第十五話 大嵐接近! トレジャータウンを守れ!
「あ〜疲れた〜……。部屋で一休みしようぜ」
「よく言うよ、今回頑張ってたのは僕らなんだから」
ギルドへと続く階段を上っていくソウイチ達四人。
今回の依頼は単純な救助依頼だったが、水場の多いダンジョンだったためソウヤとモリゾーが大活躍。
ゴロスケも陰ながら二人をサポートし、敵の注意を引いたりたいあたりでダメージを与えることに貢献。
しかしソウイチはみずタイプのポケモンを相手になかなかダメージを与えることができず苦戦。
結局大半をソウヤとモリゾーが倒し、今回はいいとこなしだったのだ。
頑張った頑張ってないの言い合いをしつつギルドの中へ入ると、道具箱や工具を片手にせわしなくメンバー達が走り回っている。
その中にはソウマ達もおり、一体何事かと四人は彼らに尋ねた。
「でかい嵐が来るってんで、ギルド全体の補強をやってるんだ。店や家が飛ばされないように町へ手伝いに行ってるやつもいる」
口に釘をくわえ木材に打ち付けながらソウマは答える。
自分達も何かしたほうがいいのではと思っていた矢先、早速ペラップに呼ばれ四人はトレジャータウンの住人達を手伝うよう言いつけられた。
ギルドの方は粗方補強が済んでいるが、町の方はまだ作業が残っており人出が必要なのだ。
すぐさま四人は荷物を整理しトレジャータウンへと向かう。
最初の手伝いはヨマワル銀行。
重要なお金が嵐で飛んで行ってしまっては大変ということで、地上から地下の金庫へお金を移動する。
箱に入れられたお金はとても重く、二人がかりでひっくり返さないよう慎重に運ぶ。
全てのお金を運び終えるころには腕の感覚がなくなり上に持ちあがらないほど。
だが仕事はまだまだ終わりではない。
今度はラッキーの店で孵っていないタマゴを近所で預かってもらえる住民に届ける仕事。
町の近所から少し遠くの場所まで住んでいるところは様々、少しでも早く送り届けるためソウイチ達も必死に走った。
カクレオン商店では、住居や倉庫であるテントの補強や重要な商品の移動、店のカウンター撤去などをカクレオン達の指示で行う。
普段から膨大な商品を扱っているだけに、ソウイチ達は右へ左へ行ったり来たり。
商品を保管する地下室は多くの部屋が作られており、たまに置く場所を間違えては二人に叱られることも。
三時間ほどで頼まれていた仕事は終わり、四人は慌ただしく次の仕事へと向かう。
事件はガルーラの店を補強していた時に起こった。
商品の移動を行っていると、建物を補強していたガルーラがテントから出てくる。
「ねえあんた達、うちの坊やを見なかった?」
「え? ここにはいないぜ?」
けがをしては危ないと、ガルーラは子供をお腹の袋からだし目の届く範囲で遊ばせていたのだが、少し目を離したすきにいなくなっていたのだ。
もちろんソウイチ達も作業をしていたので見かけていない。
「どこに行ったんだろうねぇ……。もうすぐ嵐が来そうだってのに……」
灰色の空を見て表情を曇らせるガルーラ。
すぐにでも探しに行きたいが、道具や材料を放置したままここを離れるわけにもいかない。
「だったら、オイラ達で坊やを探してくるよ。見つかったらすぐ連れてくるからさ」
「いいのかい? 本当はおばちゃんが行ければいいんだろうけどねえ……」
モリゾーの申し出にガルーラはすまなそうな顔をしたが、ここは彼の言葉に甘えることに。
作業をソウヤとゴロスケに任せ、ソウイチとモリゾーはガルーラの坊やを探し始める。
トレジャータウンの街中から近所の森、ギルドの中までくまなく探すが坊やはどこにもいない。
間違ってダンジョンに足を踏み入れた可能性もあると二人はかいがんのどうくつを目指す。
