを思いついた。
敵が射程距離に入ったところでソウイチはソウヤ達に、ソウヤ以外は合図したら思いっきりジャンプするように言う。

「えええ!? なんでさ!」

「いいから飛べ! ソウヤはその間に十万ボルトで敵を倒せ!」

モリゾーはソウイチの気が変になったのではないかと思った。
ジャンプしているわずか数秒で確実に敵を倒せる保障などない。
それでもやるしかないという彼の言葉に押され、モリゾー達は作戦にかけてみることに。
ソウイチのかけ声でソウヤ以外はジャンプし、それと同時にソウヤも十万ボルトを放った。
出せる力のすべてを込めた電撃は地面を伝い、あっという間に敵をまばゆい光で包み込む。

(早く……早く!)

敵の悲鳴がこだまする中、ソウヤは必死に十万ボルトを放ち続ける。
少しでも力が緩めば敵が倒れる前にソウイチ達が着地してしまう。
体の隅々から力を搾りだし、ソウイチ達が着地する寸前で敵は全て倒れた。
それを確認するとソウヤはすぐさま電撃を止めたが、一足早くビッパが着地してしまい感電してしまう。
幸いにもごく短時間であったためそれほどダメージは受けなかった。

「ごめんね……。僕がもう少し早く倒せていれば……」

「いいでゲスよ。ソウヤのおかげであの大群を倒すことができたんでゲスから。ありがとうでゲス」

ソウヤは丁寧に頭を下げて謝ったが、ビッパはあまり気にしていないようで少し気持ちが軽くなった。
オレンを食べてビッパも回復し、一行はまた出口を目指す。
そしてようやく暗闇の中から脱出することができた。

「よっしゃ〜! 抜けたぜ〜!」

「つ、疲れた〜……」

嬉しそうにガッツポーズをするソウイチに対し、他の三人はすっかりくたびれていた。
そこへ遠くからソウマ達の呼ぶ声が聞こえてくる。
彼らはすでにえんがんのいわばを抜けており休憩を取ってソウイチ達を待っていたのだ。

「おせえよお前ら! もう少し早く来いよな!」

「仕方ねえだろうが! どんだけ大量の敵に追いかけられてたと思ってんだよ!」

開口一番ソウイチにイライラをぶつけるシリウス。
ソウイチもカチンと来て言い返し二人の間でけんかが起こる。
シリウスからすれば散々待たされたということだが、だからといって理不尽な怒りをぶつけられるソウイチはたまったものではない。

「おいおいいきなりけんかすんなよ。どうせ今日はここで夜を明かして明日の朝出発するんだ。かりかりしてもしかたないさ」

二人を引き離すと、ソウマは言い聞かせるように二人を眺める。
青かった空はすでに赤く染まり、遠くの方は黒が混じり星が瞬いている。
地図を確認すると、ベースキャンプにつくにはあと一つ山を越える必要があった。
今出れば朝方にはベースキャンプに着けるだろうが、無理をして先へ進めなくなることは避けなければならない。

「明日はこの山を越えるのか。気を引き締めねえとな……」

地図を見たソウイチは自分自身に気合いを入れる。
しかし気合が入ったのは心だけではないようで、お腹の方も大きな音を立てた。
その大きさに周りは大笑いしソウイチは真っ赤な顔をしてうつむく。
そこへ他のメンバーのお腹もつられて音が鳴り、最後にはソウイチも吹きだして全員で笑っていた。

「よ〜し、じゃあ飯にしようぜ!」

「さんせ〜い!」

場の空気が和んだところで、ソウマはバッグから食料を取り出し晩ご飯の準備を始める。
道具や食材の準備をしつつ、誰もが晩御飯ができるのを楽しみにするのであった。

火車風 ( 2014/04/07(月) 19:17 )