ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語



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第一章
第十二話 ライバルは救助隊!? マスタースパーク登場!
その日の朝はいつもと違った。
いつものように朝礼が終わり各々が仕事へ向かおうとした矢先、ペラップは一同をその場に止める。
なんでも、新しい仲間が入るので今から紹介するとのこと。
ペラップが呼ぶと、階段から降りてきたのはイーブイとピカチュウ。

「私はイーブイのコンといいます。皆さんどうぞよろしくです」

「オレはシリウスだ。みんなよろしくな!」

二人は正面に立つと自己紹介を始める。
イーブイはコン、首にオレンジのスカーフを巻いている。
ピカチュウはシリウス、頭には赤いバンダナを巻いており元気いっぱいだ。
これで終わりかと思いきや、もう一組新入りがいるとペラップは言う。
すると、鼻が曲がるほど強烈な臭気が漂い始め一同は一斉に鼻や口を覆った。
そして降りてきた面々を見てソウイチ達は目を見張る。
以前嫌がらせを受け恥をかかされたドクローズだったのだ。
しかも、シリウスとコンだけでなく、ドクローズ達も遠征の助っ人として参加するというではないか。
これにはソウイチ達も目が飛び出そうなほど驚き、思わず叫び声が出てしまった。
一体どういうコネでギルドにもぐりこんだのだろう。

「なんでそんなに驚くんだ?」

「ペラップさん、あいつらはいちいち大げさなんですよ」

いぶかしげにソウイチ達を見るペラップにスカタンクは根も葉もないことを吹き込む。
いまいち意味がよく分からなかったのか、ペラップはスカタンクの発言をスルーしたものの、またしてもコケにされたソウイチは人目がなければすぐにでも殴り掛かりそうだ。
この五人は遠征に行くまでの間ここで生活を共にすることに。
いきなり一緒に行動しても連携が取れないからだとペラップは言うが、ドクローズと遠征までの数日間を一緒に過ごすなど考えただけでも反吐が出る。
ソウイチは心の中でドクローズ達に向かって舌を出していた。

「さあ、今日も仕事にかかるよ!」

ペラップはいつものようにかけ声を出したが、朝から強烈な異臭を嗅がされたせいですっかり元気を搾り取られていた。
もはや掛け声を出す気力すらないという空気が漂いだした瞬間、突然地面が大きく揺れ始める。
何事かと辺りを見回すと、プクリンが悲しそうに顔を歪ませ全身が震えているのだ。

「いかん! 親方様の怒りが……! みんな無理にでも元気出すんだよ!!」

無茶苦茶にもほどがあるが、メンバーは無理矢理元気のいい掛け声を出し、プクリンの怒りはなんとか収まる。
異臭といい空元気といい、今日は朝から疲れることばかりだ。

「はあ……。なんでよりによってあいつらが……」

ソウヤは深いため息をついた。
他の三人も気分は下がり調子。

「アニキがいたらぶっ飛ばしてくれそうなんだけどな〜……」

ソウイチは遠くを見てぼやく。
ソウマ達は依頼を受けるため遠い場所に出かけまだ帰ってきてないのだ。
ドクローズ達のことを知るはずもない。

「絶対あいつら怪しいよ。何企んでるか分かったもんじゃない……」

モリゾーもゴロスケも不安の色を隠せない。
これから先絶対何かトラブルが起こる、そんな予感が頭を離れないのだ。
いつまでもじっとしているとペラップから小言を食らうので、四人は依頼を受けるべく掲示板のある階へと移動。
依頼を選んでいる最中に、ソウイチ達を遠くから見つめるとあるポケモンの姿があった。
シリウスとコンだ。

「シリウス、あの四人……」

「なかなかおもしろそうだな。ちょっとついて行こうぜ」

二人はこっそりソウイチ達の後をついて行くことにした。
周りから見ればストーカーをしているようにしか見えないのだが。
今回の依頼はトゲトゲやまに集中しており、まとめて解決しようと思えばできる状態。
ソウイチも前回の反省を生かし自分勝手に選ぶことなくソウヤ達の意見を仰ぎ、難易度もそれほど高くないことからトゲトゲやまに関するすべての依頼を受けることに。
出発前に道具類をそろえるべく四人はトレジャータウンを一回り。
もちろん、シリウス達がついてきていることには誰も気づいていない。
お金や道具を預けた後、四人はパッチールのカフェで出発前に飲み物を飲んでいた。