浜辺から横目に見える海は濁った灰色で、普段の輝く青色とは似ても似つかない。
雨が降り始めたせいか波の高さも一層高くなったように見える。
すると、モリゾーが突然足を止め海のかなたに目を凝らし始めた。
「どうしたんだよモリゾー? 海眺めてる場合じゃねえぞ」
「今……あそこに何かいたような……」
波の合間に何か浮かんでいたというのだが、ソウイチが同じように目を凝らしても何も見えない。
気のせいだと先に進もうとした瞬間、二人の耳にかすかではあるが助けてという声が聞こえてくる。
顔を見合わせ再び波間を凝視すると、荒れ狂う波の隙間から小さな体が浮かび上がった。
それは紛れもなくガルーラの坊や。
次々上から降り注ぐ波に飲まれながらも、必死に水面に顔を出し助けを呼んでいる。
近くで遊んでいるうちに押し寄せた波にさらわれたのだろう。
「た、大変だ……! あのままじゃ溺れちゃうよ!!」
「モリゾー! お前は町に戻ってソウヤ達を呼んで来い! オレは坊やを助けに行く!」
顔面蒼白のモリゾーにソウイチは指示を出すと、自ら荒れ狂う海の中へ飛び込んでいく。
一人にしておいてはこの先何があるか分からないと思ってのことだったが、彼も耐性があるとはいえ長時間水には浸かれない。
最初は戻るよう叫ぶモリゾーだったが、振り返らない彼を見て町の方へと駆け出して行く。
坊やはソウイチの想像以上に沖へ流されており、いくら水をかいても一向に距離が縮まらない。
その間にも雨は激しくなり、風も強くなってきている。
ソウイチは必死に泳ぎ、襲い掛かる波をかぶりながらも懸命に坊やの元へ急いだ。
そしてようやく彼は坊やのところへ泳ぎ着いた。
「もう心配ねえ。ちゃんとお母さんのところに帰してやるからな」
坊やは疲労していたもののけがなどはなくほっとする。
彼を背中に乗せ再び浜辺へ戻ろうとするが、嵐は先ほどよりも近づいており一層荒れた海は彼らを沖へ沖へと引きずっていく。
手や足を動かしても体は前に進まず、目に見えない恐ろしい力が働いているようだった。
(まずい……! このままじゃ……!)
水をかく手に力を込めるが、海はそのあがきをせせら笑うかのように次々高波をけしかけた。
何度も水中へ沈むうちに、次第にソウイチの体力も限界に近づいてくる。
それでも坊やを助けるべくソウイチは泳ぐことをやめない。
母親の元に帰すと言ったからには自分があきらめるわけにはいかないのだ。
飛びかける意識を奮い起こし無我夢中で手足を動かしていたその時、自分の両腕を誰かがつかんだことに気付く。
「ソウイチ、大丈夫!?」
「ほんま相変わらず無茶しよって! もう安心やで!」
聞き慣れたゴロスケとカメキチに声にソウイチは思わず安堵した。
カメキチは水面にれいとうビームを放ち氷の一本道を作る。
そして自分の甲羅に三人を乗せ腹ばいになったかと思いきや、ハイドロポンプを迫りくる波に向かって噴射しそりのように勢いよく滑り出す。
水の中を泳ぐよりも氷の上を滑った方が体力の消費も抑えられ、なおかつ素早く浜辺まで逃げることができると考えてのことだった。
氷の道が終わった途端四人は勢いよく吹っ飛んだが、ガルーラの坊やは待機していたライナが見事にキャッチ。
宙を舞うソウイチとゴロスケも地面に叩きつけられる前にソウマの腕の中に納まる。
彼らは急いで浜辺から引き揚げガルーラの店へと向かう。
我が子の無事な姿を見て、抱きしめる彼女の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
救助成功を喜ぶ間もなく、彼らはまだ終わっていない補強や落ちているものの回収へと走る。
嵐はすぐそこまで来ており一刻の猶予もない。
