第10話 ガーディアン
ヒウンシティ・プライムピア
「一体いつになったら元ジムリーダーと全ジム覇者は来るんだ?もう1時間も待ってんだぞ!?」
ヒウンシティのデジタル時計は約束の午後3時を過ぎ、午後4時を示している。
「まあまあ、怒らないでください。元ジムリーダーは、今日立て続けに仕事が入って忙しく、全ジム覇者は船の時刻もあって遅れると2人ともおっしゃっておりましたし」
「それを先に言えよ!ってか、名前くらい教えろよ!」
「誰が来るかドキドキものではないですか」
「こっちはハラハラものだよ!」
ヒナギクとミナトは口論をしている。というよりかは、ミナトが一方的にまくし立てているだけだが。
「あ、ライブキャスターが鳴りました。少々お待ちを」
「ったく、うまいこと逃げやがって」
ヒナギクのライブキャスターが鳴り、口論は一時中断された。少し暇になったミナトが町のほうへと目をやる。電光掲示板がきらきら光り、とても眩しい。生まれ故郷であるセッカシティではお目にかかることのできない光景だ。
「ヒウンって初めて来たけど、ほんと都会だなー」
「そう思うかい、ミナトくん?」
ミナトの呟きに反応する誰か。びっくりして後ろを振り向くと、そこには緑色の3本アホ毛(?)ヘアーのウエイターが立っていた。
「で、デント…!さん」
「デントでいいよ、ミナト。僕たちはこれから一緒に旅をするんだからさ!」
目をキラキラさせ、手を広げてミナトを見るデント。ミナトは一瞬にして答えを出す。あ、これ、世界一めんどくさいジムリーダーだ、と。ハチクさんだったらすごく楽なんだろうなあと思ってしまう。ハチクさんは硬派で無口、しかも強いし適任なのに、とか。あまつさえ、なんでデントなんだろう?と考えてしまうようになる。後日、ヒナが語るには「デントが一番仕事を中断させやすかったのです。一度仕事を抜けていた時期もありましたし」らしい。そんな理由で選ぶのか。
「あ、ああ」
「もう1人が来る船も、もうすぐそこです。名前は、確か…ロイヤルクチバ号?」
ヒナギクが指差すその先に、豪華客船があった。自分たちのいるプライムピアにだんだん近づいてくる。いったいどんな人が下りてくるのか、ミナトはハラハラする。デントみたいなめんどくさい奴が2人もいたら、それこそ気疲れする。少しでもマシな奴でいてほしいものである。
「聞いてくれよミナト、1週間前から出張でシンオウの『レストラン・ななつぼし』に行っていたんだけどね、そこにすごく強いトレーナーが2人来てさ。僕とポッドが修行も兼ねて行ってきたんだけど…。あ、ななつぼしは対戦型レストランなんだよね。知ってたかい?」
話が長いな。ぶっちゃけもう飽きた。
「そのトレーナーはさ、あっという間に僕たちを倒しちゃったんだよね。コーンがいても勝つのは難しかったと思うよ。それで、また次にトレーナーが2人来て、また負けちゃったんだよねー。イッシュなめられちゃったかな?」
大丈夫かよ!1日に4人も負けてる元ジムリーダーで大丈夫かよ!ヒナギクよりもデントの戦力を心配したほうがいい気がしたミナトである。
「あ、下りてきました。こっちですー!」
ロイヤルクチバ号の乗客たちに向かって手を振るヒナギク。誰が待ち合わせをしている人なのか、全く分からないがとりあえず手を振ってみた。
「待たせたわね!ちょっと事件があってさ」
そう言って近づいてくるのは赤色の髪の毛を持つ少女。少女はミナトのほうを向いて、
「あたし、ラングレー。イッシュ全ジムを制覇したドラゴンバスターよ」
と言った。ドラゴンバスター?と首をひねるミナトに、ラングレーはこう続けた。
「あたし、竜の里のソウリュウシティでこてんぱんにされて、だからこうしてドラゴンバスターとして竜の里出身のトレーナーをこてんぱんにしてるのよ」
「完全な逆恨みじゃねえか…」
「そーよ、逆恨みよ!」
ラングレーはもともとつり目だった目を、さらにつり上げて怒鳴る。その異様な迫力にミナトはたじたじとなった。
「ま、そうやってドラゴンタイプのポケモンを倒しているうちに、バトルの楽しさに気付いたの。それでジムに挑戦して。四天王にも挑戦しようかと思ったけど、もともと趣味で始めたし、チャンピオンとかあまり興味ないしやめた。全ジム覇者となった今も、ドラゴンバスターは続けてるわよ。あたしに勝負を挑んでくるトレーナーも増えて、今ではドラゴンポケモンしか受け付けてないのよ!」
胸をどんと叩いて見せるラングレー。その笑顔にはドラゴンバスターとしてではなく、トレーナーにならば誰にでもある闘志がにじみ出ているように覚える。でもやっぱりなにかドラゴンタイプへの恨みみたいなものも感じた。女って怖いな。ミナトは悟る。
「では自己紹介も終わったようですし、本題に入りますね。ポケモンリーグカントー本部副部長兼ポケモン協会副理事ヒナギク、トップレンジャーミナト、イッシュ全ジム覇者ラングレー、元サンヨウシティジムジムリーダーデントの4人で行うミッションは聞いていると思いますが、改めて説明します。それは、『プラズマ団の壊滅』です」
ヒナギクは神妙な顔つきで話し始めた。
「プラズマ団はトレーナーにポケモン解放を呼びかけています。まあ、理に適った演説なので止めはしませんが。しかし、彼らがポケモンを強奪したり、いたぶったりしているという情報が私のもとに入ってきました。これは直ちにやめさせねばなりません。しかし、みんながみんな同じ考えをしているわけではありません。今の段階でこのミッションに加わるのを降りるのも一つの手でしょう。もし、この中にそういう人がいたならば、降りてもらって結構です。誰か、いらっしゃいますか?」
誰も手を挙げなかった。声も出さなかった。
「そうですか。では、この4人のチーム名を考えなければなりませんね。私、考えてきたのですが…。『ガーディアン』なんてどうでしょう?」
ヒナギクは、もうすぐ落ちる夕日と出港したロイヤルクチバ号を背に、今日一番の笑顔で提案した。
「…いいですよ、なんでも。守護神″なんて、なんだか偉大すぎますけど。これからイッシュの未来、トレーナー、ポケモンを救うのならそのくらいでちょうどいいのかもしれませんね」
「ヒナの好きなチーム名でいいわよ。あたし、そういうのあんまりこだわらない人だから」
「…今日から、オレたちは…ガーディアン、か」
夕日が落ち、プライムピアの電燈がぱっと点き始めた。