「ぷはあ〜! やっぱりうめえ〜!」

「なんかおっさんみたいだね」

勢いよくドリンクを飲み干し快感に浸るソウイチ。
それが酒飲み中年のように見え思わずくすくす笑うソウヤ。

「おい、お前ら」

そこへシリウス達がやってきて四人に声をかける。
ソウイチ達は予想外の客に少し驚いた。

「オレはシリウス。こっちはコンだ。お前ら、見たとこまあまあ実力がありそうだな」

「なんか腹の立つ野郎だな。オレ達に何のようだ?」

初対面にもかかわらず生意気な口をきくシリウス。
それが癪に障ったのかソウイチはシリウスを真っ向から見据える。
するとシリウスはにやりと笑い、妙なことを言い出したのだ。

「オレ達を、お前達の仲間に加えてくれねえか?」

「仲間に……?」

四人はシリウスの言葉の意味が全くつかめない。
ダンジョンのポケモンが仲間にしてくれというものとは違うのだろうが、一体どういうことなのか。

「そうだ。探検隊の実力がどの程度のもんか見てみたいからな」

まるで自分達が探検隊ではないといっているような口ぶり。
それについてソウヤが尋ねると、コンの口から驚きの事実が飛び出す。

「実は、私達は探検隊じゃなくて救助隊なんです」

「きゅ、救助隊!?」

これには四人とも目を丸くした。
探検隊以外にそんな組織があるとは思ってもみなかったのだ。
彼らのいた地域では自然災害が多発しており、そのせいで困っているポケモンが大勢いた。
そのポケモン達を助けるべく救助隊が発達し、シリウス達もその中の一つというわけだ。

「でも、シリウスの活躍で今では災害もだいぶ収まってきてるんです」

その活躍とは、彼が隕石の衝突を防ぎ地球の危機を救ったということ。
自然災害を引き起こしていた原因がその隕石にあり、レックウザがいるといわれるてんくうのとうへ二人で赴き、隕石を消滅させるようレックウザに頼み衝突を回避した。
その後シリウスは人間の世界へ帰るはずだったのだが、彼の強い希望でこの世界で暮らしているという。
シリウスが人間ということを知り四人は椅子から転げ落ちそうになる。
中でも一番驚いたのは、元人間であるソウイチとソウヤ。

「なんでそんなに驚くんだよ。人間がポケモンやってたら悪いか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

険しい表情を浮かべむっとするシリウス。
侮辱したわけではないので、四人は慌てて弁解する。

「まあいいさ。とにかく、要するにどっちの実力が上か勝負しようってことさ」

「勝負だあ? じゃあ仲間になるってのはどういうことだよ?」

いよいよシリウスが言っていることが分からず、ソウイチは不審者を見るような目でシリウスを睨む。
ダンジョンへ行く時の都合上、そこまでは便宜上仲間として行き、そこから先は別行動ということだそうだ。
今回はソウイチだけでなく、ソウヤ達も勝負に乗り気。
実力を見てやると言われ引き下がるわけにはいかない。

「決まったようだな。じゃあ、出発しようぜ!」

「ああ! どっちが上か証明してやるぜ!」

にらみ合ったソウイチとシリウスの目からは火花が散りそうだ。
そして一向はトゲトゲやまを目指して出発し、数十分ほど歩いて到着。

「ここがトゲトゲやまか……。対決にはうってつけの場所だな」

シリウスは頂上を見上げて自信満々にうなずく。
ソウイチはシリウスに対決のルールを聞くが、それはあまりにも理不尽なものだった。
シリウス達はひたすら山を登り頂上でソウイチ達と対決するのだが、ソウイチ達はシリウス達とのバトルに加え依頼の解決も加わっているのだ。
これでは明らかにアドバンズが不利である。

「おいおい、何か勘違いしてねえか? お前らは探検隊、オレ達は救助隊なんだぜ? 探検隊の仕事は探検隊のすることだろ? オレ達は遠征に協力するだけで探検隊の仕事をやるとは一言も言ってないんだからな」