辺りが暗くなるころにやっと対策が終わり、ギルドメンバー先導の元住人達を避難所であるギルドへ誘導。
嵐が過ぎ去るまでこの中でじっと一晩を過ごす。
その間も、食事を出したり話すことで不安を和らげたり、住人のためにメンバーは動き回る。
そのおかげで住人達も疲れを緩和することができたようだ。
夜が明けると、昨日の悪天候が嘘のように外は晴れ渡っていた。
元の構造や補強のおかげでギルドは被害を受けず、町の方も木が折れたり風で飛んできたものが散乱していたりしたものの大きな被害は出ていない。
これもギルドと住人が一丸となって対策を行った結果であろう。
住人達が町へ戻った後に行われた朝礼では、ソウイチ達の救助活動が大きく評価されペラップからも大いに褒められる。
多少の無茶はあったが終わり良ければ総て良し、満足そうな笑顔を浮かべるソウイチ達であった。
嵐が去った後は町も普段通りの姿に戻り、ソウイチ達もいつも通りペラップから仕事を任せられたり、掲示板の依頼を解決したりする。
そんな日々が数日続いたある日の事。
依頼を終えギルドに戻るとすでに晩御飯の時間で、彼らはすぐさま食堂へ向かい自分の席へ着く。
挨拶をしてメンバー達が目の前の料理に手を付けようとした時。
「みんな! ちょっと待った! 今日は晩ご飯を食べる前に、みんなに聞いてほしいことがある」
突然ペラップが声をあげ一同を制止する。
腹が減っておりすぐにでも晩御飯を食べたい彼らは口々に不満を言う。
慌ててペラップがなだめ、ようやく食堂は静まり返った。
「え〜、みんなも気になる遠征メンバーだが、親方様は先ほど決断されたようだ」
その言葉を聞いて彼らは沸き立つ。
メンバーの発表は明日行われるといい、誰が選ばれるのか皆楽しみで仕方がない。
「それではみんな、お待たせして悪かったな。あらためて……」
「いっただっきま〜す!」
ペラップの話を聞いて食欲も増進。
テーブルにあった料理はあっという間に彼らの口の中へと消えていく。
部屋に戻ると、アドバンズも遠征メンバーの話で持ち切りだった。
「いよいよ明日かあ……。なんかドキドキしてきたよ!」
「まあ、ペラップが言ってたように望みは薄いかもしれないけど……」
嬉しそうなモリゾーに対し、ゴロスケはペラップに言われたことを気にしているのか浮かない顔をしている。
「でも、その後僕達がんばってきたじゃない! きっと大丈夫だよ!」
「できることは全部やったんだ。後は結果を天に祈るだけさ」
下がった評価を取り戻すため、いつも以上にしっかりと仕事をこなした。
失った信用を取り戻すのは並大抵ではないが、きっとプクリンはそれを見てくれている。
そう言ってソウイチとソウヤはゴロスケを元気づけようとする。
「……そうだよね。二人の言うとおりだよ。例え落ちたとしても、もう気にしない」
ゴロスケの顔にも明るさが戻り、モリゾーもゴロスケの肩を叩いた。
明日に備えるため、今日は全員早く寝ることに。
横になった後、ソウイチは一人で考え事をしていた。
(悔いはないって言ってたけど、やっぱり落ちたらがっかりするだろうな……。もしオレとソウヤがダメでも、あいつらだけは行かせてやりたい)
遠征の話を聞いて誰よりも楽しみにしていたのは紛れもなくモリゾーとゴロスケ。
前の失敗を招いたのは自分の思慮が浅かったからだと彼なりに反省もしていた。
だからこそ、どうしても彼らを行かせてやりたかったのだ。
全員で行ければそれに越したことはないのだが、どれほど信用を回復できたのかソウイチには自信がない。
もしかしたら、誰も選ばれない可能性だってあるのだ。
(……いや、きっとみんなで行ける!今まで努力してきたんだ。落とせるものなら落としてみやがれってんだ!)
