第20話 手紙
僕の元に手紙が来たのは昨日のことだった。
滅多に手紙なんて送ってくる人なんていなかったから、迷わず開封した。差出人の名前は聞いたことあるような、ないような。『あー、そんなやついたけど…あんま話したことないからわかんねー』みたいな感じの。あるいは、『テレビで見たけど…昔だろ?そんなやついたなー』とかいうレベル。とにかく僕は手紙を読んだ。内容にはびっくりした。几帳面な奴が書いた、ってすぐわかった。こんなこと書かれちゃ、従わないわけにもいかないんだ。
手紙に従って、民宿モナミに来た。眺めのいい804号室が待ち合わせ場所。10時に、時間厳守だ、って書いてあった。もちろん時間を守った。5分前には着いたから。今からフロントでもらった鍵を使ってドアを開ける。何が出てくるんだか全くわかんないけど、僕の気の向くままに身を任せて開けてみる。
「あ、ユウキも呼ばれてたの?」
フエンせんべいをかじりながら振り向く彼女はハルカ。僕の幼馴染で、家が隣同士。
「ま、まあね。それより、ハルカ。なんでいるの?」
「呼ばれたからに決まってるでしょ?差出人の『ヒナギク』っていう人に」
ハルカも呼ばれたのか!
「まあ、最後に来たのはユウキみたいだったね!」
「ユウキくんも来てたんだね!」
「……?」
ハルカの隣にはミツル、あと藍色の髪の子。名前は…わかんない。
「この子はアイリ。フエンジムのアスナさんの妹で、ポケモンのお医者さんなんだって!」
アスナさんに妹なんていたんだな。なんか見るからに性格が真逆なんだけど。
『みなさんお集まりのようですね』
「「テレビがいきなり喋ったァ!?」」
『ハルカさまとユウキさま…でしたね?仲が良いのは結構でございますが少し落ち着いてくださいませ。割り込み放送でございます』
「そんなことしていいんですか?ただの民宿に…」
ミツル!なんかすっごくまともなことを言っている…。
『804号室のみだったら、ということで許可はいただいております。それに、私はヒナギクでございますよ?一回くらい聞いたことがありますでしょう?ポケモンリーグカントー本部副部長兼、ポケモン協会副理事のヒナギク、という名を…』
ああ。そんな有名人なら一回くらい聞いたことがある。でも、何の用なんだろう?
『私は今イッシュ地方でプラズマ団なる敵と戦っております。そしてホウエンでは!復活を見事に遂げたアクア団、マグマ団の両団が水面下で動いているのでございます。そこで、23,5代目チャンピオンであるユウキさま、ホウエン1のトップコーディネーターハルカさま、四天王と互角に戦えるほどのミツルさま、そしてアスナさまの妹にして世界の最前線で働いていらっしゃるアイリさま、これほどまでの面子が揃っていて何が必要でございますか?』
「…お金、ですかね」
『ユウキさま。お金はトレーナーを倒して儲けてくださいまし。それよりも、副理事として、お願いしたいことがあります。ご察しの通りですが…ユウキ、ハルカ、ミツル、アイリ。この4名でアクア団、マグマ団を壊滅させる。他に危険な組織が現れれば…その組織も壊滅させる。でございます』
手紙には、『少し、手伝っていただきたいことがあります。マツブサ、アオギリの件で』と書いてあった。復活したらしい、とは聞いていたけどまさか副理事直々にお願いされるとは思っていなかった。
『特にユウキさま、ハルカさま。あなた方は一度両団を倒したと記憶にございます。…引き受けてはいただけませんか?』
ハルカを見る。彼女も決まっているらしい。
「「わかりました!」」
『ありがとうございます。あなた方4名のほかにも、2人ホウエンに仲間がいるはずです。私の口からはまだ申し上げられないので、民宿の仲居さまに、この804号室へ手紙を届けていただくよう手配をいたしました。その手紙を読んでくださいまし。それでは、また好き日に』
数秒の砂嵐の後、ぷつっと言ってテレビの電源は消えた。っていうか、何も情報がないじゃないか!2人の仲間しか教えてもらってないんだけど!すると、3回ノックする音が聞こえた。ヒナギクさんの言う、手紙を持ってくる仲居さんだと思う。
「失礼します。ポケモン協会副理事のヒナギク様から手紙を預かっています。では、またご用件がございましたらなんなりと」
予想は的中、手紙をくれた。早速手紙の内容を読んでみる。中身を簡潔に言うと、こんなものだった。
・2人の協力者は、今日民宿モナミに泊まっていればわかる。
・民宿モナミに今日1日泊まること。宿泊代はヒナギクがだした。
結局焦らしたいだけらしい。ああ、2人の協力者が気になる!
「ユウキ、ここはヒナギクさんに従っておくほうがいいよ」
ミツルは上目使いで僕を見ながら言ってきた。ミツルって女々しいよね…。って、そんなことは置いておいて、彼の言っていることは正論。行くあてのない僕らにはこれしかできなかった。