「うぐ……」

ソウイチ達はシリウスに食って掛かったが、もっともらしいことを言い返され口をつぐむ。
探検隊の管轄はあくまでも探検隊の管轄、救助隊する仕事ではないと言いたいのだろう。

「勝負しないのか? じゃあ、オレ達の勝ちだな」

「ふ、ふざけんじゃねえ! よ〜し受けてやらあ! お前らぶったおして完全勝利してやる!」

シリウスに挑発されソウイチの怒りは徐々に膨れ上がっていく。
もはやシリウスを完全に敵とみなしており、四人の対抗心は一気に燃え上がった。

「シリウス、あんまりやりすぎちゃだめですよ」

「わかってるさ。別に勝ちたくて勝負する訳じゃねえからよ」

小声で釘をさすコンにシリウスは意味ありげな笑いを浮かべる。
そしてカウントダウンが始まり、ゼロになった途端真っ先にシリウスとコンが飛び出す。
後れを取ったソウイチ達は慌てて二人を追いかけるが、彼らはすでにソウイチ達を大きく引き離していた。

「シリウス、なんであんな挑発みたいなことをしたんですか?」

「まあ、オレの性分ていうかな……。ああいうやつらを見るとなんか勝負したくなるんだよな。それに、お前のためにもこっちに知り合いがいねえと何かと不便だろ? あいつらの実力がオレ達より下なのは比べなくても分かる」

少し度が過ぎると警告したコンにまじめな顔で答えるシリウス。
それこそ、余計に勝負を仕掛ける理由がない。
普通に接すればソウイチ達も怒ることはなかったはず。

「あいつらを見た時、何か感じるものがあったのさ。それを確かめるためだよ。もしかしたらあのソウイチってやつは……いや、なんでもない」

シリウスは何か言いかけたが、その言葉を途中で飲み込んだ。
コンは続きが気になったものの、しつこくそれを尋ねるようなことはしなかった。

「なんにしても、私はシリウスについて行きます。お父さんとお母さんを捜す手伝いだってしてもらってますし」

この二人にはどんな秘密が隠されているのだろうか。
それが明らかになるのは、もう少し後になりそうだ。
その頃ソウイチ達は依頼を解決すべくダンジョンを奔走。
合流した依頼者のサニーゴを連れニョロモを探し回るソウイチは、負けるわけにはいかないと完全に敵意むき出しの状態。

「対抗心燃やすのはいいけど、依頼者のこともちゃんと考えないとだめだよ?」

焦るソウイチに念を押すモリゾー。
勝負に重点を置くあまり依頼者が倒れてしまっては本末転倒。
依頼者が同行する依頼は、敵や依頼者など様々な配慮が必要な依頼だ。
それと同じく、おたずねものもレベルが高いので倒すにはかなりの時間を要する。
文字通り実力と判断力が試されるのだ。

「んなことはわかってるよ! とにかくあいつらに勝たねえとオレの気がすまねえんだよ!」

「それは僕だって同じだよ。あんなことまで言われたら負けるわけにはいかないよ!」

ソウイチと同じくソウヤも絶対に負けたくない気持ちでいっぱいだった。
普段は冷静なソウヤだが、今日ばかりは燃えている。

「救助隊だかなんだか知らないけど、オイラ達の本気を見せてやろうよ!」

「そうだよ! チームワークは僕達の方が上さ!」

モリゾーとゴロスケも同じ気持ちだった。
四人の志気は最高レベル、ソウイチに合わせ三人も手を突き上げ勝負に勝つことを改めて誓う。
イシツブテの多いこのエリア、ソウイチとソウヤはモリゾーのサポートを受けつつ、サニーゴの護衛をする。
ようやく目的の階にたどり着き、サニーゴは礼を言ってニョロモと帰って行った。
ソウイチは先陣を切ってソウヤ達を引っ張って行く。
その後は順調に事が進み、すでに依頼は四つ目に差し掛かっていた。