浮かんだ後ろ向きな考えを打消し、ソウイチも心を決める。
そして彼もソウヤ達のように心地よい眠りへ引き込まれていく。
「みんなで……行けるといいな……」
意識が遠のく間際に、ソウイチはそうつぶやいた。
翌朝、彼らはいつもの目覚ましで起きる。
いよいよメンバーの発表とあって、無意識のうちに緊張していた。
「え〜、それではこれより、遠征メンバーの発表を行う」
ペラップはプクリンからメモを受け取り、書かれている名前を順番に読み上げていく。
名前を呼ばれたのは、ドゴーム、ヘイガニ、ビッパ、キマワリ、チリーン、そしてソウマ達四人。
最後の最後まで望みを捨てなかったが、ソウイチ達四人の名前が呼ばれることはなかった。
名前を呼ばれた者は飛び上がったり小躍りして喜んだが、ソウイチ達はため息をつき肩を落とす。
ドクローズ達はその様子を見てほくそ笑み、妨害が成功したことを陰で喜んだ。
シリウスとコンはソウイチ達が行けないことを残念がったが、プクリンの決定とあっては仕方がない。
ソウマ達もソウイチ達を優しく励ましたものの、どうしても彼らはあきらめがつかなかった。
「遠征メンバーは……え〜と……あれ?」
ペラップが改めてメモを見返すと、メモの端にはまだ名前が書かれていたのだ。
端っこで、しかも汚い字であることにペラップは不満を言いたくなったが、プクリンの機嫌を損ねることは分かっていたのでぐっと我慢する。
「え〜、遠征メンバーだけどまだ続きがあった。他には、ダグドリオ、ソウヤ、ディグダ、モリゾー、グレッグル、そしてソウイチにゴロスケ。以上……ってええ!?」
ペラップはもちろんの事、ギルドの全員が目を丸くした。
なんと、最終的に全てのメンバーが選ばれていたのだ。
プクリンに確認すると、彼は悪びれた様子もなく全員を選んだことを認めた。
「それじゃあ選んだ意味がないじゃないですか! だいたいそんなことしたら、誰がここに残って留守番をするんです!?」
「大丈夫だよ。ちゃんと戸締まりしていくから」
ペラップが抗議してもプクリンは笑顔のまま。
思わず額に手を当てるペラップ。
すると、誰にも聞こえないように舌打ちしスカタンクがプクリンに進言する。
「親方様、私も心配です。遠征に行くには少し人数が多すぎでは? それに全員で行く意味なんてあるのですか? 無能な者まで一緒では、帰って足手まといになると思いますが」
無論、無能とはソウイチ達を指していることは間違いない。
スカタンクに言われプクリンは悩んでいたが、やがて彼なりの理由を思いついた。
「だって、全員で行った方が楽しいもの! みんなでわいわい行くんだよ? そう考えたらさ、僕わくわくして夜も眠れなかったよ!」
「ひええ!?」
プクリンらしいと言えば実にプクリンらしい理由だ。
予想外の答えにスカタンクはたじろぎ、言葉が出てこなくなってしまった。
「というわけでみんな! これから楽しい遠征だよ、がんばろうね!」
「おお〜!!」
誰もが輝いた笑顔で腕を突き上げ士気を高める。
楽しみにしていた遠征に全員で行けるのだ、これほどわくわくすることはない。
スカタンク達はとんだ計算違いで目論見が失敗し、苦虫を噛み潰したような顔でソウイチ達を睨みつけていた。
ペラップがこれからの予定について説明し、行動チームを分けたところで一時解散。
探検前の準備を済ませ、再びここへ集合し遠征へ繰り出すことになった。
ソウイチ達はビッパ、ソウマ達はシリウス達と行動を共にする。
「よかったなあ土壇場で選ばれて!」
「いたたたた! 土壇場って言うなよ!」
あまりの嬉しさに力を込めてソウイチの肩を叩くシリウス。
痛みに顔を歪めつつも、ソウイチは嬉しい気持ちで一杯だった。
ソウイチだけでなく、他のメンバーも自分達が選ばれたことを喜んでいる。
一時はどうなることかと思ったが、これで一緒に冒険ができるのだ。
「よっしゃあ! いよいよ遠征だ! みんな、がんばっていこうぜ!!」
「おお〜!!」
ソウイチに合わせ、ソウヤ達は再び腕を突き上げる。
いよいよ、待ちに待った遠征のスタートだ。