第十一話 かなづちソウヤの猛特訓!
ある日の午後、仕事が早く終わったアドバンズは海水浴に来ていた。
それぞれ砂浜でのんびりしたり、海で水の掛け合いをしたりと自由時間を満喫している。
「お〜い、あんまりはしゃぎすぎてけがするなよ〜」
ソウマは海で遊んでいるソウイチ達に声をかけた。
ソウイチ、モリゾー、ゴロスケは元気良く返事をして再び水の掛け合いに興じる。
ところが、ソウヤは不機嫌そうに三人を見つめているだけで一緒に遊ぼうとしない。
「なあソウヤ、なんでお前海で泳がへんの? みんな楽しそうやで?」
カメキチがソウヤに質問しても、彼は仏頂面のまま。
それを見てソウマがソウヤに理由を聞こうとすると、彼は突然立ち上がり岩場の方へと歩いて行ってしまう。
ソウイチが声をかけても耳を貸さず振り返ろうともしない。
「なんだよあいつ……。変なやつだな〜」
ソウヤの後姿を怪訝な面持ちで見つめていると、モリゾーが不意打ちを仕掛けてくる。
それをきっかけに、三人は再び水の掛け合いを始めた。
「一体どうしたのかしら……」
「ソウイチに何も言い返さんのは珍しいな……」
カメキチもライナも、いつもとは違うソウヤの様子が心配になった。
すると、ソウマはソウヤを追って自分も岩場へと向かう。
「なんだよアニキまで……。ほっとけばいいのに」
「そういう言い方はないでしょ? 黙って向こうへ行くなんて、何かあるんじゃないかって普通心配するわよ」
思いやりのないことを言うソウイチをライナは少しきつい口調でたしなめる。
ソウイチは不満そうだったが素直に謝った。
そしてソウヤはというと、岩場の陰に一人座りこみ、ため息をついては悲しそうな顔をして光り輝く水面を見つめている。
「やっぱりまだ水が怖かったんだな」
背後から声がして振り返ると、心配そうな面持ちでソウマが立っていた。
しかしソウヤは再び彼から顔を背けうつむく。
「今は怖いかもしれねえけど、前はお前だって泳げてたんだぜ?」
「でも、あの事故以来体が水を拒絶するんだ……。あれから何度も泳ごうとしてるけど、体が固まって水に入れないんだよ……!」
ソウヤがまだ人間の世界にいたころ、プールに友達と泳ぎに行きおぼれ死にそうになったことがあったのだ。
ふざけた友達がソウヤを押して、心の準備がないまま水の中に落ちてしまったからだった。
それ以来、恐怖心からソウヤは泳げなくなってしまったのだ。
ソウマはしばらく黙っていたが、やがて何を思ったのかソウヤを抱え上げると水の中へ放り込む。
あまりにも突然のことで、ソウヤは必死にもがき岩場へ上がろうとする。
だがソウマはソウヤが上がろうとするたびに何度も何度も海へ投げ飛ばしたのだ。
(このままじゃ死んじゃう……!!)
何十回も投げられたソウヤは恐怖に駆られ、ソウマのいない場所をめざして必死に体を動かし泳ぐ。
頭にあるのは水から上がることだけ。
ようやく岩場に上がることができたが、すでにソウマはそこへ先回りしていた。
しかし再びソウヤを投げ入れることはせず、肩で息をするソウヤをじっと見つめている。
「アニキ! 一体何考えてるのさ! もうちょっとで死ぬところだったじゃないか!!」
ソウヤは今にも飛びかからん勢いでソウマに怒りをぶつける。
泳げないにもかかわらず無理やり投げ込まれたのだ、怒らないはずがない。
しかしソウマは彼の目をまっすぐ見つめ、もう一度海に入るよう指示。
「なんでもう一回入らなくちゃいけないのさ!? さっきだっておぼれそうに……」
「いいから入れ!!」
ソウマはソウヤの言うことをさえぎり怒鳴りつける。
理不尽にもほどがあるが、ソウヤは渋々海に入った。
「泳いでみな」
ソウマの言うとおりに泳いでみると、溺れる前と同じようにしっかり泳げるではないか。
先ほどまであった水への恐怖感がすべて消えていたのだ。
怖いどころか、水の冷たさがとても心地よい。
これはソウマなりの荒療治で、泳ぐ感覚を強制的に思い出させることで溺れない自信をつけさせ、水への恐怖感を克服させようとしたのだ。
作戦は見事に成功し、水を怖がらないソウヤを見て彼は悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
「アニキ、ありがとう……」
「オレは何もしてねえよ。オレはただきっかけを作っただけさ」
照れくさそうに礼を言うソウヤの頭を、ソウマはにんまりと笑い荒くなでた。
二人は砂浜に戻ると、ソウヤはソウイチ達に混ざり海の中で遊び始める。
不機嫌そうな顔から一転し、嬉しそうに水を掛け合うソウヤに誰もが驚いていた。
「なるほど〜、そんないきさつがあったんやな」
「でも、克服できてよかったわね」
カメキチもライナも、ソウマから全てを聞き納得。
ソウマは楽しそうに遊ぶソウヤを見て、満足そうな笑みを浮かべていた。