「この調子だとあの二人より早く着けそうだね!」

「ああ! このペースなら勝てるぜ!」

ソウイチ達はハイペースで山を駆け上っていくが、思わぬトラブルが待ち受けていた。
どこを探しても品物を盗んだ犯人が見つからないのだ。
依頼にもその詳細が書いておらず、容姿の判断がつかない。

「くそお! どこだ!? どこにいやがる!」

「落ち着きなよ。いらいらしてたんじゃ、見つかるものも見つからないよ」

地団太を踏むソウイチをなだめるソウヤ。
しかしソウイチはソウヤの制止を振り切りやっきになってお尋ね者を探す。

「んなことは分かってるよ! ただあいつらには絶対負けたくねえんだ! あんなのに負けたら、オレのプライドずたずただぜ……!」

「とにかく、もう一度探して……。ん?」

ゴロスケの目線の先にいたのは、なぜか挙動不審なカラナクシ。
しかも、カラナクシは本来このエリアにはいないポケモンだ。

「おいお前!」

「わわ! な、なんですか!?」

突然ソウイチに肩をつかまれ動揺するカラナクシ。
モリゾーは違っていたらまずいとソウイチを止めようとしたが、焦りとプライドが先走りソウイチは問答無用でカラナクシを攻撃。
あっという間にカラナクシは目を回してしまう。
そのそばには、盗まれた大きなリンゴが落ちていた。

「やっぱりこいつが盗んでたのか……。よし! 次だ次!」

もはやシリウス達を倒すことしか眼中にないソウイチは、次のおたずねものもこの辺に生息しないポケモンを探し短時間で片づけてしまう。
一方そのころ、頂上では先に到着していたシリウスとコンがアドバンズを今か今かと待っていた。

「遅いですね……。あの人達……」

「途中でやられたら、所詮それだけのやつらさ。オレの見込み違いだったってわけだ」

心配するコンに対し、冷たいことを言うシリウス。
あくまでも勝負という概念は捨てていない。
ふと、コンはさっきシリウスが途中で言いかけたことを彼に尋ねる。

「ああ、あれか。オレは人間界に帰る時、すこし記憶を取り戻した。その記憶の中に、ソウイチという名前のやつがいた」

「もしかして、さっきのヒノアラシ……」

「ああ。でもオレの知ってるソウイチなら、まず途中でくたばったりはしないだろうな。あいつの底力はオレがよく分かってる。何しろ、オレとあいつは……」

シリウスがその先を言う前に、遠くから足音が聞こえてくる。
ようやくソウイチ達が追い付いたのだ。
全速力で追い上げてきたせいか、四人とも肩で息をしている。

「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

シリウスは岩の上から飛び降りると、ソウイチの方へと歩いて行く。
そして直接対決のルールを告げた。

「勝負はオレとお前の一対一。リーダー同士の真剣勝負だ」

「ああ。さっさと終わらせてやるぜ! お前みたいなやつは徹底的に叩きのめしてやる!」

さっきまでとは表情が一変して、シリウスの目つきは真剣そのもの。
ソウイチの方もシリウスを倒すべく全身から闘志があふれ出している。
しかし、両者は相手の隙をうかがいにらみ合ったまま一向に動く気配が無い。

「ソウイチ、大丈夫かな……」

「大丈夫だよソウヤ! きっとソウイチなら勝ってくれるさ」

モリゾーとゴロスケはソウイチの勝利を信じていた。
だが、見る限りでシリウスの方が強そうに見えたソウヤは一抹の不安を覚える。

(シリウス、くれぐれも無茶はしないでくださいね)

心の中で祈るコン。
声に出して言っては気を悪くするだけだと知っていたからだ。
にらみ合ったまま数分が経過し、最初に動いたのはソウイチだった。
先手必勝、素早くシリウスとの間合いを詰めるが、向こうもただではやられない。
シリウスはかげぶんしんにこうそくいどうを追加し、大量の分身を作り出したのだ。
これほどまで大量の分身は見たことがなかった。

「さあ、どれが本物か分かるか!?」

「くそお……。どれだ!?」

ソウイチは分身を目で追い本物を探す。
だがそんなので見つかるわけもなく、ソウイチは目を回して倒れてしまう。
当然、シリウスはそのチャンスを逃さなかった。

(やっぱりこいつはオレの知っているソウイチじゃなかったか……)

