第十話 もめる門に絆あり?
「こっちだ!」
「いやこっちだよ!」
「絶対こっちであってるよ!」
「こっちのほうが近道だって!」
今回の依頼、ソウイチ達四人はソウマ達と別れてダンジョンに来ていた。
依頼もすべて解決し、後はソウマ達と合流するだけなのだが、どの道が一番早くダンジョンを抜けられるかでもめているのだ。
バッジを使えばすぐなのだが、運悪く今日はギルドへ置き忘れてきていた。
四人とも自分の進む方向が正しいと意見を曲げず、顔を真っ赤にして意見のドッジボールをしている。
「こっちだって言ったらこっちだよ! リーダーのオレが言ってんだぞ!?」
「そうやっていつも失敗してるのは誰さ!? こっちのほうが近いよ!」
お互いに顔を突き合わせて自分の正しさを押し通そうとするソウイチとソウヤ。
するとそこへモリゾーとゴロスケが割って入り、今度は二人がソウイチとソウヤに顔を突き合わせて反論する。
「たまにはオイラ達の意見も聞いてよ! こっちだったら!」
「絶対にこっちが近いよ!」
二人もソウイチ達同様意見を変えるつもりは全くないようで、そのままにらみ合ったまま。
「ああそうか! じゃあもう勝手にしろ!! オレはこっちに行くからな!」
とうとうソウイチはしびれを切らし、一人で勝手に自分の選んだ道へと消えていった。
「このわからず屋! じゃあ僕はこっちに行くよ!」
「二人とも自分勝手なんだから! もういいよ!」
ソウヤも自分の選んだ道へと進み、モリゾーとゴロスケもそれぞれ自分が選んだ道を進んでいく。
誰もが自分の意見を押し通そうとし自分勝手なのだが、四人はそれをすっかり棚に上げていた。
「くそお! オレの言うことがそんなに信用できねえかよ!? ああ〜腹立つ! 誰でもいいからぶっとばしてえ!」
ソウイチは岩や地面に技をぶつけ八つ当たりしながら先へと進む。
敵は巻沿いを食いたくないので、ソウイチのどす黒いオーラを見た瞬間怯えて物陰に隠れてしまっている。
それが気に入らないのか、ソウイチはますますイライラを技に込め意味不明な言葉を叫びながら八つ当たりを続けた。
「まったく、ソウイチの言うことはほとんどあてにならないんだから! なんでああも自分勝手なんだよ!」
ソウヤも石や壁を蹴ったりしながら先へと進む。
ソウイチほど過激ではないが、物に八つ当たりしている様の類似具合はさすが兄弟といったところか。
「本当にソウイチもソウヤも! なんでオイラの意見聞いてくれないんだよ!」
モリゾーもぶつぶつ言いながら険しい目つきで先へと進む。
時たま石を蹴るなど言葉で発散しきれないイライラをものにぶつけている。
「みんな自分勝手すぎるよ! 僕の意見なんかほとんど聞いてもらえない!」
ゴロスケは怒りを口にしながら、敵が出てくれば容赦なく攻撃を浴びせる。
普段の穏やかなゴロスケからは想像もつかないほど敵を滅多打ちにし、イライラを解消する糧としていた。
しばらく歩いていると、ソウイチは広い空間に出る。
やはり自分の選んだ道が正しかったと、再び他の三人に対する文句を言い始めた。
どう考えてもただの偶然でしかないのだが。
「あ、ソウイチ!」
自分の名前を呼ばれとっさに声のする方を向くと、なんとモリゾーがいるではないか。
二人の選んだ道はこの部屋に通じていたらしい。
「何でお前がここにいるんだよ?」
「そっちこそなんでいるのさ?」
まだ先程の件を根に持っているのか、二人の間には険悪な雰囲気が漂う。
しかし、お互いに自分の選んだ道をひたすら歩いてきただけだと説明する。
怒っていても、心の隅ではお互い申し訳ないことをした気持ちがあり、仲直りしたいと思っていた。
二人は自分の非礼を詫び、ここからは一緒に行動することに。
一方そのころ、ソウヤはまだ怒りが収まらず体から電気がほとばしっている。
やがて広い空間に出ると、そこにいた先客に目を見張った。
自分の選んだ道が、ソウイチ達の選んだ道に通じていたのだ、驚かないはずがない。
「なんだよ、お前の選んだ道だってオレの道とつながってたんじゃねえか」
「そっちのほうが僕の道につながってたんでしょ」
二人ともケンカ腰で一触即発の雰囲気。
どの道を選んでも結局ここにつながっていたとモリゾーになだめられ、二人は落ち着きを取り戻す。
ソウイチもソウヤもお互いの目を見ようとしないが、意味のないけんかだったことは認めているようだ。
再び三人は歩きはじめ出口を目指す。
出口の光が見え始めたところで、三人はゴロスケを見つける。
自分の選んだ道以外に出口に通じる道はないだろうと思っていただけに、彼の驚き様は並大抵ではなかった。
「てことは、どれを選んでも良かったのか……」
しばらく沈黙した後、四人は突然笑い出した。
ケンカしたことがあまりにもバカらしく思えてきたのだ。
四人はお互いの自分勝手さを謝り、それぞれ握手を交わし仲直り。
「じゃあ行こうぜ! アニキ達も待ってるだろうしよ!」
「だね!」
「うん!」
「行こう!」
外の光に向かって四人は駆け出して行く。
こうして彼らの絆は、また深まっていくのだった。