止めのアイアンテールが間近まで迫ったとき、ソウイチは突如目を見開いた。
ソウイチは目を回したふりをしてシリウスを近くにおびき寄せたのだ。

「終わるのはてめえのほうだ!」

ソウイチの背中から激しく炎が噴き出し、扇風機の羽のように高速回転を始める。
火の衣をまとったソウイチは一直線にシリウスに突っ込んだ。

「なにい!? ぐあああ!!」

さすがのシリウスもよけられず、弾き飛ばされた勢いで岩壁に叩きつけられてしまった。
このかえんぐるま、実は五個目の技なのだ。
普通は四個までが限界だが、ソウイチは限界を超えて五個目を覚えている。
これも人間だった影響なのだろうか。

「これぐらいで調子に乗るな! オレの本気はこんなもんじゃねえぜ!」

シリウスは再び大量の分身を作り出す。
ソウイチは扇風機のように回りながらかえんほうしゃで分身を片っ端から焼き払っていく。
そして最後の一体を焼き払ったのだが、分身の中に紛れているはずの本体はどこにもいない。
すると、急に地面が盛り上がったと思えば、穴の中からシリウスが飛び出して来たではないか。
地上を血眼になって探すソウイチは地下にまで気が回らず、足元の異変を感じることができなかった。
予想外のあなをほる攻撃は急所に当たり、なおかつ効果抜群のじめん技。
ソウイチは起き上がろうとしたが、体力を削られた上足首にも傷を負い起き上がることができなかった。

「どうやらここまでみたいだな」

勝ち誇ったような笑みを浮かべるシリウス。
しかし彼の笑顔はものの数秒ほどで跡形もなく消え去る。
なんと、ソウイチはふらつきながらも足の痛みをこらえ立ち上がったのだ。

「バカ言ってんじゃねえ……。これぐらい、まだまだいけるぜ!」

「そうこなくっちゃな! こっちもガンガン行くぜ!」

シリウスからは余裕が消え去り、文字通り全ての技を本気でソウイチにぶつけてくる。
対するソウイチも気合と根性、そして絶対に勝つという信念で必死に体を動かし自分の攻撃をシリウスにぶつけようとした。
両者火花を散らす激しい戦い、いつの間にかお互いに技をよけることもなく力と力のぶつかり合いで戦っている。
それでも二人のペースが衰えることは全くなかった。

「っつ……!」

それでも、足のハンデはソウイチにとって致命傷。
思うように素早さが上がらず、接近戦では技の命中率が伸びない。
そこへ、シリウスが渾身の力を込めボルテッカーでソウイチの胸元めがけ飛び込んでくる。
彼もまたソウイチと同じく五個目の技が使えるようだ。
金色の巨大な球と化したシリウスをよけられるはずもなく、ソウイチは無残にも岩壁に叩きつけられる。
彼に起き上がるだけの力はもう残されていなかったが、完全勝利するべくシリウスは手を緩めない。

「これで本当に最後だ!」

シリウスの頭上から一筋の光が天に向かって伸びたかと思えば、やがて空気さえも震わせるほどの轟音と共に数本の稲光がソウイチめがけて落ちてくる。
だがシリウスにも疲れが出始めたのか、運よくかみなりはソウイチから大きくそれ山の頂に命中。
すぐさまシリウスは次のかみなりを落とすべく準備に入るが、突然雷鳴とは違う轟音と地面から伝わる大きな揺れが起こる。
なんと大きな岩が地滑りを起こし崩れ落ちてきているではないか。
しかもそれはコンの真上、すぐ避難しなければ埋もれてしまう。

「しまった……! コン、逃げろ!!」

シリウスはコンに向かって叫んだが、彼女は恐怖のあまり足がすくんで動けない。
彼は残った力を振り絞って彼女の元へ走ったが、地滑りは彼のスピードを大幅にしのぐ勢いでコンに迫っている。
すると、あきらめず走るシリウスの横を何かの影が追い抜いて行き、それを確認しようとした瞬間、地面の振動で体が飛び上がりシリウスは地べたに転がった。
辺り一面は砂煙にまみれ何も見えない。
やがて状況が見えてきたかと思えば、シリウスの目の前に現れたのは幾重にも積み重なる巨大な岩だった。

「こ、コオオオオオン!!」

シリウスは岩に駆け寄りコンの名前を呼ぶが、いくら呼べど叫べど返事はない。
事態の急を察したソウヤ達もコンの捜索に加わる。

「お、お前ら……」

「困ったときはお互い様! 敵味方言ってる場合じゃないよ!」

信じられないという風にソウヤ達を見つめるシリウス。
あれほどまで敵対心をあおった自分を手伝ってくれるとは思いもしなかったのだ。
気にしないでと言いながら、三人は力を合わせて一つ一つ岩をどかしていく。

「……へっ、物好きなやつらだ」

悪態をついてはいるものの、正直シリウスは嬉しかった。
積み重なっていた岩を根気よくどけているとようやくコンの姿が見え始める。
助け出すのに邪魔な岩をどかし終えた彼らは驚いた。
シリウスとの戦いで起き上がれないまでに負傷していたソウイチが、自ら盾となりコンを地滑りから守っていたのだ。
おかげでコンはほとんど無傷だったが、ソウイチの体には生々しい傷跡がいくつもあった。

「なぜ、なぜそこまでして助けたんだ?」

「決まってんだろ。困ってるやつは見過ごせない、それだけさ。救助隊もそれは同じだろ?」

にっとシリウスに笑いかけるソウイチ。
それを見てシリウスもソウイチに笑い返す。
ソウイチとコンはは岩の中から連れ出されすぐさまオレンの実を食べさせられる。
オレンの回復力はすさまじく、傷が全て癒えるまではいかなかったが元気に飛び跳ねる程度には回復した。

「やっぱオレン最高! さ〜て、勝負のほうはどうするんだ? 仕切りなおすか?」

「いや、もうする必要はないさ。これではっきりしたからな」

意気込むソウイチを手で制すシリウス。
自分から勝負を挑んできた手前、不本意な形で幕切れを迎えた勝負のまま終わらせるはずはないと思っていただけに、ソウイチ達はシリウスのはっきりしたという言葉が気になる。
そのはっきりしたこととは、シリウスが先程コンに言いかけお茶を濁したことで、ソウイチとシリウスは人間時代親友だったという新事実だった。
これにはソウイチ達だけでなくコンも思わず飛び上がるほど驚く。
何より一番驚いたのはソウイチで、人間の時に親友がいたという記憶がないためにわかには信じがたかったのだ。

「これ見りゃ思い出すさ」

そう言うとシリウスは唐突にバンダナを取る。
額にはかみなり模様のような傷跡が浮かび上がっていた。
それを見た瞬間、ソウイチの脳内に抜け落ちていた在りし日の映像がよみがえる。
とある日の帰り道、まだ人間だったソウイチとシリウスは体中傷だらけ。
道端でからまれた不良をぐうの音も出ないほど叩きのめし、お互いの健闘をたたえていた。
小学生のころから二人とも腕力だけはあり、自分より何歳も上の相手を一撃で殴り飛ばせるほど。
分かれ道まで来ると、二人は互いに挨拶をかわしそれぞれの家に向かって歩き始める。
そこでソウイチは、このピカチュウが自分にとってどういう人物なのかをすべて思い出した。

「りゅ、リュウセイ……、なのか?」

「思い出してくれたみたいだな。姿は変わっても、相変わらずソウイチはソウイチだな」

親友の本名を思い出したソウイチ。
ピカチュウの顔と、人間の時の顔が重なって見え、それは紛れもない自分の親友ということが分かった。

「うおおお久しぶりじゃねえか! 今までどこ行ってやがったんだよ! え? 心配かけやがってこのお!」

「いたたた! やめろソウイチ! 分かったからやめろ!」

嬉しさのあまりシリウスに飛びついて頭を小突き回すソウイチ。
シリウスは恥ずかしいからやめろとソウイチを引きはがそうとするが、内心は自分のことを思い出してもらえとても嬉しかったのだ。
一方、感動のご対面を果たした二人以外は全く話について行けず、遠巻きからただ眺めているのみ。
勇気を出してモリゾーが突っ込んだところで二人はようやく気付き、ソウイチはシリウスが何者であるかを説明する。
それでモリゾー達も納得し、改めてソウイチの親友までもがポケモンになっていることに驚きを隠せなかった。

「オレとソウイチはいつも一緒だったな。よく不良とかに絡まれてたけど、二人でいつもぶっ飛ばしてたっけ」

「そうそう。だけどやられたときはやばかったよな〜。二人とも顔ぼこぼこでさ〜」

懐かしそうに思い出話をする二人。
そしてお互いの顔を見合うと再び笑い出す。
すると、コンはずっと気になっていたことを思い出しソウイチとシリウスに尋ねる。

「ソウイチさんが親友だって分かってたなら、何でシリウス……、リュウセイはあんなことしたんですか?」

「シリウスでいいよ。こっちのほうが気に入ってるしな。理由は簡単だ。久々にあいつの本気が見たかったのさ」

慌てて名前を言い直すコンに手を左右に振るシリウス。
それにしてもなんとも安直な理由であろうか。
本気が見たいがためにこれほどまでの対決を仕込まれた方はたまったものではない。
だが、シリウスはバトルを通してソウイチの変わらない強さとさらなる成長を感じ取っていた。
それゆえ結果的にコンを巻き込んでしまったことも事実で、パートナーを危険な目に遭わせたことは彼も後悔している。

「シリウスのことですから。こんなのはもう慣れっこですよ」

「おいおい、それじゃあオレがいつも無茶してるみたいだろ」

しれっと言うコンの言葉を慌てて否定するシリウス。
言われなくても、彼の性格からすれば大体想像はつくのだが。

「実際そうだろ。ま、オレもおんなじだけどな」

「似たもの同士だね」

ソウヤがソウイチに突っ込んだところで一同爆笑となり、お互いのわだかまりはすべて解消したようだ。
ただ、ソウイチが本名を思い出しただけに、その後シリウスはリュウセイリュウセイといじられることになったのだが。
本人曰く本名の方があまり気に入っていないようで、しまいにはいじっていたソウイチを無言で殴る。
短気な部分もソウイチと似た者同士だ。

「よし! じゃあやることはやったし、帰ろうぜ! アニキ達も帰ってるかもしれねえし」

「アニキ?」

今朝は不在だったためシリウス達はソウマ達の事を知らない。
彼らが帰ってきたら改めて紹介するとソウヤに言われ、どんな人物かを楽しみにその日を待つことに。
こうしてソウイチ達は、シリウスとコンという新しい友達ができた。
最初の殺伐とした空気はもはやなく、帰り道は実に和気藹々とした雰囲気。

「そういえば、二人は何でこの地域に来たの?」

モリゾーの質問で、他の三人も二人の目的が気になった。
二人は優秀な救助隊ということでギルドに派遣されたが、なぜ探検隊ではなく救助隊を派遣したのか。
彼らの本拠地からはるか遠方のこの地に、遠征を手伝いにだけ来るとは考えにくい。
その理由はコンにあった。
彼女の両親は、コンがまだ幼いころ自然災害のせいで生き別れとなり消息がつかめていないという。
二人の住む地域はほぼ探しつくしたのだがそれでも手がかりを得られず、この地域に来れば新たな情報があるかもしれないということだった。
普段の活動もあり、遠方の地域で情報を集めることはなかなか難しい。
その矢先、救助隊連盟から助っ人の話を聞き、これなら効率的に情報を集めることができると自ら志願したのだ。

「それで、オレもコンの両親を探す手伝いをしてるってわけさ。もちろん、活動の方だっておろそかにはしてないぜ?」

「とか何とか言って、どっかでさぼってんじゃねえの?」

ニヤニヤしながら再びシリウスにちょっかいをかけるソウイチ。
もちろんシリウスはけんか腰でソウイチにつかみかかるが、コンとソウヤが間に割って入りケンカには発展しなかった。

「お母さんとお父さん、見つかるといいね」

「は、はい。ありがとうございます」

モリゾーはコンを励まそうと優しく笑いかける。
お礼を言うコンの顔は少し赤らんでいたが、その微妙な変化には誰も気が付かない。

火車風 ( 2014/04/02(水) 05:59 )